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二万円 満十(にまんえん みと)
ID:3206318
MD:82919c8f22a9dbe92ae6cf28944dcad1
二万円 満十(にまんえん みと)
タグ:
亜月式二
振斗
二万円家
素直に鳴いて?
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生まれ・能力値
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その他増加分
一時的増減
現在値
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初期
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アイ
デア
幸運
知識
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SAN
現在SAN値
/
(不定領域:
)
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技能
職業P
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(うち追加分:
)
興味P
/
(うち追加分:
)
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初期値の技能を隠す
複数回成長モード
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通常表示
<戦闘技能>
成長
戦闘技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
回避
キック
組み付き
こぶし(パンチ)
頭突き
投擲
マーシャルアーツ
拳銃
サブマシンガン
ショットガン
マシンガン
ライフル
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通常表示
<探索技能>
成長
探索技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
応急手当
鍵開け
隠す
隠れる
聞き耳
忍び歩き
写真術
精神分析
追跡
登攀
図書館
目星
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<行動技能>
成長
行動技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
運転(
)
機械修理
重機械操作
乗馬
水泳
製作(
)
操縦(
)
跳躍
電気修理
ナビゲート
変装
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通常表示
<交渉技能>
成長
交渉技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
言いくるめ
信用
説得
値切り
母国語(
)
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<知識技能>
成長
知識技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
医学
オカルト
化学
クトゥルフ神話
芸術(
)
経理
考古学
コンピューター
心理学
人類学
生物学
地質学
電子工学
天文学
博物学
物理学
法律
薬学
歴史
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戦闘・武器・防具
ダメージボーナス:
名前
成功率
ダメージ
射程
攻撃回数
装弾数
耐久力
その他
%
%
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通常表示
所持品・所持金
名称
