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（みずいし りえ） 東北の地方都市に住む専業主婦。 3年前までは看護師として東京都内の総合病院に勤務していたが、結婚を機に退職。 相手は半年ほど交際したバツイチ子持ちの男で、結婚までのスピードは些か早くはあったものの、円満かつ幸せな家庭を築けると判断しての決断だった。 結婚生活は「妻」としては幸せなものであったが、「母」としては苦しく悩ましいものだった。 相手が子持ちであった以上、結婚すればその子供、もとい息子の親にならなければいけないというのは自明であり、 夫と同様に愛さねばならない存在だった。少なくとも彼女自身は結婚を決めた時、そう強く感じていた。 元妻が病死であったらしいこともあり、精神的ケア含め自分の役割であると、そうも感じていた。 けれど現実は理想とは程遠いもので、もとより思い描いていた「妻としても母としても幸せな女」にはなれなかった。 理由はふたつ。 ひとつは息子が心を開いてくれなかったこと、そしてもうひとつは彼女が息子を愛せなかったことである。 息子が目を見てくれない、返事をしてくれない、近寄ってくれない、 手を繋いでくれない、料理を「美味しい」と言ってくれない、笑顔を見せてくれない。 いつか私を「知らない人」と言った。 愛そうとすればするほど息子からは突き放され、そして「私は彼をどうしても愛せない」と自覚するだけだった。 突き放されることで愛が冷めていっただけではなく、そもそも顔も性格も何もかも好ましいものではなかったのだ。 そんな乾ききった生活の中で、彼女にとっての唯一の救いは愛する夫の存在のみだったが、 その夫も数か月前に「出張に行ってくる」と大荷物を抱えて家を出て行ったきり、帰宅することはなかった。 どこに行ってしまったのかなど分かりはしないが、ただ「女だ」ということだけは理解していた。 夫がどこかへ行ってしまった事で、ただ広いだけの家の中に他人同士のふたりのみが残された。 ー 性格も容姿も至って平凡な女性である。 長所と自称できるものは笑顔と献身性くらいのもので、自身については挙げ連ねれば短所しか出てこないという認識。 そんな人間性もあり自分というものに自信を持てないでいた引っ込み思案の彼女を初めて愛してくれたのが、結婚相手の夫だった。 特技は結婚を機に「良い妻であり母で在れるよう」必死に上達させた料理と裁縫。 以前は「頑張ること」も取柄・特技として挙げていたが、息子との日々で頑張り疲れてしまったことで特技では無くなってしまった。 息子に対しては保育園側からそう求められることもあって笑顔で接するよう努めているが、最近は思うように笑えないでいる。 出来るだけ歩み寄ったり好きなことをさせたり望むものを与えたり、といったことはしているものの、 どう努力しても決まって否定的な言葉や態度を投げかけられてしまうがゆえに時折強く怒ってしまうことがある。 「良い母で在ろう」という思いだけは今も胸に抱いている。 それは日々つけている日記からも読み取ることが出来、毎日の文章はどれも「今日は良いお母さんが出来たかな？」で終わっている。 両親とは二度の決裂ののちに現在はほぼ絶縁状態。 大学時代に交わした「卒業後は職には就かず嫁に行く」という約束を破って看護師になってしまったことが一度目の決裂で、 二度目の決裂の原因は、看護師になることを許す代わりに両親が決めた縁談を受けるという約束を破ってしまったこと。 三人姉妹の次女である彼女の姉と妹はどちらも名家に嫁ぎ、「幸せな生活」を送っているがゆえに肩身の狭い思いのみを強いられており、 それに耐えられなくなってしまったことも絶縁状態になってしまった理由のひとつである。 乾いた生活の中でのただひとつのオアシスは「祈ること」。 近所にある文化施設の前を通りがかった際にその施設の前に居た女性から声を掛けられたことがきっかけで始めたもので、 施設に勤務する人間たちは誰も彼も笑顔で優しく悩みがあればすぐに話を訊いてくれることもあって、 それだけが現在の彼女の生きる目的であり、心の救いとなっている。 以前息子の話をした際に「一度こちらに連れて来たら如何ですか？」と言われ、嫌がる息子を半ば強引に施設へと連れて行ったことがある。 夫の収入が無い為、生計を立てるためにスーパーでパートをしている。 パートで得た給料のほとんどを生活費にあてているものの、内ごく一部は施設への寄付に使用している。 《シナリオ》 ・Dear My Son

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