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えんが かきつ(23) 何時でも笑顔を絶やず、大抵の事は笑い飛ばしてしまうような明るい体育教師。 生徒と年齢がかなり近いために生徒に溶け込みやすく、更に生徒思いな先生であるために好かれている。基本的に必要最低限の厳しさを持ちながらもある程度までは許容できるほどの器の広さがあり、どんな生徒に対しても親身になってくれる良い教師である。ガタイが良すぎることから特に初対面の生徒からは怖がられる事も少なくはないが、本人のいつも笑顔で明るい人柄からいつの間にか打ち解けていたりする。スポーツ特化のように見えてその実頭が悪いわけではない為、たまに生徒の勉強を見ていたりする様子も見受けられる。お笑いといった物から若者の流行りの物まで幅広く知識を持っており、本人が笑顔でいることだけでなく周りを笑顔にすることも長けているようだ。いじめ問題等は決して見逃さず、困っている人を見れば自然と体が動いてしまうような、どこからどう見ても“良い教師”となるように努めている。 ＿＿＿＿＿＿＿フリをしている。 が、しかし、その本質はかなり歪んでおり、ハッキリと言えば猫かぶりである。 幼少の頃はかなり仲の良い両親の元に生まれた恵まれた子どもであったが、実の母親が不幸な事故で亡くなってしまった時から歯車が狂いだした。現実を受け入れ切れない父親が酒と女に狂い、そのうち何もかも諦めてヤケになり薬にまで手を出し始めたのだ。しかし、香橘にとっては不幸な事にも、薬に溺れ酒に溺れるその父親は、とんでもない猫かぶりで世渡り上手であった。だから父親はそんな弱さを決して他人に見せようとせず、それどころか周りにはかなり良い人の皮を被っていた為に彼の墜落していく精神とは裏腹に彼は仕事においてどんどん出世していくこととなる。そのうちいい女を見つけて再婚するなど一見すると好転した人生を送る彼の父親だが、しかし、その本質が精神的な弱さにある事が消えた訳では無い。なら、全てのしわ寄せがどこに来るかと言うと、香橘だ。香橘は家庭の見にくい部分を尻拭いするかのように父親や、果てにはその後再婚した母親からもDVを受けていた。……父親が薬に手を出していない時はまだ良かったのだ。父親もただ物を壊すだけで、視界にさえ入らなければ暴力を振るうこともなったから隠れているだけで良かった。しかし、薬に手を出し始めてからは探し出してまでも暴力を振るわれるようになり、父親の荒れ具合は年々増加していくことになった。勿論家に帰らないことで暴力を避けようともしたのだが、しかし外で時間を潰しているとどこからともなく父親がやってきて殴って連れ戻される始末。父親は外面が良いのでご近所からの評判も良く、DVと言っても上手い具合に人から見えないところを狙ったりなどの隠蔽作業がかなり上手かったので、それらの様子から香橘がDVを受けていると推察できる者は誰一人としていなかった。だから彼の性格は将来よりどうしても歪まざるを得なかったのである。彼は父親に似てプライドが高く、他人にそれを相談するこが出来なかった。弱い自分を認めることが出来なかったのだ。しかし、他人に相談せず1人で抱え込んでしまうには彼の問題は大きすぎた。その積もりに積もったストレスや不満はいじめという不幸の連鎖に彼を堕とす事となってしまった。彼はいじめをすることで、自分が他人より優位に立てていると感じられた。そして、そう感じる事でしか、彼は自身の存在意義を見出すことが出来なかったのである。彼は、両親から溢れんばかりの愛を貰いながらぬくぬくと過ごしている人間が嫌いだ。幸せな世界しか見ていない人間が自分勝手な正義を掲げて生きるのが嫌いだ。何も知らぬわがまま娘が、他力本願で全てをなそうとしているのが、嫌いだ。だから彼はいじめた。クラスの中で悪目立ちし、突出していた彼らを、クラスの大半が頭のどこかで抱いた邪な思考を糧にして、いじめた。いじめている時だけは、彼は“家の中でただ暴力を振るわれるだけ”の何も出来ない少年では無くなることが出来た。だから彼はその後もいじめをすることにどっぷりと浸かっていくことになったのだ。 初めのうちは、単純ないじめをしているだけでよかった。よくあるいじめでも、彼にとっては満足できる内容であったのだ。が、しかし、小学校高学年に上がったある時、彼が中心として行ういじめに不審感を抱いた担任が、彼の親に注意喚起を促すことになった。彼の父親は猫かぶりだ。だから、担任から警告された時はややヘラヘラとしながら至極真面目な親の態度を取っていたのだが、家に帰ってからは急変。結果、香橘に対するDVは悪化の道を辿ることになってしまった。