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　自分に感情が欠如していることに気付いて、表情を操作するのに慣れてきたのは中学を卒業する前だった。 　文化祭や運動会で自分のチームが勝った時、何も感じなかった。虚無で、それが当然だとは思っていなかったけど、なにも反応を示さない僕をみんなはよけ始めた。そうして、僕はこの世界では人間関係というのがどれほどに大事なのかを実感することとなった。 　それからは笑顔の練習をした。みんなが笑っているときには愛想笑いを、■んでいるときも、合わせるように声色を高くして、満面の笑みを、そうしているうちに、誰にもバレないくらいにはうまくなった。 　高校に入ってからは、みんなによく笑う人だという印象を受けていたはずだ。でも昔のように僕を嫌う人はいなかった。僕はみんなを騙して、良い僕を演じていたから。でも綻びというのはできてしまうものだった。人は完璧では無い。 　同じクラスの一人が自殺した。悲しかった。演技とはいえ、仲のいい人だった。一緒に笑っていた仲だった。彼はいじめを受けていた。僕はそれを知っていたけど、それについて何かをしようなんて正義感や勇気を僕は持ち合わせていなかった。大きな後悔と悲しみが僕を襲った。 　思ったより僕にはそのことが大きかったのだろう。笑顔を張り付ける気力も失った。■ぶって一体何なのだろう。みんなは彼が自殺したことをずっと引きずっているのだろうと誤解している。そうじゃないのに、これがもともとの自分なのに、まるで自分の本当が嘘みたいに見られる。 　僕の本当が、わからなくなって、もうなにもかも疲れてきて、面倒くさくなって、僕は人間関係を放棄した。 　なぁ、笑えよ。笑えよ、僕。無理でも、精一杯、笑えよ、僕。 　九重伊鶴。25歳。放浪者。 　「喜び」の感情がない。彼は孤独だ。 追記 　感情を取り戻した彼は、探偵としてあらゆる事件を解決していく。まるで「見立て殺人」の主人公のように。

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