タグ： バシコ

――――その日、少年は運命に出会う。 およそ100年の歴史を誇る、村上流炎剣術。 「陽炎型」「火産霊型」の二つの型を誇り、鮮やかに舞う焔は夏の夜に咲く灯篭の様。 それが、彼の生家の持つ剣の社会での評価だ。 村上家の男児には、二つの伝統がある。 一つは、発火能力と類稀な剣の腕前を持つことだ。 後者は鍛錬の賜物であるとして、後者については、その理由は未だ不明のままだ。 オーダーはそもそも遺伝子の異常であるからして、遺伝する道理はないのだが――、少なくとも、この家にはその常識は通じないらしい。 そしてこの代における嫡子――村上蓮也も、その例に漏れることはなかった。 つまりは彼も、十分なランクの発火能力と、相当な剣の才能を持っているということだ。 そして、もう一つの伝統。それは―――――――― * 村上蓮也という少年は、あまり戦いが好きではなかった。 それは至って普通の感性。痛いのも苦しいのも嫌いで、だから、それを求める自身の家が好きになれなかった。 勘違いして欲しくはないのだが、彼の両親は人格者だ。生まれてきた息子を愛し、また息子も彼らを尊敬していた。 しかし、それだけではどうしようもないものもある。 例えば、そう。村上家のように、歴史があり、実力も伴っているとなれば。その家は、他者を導くリーダーとなることが求められるのだ。同様に、その子供も。それに、子供の意志は関係ない。何も言ってないのに、周りが勝手に期待して、持ち上げて。ダメであれば失望して捨てられる。 両親は、息子にそんな道を歩ませたくはなかった。だから、鍛えるしかなかったのだ。 蓮也とて、それは分かっていた。そしてそれを、窮屈に思っていた。 ある日、彼は両親が目を離した隙をついて、家を抜け出した。 何故か鍛錬が短めに終わったため、そとを出歩く余裕があったのも要因としては大きい。 街を徘徊すること数時間。近くの店でコンサートというものがあっていることを知り、覗いてみることにする。 ――――――そして、少年は運命に出会った。 歌っているのは、自分よりも年下の女の子だ。 別にその容姿や歌声に特筆すべきことがあったわけでもない。 それなのに、心が震え、魂が弾けた。 彼はこれまで、目的というものを持たなかった。 強くなるのは、ただそうしなければならないから。 故に、少年が目的を持ったのは、これが初めて。 強くなり、誰よりも強くなり、お金を稼ぐ。 そして―――――――――― ――――――――この子のグッズを、誰よりも多く買おう そうして少年がそう決意した直後。 その瞳に映ったのは。 団扇を振りながら、興奮した様子で歓声を上げている父の姿であった。 * つまりはそういうこと。 彼の家に嫁に入った女は、それに頭を悩ませるという。 初代からそうなのだと言われているために、それは、逃れられぬ業（カルマ）なのだろう

※歌詞を引用、及び記載することは禁止となりました(Youtubeや歌詞サイトのURLだけ書くことをお勧めします)。
↑ページ上部へ