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ジャック=ラパン=ローゼンハイム
ID:3944244
MD:c226ef7d374096e4d16c9ec24f0ff1c1
ジャック=ラパン=ローゼンハイム
タグ:
Jacques-Lapin-Rosenheim
無記名の墓
ふぁぼ
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生まれ・能力値
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その他増加分
一時的増減
現在値
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CON
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APP
SIZ
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EDU
HP
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初期
SAN
アイ
デア
幸運
知識
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SAN
現在SAN値
/
(不定領域:
)
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技能
職業P
/
(うち追加分:
)
興味P
/
(うち追加分:
)
表示
初期値の技能を隠す
複数回成長モード
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通常表示
<戦闘技能>
成長
戦闘技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
回避
キック
組み付き
こぶし(パンチ)
頭突き
投擲
マーシャルアーツ
拳銃
サブマシンガン
ショットガン
マシンガン
ライフル
非表示
簡易表示
通常表示
<探索技能>
成長
探索技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
応急手当
鍵開け
隠す
隠れる
聞き耳
忍び歩き
写真術
精神分析
追跡
登攀
図書館
目星
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通常表示
<行動技能>
成長
行動技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
運転(
)
機械修理
重機械操作
乗馬
水泳
製作(
)
操縦(
)
跳躍
電気修理
ナビゲート
変装
非表示
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通常表示
<交渉技能>
成長
交渉技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
言いくるめ
信用
説得
値切り
母国語(
)
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簡易表示
通常表示
<知識技能>
成長
知識技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
医学
オカルト
化学
クトゥルフ神話
芸術(
)
経理
考古学
コンピューター
心理学
人類学
生物学
地質学
電子工学
天文学
博物学
物理学
法律
薬学
歴史
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戦闘・武器・防具
ダメージボーナス:
名前
成功率
ダメージ
射程
攻撃回数
装弾数
耐久力
その他
%
%
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所持品・所持金
