タグ： もこけ えぬぴし

昔から写真を撮るのが、好きだった。 対象を写し、シャッターを切り、フィルムを巻き取るその瞬間が、好きだった。 自分で撮った写真を自分で現像して、写ったものを、切り取ったものを見る瞬間も好きだった。 でも、周りからはもっと女の子らしいことをしなさい、男みたいなことはやめなさい、そんなことが楽しいにか？って言われた。 家族と、司くん以外からは。そう言われた。 好きなことをしていいと、大事にするべきだと言われてから、息がしやすくなった。 私を見てくれてる気がして、認めてくれた気がして、嬉しかった。 だから私は、もっと写真を撮った。 初めは仕事にするつもりはなかったけど、趣味で終わらせるつもりだったけど。 司くんが写真を見てくれるたびに、綺麗だと言ってくれるたびに嬉しかったから。 こんな私でも好きなことをしていいんじゃないかって少しだけ思えるようになったから。 だから私はこれからも写真を撮り続け得る。 対象を写し、シャッターを切り、フィルムを巻き取る。 その度に司くんの笑顔がよぎった。 嬉しかった、楽しかった、大好きだった。 だから私は撮り続けた。撮り続け、たかった。 だから、私は 雨水 シオリ 駆け出しの写真家。享年25歳。 若かりし頃の川上 司の友人であり高校時代からの同級生だった。 自らがニョグダの落とし子であり、あと数年すると、自分が異界の者に屈し異形の姿となることを知ったことで自殺を図る。 川上司は雨水シオリが何かに悩んでいたのか、何があったのかを知ることはできずに過ごしていた。過ごしてきた。 あなたが知っていることは雨水シオリはとある建物の屋上に入っていくのを見られたのを最後に行方知れずになったということ。 ただ、それだけだ。 知らない場所で、いつの間にか、彼女はあなたの前からいなくなっていた。 もう半生も昔、25年前の出来事である。 　 Hello、Hello、 川上 司 様 　 　いかがお過ごしでしょうか、傷の具合はいかがですか。 　あなたが生きているという事実が、私の最大の喜びです。 　あなたは最後まで、私のことを助けようとしてください 　ました。 　私は、それだけで幸せ者です。 　司くんと友人になれたこと、 　 あなたが私の写真を好きだと言ってくれたこと、 　私はずっと忘れません。 　ずっとずっと、忘れません。 　どうか、これからもお元気で。 　　　　　　　　　　　　　　　　　真珠の友人より

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