タグ： なまこ式 看護師志望 インテルメッツォが未だ響いている NPC

2015特徴表：影が薄い、受け身 年齢によるステータス増減ルールを採用 名前の読みは「ヒメヅキ シズク」。つい最近二万円皇牙と同じマンションに越してきた、いわゆるお隣さん。常に厚着がち。 彼のことがとても好きらしく、不定期に美味しいご飯を作って玄関またはベランダに置いており、口語でも文語でもやたら馴れ馴れしく「ダーリン」と呼ぶ。 皇牙さんのことを手伝いたいと思っているらしく、その復讐代行の助けとなるような写真を撮っている。具体的には、復讐の対象が高い社会的地位を持っていた場合に直接接触し、対象がハードなSMプレイの豚役として見るに堪えない格好をしている風景を写したものが多いが、これに限るわけではない。しかし、対象の名誉を著しく損なうものであることは共通する。 なぜこんなものが撮れるのかは不明だが、これらの社会的核爆弾写真がこの世に生まれるたび、pngファイル版と詳しいレポートが入ったSDカードや短い書き置き、何よりも皇牙さんのために作った食事と一緒に、彼の玄関先もしくはベランダへ安置されるらしい。人の玄関先にそんな写真置くな。 なお、食事も写真も書き置きも全て捨てられているらしいことは彼女も分かっている。分かっているのに継続している。 マンションの廊下で彼とすれ違う際は「あっ、こんにちはダーリン」と多少遠巻きながらも話しかけ、旦那さんとはどうなの？と近所のおばちゃんに訊かれると「彼は私が一方的に好きなだけです」と返す。このせいで非常にややこしいことになっている可能性も大いにあるがあまり気にしていない。 ただ彼の表面だけを見た恋なのかと言うとそれも違い、二万円皇牙が常軌を逸した人間であることはしっかり承知していて、むしろ彼のその部分を特に好んでいるようだ。当然だが、今のところ彼に受け入れられてはいない……が、当人も受け入れられる必要を感じていない。自分の好意が客観的には全く報われなかったとしても、そのことを何とも思わないらしい。 彼女の最たる特徴の一つに、「誰が見ても何を考えているのか全く解らない」というものがある。決して声色や表情に起伏が足りないわけではないのだが、強いて言うならまるで上手く描けていない人物画を見るように、その身振りが内面の感情とは繋がっていないような印象を受ける。分かりやすく言うと心理学無効。 彼女がこの点を指摘されると、少し困ったような態度で俯く。これも本心かは不明。ただ、コミュニケーションが不得手らしい感じは常に漂う。 彼女の輪郭と、そこから地面に映し出される影は、注意深く見ると全く違う形をしている。 『愛のことも憎しみのことも、彼に対して何を抱くべきかなんて、私には分かりません』 『もちろん、彼が応えることはきっとないでしょう。彼の考えはいつも平等で、他の何よりも正しい瞬間もあります。その点、私は常に間違っているかもしれません』 『でも、それで構いません。というより、現状のどこに問題があるのか私には分からないのです』 『望む望まざるに関わらず、私はしばらく何も知らないままでいるでしょう。人間にとっての、愛とか憎しみ、信心や疑念、慈しみにエゴイズム……何故なら、私が一番知りたいのは彼自身についてですから。彼を見失うわけにはいきません』 『それに私、どれも彼にぴったりの言葉だな、と思ったんです。あなたはどう思いますか？』 その正体は、生まれ育った群れから追放を受けて人間の世界に流れ着いてきた正真正銘の蛇人間。人間の姿をしているのは変装の魔術《似姿の利用》によるもので、心理学が通用しないのはその顔がよく出来た幻に過ぎないためである。 先祖返りの個体として幼少期から高い知能を示し、支配血清を中心に様々な薬剤や魔術の研究で成果を挙げたが、考えや行動が異端そのものであったために呪いの力で知能を人間レベルに落とされ、科学や魔術についての記憶を一部忘れ、顎の力を奪われたのち人間界に放り出されてしまう。 それ程のことをしても殺されなかった理由は、要約すると「人間の中にこいつブチ込んだら人間めっちゃ困るんじゃない？」というものだったらしい。本当に困るのでやめてください。 感性が蛇とも人間とも全く異なっているものの、その中で悪目立ちせず振る舞うことが得意。初期の放浪の過程で手に入れた「サウスゲート・ユニオン」との相互協力や「Support Freaks Organization」からの支援を活用し、日本国における戸籍と収入、人間の医学薬学について学ぶ機会を手に入れ、自力で資格を取ったのち看護師として振斗区の小児科で働いていることすらあった。その時点での彼女は「葛原 九里霧（クズハラ グリム」という名前を使っていて、《似姿の利用》によって形作る人間の見た目も今とは別のものである。 そして、葛原九里霧という看護師は既にこの世から消えていて、彼女が再びそうしようと思わない限り、二度と現れることはない。 きっかけは凡そ9年前、彼女が看護師として健康診断のために出向いた中学校での、当時15歳だった二万円皇牙との邂逅だった。 年齢に見合わず大幅に性徴が遅れた身体に、近代美術のような金色の髪を持つその男の子は、彼女という蛇の目から見た時、他の人間とは何もかも違うように見えた。殆どの人間が知らず知らずのうちに、まるで自覚がないままに持ち合わせている精神的協調の資質が、目の前の存在からは全く感じ取れない。 彼女はそれをとても好ましく思った。自分と似ているとは思わないが、他のどれとも似ていないという点では、自分と同じように見えたからだ。また、普段の彼が意外にも遠慮すること、胸中に秘めたるものを人前では隠していることに、ある種の高潔ささえ見出した。 