名称
単価
個
価格
効果・備考など
価格総計
現在の所持金:
、 預金・借金:
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通常表示
パーソナルデータ
キャラクター名
タグ
職業
年齢
性別
身長
体重
出身
髪の色
瞳の色
肌の色
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その他メモ
─私は貴方がたへ害なす悪魔ではない。 ─私は主の代役として、王より幕を引く役目を仰せつかった。我が身は命を絶つ刃であり、遍く苦しみに安らぎを与えんがため訪れた眠りである。 ─私は、甘言を以って地獄へ導く悪魔ではない。 ─我が忌名、誉れの名はブロー。このフランスの死を司る、貴方がたの死神である。 「お赦しをマドモアゼル、わざとではないのです。もしご不快でなければ、どうぞ御手を」 「どうか、静かに。出来るだけ深く息を吸って、吐いて。...そうです。嘘と断じず聞いてください。私は貴方を処罰はしますが、痛みを与えようとはこれっぽっちも思っていないのです」 「オデット...オデット!私は何故今日も人を殺している!?どうして私は...........ああ、寒い、とても」 「主よ、業に塗れた我が告白をお赦しください。今日、ふたつの命が貴方の御元へ参りました。穢れた私に代わり、彼らに慈悲を以って安息と救いを与えたもう」 ◇2015特徴表:4-4(D-30p)動物に嫌われる 創作職業:処刑人 ※この時代、「ムッシュ」と名のつく通りそも女性が働くことは異常なので、男装したうえで周囲にも男だと風潮するようにお願いしています。 +++++++++++++++++++++++++ よくある話だった。特にこの時代であれば、それこそ掃いて捨てようが勝手に湧き出てくるモノでもあった。 私は孤児だ。名も知らず、何処ぞの生まれとも分からず、両親の顔すら覚えていない。 隣人に愛されず、邪険に扱われる存在として生まれてきた。 ただ、この頃思い出せる限りで覚えている事と言えば、この国フランスでは階級なる制度があり、王が存在し、そしてそれらは私のような孤児には冷遇であるという事実だ。そしてその現実は、孤児な私を生き汚い乞食へと昇華するのに十分であった。 正確な年齢を誰も知らないのだから、これは私の大まかな年数だ。当時、6か7歳ほど。 その日は、毎年生きるか死ぬか分からないまま何とか乗り越える、冬の雪の日。綿毛のように柔らかい氷が降り、微かな足跡を残す程度に積もり始めた昼頃の話である。 私はこの日、いつも以上に腹を空かせ、寒さに震える体を慰める為に昨晩、酔っぱらっていた風の平民が捨てた、端の切れたボロの上着を身に纏っていた。町外れの農民の納屋にこっそり忍び込んで、雪を避けて日が経つのを待っていたのだ。 こういう日は、逆に動くと良くないという事を経験で理解していた。雪を避けるほど綺麗な靴も無く、手足の感覚が無いのでは人に媚びるのもままならない。最悪、足の指が捥げてしまう。 「.......ンーン、ンー。ン、ンーーン」 空気が冷えている。吐いた息が肺ごと凍るようだ。 このままではうっかり気絶しかねないと思った私は、咄嗟に鼻歌を歌う事にした。以前都市で聴いた、名も知らぬ曲。知らぬが、その旋律だけは妙に気に入って脳に残っていた。 しかし、なんと肌寒い冬だろう。もしや昨年より酷いのか? 震える身体と唇を抱きしめて、更に上着を手堅く握った。曲の中でも3節程度であろう部分しか覚えていない私は...人前で聴かせたらブーイングものだが、同じリズムを何度も繰り返し歌うしかない。寒さで眠ってはいけないと、前に出会った浮浪者の女性が言っていた。彼女は今どうしているのだろうか。 「ンー、ン〜......ンンー..........ン.........」 ああ。とても眠い。 途切れてきた鼻歌に、いっそ寝てしまおうかという考えが浮かんだ瞬間であった。 「......ご機嫌よう!あなた、それ、ローランのお歌かしら?」 ふと納屋の入り口から顔を覗かせて、彼女が、金の麦の如き髪を靡かせてそう声を掛けてきたのは。 