タグ： 秘匿 ばけねこ屋敷

とあるピアニストに恋をした。 彼は既婚者。子供もいる。それも私と同じくらいの子供。それでも良かった。 彼の指先に恋をした。細い指が奏でる繊細な音色に恋をした。この旋律を彼が紡げるのは、私の才能もあってこそ。 だって私は調律師だから。彼のピアノの調律は私しか出来ない。奥さんにも。息子さんにも。 私だけが彼を、彼の音色を、“完璧”にしてあげられる。 私があなたを、完成させてあげる。 ｰｰｰｰｰｰ 完璧な音楽が好き、寸分の狂いも許さない。 その為、自分が信頼する演奏者でなければ調律してあげない。金を積まれても見向きもしない。逆に才能さえあればお金がなくてもとことん付き合ってくれる。「出世払いでいいわよ？いつか彼みたいに素敵な音色を聞かせてね」 彼が死んでしまってからは息子(蘭丸)に執着してる、でも恋心とか愛情は全くない。むしろ母親似だから嫌い。でもからかうのは好きだから調律してあげる。成長して少しづつ彼と性格が似てきている気がしてほくそ笑んでる。まぁ興味無いけど。 頭脳派というよりは武闘派、まだるっこしいのはあまり好きじゃない。特に優柔不断な男は大っ嫌い。それなりに良い家庭で育ったので、護身術も少し。 イギリス出身だが彼が日本人なので日本語を覚えた、気に入った演奏者がいればアメリカでもどこでも飛んでいく。今はアメリカにいる。 ｰｰｰｰｰｰ 最期に見た彼が、彼の音色が忘れられない。 別にこの恋を実らせようだなんて思ってなかった。私は彼のピアノを調律して。私が調律したピアノを彼が弾く。たったそれだけの日々が幸せだった。 いつから狂った？彼が？私が？最初から狂っていた？冒涜的な音色が。鼓膜をつんざいて。記憶を塗り替えていく。 彼の悲願を。 成し遂げなければ。

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