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狐野　椛(この　もみじ)／25歳／登山家 　幼き日の彼女は、高い場所に立つことを誰よりも好んでいた。公園の砂山、ジャングルジム、木、自分が登れるものはどこでも登った。家の屋根上にまで軽々と上り、度々親に叱られることもあった。自らの足で頂上を踏みしめ、かつて目にしたことの無い景色を目の当たりにする度、彼女の目標はますます大きなものへと変化していく。 　そうして辿り着いた彼女の唯一の夢は、「世界一の登山家になること」。彼女の熱意は凄まじく、地道な努力と持ち前の才能を存分に発揮し、小学校低学年にして日本最高峰の富士山を踏破。中学時代には、世界のあらゆる山岳に臆することなく挑み続け、そして、リタイアすることなく全て登り尽くしてしまう。高校時代には、世界最高峰のエベレストをたった1人で登りきるという常人ではほぼ達成不可能な無理難題に挑戦し、見事世界初、最年少での偉業を達成する。 　世界中から注目の的となるはずの彼女だが、身元を明かすことに抵抗を感じており、TVや新聞の取材は全てNG、その正体を知る者は両親や親戚を除いて他にはいない。 　「彼に登れぬ山はなし」と、世界中の至る所で伝説として謳われる中、人生早々に夢を叶えてしまった彼女は、目標を失い、途方に暮れていた。 　そんな中、ふと彼女の前に現れた一件の記事。忘れかけていたあの感情が、一気に蘇る。再び胸の奥底に火を灯した彼女は、「狂気山脈」へと足を踏み入れることを決意する。 　……「それ」が襲い来ることも知らずに────

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