突然現れた彼女の、冬の曇った空に穴をあけて覗いたような美しい碧眼が、薄汚れた私の姿を捉えていた。 人に声をかけられた経験すら、此方は久しくない。急な訪問に驚いた私は歌うのをやめ、警戒から近くの農具を、明らかに栄養の足りていない腕で掴み向けた。向けられた彼女は目を丸くする。 突然立ち上がって目の前が暗くなる。頭を振り、眼前の天使と見まごう容姿の少女に農具を近づけた。 彼女は裕福であった。見るからに真白い服装に、手入れの入った髪。言葉遣いも下賤の者と程遠く、何より人に愛されている者の気配がする。 この時私は自身の状況を正しく理解していたのだ。ここを逃せば、緩やかに死ぬだろうと。生きる理由は無いが、死ぬ理由も同じくなかった。折角訪れた機会ならば、まだ世にしがみついていたい。 その一心で、声をかけに来た相手に武器を突きつける。食いものか服を寄越せ、と。 睨みつけた名も知らぬ彼女は、なんと怯えてはいなかった。 私の凶行に驚いたか一歩だけ引き、向けられた農具と、醜く唸る私を見た後、眉根をやや下げたまま手に下げた包みからパン...の様な物を取り出した。2つほど手に取り、汚れのない布とパンを地面へ置いてまた下がる。 御免なさい、お腹が空いて気が立っていたのね。私が食べ切れなかった物だけど、良ければどうぞ。 残念ながらその時の私は話半ばに、彼女が差し出した食べ物に飛びついた。何でも良かったのだ。媚びた者だと蔑まれ、泥水に捨てられた食いかけの残飯だろうが喜んで口にしただろう。 だがどうだ。彼女は真新しいパンを、汚れた事などない様なハンカチを皿の代わりに差し出し、私に与えた。口にしたそれは小麦と卵の味が主体で、ワインだろうか。芳醇な香りが、仄かに鼻腔の奥に現れる。夢中で咀嚼する様子に彼女が、それはウーブリって言うのと教えてくれる。ウーブリ。聞いた事はないが、よく見れば形状は以前町で見たことがあるような菓子であった。 そして唐突に思い至る。こんな汚らしい乞食に脅され、見返りもなく食べ物を与えてくれた彼女は一体なんだ?身なりからして平民ではないが、貴族でもない。しかし圧倒的格上の存在。 今も私の礼儀とかけ離れた食事を、何が楽しいのか微笑みを浮かべ眺めている。美しい碧眼を通して。 ...もしや、天の御使......いや、そうでなくても、この人は他と違う。こんな場所にいる者の正体など分かるだろうに、私の鼻歌にわざわざ足を止め声をかけに来た。施しを与えたそんな人が、悪であるか?そんな筈ない。 渡されたウーブリを平らげた私の目から、久しく涙が溢れた。 眼前のこの人は、なんて心優しい太陽のような少女だろう。見返りも求めず、ただ善意で私の様な人間に関わったなどと。 その当人は、突如として泣き始めた私にぎょっと目を丸くし、なんとまた(まただ!)新しいハンケチーフを取り出して、思わずと言わんばかりに近づいて来た。 私も私で、再び見せられた行動に驚く。またこの人は私に慈愛を見せたのだ。感動する一方でもう一人の私が、彼女は一体いくつのハンケチーフを服に隠しているのだろうと、下らないことを考えていた事も付け足しておく。 そうして彼女、オデット・ローゼンハイムという名の少女の清き心に打ち震えた私は、あまつさえ彼女からの、行くところがないなら、お家に来る?という提案に頭を垂れて感謝した。ああ、我が人生で最大の幸運は間違いなく此処であっただろう。どうやら主はおられるのだと、捨て子で半ば神を信じていなかった私はこの時確信した。 それから、オデットの自宅へ招かれ彼女の父と会った。ニコラというらしい。実に素敵な、響きの良い名だ。 流れで私の名を問われたが、生憎自身の出生も知らぬ小汚い子供だ。しかし出会ったばかりだが、彼らに限りそういったことで罵りはしないだろうと思い、素直に名無しだと告げる。 案の定、2人は肩をすくめてお互いを見合った。名がないと困る事もある、と言って、ニコラは身を綺麗にして来なさいと水の入った容器と布を渡し、暖炉を指さした。 そう言われて、初めて私はその存在に気づいた。なんてことだ、この家には燃えさしがあるのか。オデットはやはり裕福な家柄だったのだ。 どうやら、2人はその間に私の名前を考えてくれるという。