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クトゥルフ PC作成ツール
移行用メモ2
ID:4147691
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移行用メモ2
タグ:
クトゥルフ幸
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生まれ・能力値
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その他増加分
一時的増減
現在値
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CON
POW
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APP
SIZ
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初期
SAN
アイ
デア
幸運
知識
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SAN
現在SAN値
/
(不定領域:
)
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技能
職業P
/
(うち追加分:
)
興味P
/
(うち追加分:
)
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初期値の技能を隠す
複数回成長モード
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<戦闘技能>
成長
戦闘技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
回避
キック
組み付き
こぶし(パンチ)
頭突き
投擲
マーシャルアーツ
拳銃
サブマシンガン
ショットガン
マシンガン
ライフル
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<探索技能>
成長
探索技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
応急手当
鍵開け
隠す
隠れる
聞き耳
忍び歩き
写真術
精神分析
追跡
登攀
図書館
目星
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<行動技能>
成長
行動技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
運転(
)
機械修理
重機械操作
乗馬
水泳
製作(
)
操縦(
)
跳躍
電気修理
ナビゲート
変装
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<交渉技能>
成長
交渉技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
言いくるめ
信用
説得
値切り
母国語(
)
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<知識技能>
成長
知識技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
医学
オカルト
化学
クトゥルフ神話
芸術(
)
経理
考古学
コンピューター
心理学
人類学
生物学
地質学
電子工学
天文学
博物学
物理学
法律
薬学
歴史
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戦闘・武器・防具
ダメージボーナス:
名前
成功率
ダメージ
射程
攻撃回数
装弾数
耐久力
その他
%
%
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所持品・所持金
名称
単価
個
価格
効果・備考など
価格総計
現在の所持金:
、 預金・借金:
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パーソナルデータ
キャラクター名
タグ
職業
年齢
性別
身長
体重
出身
髪の色
瞳の色
肌の色
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その他メモ
