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ななせ ゆき。 友紀の双子の妹。兄と二人暮らし。 事故に遭い、右足を激しめに骨折。全治3か月と診断され入院していた。今ちょっと前髪を切りすぎている。 キタムラとはバイト先の先輩後輩だったことがあり、その時に連絡先を交換していた。今もLINEでトークを交わす仲。 高校生の時からずっと片思いをしている。相手はキタムラ。脇目も振らず一途に思い続けており、今日も今日とて彼を愛する。知識だって彼が好きそうだから学んだことばかり。 彼のことならなんでも知っている、が彼女の誇り。お気に入りのパンツはグレーのトランクスだったよね。ゴム部分が黒くて、もうタグの表示も薄くなってるやつ。履き心地が良くてつい選んじゃうって言ってたもんね。確かにそれ、さらっとして履きやすかったなあ。 いわゆるストーカーという人種ではあるが、それがバレることを良しとしない。 キタムラに気持ちが悪いと思わせたり、恐怖感を与えたりしたら寿命が縮んでしまうかもしれない。自分が逮捕されるかもしれないし、障壁もきっと増える。 というわけで盗聴器と双眼鏡による古典的なストーキングを続けていたのだが、病院ではそれが不可能だった。そろそろフラストレーションは限界である。 先日、自分の愛したキタムラはもういないことを知った。 キタムラの顔も身体も声も髪の一筋も、爪の丸みさえも愛しているものの、今の彼はキタムラではないため、設置していた盗聴器は回収した。知らない男のニューライフを覗く趣味はないのである。ちょっと泣いた。 あの「キタムラ」は、キタムラさんのそれと何も違わない骨を基にして、何ら違わない筋肉と皮下組織と体液で命を繋いで、何一つ変わらない声帯で生きている。…けれど、だからといってそれが「キタムラさん」だって言うのは、おかしいじゃない？という理論で、現在は一切の興味を失っている。 違う点がないイコール同一である、という式が成り立たないことを私は知っているもの。たとえば、友紀と友紀は何一つ違わないでしょう。けれど読み方が違う、性別が違う、込められた願いが違う。人だって同じで、内包する性格が違ってしまえば、声色も表情も動作も反応も違うもの。つまりキタムラとキタムラさんも、全く別の存在、ってこと。ふふ、一流のストーカーは生死や見た目だけで追う相手を間違えたりしないわ。 近頃、墓守になるため人生設計を練り直している。

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