タグ： いつふた いさな

都内の某大学で海洋学を研究している。（正確に言うと生物海洋学）。 生い立ち:ある女性のもとで生まれたが、生後すぐに孤児院に預けられた。両親について知っているのは苗字と、どちらかが自分と同じ色素の薄い髪の色をしているということだけだ。 他人と違う髪色、秀でた容姿と学力、そして特殊な出自は早々に世間からいさなを孤立させた。幼いころはそれなりに子供らしく友人と過ごしていたが、小学生、中学と年を重ねるにつれだんだんと周囲から羨望や嫉妬のまなざしを向けられるようになる。早いうちからそれを学んだ彼は次第に、誰かから嫌われる前にと自分から人と距離をおくようになっていた。それでも彼を利用するために多くの人間が近づき、そして嫉妬の言葉と共に去っていった。それらの経験は彼を人間不信にさせるのには十分だった。 彼が心安らいだのは海にいる時だった。孤児院のすぐ近くには海があり、友人のいない彼はしばしばそこへ行っては足を海にぬらしたり、打ち上げられたミズクラゲを海へ帰したり、カニを捕まえたりと遊んだ。彼の興味は次第に海へと注がれ、奨学金制度を使って、海洋学を学べる都内の某大学へと入学した。 大学では友人や教授に恵まれ充実した日々を過ごした。出自のことはさすがに話すことはできなかったが、理解ある友人に囲まれ容姿関係なく勉学に集中できる環境は彼にとってまさに天国だった。博士課程に進めるほどの貯蓄はなく修士課程で大学院を卒業したが、大学時代の友人に誘われ、ある海洋研究施設に研究員として就職した。 だがある日、その友人はいさなが仕事の間をぬって作成していた研究資料と論文を丸々剽窃した。９割方いさなの研究を使いまわしたその論文は瞬く間に評価され、友人は世の賞賛を浴びた。愕然とするいさなに友人は「お前くらい恵まれてるなら、これくらい分けてくれていいだろ」と嘲笑った。その後すぐに、いさなは誰に言うこともなく研究施設を退職した。 幸い数年は働かなくてもいいほどの貯金があった。やりたいことを考えたがいさなには何もなかった。会いたいと思う友人も、感情を吐露したい相手もいなかった。窓の外を見ると様々な人間がいる。外を歩けばあらゆる人間がいさなを見て、何かしらの思惑を含めた視線を送る。そこに彼の理解者はただ一人もいなかった。 仕事をやめてしばらくは、意味もなく海へ足を運んだ。しかしそれは段々と死に場所を求めるための行動となっていった。せめて最後は静かに、誰の声も届かない場所で死にたかった。誰にも声がとどかない世界で、いさなは藻掻き苦しんでいる。 キャラクターモデル:52ヘルツの鯨より

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