不老だったが不死ではなかった オレさまを置いていくなんて薄情者め 例えキミが生まれ変わってきてもオレの愛したキミではないのだ 今日も負けた 悔しい悔しい悔しい 何でだ?本も読んだしポケモンも自分が思う最高なパーティにしているし努力を惜しんだ事はない。8番目のジムリーダーにまで登り詰めた。なのに、勝てない。どうして そうだな!そんなに頑張ってもオレに勝てないと言うことはキバナはよっぽど才能が無いんだな! (夢、妄想のダンデ 漫画の枠外、黒 は………はは……………はははは (目を見開いて起きるキバナ、泣くキバナ キバナは最高のライバルだぜ! オレに勝つために、オレのために努力を惜しまない姿は大好きだ! ダ、ダンデ〜 @TENOjinoHAKA https://privatter.net/p/5432335 【注意事項】 ※名もなきモブの視点がメインになります。 ※人魚のキバナ×人間のダンデです ※でもキバナほぼ喋りません。一種の魚だもん。 ※キバダンエンドだけど人を選ぶと思います ※キバダン、とくにキバナはハッピーエンドですが他はちょっとハッピーじゃないと思います。 ※人魚パロなのでポケモンは今回でてきません、すみません ※キバナは人魚なので人間の理屈が通じません ※歳をとってる描写があります ※どんな展開でも許せる方でお願いします ※本当に大丈夫? ※え、知らないからね? 金春奇譚 人魚伝説など馬鹿馬鹿しいと思っていたが、船から身を乗り出して島を見据えた瞬間さもありなんと納得したものであった。例えば桟橋まで出迎えにきた教授の足元には潮風で朽ちた木片が転がっていたが、よくよくみると白いインクで歓迎の文字が書かれている。ターコイズブルーの海から突き出た船はブリキで作ったのかと見紛うほど錆付いていたし、白く眩しいほどに輝く浜辺にも干からびた漁網が打ち捨てられて、宛らポストアポカリプスの世界に迷い込んでしまったかの様相を示していた。 この島に向かうためにかけこんだ始発電車より人口の少ないこの場所は、こうして人魚伝説に縋って喧伝しなければ忘れ去られて人が寄り付きそうにないほど寂れていた。それはありもしない人魚伝説がうまれるだろうと、とりとめのないことを考えながら定期便から島へ降り立った。 「ようこそ!春は海が時化るがキミは大丈夫だったか?ああ足元に気をつけて、底が抜けるんだ。うっかり踏み抜いて怪我でもしたら大変だぞ」 教授が床板を指差した。ところどころ穴が空き、透き通った海と夥しい量の折り重なって死んだ珊瑚の敷き詰められた浅瀬がゆらゆらとうつっていた。 「キミのことはよくきいてるぜ!言語学の学生だってな。村の人たちも喜ぶぞ、島の言葉をのこしてくれるってな!」 教授は摂氏二十五度もあるというのに厚手のシャツのボタンを襟まで締め、おまけにくたびれた白衣も纏っている。すでにこちらは潮風はべたつくし日差しはじりじりと皮膚を焼くしでうんざりだというのに、陽光のような金色の瞳は涼しげであった。 「センセイ、本日からお世話になります」 「そんな畏まらなくていいぞ。さあ、キミの家を案内しよう!しばらく使ってなくて昨日掃除はしたんだけど、埃っぽかったらごめんな」 白い歯を見せて子供のように笑って、教授は白衣を翻した。潮風を受けてカーテンのように舞い上がって、頭をはりめぐる藤のような長い髪が揺らめいた。飛び交う鷗と浜を洗う波の音以外なにも聞こえず、雲ひとつない突き抜ける青空と金春色の海の境がぼんやり霞んで、この教授と二人だけの世界に閉じ込められたかのような気分であった。 本当に他に人が住んでいるのか疑わしくなるほど人の気配がなかった。今日から俺はこの寂れた青い島に一月ほど滞在することになる。一生涯忘れることのない金春の日々がはじまる。 海岸沿い、作りかけのまま雨晒しになった堤防を超え、なだらかな丘陵の上にできた島の集落にたどり着く。城の土台のような切り立った石壁が迷路のように続き、しかも大人二人がすれ違うのがやっとという狭さなのでここが文明から隔絶された島だということを痛感する。 まるで古き時代の要塞のようであるが、実際に防ぐために作られたんだと道すがら教授が解説してくれた。この島はいつも台風の通り道になるから家を守るために大袈裟な石壁で囲ったのだという。その壁の向こうにはそうまでして守りたかった民家が、家主を失い無残な姿を晒していた。 昔は漁業の要として栄えていたが小学校もないこの島は不便が過ぎたのだろう。若者は一人また一人と去ってしまい、いまや教授がこの島で最年少になってしまったのだという。 