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｢深箔くん｣ ｢ごはんができたよ。朝、だよ、起きて｣ ｢……ちょっと、こわ、いよ、ふ、はくくん｣ 一人称 俺、私(仕事中) 二人称 あなた、など、、 割と大きなキリスト系の教会で神父を任されてい……た。静かに子羊の話を聞いたり、週に1度説教を話したり。思えば、あの時、懺悔室から飛び出してしまったのが全ての始まりだった。 *☼*―――――*☼*――――― 父親は単身赴任でそこそこのお金を稼いでいた。寂しさなのかなんなのか知らないが、母親は宗教やそのコミニュティにずぶずぶとのめり込み、自分と姉にも信仰を強要してきた。朝は決まって神に祈りを捧げ、食事毎にもあの言葉を呟く。放課後はすぐに帰って母親の手伝いをして、集会に出かけるのだ。 宗教で変わってしまった母親を持つため、周りの子供たちには異質に見えたのだろう。彼らの親からの後押しもあって、自分と姉へのいじめがはじまった。 小学生の頃は可愛いものだった。上履きを隠されたり、持ち物を返して貰えなかったり。ただ、母親に助けを求めても、神への祈りがあれば大丈夫と優しく諭された。そうかな、そうなのか、お母さんがそういうならそうなのかも。 中学生に上がって、様子がおかしくなった。 万引きをさせられた。肌にカッターで傷をつけられた。クラスメイトの前で性器を弄られた。酒や良くない薬を飲まされた。何度も何度もやめてと言って、その度に力の弱い自分は暴力に屈してしまった。 自分だけならまだ耐えられた、でも、姉への仕打ちは、自分以上に酷かった。恐らく、自分のことも庇ってくれていたのだろう。姉は日に日におかしくなっていった。死にたいと毎日口にして、時折弾かれたようにクスクスと笑い続ける彼女を、必死に支えた。 いじめと暴力の毎日。誰も助けてくれない、母親も、神様も、それでも、いつか、いつか助けが来ると信じて、自分はもう、神への祈りを捧げることしか出来ない。 姉が死んだ。 自殺だ。必死に繋ぎ止めてきたのに、もう、自分だけの力じゃ無理だったのだろう。何となく分かっていたからショックは小さかった。 今まで頑なに引越しを拒んできた母親が、悲しい、申し訳なさそうな顔をして影樹を見ている。 曰く、もう父親は帰ってこないそうだ。 マルチ商法に溺れ、たくさんの借金を抱えた母は、それでも神を信じることを辞められず、大きな家と売れ残りの商品を手放して、影樹が高校を卒業してから、やっと小さなアパートへ引っ越した。彼女もまた、誰かに縋ることでしか自分の存在を認識できないのだろう。 たくさん勉強して、特待生で神学校に入学する。授業料は免除。飲食店で毎日バイトをして、お母さんの借金を返さないと。今まで育ててきて貰ったんだから、はやく、はやく。お母さんにお金を返さないのは悪い子だから、神にも見放されてしまう。それはダメだ。自分は神父になるのだから、ちゃんと勉強しないと。 いじめっ子も知り合いもいなくなった大学生活は、影樹にとってしばらくぶりに安定していた。 母の借金を返済している、少し黒い噂のある教会へ就職した。母親はいいカモだ。影樹を散々こき使っても神に祈るばかり、影樹だってなんの抵抗もしない。ここでも、いじめが起きた。 複数の上司から暴力を振るわれ続けた。何が良いのか全くわからないが、かつて姉が受けていたのと同じように、無理やり性行為を強要された。痛い、苦しい、気持ちいいね、なんて聞いてくるふざけた上司には本当に鳥肌が立った。これのどこが気持ちいいんだ。 それでも、神様に祈らないと。だってそうじゃないといい子じゃないのだ。毎日神様に祈りを捧げて、ひとの話を聞いて、お金を返して、上司に御奉仕して、それが俺の生き方なんだ。ねえ、姉ちゃん。俺はあなたの分まで生きるから。 *☼*―――――*☼*――――― ｢学校でいじめがあってさあ、死にたいって言う女の子がいるんだよ。もう、勝手に死ねよって感じだよなあ！｣ 前々から思ってはいたが、とんだカウンセラーがいたものだ。こういう人間が、俺を、俺達をずっと見捨てて生きてきたんだろう。反吐が出る。思わず懺悔室の扉を開けて睨みつけた。 ｢ふざけるな、もうお前は来なくていい。お前の話を聞くことはもうできない｣ ぽかんとした顔のその男は、あろうことか胸ぐらを掴んでくる。暴力だ。ああ、ダメだ、だって屈するしかなくなる。必死に耳を塞いで目を閉じて、男の暴力に耐える。……でも、彼は散々自分の感情を羅列して、満足したように帰っていった。殴られなかった。 いつものように上司からいじめを受ける。今日はやけにおかしい。さっき注射された何かだろうか。頭がぐるぐるして、手に力が入らない。でも気持ち悪くて、吐けなくて、とても痛くて、ボロボロ泣きながら、ずっと神に祈りを捧げていた。 はやく終わってくださいと、神様に懇願した瞬間、上司が吹っ飛んだ。回る視界で顔をあげれば、出禁にしたはずのあの男が立っていて、やっちまったという顔をしていた。 お母さんにも先生にも神様にも助けて貰えなかったのに。初めて自分を助けてくれたのは、悪魔のような男だった。 *☼*―――――*☼*――――― 【狂魘惨毒ストレイド(NPC)】(2020-4-25) ふはくくん、ごめん、おれのせいで、やだ、やだ……！ ねえ、捨てないで、まだおれ、一緒にいたいよ。 【AND/HAND(NPC)】(2020-5-16) 不定の狂気：強迫観念に取り憑かれた行動 ふはくくんの手をめちゃくちゃににぎにぎする……。 怖い目にあった、俺もそうだけど、ふはくくんはもっと怖かったはず。ちゃんと毎日確認しないと。 ……ね、それで、恋人って、どういうこと？ 【立ち聞き団地】(2020-8-6) 助けられたのかな。俺が、助けてあげられたのなら良かったなあ。 久しぶりに真面目に神父をやった気がするぞ。

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