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あるところに男がいました。 男は善良で、勤勉で、謙虚で、温厚で、そして純粋でした。 彼は毎日みすぼらしい小屋の前にある、高く厚い壁に穴を開けていました。 粗末な道具しか持っていませんでしたから、毎日削っても擦り傷のような穴しか開きませんでした。 それは終わりのないことのように思えましたが、彼がそれをやめることはありませんでした。 「壁の向こうから笑い声が聞こえるんだ」 彼は壁の先に、あたたかく優しい世界が広がっていると信じてやみませんでした。 壁の向こうで、彼の行いを人々が笑っているのも知らず。 あるところに少女がいました。 狭い部屋に閉じ込められて育った、不幸な少女でした。 生まれたときから目が見えず、両親からは捨てられ、拾われた男に殴られる日々でした。 まともな教育も受けていないため満足にしゃべることもできませんでしたし、 ある時とても強く男の持っていた酒瓶で殴られたため、耳も聞こえなくなりました。 それでも彼女は死にたいと思いませんでした。 なぜなら彼女は夜を迎えるたび、ある夢を繰り返し見ていたからです。 それはこの狭く暗い牢獄の壁を破って、善良な人が自分を助けてくれる夢でした。 彼女は、善なるものがいつか自分を救ってくれると心の底から信じていました。 あるところに悪党がいました。 彼の悪徳は生来のもので、暴力を躊躇なくふるい、欲しいものを力づくで手に入れようとしました。 彼の悪逆非道の日々は永遠に続くものと思われましたが、 ある日、ひょんなことから彼はその悪事の報いを受けることとなりました。 捕まった彼を裁く判事は彼のこれまでの行いを見て眉をひそめました。 「殺すのも生ぬるい」と言い放った裁判官たちは、彼を荒野にぽつんと建てられた小屋へ連れて行くと、 その記憶を消し、毎日壁を掘るよう指示しました。 あるところに老婆がいました。 もう歩くこともおぼつかないほどの高齢でしたが、不思議な力を持っていて皆から恐れ敬われていました。 老婆はその人の未来を示すことできました。 目も見えず、しゃべることもできず、そして耳も聞こえませんでしたが、 彼女が触れた人は、その晩自らの未来を夢見るのです。 そうして示された未来は必ず実現し、不安や野望に囚われた人々がこぞって彼女の元を訪れました。 彼女が何も言わないことをいいことに、その手を取ってありきたりな感謝の言葉を述べました。 しかし彼女が夢を人々に見せるようになってから、彼女自身が夢を見ることはなくなりました。 彼女にとって夢を見ることは、生きる希望であったはずなのに。

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