単価
個
価格
効果・備考など
価格総計
現在の所持金:
、 預金・借金:
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パーソナルデータ
キャラクター名
タグ
職業
年齢
性別
身長
体重
出身
髪の色
瞳の色
肌の色
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その他メモ
特徴:鋭い洞察力、珍しい技能 職業:宗教家 職業特記:支援者に対しての信用に10%のボーナス 二万円 満十(にまんえん みと) 21歳 女性 心理学を学ぶ大学生。理知的で一見近寄り難い雰囲気を醸し出しているが、実際に話してみると意外と庶民的というギャップがあり、顔の良さも相まって周囲にはいつも誰かがいる。しかし高嶺の花っぽいオーラも強いので男性は近付きにくいらしく、友達はほぼ女友達なのも相まり恋人などの浮いた噂は全くない。嫌いな食べ物は饅頭(餡子が苦手)。 実は彼女には「誰かに組み敷かれている男性(オブラートに包んだ表現)」にしか興奮できないという性癖がある。その為男装をして"男友達"を作っては、彼らを手篭めにして自分のペットを作っている。男装をしてる時は「満斗(まんと)」と名乗る。また、男装していない方が近付きやすいと判断した男性には、普段の自分のまま距離を詰めたりする。結構臨機応変。 幼い頃、満十はどこにでもいる普通の女の子だった。 血筋故の類稀な美貌を除けば、普通に話して普通に笑う、朗らかで優しい女の子。 その為、彼女の周囲にはいつも友達がいた。自分を好いてくれる男の子も沢山いた。もちろん家族にも愛された。どんな時だって、常に誰かと一緒にいたのだ。 あの日もそうであったら、あんな悲劇が起きずに済んだのだろうか。 小学6年生の事。その日はいつもと違って日直の仕事があり、日頃より下校をするのが遅くなってしまった。もう辺りは少しずつ薄暗くなってきている、早く帰らないと! 満十は下駄箱で靴を履き替え、1人で校門を飛び出し、急ぎ足で帰宅した 否、しようとした。 暫く1人で歩いていった所で、突然何かに引っ張られるような感覚の後、視界と口が塞がれ身動きが取れなくなった。何が起きたのか分からなかった。驚きで出た声は口を塞ぐ何かの中に閉じ込められ、その障害物の生温さに、漸く、恐らく自分を拘束している物は人間の手である、と気付いた。気付いてしまった、私は今、人に襲われているんだ。 恐怖から必死にもがき抵抗しようとしたが、満十は美しいだけの普通の少女でしかなかった。力では敵わず、逃げ出す事はできなかった。そのまま引き摺られる様にして無理やり何処かに運ばれ、やっと視界が自由になった頃には、そこは見た事も入った事も無い何処かの路地裏だった。そして正面にいるのは、自分の両の手首を片手のみで掴みあげる見知らぬ男。幾ら背が高い方とはいえまだ小学生の満十と比べたら、それはあまりにも大き過ぎる体だった。 二万円満十は普通の少女であった。しかし例えそうであっても、彼女も二万円家という特殊な家庭で立派に生まれ育った事に変わりはない。耳年増な同級生達よりも、多くの事を知っていた。知っていたから、分かってしまった。分かってしまったから、泣きたくなった。 ああ、私、今からこの人に────────。 1つ幸運だった事がある。事を済ませて満足した男性がその場を去ろうとした時、たまたまその場を通りかかった近所の人間がいた事だ。その人は目の前の惨事を認めると急いで男性を取り押さえ、すぐさま警察に通報した。これのお陰で、男性は現行犯として逮捕された。 それ以上に不運だった事がある。その時には既に、全てが手遅れとなっていた事だ。警察に保護された満十の瞳からは、もう輝きが失われていた。 満十は男性恐怖症となった。彼女が男に襲われたという話は学校でも広がったので、女子は満十の精神を案じて彼女から男子を遠ざけようとしたし、男子もまた気遣いからそれに従った。そしてそれは例え相手が家族だとしてもほぼ変わらず、"男である"というだけで満十はできる限り接触を避けたがった。