タグ： パドーデビルの嘲笑

オカルト雑誌社｢トワイライトフォークロア｣に所属する記者 ─幼少期に両親が離婚後、母親に育てられる。中学生のある日母親が家に連れ込んだ男に襲われる。母には言わなかった。夜な夜な色香をまとって男に会いに行く母親でも、男が居ない時は他ならず彼女の母親だった。 ─進学した高校でオカルト話が流行った。陽世とオカルトとの出会いだった。流行りが廃れたあとも彼女はオカルトの魅力に取り憑かれたまま、日々妄想していた。自分を襲った男が、汚らわしい男たちが、神秘的で怪奇的な｢力｣によって朽ち果てる姿を…。両親の離婚、男から与えられた性的恐怖、彼女はその生い立ちからミサンドリー(男性嫌悪症)になっていた。 ─大学は女子大を選んだ。肌の露出をする女は襲われても仕方がないという持論の元、通学スタイルはジャージだった。陽世は人並み以上にオシャレに対する興味があったが自分の身は自分で守っていくと決めたのと、学生でお金がなかったので諦めていた。 ─オカルト雑誌社『トワイライトフォークロア』入社後すぐに、先輩上司・佐野柚木の取材同行に任命される。ミサンドリー健在の陽世は見るからに悪態をついたが、佐野は人懐っこい笑顔で彼女に接する。仕事に熱く、人当たりがよく、お人好しすぎるところのある佐野への警戒心が解かれるのに時間はかからなかった。 ─『トワイライトフォークロア』は自由な社風のため、陽世はここぞとばかりにオシャレを楽しんでいた。着物は首元からくるぶしまで隙がなく、晴れの日でも差している和傘は男の視線を遮るためにある。つまりミサンドリーな彼女にとって合理的な範囲内でのオシャレだった。陽世はそのスタイルに満足していたが、世間から見れば現代には随分と個性的な風采だ。時には好奇の目に晒されることもあった。 ｢晴れの日はさ、傘じゃなくてこっちにしなよ。…うんうん、やっぱり似合う！｣ 雑貨屋さんに取材に行った帰り道、佐野は急に陽世の頭に何かを被せ満足そうに頷いた。一瞬、視界が遮られる。被せられたものを手に取ってみるとリボンのついたカンカン帽だった。 ｢…！先輩にしては悪くないセンスです｣ 陽世は表情から悟られないように顔を背けたが、嬉しいことがあると着物の襟を摩る彼女のクセを佐野は知っていた。佐野は陽世の生い立ちこそ知らないが、その贈り物の採択に全てを見透かされているようだと彼女自身が感じるほど陽世のことをよく見ていた。陽世は佐野が度々見せる等身大の彼女を受け止めるかのような言動に、唯一無二の居心地の良さを感じ始めていた。 ─最近巷で騒がれている《パドーデビル》についての噂を追い始めた時だった。 ｢先輩…今回のネタ、追うのやめませんか｣ いつもなら佐野に負けじと次々に情報を拾い集める陽世の手は止まっていた。数々のネタを佐野と共に追いかけてきたが、今回は死亡者がでており警察も動いている危険なものだ。万が一佐野の身にも危険が及んだらと思うと陽世はこの件に佐野が関わるのを暗に止めずにはいられなかった。 ─陽世はオカルトを拠り所としてきた女の子だ。昔の彼女ならこれほどオカルトの実相に迫れる機会を逃しはしないだろう。しかし佐野と出会いオカルトへの所望は変化した。陽世はこれからも佐野と原型を持たないオカルトネタを追いかけられれば、それが幸せだった─────── 刑事である朝霧嶺太と共にパドーデビルの正体を追い、一連の事件を集束へ導く。 故人佐野柚木の追悼後、オカルト雑誌社｢トワイライトフォークロア｣辞職した。

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