「キミがきたからしばらく一番年下は返上だな」 教授は数十年も歳が離れていない人間と出会えて随分と楽しそうだった。この男も教授としては若いとは思うが、彼を若者と言うには少し薹がたっていると思う。こんがり日に焼けてカサついたは壮年のようにも見えたし、大きな金目と長い頭髪、子供のような笑顔は俺と対して歳が変わらないのかという印象も抱かせて正直なところ外見から年齢を詳細に知ることは難しそうであった。彼があのサンジェルマン伯爵であると誰かが嘯けば信じてしまいそうだ。 手車を引く島民と何人かすれ違い、雨畑を抜け、そうして教授が案内してくれたのは村の中でも一際大きな家だった。よもやしがない学生に小さなペンションと言えるほどの場所を貸し出して貰えるとは思わず、こんな立派な家をお借りしていいのですかと教授に尋ねてしまった。正直言って少し気後れしたのだ。カラオケに一人馳せ参じたらパーティールームに通されたような居心地の悪さを覚えた。 彼は気にすることはないと微笑んだ後、「それにここじゃない方が色々と楽なんだ」と懐かしむように目を細め、俺一人が住むには広すぎる二階を見上げていた。確かに海洋研究を行うのであれば、この家よりも岬の上の研究所の方が諸々楽だろうなとすぐに合点がいく。 この島に滞在するにあたって、教授は懇切丁寧に説明をしてくれた。まずこの島には水道が通っておらず、雨水で生活水を賄っている。なので都会感覚で水を使っているとあっという間に貯水槽が空になると散々釘を刺された。 それから汲み取り式トイレだから週に一度回収の業者が来ること、村の中心に水を買える場所があるから飲料水はそれを飲んだ方がいいこと、昼ごろに帰ってくる漁船は雑魚のおこぼれをあずかることができるので遠慮無く顔を出すといいこと、人を襲うサメは生息していないがホワイトチップシャークという小さなサメはいて、臆病な気質だが血の匂いに釣られて攻撃的になるから怪我をしている時には海に入るな等、大小の注意事項をのべつまくなしに語られた。最後に困った事があれば遠慮せず研究所を訪ねてくれと言い残し、彼は研究所に引き上げていった。 荷解きを済ませて借りた家をひとしきり細やかな冒険気分で探索し回った。教授とて家探しされたらあまりいい気はしないがもしれないが、こちらとてなにがどこにあるか把握しておく必要がある。それに俺も研究者の端くれであるので、興味が出たら納得いくまで調べ尽くす習性を持ち合わせているのである。 そうして隅々まで見てわかったことといえば、まずかつてそこそこの人数の家族でここで過ごしていたようだということだ。食器の枚数がやたら多いし、冷蔵庫も俺にも教授にも不必要なほど大きかった。寝室も複数あったが恐らく二階のものは使わないだろう。俺は目に見える階段を全て歩けば健康であるなどというふざけた健康維持法を信仰していないので。 それにしても確かに人の住むような場所ではないような家ばかり見かけたが、もう少し貧乏性の学生が住むに適した家屋は残っていなかったのだろうか。 以前教授はこの家に住んでいたと言及していたが、丁度一つ手付かずのまま放置された部屋があったのでそこが彼が過ごしていた所だと推測した。黒いギターピックネックレスのようなもの、三色の日扇貝、壁に大量にかかったキャップ、閉じきったまま日に焼けて色がかわったカーテン。生活の痕跡を残しながらもある地点で時を止めてしまったその部屋は、雪のように埃が降り積もり蜘蛛の死骸が転がっていた。 借りた家屋の探索に満足した俺は次に俺は挨拶まわりに出た。俺の専門分野は失われつつある固有の方言を調査し、言葉の成り立ちから歴史を紐解き、そして後世に残すことである。 その性質上人との交流無くしては成り立たないので一軒一軒戸を叩いたのだが、どこにいっても福の神が訪れたかのように大喜びでもてなされ、しまいにはその日村総出で歓迎会を開かれることになってしまった。後から理解したのだが彼らは珍しいよそ者である俺を親切心のみで丁重に扱ったのではなく、教授を除けば若くて俺の祖父母くらいの島人しかいないこの島にあわよくば居ついてほしいという下心からきていたようだ。注文はないが山猫料理店のような島だ。 しかし島を担う若者が欲しいのであれば俺ほど若くはないとはいえ、あの教授がいるのに不思議と誰も彼の名を歓迎会であげることはなかった。 さて最初にぶつかった問題といえば風呂である。雨水でしか生活水を確保できないこの島では水を無駄遣いすることができない。春先といえど照りつける太陽と乱反射するサンゴのビーチで上から下から熱が放射され、風は海からやってくるせいで塩気と湿気が多く爽やかと言い難い。