血の繋がりが無い他人よりかは会話もできたが、相手の顔色を伺いながら、小さくか弱い声で体を震わせながら喋る事を、人は無事とは呼ばないだろう。その為、もし家内の噂話に特別疎い家族がいたとしても、彼女に何かがあった事は容易に察する事ができた。 男性恐怖症を抱えたまま、満十は中学生となる。環境に新たな風が吹いても恐怖症から立ち直る目処は立たず、やはり小学生の頃と同様、女友達に守られる様に囲まれ暮らす日々が続いた。別の小学校から来た生徒達の目には、「妙に異性を怖がる可憐な美少女」という風に満十は映っていたし、それは紛れもない事実であった。 新生活が始まって暫く経ったある日。 放課後の人気のない教室で、満十はある大きな恐怖に直面していた。 彼女の目の前には1人の男子生徒。放課後に満十を匿名で呼び出した張本人である。その少年は満十とは別の小学校から来た生徒……言い換えると、満十の身に起きた惨劇を知らない生徒であった。 故に、彼は男性恐怖症である満十に愛の告白をするという行為ができてしまった。彼が言う事には、クラスメイトである満十に一目惚れをした結果、今日この日までその想いを燻らせ続けていたらしい。満十の美しさを考えれば至極当然の出来事に思えるが、そんな至極当然でさえ、今の彼女にとっては受け入れ難いものであった。 告白を受け入れるなんて無理だ、だって男性は怖い。それに、恋人になったからにはまた"そういう行為"をしなくてはならない、かもしれない。けど、もしここで断ったら。男子生徒が逆上して、到底想像もしたくない様な行動を起こすかもしれない。それも、とても怖い。どうしたって怖いせいで、首を縦にも横にも振る事ができなかった。 どうにか絞り出す様にして、「考えさせてほしい。また明日改めて返事をする」といった旨を伝えた。男子生徒はそれを容易く受け入れ、潔くその場を去っていった。 どうしよう 満十は彼の背中を眺めながら、その一言だけを考え続けていた。しかし何度も思案した所で、受け入れても断っても怖い、という結論は変わらなかった。暫くの間、ギュッとスカートを握りしめ、教室の片隅で小さく震える事しかできなかった。 その日も1人で帰った。ただの帰り道ですら、1人でいるとあの日の事を思い出してしまう。それが男性に告白された今日の事なら尚更だ。幸運にも何事も無く帰宅できたが、普段よりも更に満十が弱々しくなっているのは、家族の目から見ても明らかだった。 午前3時過ぎ。寝付けない。心が不安に漬けられた苦しい感覚。何度目を閉じても、放課後の教室で起きた事を鮮明に思い出してしまう。寝たら明日が来てしまうのに、明日の展望が何も無かった。どうしよう、どうしよう、どうしよう…。 少し頭を冷やそうと考えた。緊張のせいで喉が渇いている。何か飲み物を、と思い、満十はダイニングルームに向かった。暗い家の中を、できる限り、静かに。 扉を開け部屋を見渡して、固まった。誰か男性……後ろ姿からでは暗さも相まって判別ができないが、恐らくは兄の誰かがまだ起きていた。小さな音量で流されたニュース番組を、どうやらソファーに座って眺めているらしい。気付かれているかは分からないが、見られていない内に早く何か飲んでしまおう、そしてすぐ部屋に戻らないと。満十は可能な限り音を出さない様に細心の注意を払って、どうにか味のしない水を飲み干した。そうして急ぎ足で、部屋に戻ろうと、した所で、 「こんな時間にどうした?眠れないのかい、満十」 大きく肩が震えた。おずおずと振り返った所で、その声と、今はこちらに向けられている顔とで、漸くその人が誰かを判別できた。 3歳離れた兄の、二万円皇牙であった。 人の良さそうな笑みを携えてじっとこちらを見てくる彼に、何故だか強い圧を感じてしまう。そして満十は地面と足が縫い合わさったかの様にその場を離れられなくなった。 「寝れないなら、水よりホットドリンクのほうがいいらしいぜ」 ほら、丁度俺もここで紅茶を飲んでたんだ。満十もミルクティーでも飲まないか? 皇牙はそう言いながら、隣に座れと催促する様に、自身が座っているソファーの座面をポンポンと叩いた。 男性の隣に座る事など今の満十にとっては到底できる筈の無い行動だったのだが、今はそれ以上に、目の前の兄の誘いを断る方が恐ろしい事の様に思えた。