タグ： PL：柏輝

都内の女子校に通う高校生。部活は剣道部と文芸部。得意教科は国語と歴史。 端正な顔立ちにも関わらず、一見して分かる「真面目」で「陰のある」、「雰囲気を持った」少女。 友人も居ないわけではなく、級友との会話もそつないように見えるが、人間関係に於いて、何処か一線を引いて振舞っている節がある。 踏み込んだ会話を好まず、友人にも一定の礼節を要求する彼女の態度は、あたかも物語の登場人物を演じているように見えるかもしれない。 彼女の人格と人間への態度を知るには、その幼少期に遡る必要がある。 両親共に大手企業の重役を務める彼女の家庭環境は、幼い頃から複雑なものであった。 惜しみない教育と教養への投資、それに反比例する両親からの愛情。 顔の見えない、しかし影のみの差す両親の宣命は、やがて凛音に、無条件の愛の欠落と他者への本源的な恐怖心を抱かせた。 けれども当然、そんな自分勝手は許されず、その寂しさを埋める為か、幼い彼女は物語の世界に没入した。 目まぐるしく変わる物語は、しかし彼女を拒否することなく、没入すると同時に読者である凛音は、 登場人物の気持ちを、文字通り手に取るように理解することが出来た。 ――物語の中では、私は誰にも拒否されない。 ――物語の中では、私にも他人の心が分かる。 いつしか、心の慰めは麻薬となり、物語は現実となっていった。 今の彼女にとって、現実の人間関係が与える刺激は、鈍色のガラス越しにのみ感じられるもの。 救いは、ただ虚構にのみ。しかし彼女にとっての現実にのみ。 凛音は、自らの幻想を、現実に拡張するようになった。 傍から見ればそれは単なるコスプレ趣味だが、彼女にとっては、 自らを物語へと投影させ、色の無い現実世界を塗りつぶす為の救済であった。 或いは秘蹟であった。

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