タグ： 11/10「境界線」 浅村クロス

「……仕事か？」 「やっていいのか？」 「――分かった」 ---------------------------------------- 弟や妹達のため、彼は生きた。 家族たちとの幸せな日常は、ある日突然に引き裂かれた。 弟達を守れなかったのか？ それとも、みずから手に掛けてしまったのか？ その答えは分からない。 なぜなら、それは彼の本当の記憶ではないからだ。 人ならざるもの。 バケモノと呼ぶことさえ恐れ多い、異形の者。 複数のオーヴァードやレネゲイドウイルスを混ぜ合わせ、つなぎ合わされた肉塊の成れの果て。 それが、彼の正体だ。 意思を持った肉塊はUGNに拾われ、チルドレンとして育てられる。 彼は闘うことだけを求められ、それを忠実に全うした。 しかし。 ありもしない歪でおぼろげな記憶。 自分が手に掛けた、いたはずのない弟妹達の血の感触。 記憶の混濁とフラッシュバック、そして殺戮衝動が湧き上がるたびに、彼は全てを破壊した。 処分対象のジャームを。守りたかったはずの街を。 仲間だったはずのUGNエージェントを。帰るべき場所だった支部を。 一人残らず血に染め上げ、ひとつ残らず瓦礫に変えた。 いつしか彼はバケモノと呼ばれた。 一般の人々からではない。オーヴァードからだ。 手を付けられず、手綱を握れず。 誰もが彼を見捨て、諦めた。 バケモノにはどこにも居場所なんてなかった。 たったひとつの、特殊な部隊を除いて。

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