タグ： 我らがパラヰソ 藤双樹 上級 IC EA

【経歴】 　むかしあるところに、それは美しい櫻の大樹があったそうな。 　見る者を不安に陥れる魔性の美しさに「きっと根本には死体が埋まっているに違いない。だからあれほど美しいのだ」と人々は酒を片手に笑い、こっそりうそ寒そうに首をすくめたそうな。 　時は過ぎて現代、『櫻』は『桜』になり魔性は失われ、枯れて撤去が決まった。 　せめて見納めにと、子宝に恵まれぬ老夫婦が大樹を見にいったとき、彼らは枯れ木の根元で泣く赤ん坊を見つけた。 　彼らはその赤ん坊を引き取って育てることにし、「桜花」と名付けて可愛がった。 　桜花はすくすくと育った、というにはいささか発育が遅かったが、それでも病気らしい病気はせず身体は健康だった。 　しかし老夫婦を、そして桜花自身を悩ませたのが、彼女が男女を問わず、そして善悪を問わず人を惹きつける性質ということだった。 　たしかに美しい少女ではあったが、度が過ぎた。その魔性はかつて失われたはずの櫻の大樹を彷彿とさせるものだった。 　魔性は桜花の成長と共に増大し、やがて一線を越えかけたそのとき。桜花は仙人を名乗る怪しげなホームレスに出会った。 　それが世界の真実、そして自分のルーツを知る契機になるなどと、そのときの桜花は想像だにしなかった。 　通信教育による猛勉強を得て高校に進学。地元を出て、怪異という存在に対して寛容な銀龍町を進学先に選ぶ。 　師のもとでしっかり修行したので能力の制御も万全。背後でまるで羽のようにパタパタと翻る二対四枚の巨大な桜の花びらは半自律型のアバターであるが、これはこういう能力らしいので問題ない。 　憧れだった人並みに悩み、人並みに見栄を張る生活を、いまの桜花は送ることができている。 　その力が彼女自身の意思で再び解放された時。 　相手はそこに、かつて根元に死体を見出すほど婉然とした美しさを誇った、櫻の魔性を目の当たりにすることになるだろう。

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