タグ： 小早川 引退

名家の御曹司としてこの世に生を受けた。が、物心つく頃には自分の心と身体が一致していないことに気付き始める。男として成長していく身体。女として成熟していく心。名家の名に恥じぬように隠そうとしていたが、耐えきれなくなった彼は両親にカミングアウトする。一世一代の大カミングアウトを受けた両親はそれに絶句し、彼を叱咤した。身内に存在を否定された彼は心に大きな傷を負い、実家を出た。あてもなく彷徨い、たどり着いたのは一軒のオカマバーだった。同類がいるかもしれない、けれど、その人たちにも否定されたら？そう思う心が彼の足を竦ませた。そうやってもじもじしていた折、声をかけたのは店主であるエミリー姉さんだった。彼女は経緯を深く聞くことはせずに、彼を迎え入れてくれた。今までの自分を捨てる意味も込めて「アンダルチア」という源氏名を授かり、彼女は今日もオカマバー「オアシス」でホステスとして元気に働いている。 居場所を失った。いや、”奪われた”。姐のように慕っていた「小波 薫」という人物。奴がオアシスを枯らした。奴がエミリー姐さんを殺した。奴がアタシの全てを奪った。なぜあのような真似をしたのか、アンダルチアには全くわからない。ただ渦巻くのは薫に対する憎悪のみ。 許せない。 許さない。 許せない許さない許せない許さない許せない許さない 許せない許さない許せない許さない許せない許さない 許せない許さない許せない許さない許せない許さない エミリー姐さんにもらった「アンダルチア」の名を思い出とともに封印し、五堂家に戻った雄山。久々に帰ってきた息子を見た両親は、出て行った時の彼とはまるで別人であるかのように錯覚した。あらゆる欲を捨て、その身を突き動かすのは復讐心だけとなった雄山の目に、再び光が灯ることはなかった。

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