それ故毎日じわじわと汗が滲んで大変不快であったが、しかしそれを流すシャワーも風呂もこの島ではまともに入る事がかなわないのだ。タオルで身体を拭く程度しかしないと聞いて天を仰いでしまった。人間一度生活レベルを上げてしまうと元の生活には戻れないとはよくいうが、まさにそれが都会育ちの俺には耐えられない苦痛であった。 なのでどうしても汗を流したかった俺はちょっとした暴挙にでた。海開きもまだなのに海に飛び込んだのである。暑さで感覚が狂っているのか「まだ寒い」と言って服を着込む島民たちに見られると少し恥ずかしかったので、俺は前々から目をつけていた穴場でその作戦を決行することにした。 海洋研究所の側の森を抜けるとこの島には珍しい純白の砂浜があり、岩礁が小さな湾を形成するように海面から突き出ていて、消波ブロックの役目と天然の秘密基地のような造詣を生み出していた。ここであれば人目につかないので気にすることなく海に入ることができた。 ただいくらこの島の気温が高くても、海水温というのは大体二ヶ月前後遅れたものになっている。つまり陸上は夏のように蒸し暑い春だとしても、海中は二月か三月の冬の終わりというわけである。最初火照った身体に冷えた海水は具合がよかったが、結局すぐに冷えて凍えそうになったので、岩場に座り込んでぼんやりと水平線を眺めるという最高に贅沢な時間の使い方に切り替えてしまった。 木々が擦れる音、打ち付けては去っていく波の濤声、鴎が誰かを呼ぶ声。ここらの海は光が届くところまで見透かせるので、瑞々しい砂漠の海底がどこまでも見渡せて見飽きることがなかった。岩場のある海岸の浅瀬を少し越えれば、金春色一色の壮絶な孤独と美が混ざり合った渚が終わりなく続いている。 ふとその時、ばしゃりと大きな水音がした。何事かと周囲を見渡すと、丁度海と同じ金春色の大きな鰭が岩礁の向こうに隠れるところであった。ここは魚が生きるには隠れる場所が少なく、魚もそれを理解しているので近寄らないようなのだが珍しい。あの大きさの鰭だと、もしかしたら噂のサメがフラフラとやってきたのかもしれない。 やれどんなヤツか拝んでやろうじゃないかと岩場に身を乗り出すと、魚の代わりに紙切れが海を泳いでいた。こんな海にゴミが落ちているだとは、魚を見かけるより珍しいなと紙を拾い上げて俺はギョッとする。紙では無く銀写真であったからだ。しかもよく見知った人が映っているではないか。 随分古い写真なのか色が随分褪せていた。日付がないのいつのものかはわからない。水を含んで拠れてしまっているが、紙の中の人物はよく確認できた。この浜辺から誰かに撮って貰ったものなのだろうか、同じターコイズブルーを背に教授がこちらに向かって手を振っている。あの特長的な紫の髪を空に泳がせ、懐かしむように眩しく金目を細め、白い歯を見せて笑っている。不思議な形のヒゲがあり、幾分かこの頃の方が若いように見受けられた。 何故だかわからないが、この写真を見ていると狂おしいほどに郷愁にかられた。俺は紹介されてきただけなので教授のことを詳しくは知らないし、この島も初めてきたというのに、紙の中の彼を見ていると胸から感情が溢れ出て掻き毟って取り出したくなるような、そんな気持ちになった。 だからきっとこの写真は教授にとって大事なものだろうと全く持って意味不明な論理と根拠で結論づけて、その写真を借り家に持ち帰ったのだ。水を使わないために海に行ったのにその貴重な水を使って写真を洗い日陰干しにして、しかしそのまま俺はすっかり写真のことを忘れて寝入ってしまった。 * * * * * * * * 手押し車で石を乗せると、オレは海岸に向かった。近頃島民が船を増やしたいそうなのだが、ここには船を止められる岸壁が存在しない。なので自らの手で用意するしかないのだが、生憎島民で若いのといえばオレとあと一人くらいだったので、オレがその仕事を受け持つことにしていた。 金春色の海に囲まれたこの島が大好きだった。世界で一番美しいと自負していた。潮風の香りも、穏やかで宝石のような海も、漁師のおこぼれを狙う鴎も、サンゴでできたビーチも砂でできたビーチも、この島に棲まう人たちも何もかもが愛おしくて大好きだった。 就学のために一度はこの島をでたこともあったが、結局この海が一番素晴らしいものであると痛感するばかりだったので戻ってきてしまったのだ。とはいえ、何も無くまともな仕事もないこの島はこのままでは滅び去る運命でしかない。魅力的でこの島に訪れたい留まりたいと思える観光資源や産業が必要だと強く感じている。