タグ： おえくとぅ じゃそん

彼は薄暗い血溜まりに生まれ落ちた。母親だった「それ」は彼の横ですでに事切れ、気が付けば大きな屋敷にいた。 裕福で温和な老夫婦が彼を養子として引き取ったのだ。 老夫婦は彼をとても大切に育てた、少年の夢は大海原に出て世界を旅すること。 誕生日には船の模型や世界地図、本を買い与え、賢く健やかに育つことを願った。 最初は警戒していた彼も、次第に心を開いた、とても幸せだった。少なくとも、その時までは ６歳の夜、黒煙に咳き込み目が覚めた。消防士に抱えられ、何とか無事に生き延びた。 火災だった。火元も出火原因も未だに分からない。 消防士が老夫婦は助からなかったといい、思い出の写真も、あの夫婦が買ってくれた模型も地図も全て焼けていた。 生まれて初めての感情だった。目には涙があふれて止まらなかった。 視界とともに未来もかすんでしまったようで、少年は焼ける家をただ茫然と眺めることしかできなかった。 幸い書物は残っていたらしい。彼は書物に没頭した。それ以外にやりようがなかった。 気付けば言葉も感情も失っていた。気味の悪い子だと言われた。 １３歳の誕生日を迎えた時、使用人を雇いたいという報せがあった。ロシアの貴族だという。 そこで「彼」に出会った、感情豊かで博識で、少し変な子供だった。 気づけば当たり前のように使用人となり、１６歳には立派な執事になっていた。党首はすでに亡くなっていた。 奥方は温和で温かい人物だった。あの老夫婦を思い出して、少し胸が痛む。 奥方が亡くなった。なぜだろうか、あの時のように、涙が溢れて止まらなかった。 奥方の遺言に「彼」のことが書いてあった、「彼」を命に代えても守ると誓った。 好きな食べ物はティラミス、最近の悩みはない。 「黒い海の饗宴」ムク　西洋ネギ　マゴット　ナナ

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