何から何までだ。ここまで様々にものを授けられて、これが話に聞く誕生日なのだろうか? 身に余る幸福が続くと空恐ろしくなるが、もしかしたらこんな時間がこれから続くのか? そんな予感に困惑し始めたところで、言いつけの通り身を念入りに綺麗にし、用意されたオデットの古着(私からすれば新品だ)を着用し、髪が乾いた頃合いにオデットより声をかけられた。貴方の名前だよ、と文字を書かれた紙を見せられる。 学が無く、かつ女の私は字が読めなかった。なんと読むのか尋ねると、ジャック=ラパン、と。彼女の鈴の音が返す。 彼女は可愛いものが好きで、柔らかい肌触りの良い物が特に好きらしい。兎って可愛いから、と、オデットは自身が特に好きなものに私を当て嵌めてくれた。この気持ちをどう形容したものか?聖母マリアの生まれ変わりなのではないだろうかと、一瞬そんな考えが浮かぶほどの光栄だった。 ジャック=ラパン=ローゼンハイム。ジャックはニコラが、ラパンはオデットが。姓は2人が揃って、私達の家族だから同じだと言う。やはり太陽の様な笑顔を浮かべて、対するこの家に相応しい姿になった私へ。呟く。 「Jacques-Lapin-Rosenheim」 時に、涙を流すのには体力を使う。 私が先刻久しく泣いたと言ったのは、以前は勤めて“泣かなかった”からだ。その分の労力が勿体ないし、泣いて済むのであれば乞食などに成り下がっていない。 だから、私は再び感涙に咽び泣いた。新鮮な喜びに塗れる名前を何度も舌の上で転がし、大声を上げ泣く私を心配しているのか、2人が背をさする。それで余計に優しさが身に染みた。 もう泣いていいのだ。私の辛く苦しい冬は遠ざかった。此処には食べ物があり、火があり、水があり、服があり、あれだけ切望した手を差し伸べてくれる人間がいる。泣き疲れても何かに怯える不安もない。ないのだ、まさに奇跡だ。 恥も外聞もなくわんわんと泣き、そこそこの時間が経って、私は気絶する。ことんと意識を手放した。当然である。今思い返しても当時の体は栄養失調で、肋も出ていたうえ凍死寸前であったのだ。生命力を使って泣き喚いていたのではないかと思う。 ...とは言え、それで死ぬ様なか弱い命ではなかった。伊達に今まで独りで生きてきていない。 目覚めた際に2人に心配をかけてしまったことは心底反省すべき点だが。 それからの年月は、数えるには少ないが語るには多い幸福である。なにせ、当たり前を享受できるのも選ばれなければいけない当世。 更に私は、一体何処の貴族に拾われてしまったのかと戦々恐々していたが、どうやらニコラは此処一帯の領主であらせられるらしい。思っていたよりは位が高くないことに少し肩の力は抜けたが、それでも領主ときた。拾っていただいた御恩と溢れる感謝をお返し、伝えるために出来る事はなんでも手伝った。 しかし、ニコラは(流石に大人と言ったところか)私のことを私以上に理解しており、体力を大幅に消耗すると何かと託けてオデットと何かするよう“お願い”をしてきた。“命じられれば”律儀にする私を知っていたのだ。やはり、よく見ている。 2人でやったことといえば年頃らしい遊びであったり、薪割りの数を多く出来るか競争したり、この時代では珍しく手伝いだけでなく学問まで教えてくれるニコラから、それを教わったオデットより私が啓蒙してもらう事までした。 知らぬ知識に触れることは興味深く、もっと言うと新聞を読み政治を知ることが出来るというのは楽しかった。10歳程度になったあの時の私は、自分の未知なる領域を開拓することに没頭していた。お陰で覚えは人並みであったようだが、ニコラから精が出ると頭を撫でられたこともある。思えば人に褒められたのもこの頃が初めてだ。こうも擽ったい、穏やかな気持ちになるのかと感じた記憶がある。 兎角、かの時勢ではそうそうに得ない安らぎに満ちた日々を享受していた。私達は、誰に何を言われようと間違いなく幸せだったのだ。 私、ジャック=ラパン=ローゼンハイムは幸せだった。 だのに何故、何故私だけでなく善人までもが失意の底へ引き摺り込まれなければならなかったのか? こうして日誌を書く手も、此処から先の過去を記すために記憶の蓋を開けようとするだけで震える。