この島と海は美しいが、滅びゆく定めをもつものの美しさであってはいけない。 オレが工事現場に到着し、海を背中にして石を組んでいると派手な水音がした。誤って石を海に落としたかと思い振り替えると、岩礁に前のめりでもたれかかる青年と目があった。 この海と同じ美しい金春色をしていた。ここいらでは見かけない変わった髪型に日に焼けたオレよりも濃いエキゾチックな肌の色と、筋のしっかり通った鼻梁に厚い瞼と掌からして、島の外から観光に訪れた若者なのだろう。いつからそこにいたのかわからないが、少し眠たげともとれる垂れ目がちの優しい顔でオレのことをじっと見つめていた。人の美醜については詳しくないが、この人はさぞかし女性に人気があるのだろうなと思えるほど、はっきりと整った容姿の男だった。 『驚いた、キミはいつからそこにいたんだ?』 男は返事をしなかった。岩場を抱き抱えるようにして、じっと動かずにいる。この島の海の色の澄んだ目が、見透かすようにオレをみているばかりだった。 『もしかして助けを求めているのか?』 怪我をしていて立てないのであれば一大事、外国人だとすれば言葉もわからないし声を上げられなくて当然だ。異変を察したオレは海をかき分けて駆けつけて、それがとんでもない思い違いだったということに気がついた。 『キミは………』 何か伝えようと口を動かしたが、結局続く言葉が見つからない。 男は立てないのではなかった。立つ脚をもっていなかったのだ。腰から下が魚であったからだ。 黒と見紛うほどしっとりとした濃紺を基軸に、金箔絵画にアコヤガイの真珠母を溶かし混ぜて一枚一枚丁寧に縁に塗り込んだような、見る角度で表情を変える美しい鱗が連なっていた。陽光を受けては黄色から橙色、あるいは白く輝いて河川敷にうつる花火のようでもあった。鰭は鱗よりも紺色が強く、薄いベルベットのようにゆらゆらと波間を漂っていた。 恐らく彼は人魚という生き物だと思うが、これほどにまで美しいと思わなかった。神秘や神という概念が可視化できるなら、今目の前にあるものがそうなのではないかと思えるほど、畏怖さえ覚える美が目の前にあった。 その人魚を恐れたわけではないが、オレは一歩後退りをした。オレが安易に関わってはいけない恐れ多い存在であるような気がしたからだ。しかしその人魚はそれが気に食わなかったのか、顔をしかめるとオレの腕を掴み取った。そのまま岩の上に引き倒されて、人魚がオレの上に覆いかぶさる。 水滴が滴ってオレの顔に落ちた。太陽を背負って影になった彼の表情はよく見えない。だが、海と同じ吸い込まれそうな金春色が海の底のような暗がりからオレを覗き込んでいる。魂に釘を刺されたように、動けなくなる。目を離せなく、なる。 どれほど時間経ったのだろうか。それともほんの一瞬のことだったのだろうか。遠くからオレを呼ぶ声が聴こえた。 『おおいダンデ、ちょいと手伝ってくれねえか!予定より早く船がきてしまってなあ』 その声でハッと我に返る。流石にこの現場を見られたらまずい。人魚に対してどう思うかは人それぞれなのだ。ましてやこれほど美しい人魚となれば。 『あ、ああ!今行く!…ええと、すまない、退いてくれないか。キミも島の人に見られたら面倒だろ』 胸を押しやってから、人魚の体温の低さに驚いて手を離した。人の見た目をしてはいるが彼は海に生きる存在なのだ。うかつに触っては傷つけかねない。どうしたものかと困っていると、オレの様子がおかしかったのか彼はへにゃりと笑った。実際笑っていたかはわからないが、すくなくとも人であるオレにはそう見える表情を浮かべた。 それからオレの手に何かを押し込んでから、ゆるりと海の中に戻っていった。肩まで水に沈めていると本当に人にしか見えない。 『この貝殻をくれるのか?サンキューな。だがキミが思うほどヒトは優しくないぜ!わかったらもう近づいちゃダメだぜ!』 彼に手を振って別れを告げる。意図をくんでくれたのか、彼も尾鰭を翻し海の底へと姿を消した。これでいい、人と違う生き物はその世界で生きるべきだ。好奇心旺盛で気のいい人魚よ、どうか幸あれ。 オレは立ち上がって海岸に向かおうとし、それから一つ気がついた。この貝、中身が入っている。生きてるじゃないか。 * * * * * * * * 随分妙な夢を見た。人魚に会う夢だ。俺は人魚の存在を信じていないと言うのに、島の感傷に引き摺られたのだろうか。教授に案内されている途中に見かけた作りかけの堤防に、物寂しさを覚えたのだろうか。この家の片隅で埃を被っていた日扇貝に侘しさを拾ったのだろうか。 窓の外を見やると水平線が浮世絵のぼかし摺のように艶やかに染まっていた。