タグ： 狂気山脈

子供の頃、テレビで見た1人のカメラマンに釘付けになった。人が到底辿り着くことなど不可能だと言われている場所へ身一つで赴き、その奇跡とも呼べる光景をそのカメラの中に収めていた。周りに流されることなく、己の好奇心、興味が向いたものだけをカメラに収め続ける。ある時は無名の芸術家へつきっきりになり、ある時は南極探検隊へ同行したり。強い精神力と鍛え上げた肉体。彼は、まるでスーパーマンのようだった。その姿に、幼いながらに強く惹かれ、いつの日か彼のようになりたいと思うようになっていた。 そして、彼と同じように過酷な場所へ赴き、己のカメラでその奇跡を収めて数年、俺はようやく運命的な出会いをした。いや、出会いと言うにはあまりに一方的かもしれない。けれど、カメラマンになり、数々の写真を納めてきて、それでもどこか満足できなかったこの心が、満たされる、幼い時から抱いてきた彼のような写真を、彼のような生き方を、ようやく出来る。 1人のクライマー。前人未到の奇跡を、成し遂げようとしている。それをこのカメラの収めることができたなら、彼を見届けることができたなら、幼き頃から抱いていた夢を、叶えることができるかもしれない。俺は彼の成し遂げる奇跡をこの目で見届け、そしてこのカメラに収める。その為に、世界最高峰、前人未到の山へ、カメラマンとして、挑む。 登山家ではないが、実力としては、認められている。それは数々の山へ登り、その頂上での奇跡をそのカメラに納め続けていたから。父親が登山家でもあるため、幼い頃から知識と技術は兼ね備えていた。体を鍛えることも好きなので、その一環でも登っており、またカメラマンとして休みをとっている間はガイド役などもしていた。

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