地面と縫い合わせられたと思っていた足は、今度は皇牙の言葉という糸で操られ、彼の発言に従うかの如く動いていた。忠実な足とは裏腹に、体の震えは収まらなかった。 こんな時でもミルクティーは妙に甘くて美味しい。こくん、と温かなそれを少しずつ味わって飲んでいく。てっきり頭が真っ白になって何も分からなくなると思っていたから、味を感じられる自分の舌に微かな安堵を覚えた。 「このミルクティーうまいだろ。ティーパックの割にはいい仕事してるよな」 極僅かに気が緩んだタイミングで、見計らった様に皇牙はそう言葉をかけた。やはり男性に話しかけられるのは萎縮してしまう、それに変わりはない。しかし彼の言う通り、ホットドリンクは今の自分に最適だったらしい。男性を相手にしても、どうにか頷くくらいのレスポンスなら取る事ができた。 それから少しばかりなんてことない会話をした。会話と呼ぶにはあまりにも一方的なものであったが、そんなものでも、満十にとっては久しぶりの男性とのまともなコミュニケーションだった。声を荒らげる事も無ければ、脅迫めいた発言も、強引すぎる詮索も無い。そんな彼との会話は、恐怖で波立っていた満十の心をほんの少しだけ落ち着かせた。 今まではずっと避けてきたけど、例え男性が怖くても、家族相手だったら、もしかしたら……。 満十が僅かな希望を持ってそう思った時、皇牙は「これもなんてことない話題の1つ」といった顔で、さも当然かの様にこんな事を聞いてきた。 「そういえば、今日は学校で何かあったのか?随分浮かない顔をしていたけど」 ピタリ、と自分の体が固まる感覚があった。それは今1番考えたくなかった事で、他の何よりも恐れていた事。思い出すだけで、自分の顔から血の気が引いていくのが嫌でも分かった。 けれど、聞かれた事にはちゃんと答えないと。だって今まで話ができてたのだから、きっとこれも平気な筈。それにもしかすると、皇牙兄さんは私でも怖い思いをしなくてもいいかもしれない。だってこんなに優しくしてくれてる。だから、大丈夫、大丈夫、大丈夫。大丈夫だから、声を出して、私。 小さな声でポツリ、ポツリと、満十は今日の出来事を打ち明けた。 同じクラスの男子生徒に告白をされた事。 その人についてよく知らない事。 よく知らないが故に、何をされるか分からなくて恐ろしい事。 返事を翌日にすると言ったけれど、何をどう言えばいいのか分からない事。 自分より大きな体で自分を押さえつけてくる男性が怖い事。 抗えない様に支配をされるのが、怖くて怖くて、仕方ない事。 拙い話し方で、満十は確かに自身の思いの全てを言い表した。ふと両手で抱えたミルクティーに視線を落とす。何故か水面が揺れていて、自分の顔も朧になっていた。…いや違う、震えているのは私の手。そしてぶれてしまっていても分かる事、きっと今の私は酷い顔をしている。兄さんはこんな私に何を思うのだろうか、何を言うのだろうか、何をしてくるのだろうか。あやふやな自分を見たくなくて、ミルクティーを机に置き、所在の無くなった両手をギュッと握り締め腿の上に乗せた。 話を聞き終えた皇牙はほんの少し考える素振りをした。そうして何でもないかの様に口を開き、言った。 「満十。それは、支配をされてるから恐れを感じるんだ」 「『支配する側』に立ってしまえば、怖さなんてなくなる」 …今、兄さんはなんて言った? 支配、する側に? 私が……男性、を? 何を言ってるのか訳が分からなかった。予想ができないとかそんな話では済まされない。自分には全く理解できない言語で殴られた感覚があった。 満十にとって男性とは、恐怖を抱く対象であり、従順を誓わなくてはならない存在であり、この世の暴力の象徴だった。そんな相手を今度はこちらが押さえつけてやるだなんて、考えてもみなかった。 そして、言われて考えた、考えてしまった。それはほんの少しの想像。皇牙の言う通りに、自分が男性を組み敷いている光景だ。しかし次の瞬間、想像の中の男性は獣の如く恐ろしい顔になり、想像の中の満十の腕を掴み上げた。そうして満十を押さえ付けた所で……暗転。自身の精神を守る為、彼女の脳は強制的に想像をシャットダウンした。