タグ： しょうごはん 偽りの国

お姫様が学校に通わずとも教育を受けられるようにと雇われた“王室教師”。 若い頃は優秀な学生であったが、とある事情からとうとう職に就くことができず、家からも勘当され、行き場を失っていた。 そんな折、さる大金持ちの男から「王室教師」として声がかかる。彼ら一家は家政婦等を雇って屋敷に住まい、自らの「王国」と称して暮らしていたのだ。 初めはこの壮大なごっこ遊びに困惑していたが、“お姫様”の笑顔に生きがいを感じ、熱心に教師を演じるようになる。“国王”や“王妃”も家族のように懇ろにしてくれた。 ある夜、彼は国王の勅命─本人に言わせれば「これは独り言」だそうだが─を受ける。 「私に何かあったら、姫を…娘を頼む。」と。 王は何も名言しなかった。ただ、彼に充てられたクローゼットにいつの間にか置かれていた拳銃を見て、彼は護身術を学ぶようになった。 (思い返してみればこの“王国”はライフル射撃を得意とするメイドなんかがいる辺り普通じゃなかったのだ。それに、普通の金持ちなんかが「自分の領地」と言えるようなものを持てるはずがない。) やがて、国王が致命的な「失敗」を犯してしまい、心中を図ったとき、彼が第一発見者となり、姫を助け出す。 彼女に両親の負債を負わせることを心苦しく思った彼は、「宮殿」に火をつけて一家諸共死んでしまったことにした。彼自身は初め自分も死んでしまおうと考えたのだが、苦しそうな姫の顔を見てしまってはそんなことはできなかった。何より、自分を心中に巻き込まずに姫の命を救わせたことは、彼らから姫を託されたとしか思えなかったのである。 それからは必死だった。身元も定かでない自分らを住まわせてくれる人を探して、仕事を探して。 そうして漸く生活を落ち着けられる、そう思っていたある日。姫は言った。 「元の世界に、お父さまとお母さまの元に帰る方法を探しましょう」と。 ああ、私はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。 それは、天国を目指して地獄へと向かう道であることを自分は知っている。 これからの生は、二人にとって苦しいものになるだろう。 真実は、まだ話せない。話しても受け容れられないだろう。 ならば─。 どこまでもお供しましょう、お姫様。 その地獄への道を、善意をもって私が舗装致しましょう。

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