見たこともないほど空を埋め尽くしていた星たちが、丁度橙色の閃光に飲まれて消えゆくところであった。 しかしまだ日は水平線の下に隠れている。起きるには早すぎる時間だが、なんとなくもう一度眠る気にはなれなかった。眠気覚ましのコーヒーをいれ、ぼんやりと口に含んでいたのも束の間。気がついたら俺は靴紐を結び、引き寄せられるように昨日の海岸に赴いていた。 ところがこんな時間であるのにも拘らず、俺の秘密の浜辺に既に人がいた。よくよく考えれば最近きたばかりの俺からすればとっておきの秘密基地のような場所であったが、島民にとってはよく知られた場所であってもおかしくない。この島は俺の生まれ育ったしがない街よりも小さいのだ。 それにしても今日は随分風が強い。白衣がばたばたと騒いでいる。 「よお、キミか。朝早いな」 砂浜を踏み締める音を耳聡く拾ったようで、教授が俺に挨拶をした。 「センセイ、おはようございます」 「おはよう。よくここを知ってたな、ここの人たちだってあまり知らない場所だぞ。折角だから一緒に日の出を拝もうぜ」 そう言って教授は砂浜を指さした。水が貴重なこの島の生活ではあまり服を安易に汚したくはないのだが、かといって断るのも不自然であろう。最小限の接地面積でおさまるよう膝を抱えて座り込んだ。 教授は白衣が砂塗れになるのも気にかけずどかりと腰を下ろした。それから地平線から珍しい緑の太陽が顔を覗かせ、空を金色に染めていた。その間教授も俺もなにも喋らず、ただただ水平線の彼方を黙って見つめている。びゅうびゅうと吹き付ける風が、教授と俺の間を潜り抜けていった。 「キミは信じるか?」 突然、教授が口を開いた。 「何をです」 「人魚だよ。この島に人魚が棲まうって話」 「人魚ですか」 正直に言ってしまえば俺は人魚など信じていない。魚の身体に人の上半身だなんて、あまりにも泳ぐに適していないではないか。大方マナティか水死体を見間違えて実しやかに囁かれるようになったのだと思っている。しかしそう思っているからといって、この教授にありのままを伝えるわけにはいかない。この人は人魚を研究する海洋学者なのだから。 寝起きの回らない頭で精一杯考えた気の利いた返事は、出来の悪い小学生のような答えになった。 「いたらいいと思いますよ」 「キミはそう思うんだな」 随分と他人事のような口ぶりをするのだなと思った。 「人魚は、伝承によると人間の五倍は寿命があると言われている。その分個体はなかなか増やせない。あまりに増えないことから、種族が絶滅の危機に陥った際は近似した生物を同族にしてしまうことがある」 耳を凝らしていなければ、風に吹き飛ばされてしまいそうな小さな、静かな声だった。 「全部伝承だ、根拠もない。学術雑誌に載せようものならオレごと爪弾きにされるだろうな」 そして教授は俺に向き合った。彼の金色の瞳に日の出が映し出されて、大粒の涙が輝いているようであった。それからニカっと、あの子供っぽい笑顔を浮かべた。 「風が強くて体が冷えちゃっただろ?折角だから研究所によっていってくれ。朝飯をご馳走するぞ!」 それから眩しそうなあの笑みに変わって、そういえば写真を日陰に干したままであったことを唐突に思い出した。昨晩は忘れて寝てしまったが、今日の風に飛ばされていないだろうか。 そう思いながら貧乏学生はありがたく教授の元で食事にありつき、それから挨拶もそこそこに家に戻り、幸運にも生き残っていた写真を拾い上げて引き出しの中に仕舞い込んだ。 我ながら恩師に対してなんたる態度かと思うが、その時は自分の懐事情と写真のことでいっぱいで、教授に気を使っている余裕がなかったのだ。なに、次に教授に会うときにたっぷりの謝罪と写真を渡せばいい。そう思っていた。 * * * * * * * * ばしゃんという音がして、もしやと思い振り返った。予感は的中した。 『またきてしまったのか!』 もう近寄るなと言ったのに、あの人魚が再び浅瀬に顔を出していた。好奇心旺盛もほどほどにしてもらいたいものだ。 『人に見つかったらどうするんだ、オレは構わないが他の人がオマエに優しいとは限らないんだぜ!』 目を釣り上げて怒ってもどこ吹く風。相変わらずニコニコ人好きのしそうな笑みを浮かべている。困った人魚様だ。 『……ここにいたら見つかるかもしれないから、オレについてきてくれないか。取っておきの場所があるんだ』 その言葉にはどうやら素直に従ってくれたようだ。オレが周囲を見渡しながら身長に移動すると、彼も海から追いかけて来てくれた。そして岬を越え森を越え、秘密の入江に到達した。