その日から香橘はただいじめをするだけではなく、“如何にして大人にバレず、告げ口もされないか”ということを重点に置いたいじめへと路線変更をする事になった。その為には、彼が心底嫌う父親が得意とする猫かぶりをすることだって厭わなかった。そうすることで快感を得られることを知ってしまったから。………そうすることでしか自身を認めることが出来ないほどに、彼も堕ちてしまっていたのだ。しかし、彼は馬鹿ではなかった為にその猫かぶりは幸をなし、それから彼は見違えるように教師たちから“良い子”のハンコを押されることとなった。夜遅く友達と遊べば父親から何が飛んでくるか分からないため、夜に外は出歩かない。薬などのアブナイコトは父親の酷い有様を見ているため、極力手を出さない。勉強が出来なければそれは他者からつけ込まれる要因となったから、勉強の成績も良くなるようにした。それだけで、彼を取り巻く環境は様変わりしたのだ。それは最早、小学生や中学生のするようないじめの範疇を超えていたのかもしれない。しかし、彼はその点において正しく彼の父親の息子であった。………彼には、それをするだけのポテンシャルがあってしまったのだ。更に、彼の周りにひ彼を止めようとするものがおらず、寧ろ同調することでエスカレートさせてしまうような人間が集まってしまった。彼をその道に堕とす要因となり、更に彼が最も憎んだ男の最も得意とする事こそが彼の満足のいく世界を完成させる一端であったとは、なんという皮肉であっただろうか。 そうして迎えた中学生最後の年。遂に、父親が警察に捕まった。どうやら薬の事がバレ、そこからトントン拍子にDVやら何やら彼が今までしてきた悪事が暴かれていったのだと言う。義理の母親も、その時に一緒に捕まったのだと聞いた。実の親が2人同時に捕まってしまった香橘はその後実の母方の方の実家に送られる事になり、高校もそこから通える場所への進路変更をすることとなる。それはあまりに突然の事で、そして、彼にとっては遅すぎた事であった。もう性格やら何やらが出来上がってしまった彼は、しかし、DVが無くなり、更に彼の実の祖母が彼が今まで感じることの出来なかった分を注ぐかと言うほどの愛情を向けてくれたことで性格がやや丸くなりはしたが、しかし、最終的にその根本の性格の歪みが更生されることはついぞなかった。 だから彼は高校などではいじめをしなくなったものの、猫かぶりをすることがやめられない。 もちろん猫かぶりとはいっても全てを嘘で構成できる程彼はできた人間ではないので、猫かぶりをしている中で彼が言っていることは本心からの言葉が多い。ただ、言い方を変えて優しくしているだけで、それもまた彼の1部であることに変わりは無いのだ。………ただ、少し言えない言葉を飲み込んでいるだけで。 そうしていれば楽なことを知ってしまったから。そして、彼の醜い部分を隠すことができるから。だから彼は猫かぶりという壁を周りに築き、その内側に入ってくられないように蓋をする。 笑顔という1番嫌いな仮面を被って、今日も生徒に愛想を振りまく。 ＿＿＿＿＿＿＿だから今日も、炎牙先生は笑顔を絶やさない。 香橘はヒーローや神といった物を信じてないしなんなら嫌い。そういった存在がいるんだったら、どうして俺のことは助けちゃくれなかったんだと、そう思っているから。 人間性としてはモテるのだが、父親のような存在にはなりたくないという反抗心から彼女は決して作らないようにしている。作れば、父親と同じ道を辿るような気がしてならないから。 なお、こういったDVの経験から、人に生身で触られることにややトラウマを持っている。身長が高いので自分より上の位置に手が来ることがない為そういった面でのトラウマは少ないが、それでも生身で触られると一瞬だけ固まってしまうようだ。 応急手当が70なのに関して、彼はDV受けてることを周りに相談できなかったので基本的な処置は自分でしか出来なかったために特化せざるを得なかったのだ。 また、サッカー好きなのは保育園からで、保育園の頃は普通にサッカーボールと一緒に寝たりするくらいにはサッカーが純粋に好きだった。その頃はまだ両親共に健在しており、幸せな時期だったのだ。だから、「将来はサッカー選手になってかーちゃんを驚かせてやるんだ！」なんて言ったりもしていた時期があった。しかし、小学校に入ってからはそれどころでは無くなってしまい、ついには部活もサッカーも彼の自尊心を満たすただの道具と成り果ててしまい、今ではもう純粋な気持ちはほとんど消えてるようだ。

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