と同時に、満十の足は弾かれた様にソファーから立ち上がった。カタカタと震える指を、同様に震えた唇に持っていき、そのまま横目で依然と座っている皇牙を見やる。そんな満十の様子を目の当たりにしても悠々としてこちらを見上げてくる彼は、立ち上がれば高身長の部類に入る方だ。今はそんな彼を、私は確かに見下ろしていて、自分よりも、背が高くて、大きな男性を、下に、私が、上、で、 想像の中で自分に組み敷かれ、そして突如牙を剥いてきた男性と、未だ笑ってこちらを見上げる兄の顔とが、重なった。 「ひっ、」と、悲鳴とも呼べないか細い声を上げて、満十は衝動的にその場を走り去った。話を聞いてもらったお礼だとか、まだ飲み干していないミルクティーだとか、そんな事は一切考えられず、ただ形振り構わず目の前の男性から離れようとした。後先を省みる事のできない程の恐怖が彼女を突き動かしていた。重なったと思った想像と違っていたのは、逃げる満十を男性、つまり皇牙が追いかけてこなかった事である。 「さぁて、どうなるかな」 取り残されたと形容するにはあまりにも平坦で非情で小さな声を、揺れる紅茶とミルクティーだけが聞いていた。 翌日の放課後。 満十は立ち尽くしていた。件の男子生徒が、彼女の目の前で跪いていたからだ。否、この書き方では、まるで男子生徒の奇行に満十が戸惑っているかの様で不適当である。正確に言うなれば、満十がそうする様に命令し、男子生徒は素直にそれに従って、そしてその事実を前にして満十自身が立ち尽くしていた。 どうしてこんな事をしているのか、自分でも分からなかった。昨晩実の兄から逃げ出した後の事は殆ど記憶にない。それでも確かに、「明日ちゃんと断ろう」と、そう決意を固めた事は覚えている。支配なんてしないで、自分の言葉でちゃんと言おう。皇牙の言葉をきっかけに引き起こされたあの悍ましい想像、それへの恐怖から自分がそう考えたのは、絶対的な事実である筈だった。 だからこそ、晴れない心をどうにか奮い立たせ今日も頑張って学校まで来たのに、約束の時間、約束の場所に、約束の人が現れるなんて当然に、また酷く恐怖して頭が真っ白になってしまった。男性を目の前にしただけで、朝から何度も予行演習をした一言が意味も音も無い詰まった呼吸としてしか吐き出されなくなる。そんな自分が恨めしくて情けなくて仕方なかった。 満十の様子を心配した男子生徒が、声掛けと共に遠慮がちに1歩踏み込んできた。それがどうにも恐ろしくって、堪らず「待って!」と制止してしまう。しまった、と思い彼の顔色を伺った。少し驚いた様子の男子生徒は、しかしすぐさま言われた通りに立ち止まり、満十とのパーソナルスペースを保った。 どうしよう、いきなり声を出して、しかも、命令、してしまった。待って、だなんて。待たせてるのは、私、なのに。何か言わないと、早く、声を出さなければ、どうしよう、私、どうすれば、声、喋んなきゃ、あ、 「満十。それは、支配をされてるから恐れを感じるんだ」 「『支配する側』に立ってしまえば、怖さなんてなくなる」 満十の脳裏に、皇牙の言葉がフラッシュバックした。 しはい、するがわ。音を乗せず空気だけでそう呟いた満十の声を、男子生徒は不幸にも…見方によっては幸運にも聞き逃したらしい。 しはい、シハイ、支配。昨日は思わず逃げ出してしまう程の妄想を産み落としたその言葉が、今日では歪で不完全な実感と共に満十の中に溶け込んでいった。 そうだ、この人は初めから、1度だって私の言葉に逆らわなかった。返事を先延ばしにする私を待ってくれたし、今もこうして立ち止まってくれた。ずっと、素直に従ってくれていた。そう、ずっと。 そう思い至ってから口を開くまでのその一瞬で、次は何を言おうとか明確に思い描いていた訳ではない。 しかし、満十は殆ど無意識、それこそ記憶の中の兄の発言に突き動かされる様に、未だに少しカタカタと震えている唇で、それでも確かに告げたのだ。 「本当に、私の事が好きなら………、」 私に、支配されてくれる? 結果は先述した通り。男子生徒はまたも驚いた顔をしていたが、満十の顔をそう長くない時間見つめた後、「それが貴女と繋がる事ができる唯一の手段ならば」とでも言う様に、満十自身が拍子抜けしてしまう程あっさりと跪いた。