彼女の中にある子供染みた好奇心の暴走が、かつて研究者だった頃と同じ原動力をもたらす。付け加えるなら、彼女が他人に対して普通の興味を抱いたのはこれが初めてだった。無為に喜び、それについて知りたくなるのと同じくらい、もしくはそれ以上に、自分自身の腹の中に沸々と煮えたぎる何かが彼女を突き動かそうとする。 それは原始の生殖本能。二万円皇牙は、己が番いに足る者として彼女が認める最初の雄になった。 あまりにも単純で恐ろしい計画。二万円皇牙がトイレの個室に入ったタイミングで外側から扉を固めて、扉越しに洗脳の魔術《セイレーンの歌声》を用いて自由意志を奪い、念のために手足を縛り、口に布を噛ませて携帯電話を水没させ、あとはゆっくりと事を済ませる。 これが呆気ないほど上手く行った。当初の見立て通り彼はまだ精通を迎えていなかったが、時間を掛けて丹念に苛め抜くことで問題ではなくなったらしい。十分、あるいは彼女の気が済むまでの陵辱が終わった後、元のように衣服を着直した彼が命令通り家に帰って就寝するまで、全ての制御権を彼女が握っていた。 それに加えて、蛇と人間のカップルとしては奇妙なほど速やかに妊娠しただけでなく、不思議なことに二万円皇牙がこの事をどこにも通報しなかったので、これまで通りのまま活動することすら出来る。しかし、彼女にはそうする気が起こらなかった。 たった一つ彼女にとって誤算だったのが、彼女の知る《セイレーンの歌声》は完全でなく、オリジナルから離れた効能しか持たないことだった。元来の「対象は呪文の使い手のことを自分の求める全てだと信じてしまう」という程の効き目はなく、せいぜい「意志に反してどうしても体が従ってしまう」くらいである。 二人が事に及んでいる最中、どうしても目が合う。合わせずにはいられなかった。嫌われ者の蛇ですら全く感じたことが無い憎悪と怒りが、二万円皇牙の眼窩から溢れるように投射され続け、彼女が持つざらついた肌の堅いウロコですらたやすく貫いて突き刺さる。もしもその口が開いていたら何を言ったか、もしもその手が開いていたらどのような目に遭わせたか、想像すら出来ない。ふと、彼女が引き攣り気味に笑う。ありえはしない、呪文の効き目が続く限り絶対に訪れないハプニングを待ち構える自分の耄碌ぶりを、何度でも面白がっていた。 そんなちょっとしたトラウマを患った蛇は、同時にこれを忘れがたき喜ばしい思い出としても覚えた。人間を恐ろしく思うなどということがあったなら、それを記念しなければならない。その日の帰路、彼女はコンビニで小さなケーキを買って食べた。 それはともかく、この思い出を持って少し離れるべき。自らを犯したのが蛇であることすら彼は知らず、彼が犯人を見つけ出すことは実際ありえないはずだが、この世には理屈を超えたことが起こることを蛇は知っている。彼女はどこまでも慎重、あるいは率直に怯えていた。 時が流れ、孤児院「ウィッチハウス」に預けた双子が8歳になった頃、姿を一変させた彼女が二万円皇牙の元に舞い戻った。考えを纏めた結果、彼の近くにいれば退屈することは無いと思ったらしい。作った「家族」をある程度支えようという意思も持っているが、その裏には様々な思惑が潜んでいる。本当にロクなことじゃない。 名前および戸籍を「秘月雫」と改め、彼が住むマンションで彼の隣の部屋を借りた彼女は、ひとまず彼のために時々食事を作ってみる事にした。皇牙さんの法人「株式会社Trifolium」の業務を手助けしようと思って撮っているあの奇妙な写真は、前述した《セイレーンの歌声》を駆使しているもの。 また、一旦忘れたことは再び覚え直したい気質らしく、もう一度看護師の資格を取ろうとしている。ユニオンとの相互協力やS.F.O.との連絡はまだ通じており、それとは別に近頃はバイトも探している様子。潜伏中に貯めておいたお金の使い方を色々試していて、冬になってすぐに箱単位でカイロを買い込んだかと思えば、大量の防災用品をウィッチハウスへ寄付したり、傍目には何を考えているのかまるで分からない行動を繰り返していた。 結果、本人が意図しないうちに周囲から「看護師を目指す傍ら孤児院への寄付を行っていて、ちょっとした経済力を持ちつつも常に勤勉な、少し世間に疎いけどとても家庭的で恋に一途な女の子」という人物像で認識されていて、悪い噂が立つことは殆ど無い。ちょっとはある。 ただ、現在の皇牙さんに対する行いについて冒頭で述べた内容を振り返ると、皇牙さんが彼女を嫌うことは本当に極めて真っ当であって何もおかしくない。 最近、振斗区で「エリーゼ」という人物が治める教会へ度々通うようになった。初めて興味本位で出向いた時、キリスト教における愛の観念について彼が説いた内容を聞いて、あろうことか二万円皇牙に近しいものを感じたらしい。 道徳的な規範というより、人間が自分の情念に向き合う際の方法を説明するものとして参考にしていて、男女間で実践されるべき交流についての内容も試験的に取り入れようとしている。忘れた方がいるわけもないが今一度申し上げておくと、相手は二万円皇牙である。 覚えている魔術の総覧 イブン＝グハジの粉(252p) ヴールの印(252p) 黄金の蜂蜜酒の製法(254p) セイレーンの歌声(267p) 立ち込める夜霧(271p) 治癒(272p) トートの詠唱(274p) 似姿の利用(275p) 農作物を枯らす/農作物に祝福を与える(276p) 卜占(284p) ざっくり言うと、日常では使う機会に恵まれない性質のものが大半を占めている。意外にもユニオンの頑張りによって、こいつが新たな武力を得る可能性はかなり小さく絞られたらしい。

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