悲しみか、怒りか、はたまた別の激情か。しかし戒め、そして忘れ難き実録として続きを書こう。この先所々、私の所感が大きく出ることを許して欲しい。 あれは私がローゼンハイム家に住み始め、数年経った頃合いだ。私は世間的に見て、凡そ12歳程度の外見をしていた。 その日の空は雲が厚く、陽も雲間から顔を覗かせるくらいで天気は良くなかった。雨の降る匂いはしなかったので、オデットと洗濯を干し、ニコラは家内で何やら書き物をしていた。昨日にオデットと森へ兎やリスを見に行っていたため、今日も家事を済ませたら探しに行こうか?と他愛無く話していたのを覚えている。 丁度洗濯の仕事が終わって、木で編んだ籠を2人で持って家へ戻ろうとした時。普段聞かぬ静かな地鳴りを感じ、顔を上げた。見やれば、遠くから何名か馬に乗った騎士を目撃する。 オデットに騎士様が参った、と伝えると、教会から何か恵みに来てくださったのではと思った彼女は近くの村の人を呼びに行った。私は私で、自宅のニコラに来訪を教える。彼にも何用かの心当たりはないようで、書き物を止め出迎えの準備をし始めた。 さて、この時私はどうすればよいかと手持ち無沙汰で、オデットを迎えに家の裏から向かった(幸か不幸か、“裏から出た所為で今の私に続いてしまった”という訳だ)。 丁度オデットが何名か村民を連れて来たところだった。折角なら家で寛いで欲しいと、オデットと手厚く迎える。 その時に外から金属の擦れる音と、蹄の足踏みが聞こえた。騎士様だ。私が振り返った時、ここ数年聞いたことがない程大きな音が耳を劈く。 それが扉を蹴破った騎士が立てた音だと気付く間もなく、何人も無遠慮に家に押し入ったかと思えば、彼らは剣を抜き──彼は一昨日町の野菜を分けてくれた──村人を斬り捨てた。 肩から臍下まで一気に斬り裂く。あれは、手当をしても助からないものだった。我々の目の前に血飛沫が舞う。 隣でオデットが「え?」と驚嘆の声を漏らしていた。それが皮切りになったように、騎士は次々に剣を抜き先と同じように人々を襲い始める。何が起きている?その答えを求める前に、こと生きる事においてならば瞬間的に動くよう生きてきた私は、裏の扉に近かったから良かった。僅かに人の壁があったからか刃はまだ此方に届かない...呆然とするオデットの手首を掴み、裏の扉より飛び出した。 一瞬振り返ると、ニコラと目が合う。視線だけで会話など出来はしないが、私はこの行動が正しいと信じて、ニコラを残し走る。後ろのオデットがニコラを呼ぶが、私は止まらなかった。 止まるわけにはいかなかった。あの騎士達はとにかく、私達を殺しに来たのだ。施しなどとんでもない。だが理由は?彼らは教会に属する聖なる遣いの筈なのに。どうして。ニコラ。無事であってください。 と、ただひたすら足を進ませて森へ入る。 森は昔からオデットと遊びに来ていた、此処ならば私の庭も同然であった。追っ手が来たとしても、体格がまだ小さい私達ならば隠れられる自信がある。 息を切らせて、連れてきた彼女を見れば泣いていた。当たり前だった。この人は例えるなら人の手入れが行き届いた場で咲いた花。どんなに根強くとも、外界の負の衝撃を知らないのだ。 父を置いて来た謝罪と、労りの言葉をかける。乱れた金髪を直しながら、顔を覆って蹲る彼女を立たせる。空色の宝石をした瞳から、澄んだ真珠のような涙がとめどなく溢れていた。気高く美しい彼女の悲しむ手段をとってしまったのだ、私は。 「ごめん、オデット。でも今はあと少し遠くへ。このままじゃ私達も殺されてしまう」 出来るだけ優しく、涙を拭った。頷いた彼女はスカートをたくし上げ、私の手を取る。オデットはやはり強く、美しかった。 突然の、宛のない逃亡生活が幕を開けた。 あの頃は幼く無知であったが、今は当時と比較にならないまでに私は知識をつけていたので、森の中にオデットと隠れ蓑を作り、夜には火を起こし隠れ住む事にした。 いかんせん終わりがいつ来るか分からない生活である。騎士の追っ手もあるかどうかも謎で、家に戻る訳にも、都市に顔を出す訳にもいかなかった。頼りの教会も、最も疑心を向ける場になってしまった。事実、私達は私が孤児だった頃よりも孤立無縁となった訳である。 