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　成功、おめでとう。――――それじゃ、サヨナラ。 　君の人生に喪失あれ。 　真紅の母親――佐藤春奈――は19で彼を生んだ。妊娠当時、彼女は高校三年生。不真面目だった彼女は、受験勉強を強いる周囲への反発から軽率に『悪いこと』への憧れを募らせ、その結果真紅を妊娠してしまった。父親は同級生である。 　始めこそ自分がこの子を育てると息巻いていたが、裕福な家庭の生まれでもない春奈は親からの援助もろくに受けられず、あっけなく子育てをリタイアして姿を眩ませた。同じく未成年の父親が責任を持つ筈もなく、真紅は早々に望まれない子供となった。 　施設に送られた真紅は、栄養失調から来る虚弱体質も相まって、酷く根暗で言葉を覚えるのも遅かったため、友人らしい友人も出来なかった。それでも施設の子供達の間には同じ不遇な生い立ち故の奇妙な連帯感があり、完全に孤立することもなく中学卒業までを日陰でひっそりと過ごす。 　その後、施設の計らいで地元の高校に入学、演劇部に所属するも馴染めず、高校を中退して弱小の地域劇団に所属した。 　誰かに物を教わる金もなく、ただ時間だけを浪費する毎日の中、劇団員を眺めている間は心が休まることに真紅は気付いた。それは、劇団員が部隊の上では役柄の仮面を被って――本当の自分を殺して――生きているからだと理解するのに、そう時間は掛からなかった。その時真紅は、自分が『満ち足りた』人間に苦手意識を抱いていることを自覚した。 　自分は自分のことが少しも好きではなく、自分という人格について思う所が殆どなかった。思い入れを抱くほど、自分が誰かに強い感情を向けられた覚えがなかった。愛された記憶も、憎まれた記憶も、替えの利かない存在として必要とされた記憶もない。優しい言葉も、冷たい言葉も、大きな世界の中の小さな音でしかなかった。 　それを自覚した真紅は一つだけ、己の中に感情を灯すことにした。その為にたった一つ、己の人生にルールを課した。 『自分は、あらゆる人の友となる。だが、その人が人生の成功を収めたら、自分はその人から離れる』 　何かを手にした人が、成功の代償に自分という友人を喪失するように。完璧な恵まれた人生などを許さないために。自分は、誰かの人生を欠けさせるための『ひとかけら』になろう。 　その為に、自分は――――。 「優しい俺に感謝してくれよ？　なんてね」

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