そうして、彼女に従順を示したのだ。 さて、そうなった所で次はどうすればいいのか分からない。そもそもこの目の前の男性が本当に忠誠を誓ってくれたのかが分からないし、寧ろ冷静に考えて、こんなにもあっさりと頭を垂れてくれる方がおかしい。この状況は、昨晩の想像の中で組み敷こうとした男性を思い出させる。そういえばあの時は頭がいっぱいいっぱいで気付けなかったが、想像の男性は眼前の男子生徒と目鼻立ちの印象が似ていた。どうやら無意識の内に外見を寄せていたらしい。 もし、もしも、もしもそんな男子生徒の顔が、目が、瞳が、見下ろす私のそれを捉えたとしたら、私は、一体、どうなってしまうんだろう。また恐怖で逃げ出してしまうのだろうか、寧ろそうであった方がいいかもしれない。確かに怖い。怖いのだ。しかし恐怖心を抱くと同時に、今まで知り得なかった正体不明の感覚が心の底に横たわる事、そしてそれを不鮮明ながらジワジワと知覚していく事、それらを否定する術を満十は有していなかった。 多分、安い言葉で表すなら、"調子に乗る"辺りが適切だった。そう形容するにはあまりにも彼女の恐怖症は深刻であったし、あまりにもこの光景は異様なものであったが、つい昨日まで暴力の象徴に見えていた存在が、こんなにも静かに自分の言いなりになっている現実は、確かに満十の心を揺さぶってしまったのだ。 すぅと息を吸って、男子生徒の名前を呼んだ。思えば、名前を呼ぶのも初めてだった。男子生徒がそろそろと顔を上げる。彼と目が合った時に、恐らく、自分のこの先の運命すらも決まるのだ。そんな直感を唾と一緒に飲み込んで、ただじっと見つめていた。 判決の時が来た。 想像の中の恐ろしい男性が、ドロリと溶けて崩れていく。それを溶かしたのは、こちらの顔を覗き込む様に伺ってくる、恋情と憧憬と期待とが入り混じって全てを焦がしてしまう情熱を孕んだ、彼の瞳だった。 忠誠を試した。何処までが許されるのか、様々な事を命令して1つ1つ確かめた。彼は本当に、驚く程素直で忠実で、全ての命令に容易く従った。そんな彼を見ていると、えも言われぬゾクリとした感覚、背徳感とも達成感とも取れぬ、強いて言うなら恍惚に近いものが、満十の脳髄を駆け巡っていった。 帰宅後、皇牙に礼を言った。昨日は色々ありがとう、お陰で上手く行ったと、そう伝えた。普段よりも随分上手に喋る事ができていたと思う。 皇牙は笑っていた。 初めての"ペット"の存在が満十に与えた影響は大きい。恐ろしい男性が自分に忠誠を誓ったというその事実が、満十の男性恐怖症の改善に多大な貢献を齎した。もうすっかり治ってしまったと、周りの人間のほぼ全て、そして満十自身もそう思っている。 実を言うと、満十の心の傷は完全に癒え切った訳では無い。確かに今はもう男性に対してこれっぽっちも恐れを抱かないのは事実だ。しかし、そんな事は到底起こらないだろうが、もしあの日の様に男性に"支配"されてしまう事があれば、植え付けられたトラウマが引き起こす恐怖にきっとまた囚われてしまうだろう。その上、彼女自身も自分が抱えたその弱さに酷く無自覚である。無自覚だからこそ、あんな強気な振る舞いが可能な訳だが。 しかし今はまだ不安定でも、"女王"としての経験は(かなりゆっくりではあるが)満十に紛うことなき本物の強さを与えている。彼女は着実に、そして確実に、異性に怯えるか弱い少女から、異性を従える気高き女王へと成長しているのだ。今はまだその途中。言うなれば、英雄譚の序章だか中盤だかその辺の話という訳だ。我々民衆にできる事。それは、女王が世界を統治していくのを、民として、そして時には愛玩動物として、抗う事無くただ支え続ける、たったそれだけなのである。
※
歌詞を引用、及び記載することは禁止となりました
(Youtubeや歌詞サイトのURLだけ書くことをお勧めします)。
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エラーメッセージ
「クトゥルフ神話TRPG」は
ケイオシアム社
の著作物です。
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