幸い、自然豊かな森であったので最低限食べ物には困らなかった。目利きも多少自信があったので、優先的にオデットに質の良いものを与えた。彼女はこういった生活に慣れていないので、私の行為を咎めることもない。 だが、勿論栄養は偏らざるを得なかった。けれども木の実や魚だけでなく、肉も取らなければ倒れかねない。彼女は動物を殺す方法も知らないし、まして小動物を手にかけるなど到底無理だろう。 せめてと私が狩りを行う事とし、一人で森を歩く。 そういう時は決まって、森に狐か兎用の罠を仕掛けて仕留めていた。手元で捌く兎を見て、名が同じためか獲物に己を投影し、これが私達の未来にならない事を何度も祈った。 けれども、私の祈りを主は聞き届けてはくれなかった。 騎士が家を襲撃しに来て、約1年が経過した頃に、坂を転がる石のように事態は急転直下する。 まず端的に述べると、オデットと私は騎士に見つかった。あの日は心身疲労したオデットに、何か喜ぶものはないかと単身、ひっそり都市へ行こうか決めあぐねていた。 私が暫く出掛けてくると言うと、あまり眠れなかったのか、隈を作ったオデットは自分も一緒に行くと言って聞かなかった。危険だから隠れて欲しい、と頼むが彼女は断固としてよしとせず、喧嘩とはいかずとも互いに言い合いを始める。 その時、私達は馬が森を駆ける音を拾った。こんな町外れの辺境の森に馬はいないと知っている私達2人は、息を呑んでそちらを伺った。すると、嫌な予感ほど的中するもので──数名の甲冑を纏った騎士が此方へ向かって来ているのを認める。 途端、今度はあの時と違ってオデットが私の手を掴む。走って!と彼女に叫ばれ、時間差で走り出す。 しかし向こうは馬の脚力で追跡している。まだ子供の足で敵うわけがない、私は後ろから迫る地響きを肌で感じながら、どうやってオデットを逃がせるか考えたが、名案は浮かばない。 そうこうしている内に、脇腹が痛みを訴え始めた。走り過ぎているのだ。それはオデットも同じらしく顔が苦痛に歪み始めている。 どうすれば、とまた思考を巡らせようとした時、オデットが思い切り握った手を前に振り私を放った。その勢いに、転びはせずとも数歩たたらを踏む。なんの奇行かと本人に振り向くと、彼女は薄く涙を溜め口を震わせて前を指さし、こう言う。 行って。 怯え息は上がり、背後から迫る死に声をも振るわせて彼女は、オデットは私に逃げろと言った。言外に自分を置いて行けと。何を!? 即座いやだと言った。騎士らは、顔面の見えない銀の装甲を向けたまま走って来る。オデットに駆け寄ろうとして足を一歩出すと、それを見た彼女は今まで聞いた事もないような怒声をもって私を遮った。 「行けってば!!!!」 怒りだった。彼女は私が知っている中で、初めて本気で怒っている。 目尻を釣り上げて、私を睨みつけて静かに早く。と呟く。彼女の背後を見た。騎士は近い。 この距離感では、もうオデットが駆け出しても2人とも逃げきるのは無理だということは明確だった。私は何度か彼らとオデットを見て、何か言おうとして、しかし情けなくも方向を反転し再度走り出した。 恐ろしくなった。死ぬことではなく、恐怖でもなく、私の目の前で、彼女が死にゆく様を見る事に恐怖した。あの一等星のようなこの世で最も尊い人が、死ぬ様を私は見られない。それは私が死ぬよりも怖いことだと悟って、私は“彼女から逃げた”。 逃げた事実を認めた瞬間から涙が込み上げ、後ろを見やる余裕も無い。ただ下を見て全力で走った。遠くへ、ただ遠くへ。オデットが言ったように、前へ行く。 だがしかし。動揺して判断を下せる脳すらなくなったその私は、眼前に広がる崖のような高めの坂すら視界に入っていなかった。思い切り前へ出した足は宙をかき、当然全身ごと坂に擦られ地面に叩きつけられる。まともに受け身もとらなかった体が悲鳴をあげて、気持ちではどうにもならない怪我を負って倒れ伏した。 ああ、痛い。痛かった。私がとってしまった行いに胸が張り裂けそうだった。こんな体の痛みより、私は所詮その程度で、オデットからさえ逃げた事実にかつてない罪悪感を感じ、動けなかった。 数秒後にすぐ、馬が坂をくだる様子が目に映る。