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売れない画家。 描く作品の質は高いが、肝心の絵を流通させるコネクションを持たない為、数少ないパトロンのような買い手に支えられ細々と生きている。 物心ついた頃から極度の人嫌いであり、基本的にひとりで生きてきた。 彼が人嫌いである由縁は、その繊細過ぎる感受性にある。ほんの少しの人間の視線や空気、ざわざわとした煩雑な声、その中で行き交う感情がまるでかたちとして見えるかのように感じる性質を持っており、それは常に耐え難い苦痛としてその精神を苛んだ。 絵を描くことでそれらを昇華する方法を覚え、何とか今日まで生きてきたのだ。 そんな中でも、彼が愛した人間が2人いる。 ひとりは死別した妻、もうひとりはその妻との間にもうけた一人娘・海荷。 妻とは美術大学を卒業後、画家として独立し間も無い頃に出会った。 他に誰も存在しないしんと静まり返った画廊で、彼の作品をじっと見つめていた彼女は、在廊していた彼に向かって「美しい作品ですね」と声を掛けた。 彼女の言葉にはそれ以外の下心も邪心も一切無く、彼の目にはただ画廊にひとり立つその姿しか映っていなかった。生まれて初めて、初めてひとりの人間を見て美しいと思った。 だから咄嗟に「また来てください」と声を掛けてしまった。 恋人として仲を深めていく過程で、彼女もまた人の中で生きるのが苦手だということや、養護施設の出身であり両親の顔を知らないという生い立ちを知っていった。 やがて妊娠が発覚し、2人は籍を入れた。 妻は娘が1歳のとき、通り魔事件に巻き込まれ我が子を守るかたちで命を落とした。 複数の死傷者を出したこの事件は全国的なニュースとなり、当時普及し始めていたネットの掲示板などで被害者遺族に無名の画家がいたことが掘り出され、結果そこから存在を知った物好きの人間が現在の仔冬の客となった。 皮肉にも、妻が生前彼に語った願いは彼女の命と引き換えに果たされることとなった。 「あなたの絵が好き。あなたも私も多くの人と関わることなんて出来ないけれど、せめてあなたの作品だけは多くの人の目に触れて欲しいわ」 シナリオ「Dear my Son」より生還。

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