タグ： ひややっこ🌹 オリジナル

【詳細】 夏目太陽、適当にフリーターやって、適当に食いつないでいる。 何ていうのは勿論、嘘なのだけれど。 「思い付く限りの悪いことはしといてみな、世の中どうでも良くなってくるから。」 冬山 月(ふゆやま つき) 元ヒップホップメンバー、リーダー。人呼んでMC.ライトパーズ。歌も歌っていたが今は見る影もない。 一人のメンバーが失踪し、それに続いて結婚をするということで脱退。 腹に子を孕んだ妻と引っ越し、その先で殺害、名前と顔を変えて旅をしている。まだ警察には死体すら見つかっていない。 少し無口で不器用な父と、怒りっぽくて心配症な母の元に生まれてきた。幼い頃から自分の主張を言えない子供だったので、教師にはよく世話になった。だから、教師になるのが彼の夢だった。 それとは別に、ダンスを習っていた。両親が勤勉で内向的な彼が楽しく運動できるようにと采配したものだ。偶然にも彼の嗜好と合い、彼はダンスと、そして音楽が好きになった。 元々、実に人のいい人間で、日に日に社交的になっていけば、友人も増え、不自由はしなくなった。 妹が一人いた、自分とは違って活発で生意気で、両親の気をよく引いていた。悪い子ではなかったし、不良になったわけでもない。ごく普通の可愛い妹。喧嘩をしてもこちらから謝るくらいには可愛い妹。 けど、31歳の今、もう両親にも妹にも殆ど感情がない。三人とも、事故で死んだのだ。仕方のない話だった。妹は進路を遠方に決めて、まだ引っ越しもしていないから、家族三人で車で向かったのだ。その帰りの高速道路で死んだ。当初はショックだったが、それより大変なのはこれからの生活だった。 裁判では、家族の過失運転だと結果になり、その賠償金で金を使い果たした。 大学も辞め無ければならなくなり、その日しのぎのバイト生活。 普通の職場とは思えない暴言と叱咤、その対象が自分で無いときすら溜まるストレス。日に日に加虐的になっていく対応。 過失などしていないのに責任を擦り付けられて叩かれる。 考えたこともない世界。 だから他人の顔色を伺う事を覚えた、賢くなることを覚えた。 他人に合わせて丁度良く暴言叱咤を嗜む、責任は上手く擦り付ける。 上手くやっている筈、これで良い筈なのに、苦しい。 会社員になり、20を越え、金も溜まり始め、ふと心の拠り所を求めた。 路地で歌う人に声をかけ、ネットで悩める人に声をかけ、そして出来上がったのが、彼の愛する音楽の世界。 最初はただの趣味のグループだった。 けれど何時しかその存在は大きくなり、世界に通ずる単語になっていった。 教師になる夢は叶わなかったが、彼は満足だった。 けれど、それも長くは続かなかった。 彼は甘い人だった、爪も、性格も、何もかも。 一人の娘に付き纏われていた。だけれど彼女は酷く悲観的で、人生をボロボロにしながら生きていた。同情してしまったのだ、ファンの一人に。それが全ての原因。 彼女の話を聞きに家に訪れるまでしてしまっていた、彼女が真っ当な希望を持てるようにしてあげたかったのだ。 けれど、彼女が持ってきたのは、妊娠検査薬。それも、陽性の。自分は彼女に手を出した覚えは無かったのだけれど、それを受け入れるしかなかった。 なのに、彼には彼女の思いを受け入れるだけの器が無かったのだ。無理矢理誰かの物になると言うのが耐えられなかった。 その強引さが怖かった、好きだと言われる度にゾッとした。 そんなつもりない、そんなつもりない。 そんなつもりない、から。 気付けば、彼女を殺していた。 しかも、計画的な犯行だった。 自殺さえ考えたが、臆病な自分には出来るはずもない！ なら逃げてやろう、いつまでも逃げてやろう。 逃げ切れなくなったら、そのときまた死ぬか考えよう。 彼は遠い遠い街に行った。普通の仕事をしようにも、トラウマが蘇って、上手く行かない。だから、盗みと詐欺と、麻薬販売と、色々やって食いつないでいる。そのお陰でツテも出来たし、触ることもない銃の扱い方すら覚えた。 だが、彼は死に一歩一歩近付いている。道中で病気に掛かったのだ、重症筋無力症。 日に日に筋力は衰えていき、呼吸も苦しくなる。それでもまともな治療は受けず、闇医者から薬品だけ貰って生活をしている。 そのくせ立派に煙草は吸うし、何時呼吸困難になってもおかしくないだろう。 そんな彼が唯一、未練を残さないために習慣としていることがある。 それは、教会へ通う事。 己の罪も罰も、許されないと思いながら、許しを乞う瞬間は甘美なのだ。 彼は神を信じていない、だけど、信頼はしている。 音楽と、同じくらい。

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