頭を打ったせいか下がる瞼に逆らえず、すぐに、私は意識をなくした。 以降は、私にとっては近年の事だ。ある程度は掻い摘むつもりだが、変わらず長くなることを先んじる。 まず、私はすぐには殺されなかった。しかし何を考えているのか、奴らは私に今此処で死ぬか、生きながらえるかの余地を与えた。 その剣に血はなく、オデットは殺されていないと何となしに感じた私は悩んだ挙句、生きることを選んだ。彼女がいない、まして私の所為で死んだと言うのであれば話は別だが、存命であれば私は救わなければならない。恐怖を抑えてまで生かされたのだから、機会が与えられたのだから、今度こそ逃げずに向かわなければ。 私は、自身の臆病さを理由に逃げてはいけなかった。 だから、生きる事の条件に『処刑人になる』ということを強制されても(そこに相当の嫌悪感を覚えても)、やるしかないと、彼女のように呑み込んだ。 しかし、今考えても随分と程のいい案である。殺してもいい人間に、誰もやりたがらない最も忌み嫌われる職を渡す。実に合理的で、良い拾い物だろう。 そうして私は、都市に住まいと処刑人になるあたって必要なものを与えられた。即ち、教会からの家庭教師であった。 歳もそこそこの年齢で、境遇があまりに逸脱しすぎていたためだろう。学校ではなく老齢の神父をあてがわれ、1日の決まった時間に勉強を見てもらった。余った時間には体を鍛えるため剣を振れと言われ、単調で義務的な日を幾ばくか過ごす。 そして早くも数ヶ月経ち、私がしっかりと剣を振れるようになった頃だ。ある日、兵士に呼び出されコンシェルジュリに向かうと、そこにはなんとニコラがいるではないか。 以前見た時より髭が伸び、少し痩せた様子だった。思わず牢に飛びつき、これは何のつもりかと問えば、彼は罪人であり、私を呼び出したのは彼を処刑する為だと言う。 それに対し、思うことは山ほどあった。罪人な訳がない、巫山戯るな、お前達は間違っている、殺したくない、お前達を殺してやる、もうやめてくれ、ニコラと此処から逃げよう、と。 そんな考えがどっと胸の奥から溢れ、その場で立ち尽くす私に何を思ったか、ニコラは牢から出され台へ連れて行かれる中で私にひっそりと告白した。 「オデットを助けてほしい、頼む」 切実に、心底から(よりによって)私にそう言うと、ニコラは私をもう見上げることなく項垂れる。 刑を待っているのだ。彼は、私がその首に刃を振り下ろす時を待つことしか、もうしない。 目の前の現実に目の前が真っ暗になった。言う事を聞くしか出来ない私腹立たしさが生まれたが、しかし、私が今処刑人として生きながらえているお陰でニコラは私達にとって一番大事な事を頼んでいる。 私は、どこかで間違えただろうか?私はオデットの手を取らなければ、あの雪の日あそこで朽ちていれば彼らの幸せを壊す事もなかったのか。 私が生まれてきたことで、私が生きることを選んだ所為で、死ななくて良い人が今命を断たれようとしているのでは? 持たされた長剣の柄を握る手に、じっとりと汗が滲む。酷く重い。手が、足が震えていた。 私は今から命を、優しさと人の温かさと、喜びをくれた恩人を殺そうとしている。私は今、誰よりも死ぬべきでない人を終わらせようとしている。 私は [日誌の紙が一ページ破かれている] ペンの先が潰れたため、紙を破った。 こうして回想している私でさえ、いつまでも色褪せない絶望に耐えきれていない。耐えずとも良いが、私はこれから目を背けてはならない。 結果として、私は声にならない御礼を述べた後、彼の首に刃を落とした。落とすしかなかったのだ、でなければ私も死に、生死不明のオデットすら永劫希望が潰えてしまう。私に託したニコラの尊厳すら踏み躙る羽目になることだけは、避けねばならなかった。 しかし、私は一度で彼の首を落としきってあげられなかった。 私の手で振り下ろした鋼から、肉を裂く重い粘質な感覚と共に頚椎に刃が当たった酷く鈍い、硬質な音がした。斬られた彼は痛みに呻き、口から血を吐き、首からは尋常じゃない血液が吹き上がる。 喉が引き攣って、悲鳴が出た。せめて一息に楽にと思った決意が、簡単に瓦解した。私はなんてことをしている!?ニコラを殺そうとし、更に痛みを与えている!