タグ： シンジンルイ 医者 そし誰

6-8:マニア・コレクター 頭の回転が速く、教養もそこそこあったため医者を目指す。というのは建前で、人間というものをよく知りたかったからというのが医者を志した本来の目的である。子供のころから滅多なことでは動じず、また感情の起伏が小さかった。他人が驚いたり感動したり怒ったりしていても自身は全く何の感情もわいてこなかったのである。もしかすると自分は人間ではないのかもしれない、という不安とどこか他者とは違う一種の優越感を同時に心の中に秘めていた。感情の中で最も理解できなかったものは恐怖というものだ。恐怖は人々の心や行動を支配し、それは彼にとって全くと言っていいほど無縁の存在であった。あるとき、学校の帰りに事故遭い死にかけている青年を見つけたことがあった。その青年は早く家に帰りたい、どうか死にたくないと言いながら死に絶えていった。ああ、これが死という恐怖に満ちた表情なのか、なんと美しいのだろう。そう感じてしまった。それからしばらくしてから何人か薬品を混入させ体の自由を奪ったのちに拷問のようなまねごとをしては殺すということを繰り返していた。すべては死という恐怖を知るため、そしてその死に恐怖した表情をみるためであった。あるとき、老婆を殺したことがあった。今までと同様に拷問を行なったが彼女は決して死に怯えることはなく、ましてや「さあ殺しなさい」とまで言い放った。あまりに理解できない感情にパニックになりその言葉のまま殺してしまう。しかしこれは彼にとって致命的なミスであった。彼女を殺害したのちに湧き出た疑問は「何故死を前にして恐怖しなかったか」というものだった。その知的好奇心を知りたいがために犠牲者を拷問しては死に至らしめるを繰り返してはその答えを探すという目的に変わっていった。そしていつしかただ殺すだけではなく、その人物が何を考え何を支えとして生き何のために生きるのか、それを知ることが目的達成への近道ではないかと思い至った。ぱったりと無差別に殺害を繰り返すのをやめ、次の犠牲者に相応しい人物を物色しはじめた。

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