タグ： T学 すばる

私が初めて山に登ったのは、叔父に手を引かれて登山した黒岳が始まりだった……。 私は少々引っ込み思案で内気な性格だったから、友達と呼べる人が少なくて周りから浮いていた。 物心着いた時から両親はいなかった。私を育ててくれたのは祖父母と叔父だった。 おじさん、と呼ぶには歳が近かった彼を私は｢こう兄ちゃん｣(名前が煌冴(こうが)だから)と呼んで懐いていた。 母は18の歳に私を産み、その後蒸発したそうだ。 父親は…分からない。祖父母もこう兄ちゃんも、知ってるみたいだったけど…教えてはくれなかった。 14歳年の離れた叔父は私に色んなことを教えてくれた。 学校じゃ教えてくれない、色んなこと。 カメラの扱い方、森の歩き方、山へ登る準備、登山の仕方、山や森に行く時の注意、｢厘佳は女の子だから｣と護身術も教えて貰った。 知識として登山する時の気をつけることや、揃えるもの、持っていくもの、登り方なんかは教えてくれるけれど、決まってこう兄ちゃんは、｢厘佳がもう少し大人になったらね｣と言って山へは連れて行ってくれなかった。 そうして、私が12歳こう兄ちゃんが26歳の時。 ｢厘佳、遊びに行こうか。今日は肌寒いから暖かい格好をしておいで。｣って言って私を連れ出してくれた。 最初はどこに行くのかと不思議に思っていたけれど、段々と車が森の中へと進んでいく。 黒岳。祖父母の家から毎日眺めていた、大雪山に連なる山のひとつ。 ｢厘佳も来年は中学生だからね。俺と一緒に行くのなら、山登りしても大丈夫かなって思って。…少し早いけど、誕生日おめでとう厘佳｣ 嬉しすぎて、涙が流れた。 私がまだ12歳で登山初心者という事もあり、今回はロープウェイで山の7合目まで行ってそこから山頂を目指すルートになった。 火山郡である大雪山系なのに黒岳は登っても登っても深い緑がたくさんあって木漏れ日から差す日の光がとても綺麗だった。 山頂からの景色はもっと綺麗で、こう兄ちゃんが山はいいぞってずっと言ってた事のわけが理解出来た。 私はそれからというもの、こう兄ちゃんのおさがりの一眼レフカメラを片手に登山するようになった。 四季折々に魅せる自然の美しさを切り取りたくて、1人でもたくさんの人に美しいって、綺麗だって知ってもらいたくて、カメラ片手に山に登る。

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