その時、耳鳴りがして、自分の呼吸音のみが世界を支配した。早まる心臓が痛かった。 焦り、謝りながら剣を持ち直した。動揺し続けてはいけないのだ。私は彼の処刑人で、彼が痛みに囚われているのは私の不手際であって、解放出来るのも私しかしいないなのだから。 「御免なさい御免なっ、ご、さい。おとうさん、ごめ、ごめん。お父さん、御免なさい」 汗が止まらない。再度構えた、そして。 先より重心を剣先に意識して、思い切り振り下ろした。 歓声。 ごろりと転がったニコラの首と目が合って、胃の中が逆流する。止められない吐き気にその場で戻すと、隣にいた別の手伝いの兵士がニコラの髪を掴む。 処刑台の周囲にいる数十名の民衆に見せるように高く掲げると、彼らは、まるで素晴らしいショーを見たように手を叩き、大声をあげた。 私はと言えば、吐いた吐瀉物をそのままに、恩人を殺して溢れそうになる涙を眼球ごと押し込んでいた。泣いてはいけないと思ったのだ。私如きが、よりにもよって、命の恩人を殺し底辺へ身を落とした私如きなぞが人のように涙を流してはならないと。 民衆の歓声を耳に響かせながら、酷く寒いと感じた。あの寒さは未だに私を襲い続けている。 冬が来たのだ。 オデットという春を見つけるまで二度と明けない、冬が来た。私は二度と泣く機会を失った。その資格を自ら剥奪し、捨てた。人殺しという箔は血と同じく落ちることはなく、死ぬまで処刑人として指をさされる道を歩み始めたのだ。 鈍い動きで顔をあげる。ニコラの血で汚れた手と剣が目に入る。 こうまでして、私は死んではならない。オデットが無事であると、無事に生きていけると確信するまで私は私の意思でも、周りの意思でも死んではいけない。生きねば。 ついで更に顔をあげた、民の顔が映る。笑っていた。 中には汚らわしいものを見たと、顔を顰める夫人もいる。酒を片手に、血に興奮しているような男がいた。顔色をさほど変えずに、つまらなそうに眺める青年がいる。青ざめながら、しかし好奇心から目が離せていないような少女がいた。 どいつもこいつも、気持ちが悪いほど無関係だった。 +++++++++++++++++++++++++ 何故、罪が罪として成り立っていない? 何故、私のような人間が存在する羽目になっている? 何故、私はこの国で最も善良であった人を消し去っている? 何故、市民は“これ”を娯楽として眺めている? 何故、オデットはあのような目に遭わなければならない? 何故だ?何故なんだ?疑問が際限なく生まれ、行き場をなくし、おしては返す波のように私の中に波紋を残し続ける。 主はきっと私を見放された。人を殺した私を見放されたのだろう。しかし、その御心が未だ僅かながらに私に試練をお与えであれば、どうか超えた暁にオデットをお救いください。彼女は私と違い、世界の何より美しく、幸福であるべきです。 私は戻れぬ荊を選びました。どうか対価に、彼女に祝福を。 その為ならば私は、神の領域を汚す事となっても、祖国の死を司る代行者となりましょう。 「処刑人は忌まれる存在である。それは重々承知している、私もかつて見下す側であった事実を認めよう。しかし、処刑人は不名誉で疎まれる職業だろうか? 恥辱は犯罪のみに付随するもので、犯罪のないところに恥辱はない。我々の仕事は犯罪ではないのだ。軍人が人を殺して讃えられるのと、我々が人を殺して蔑まれることと一体何に違いがあると貴方がたは仰るのか? なにゆえに、貴方達フランス国民は私の苦しみを娯楽として消費している?悪が悪として裁かれることを私は肯定する。だが、誤った結論の末に誰もが認める善性を持った人物すら処すことを、どうして誰も悪なのだと気付かない?」 父を殺し、父と呼ぶ権利も消え、我が魂は枯れ果てた。我が望みはただ1人の救済である。 笑う資格がない。楽しむ資格がない。逃げる資格はない。自分で選んだ生だ。ならば主君と神の代わりに私は、誠実にこの蛮行に向き合うとも。 ───革命を。我が祖国に革命を。 「オデット。君が明けの空のようだと言ったこの髪を、血染めに変えても必ず見つけ出そう」
※
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