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国府 通は普通の高校生だ 特に不自由なく育ち。尊敬できる両親を持ち、親愛なる兄姉がいる。 彼は勤勉で真面目で素直であった。天才的な頭脳があるわけではないが、日々普通より少し勉学に励み、十分に優秀な成績を修めている。特別将来の夢があるわけではないが、多くの知識があれば将来の選択肢が増えて色々な可能性を掴むことができる、そう理解できる程度には賢かった。 そして何より、幼いころから頑張れば両親や兄姉が褒めてくれた。褒めてくれるのも嬉しかったし、その時の家族の表情は自然と笑顔であった。至極単純なことであるが、それが彼にとっての原動力であった。 それは彼が物心がついてからも変わらなかった。家族は勿論、友人たちの笑顔も見るのが好きであった。そんな彼だから、困っている人がいれば手助けをしてあげたいと思う性格へと成長した。無論それは行き過ぎたものではない。物語の中のように自己犠牲に溢れた行動ができるほどではない、自分ができる範囲、例えば転んだ人がいれば迷わず手を差し伸べるし、満員電車の中で立っているご老人がいれば席を譲ったり、鍵を無くした友人と一緒に探したり、迷子になったと泣いている子供と一緒に母親を探してあげる。普通の善性を持った人間であった。 そんな彼は、ある唐突に、オーヴァードの力へと目覚めた。理由が特にあったわけではない。本当に突然力を手に入れてしまったのだ。 謎の現象に困惑し、恐怖していると、幸運なことに直ぐにUGNに保護をされることとなった。その時に彼はこの世界の真実を知った。 その上で選択を迫られた。 この力を隠し続け普通の人間のように生活をし続けるか、この力を使い誰かを助けるために自らの危険を顧みず戦うか。 彼は普通の善性の持ち主だ。 自分の命を持て誰かを救うほどの自己犠牲の精神を持ち合わせてはいない。 英雄志願の心は全く存在していなかった。 だが、彼は、自分にできる範囲なら誰かを助けてあげたいと思う程度には善良であった。この力で誰かを助けることができるのならば、誰かを助けたいと考えた。 だからこそ、彼は戦う道を選んだ。 この時の彼は自分が正しいと思う道を自分の意志で選んだのだ。 今の彼は自分のことをこれっぽちも不幸だなんて思いもしないだろう。 過去に戻ったとしても迷わず同じ選択をする筈だ。 だが　　それでも　　彼は　 この道を選ぶべきではなかったのだ。 彼は勤勉であった。これまで普通に生きていたにも拘わらず、弱音を吐かず力を制御できるように努力し、力を付けた。その力でUGNの任務を手伝うイリーガルとなり誰かを助けるために努力した。そのかいもあり多くの人を助けることができた。無論全てを救うことができたわけではない、その手から零れ落ちた犠牲者もいた。だが彼は絶望も失意もせず逃げることもせず、前を向き進んでこれた。そうやって任務をこなし、誰かを救ってきた。 ある日のことだった。 何でもない任務の筈だった。言葉にすれば至極単純なことで、彼らは敵に罠にはめられたのだ。戦力差は数倍。勝利も撤退も生存も絶望的。 懸命に戦った。全員が絶望的な状況にも拘わらず、皆、最期まで諦めなかった。 だが、現実は非情だ。皆死んだ。自らの命を賭して戦っても、敵の半数までしか削ることができなかった。いや、「しか」というには語弊があった。数倍もの戦力差でここまで戦い抜くことができたのだ、見事というべきであろう。だが、彼を除いて皆死んだ。 あと、どれだけ生きれるのだろう？数分？数秒？それとも次の一撃で終わる？ 彼は人生で初めて自身の為に叫んだ 「こんな！ところで！！死んで！！！！たまるか！！！！」 一撃を受けた瞬間、彼には強固な装甲が生まれていた。まさに奇跡的、自らの死の危険に彼のレネゲイドウイルスが活性化したのであろう。 そしてそれ以上に幸運だった。彼の装甲を撃ち抜ける攻撃を持つものは、もはや敵には残っていなかったのだ。 もし彼が生きることを諦めていたら。もし仲間が命を賭してでも敵を道連れにしていなければ、彼は朽ちていただろう。 だが、それでも戦力差は圧倒的だ。僅かずつでも攻撃を喰らえばいつかは死ぬ。 だから、体力を回復させようと思った。 攻撃し、抉った相手の血肉を喰らった。こんなことは今までできなかった。だが、そうすれば傷が癒えるようになった。 超人的な身体能力があるとはいえ、360°囲まれてしまえば把握しきれない。 気が付けば、異様なほど感覚が敏感になっていて、それでも把握できないところはなんとなくで理解できていた。 自分の攻撃では貫けない防御を持つ敵がいた。 だから、獣の力を一点に集中させて、一気に貫いた。 残り少なくなってきた敵が、水中に潜って逃げようとしていた。 だから、水中でも問題なく活動できるように体を造り変えた。 どれもこれも、これまでできないことばかりであった。 だが、できた。理由は分からない。そんなことを考える余裕もなかった。 気が付けば　気が付けば　気が付けば 立っているのは自分だけだった。 後は死体のみだった。 その時に感じたのは、敵に対する怒りでも、仲間を失ったことに対する悲しみでもなかった。 『達成感』 ただそれだけであった。 思い返してみれば、彼の人生の行動意義は誰かに依存したものであった。誰かに褒められたい。誰かを助けたい。誰かを救いたい。 だが、どうだろうか？今の自分は？自分の為だけに力を奮い！成し遂げたこの達成感は！！もっと！もっと味わいたい！自身の力の向上を！ 力を求める彼に呼応して、ドクンと、影が鳴動を始めた。 国府 通は普通の人間だ。 誰かを助けたいと思う心は本物であるし。彼の善性も本物だ。 だってそうだろう？ 誰かを助けたいという正義の大義名分の元で奮う力より心地よいものは無いのだから。

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