ここなら殆ど島の人もこないし、船の出入りで見えるような場所じゃない。 『ここなら安全だぜ!なあ、オレの言葉がわかるならせめて今度からここにしてくれ』 岩場に腰掛け、足を海水に突っ込みながら人魚に語りかける。人に対する興味の尽きない上に危機感の足りない人魚は、にこりと嬉しそうに笑った。それからオレの側まで泳いでくると、岩場の縁に腕をかけて寛いだ。穏やかに渚に揺られて、尾鰭が水中花のように開いている。この雄の人魚にこう例えるのは何か間違っているかもしれないが、藍色の薄い鰭が重なり合って揺蕩うたびに、優雅に踊る女性のドレスの裾が思い浮かんだ。 そんなことを考えていたら、また人魚に腕をとられた。加減なしにぐいぐいと引っ張られて海に落ちそうになる。 『なんだ?オレの手が珍しいのか?オマエの手と一緒だろ?』 足はともかく人魚と腕は変わらないはずだが。そう突っ込むと人魚は少し考え込んだ様子でじっとオレの足を見た。と、思ったら今度は足に奇襲をかけられた。 流石にそれは想定していなくて、とうとうオレは海に転げ落ちた。ばしゃんと盛大な音立てて、人魚を思い切り下敷きにしてしまった。 『ゲホッ!うわ、大丈夫か!?怪我はないか!?』 鼻から水が入ってげほげほとむせながらすぐさま立ち上がろうとして、次は腰にしがみつかれた。急に押さえつけられたせいでまた盛大にすっころんでしまって顔面から水面に衝突した。 一体オレになんの恨みがあるというのだ、相手は人ではないといえ、流石にこれはちょっと恥ずかしい。そんなオレを見て、悪戯好きな人魚はくつくつと笑っていた。笑った口の隙間から、人魚の食性を思わせる鋭い歯がのぞいていた。 『じゃれつくにしてももう少し手加減して欲しいぜ』 ここが浅瀬でよかった。浅瀬だから口に砂は入ったが。友人が飼っていた大型犬がいつもいつも喜びのあまり盛大なタックルをかまして来たことを思い出して、加減が効かないのは犬も人魚も一緒かなどと失礼な感想を抱いていた。 濡れないように岩場にいるつもりだったのに台無しだ。すっかり水を吸って重くなってしまった衣服を脱ぎさって岩場に広げる。帰るまでに乾くことを祈りながら砂浜に腰掛けた。砂がつくなんて今更だ、もうとっくに服は砂塗れだ。 人ではないので全裸になったところでなにも相手が思うことはないはずなのだが、人の見た目をしているというだけで破廉恥な行いをしている気になってしまうので、下は乾かしたくても脱ぐことができなかった。なんとなく下半身をみせるのに抵抗があった。 『オレが安全だと思ってくれるのはありがたいが、他の人間もそうだと思っちゃダメだぜ』 ため息混じりに小言を垂れたが、彼は聞いていないようだ。鰭でバシャバシャと水面を叩いて遊んでいる。人の見た目はしているが、随分無邪気な存在だなと思う。 『キミは仲間はいないのか?逸れてしまったのか?』 その質問には答えてくれた。彼は大袈裟なくらい首を左右にふって、仲間がいないということをはっきり意思表示した。今のが伝わるってことは今までの話も理解できてはいるんだな。 人間と人魚は殆ど交流を持たない生き物同士なのに、こうやって言葉が伝わると不思議な気持ちになる。一体全体どんな神秘で伝わっているんだろうか。 『そうか、それは残念だな』 じっと金春色の瞳が俺を見つめている。少し縦長の瞳孔が彼を人ならざるものだと知らしめる。綺麗だとは思うが、見ていると吸い込まれそうで少し恐ろしくも思う。まるでブルーホールのようだ。 『キミは……毎回キミっていうのもだな。名前はないのか?いや、喋ることも出来ないし、伝える手段がないか』 喋ることができたならとっくに返事をしているはずだ。そう自己完結しようとしたその時、彼がばしゃりと波を打った。すぐに波打ち際までよいせと身体を這わせて、砂浜に指でなにか書き始めた。いや何かではない、驚くべきことに、そして恐ろしいことに、それは人間の使う文字だった。 『き・ば・な?キバナって言うのか?』 恐る恐る尋ねる。キバナはにこっとやっぱり気の抜ける笑みを浮かべると、ウンウンと大きく頷いた。 『そうか、キバナっていうんだな。オレはダンデ!よろしくな』 ついうっかり手を差し出して握手を求めて、そういえば相手は人魚であったと思い出す。引っ込めようとしたところキバナががしりと掴んで引き留めた。水の中にいるから腕力などそこまで使わないのではと思うのだが、存外キバナの力は強い。 それにしてもスキンシップがすきだな、この人魚は。よほど人がすきなんだな、などとつらつら考えていたらいつに間にか手の中に再び貝が収まっていた。今回は紺色が美しい。相変わらず中身がはいっているのが少し困るが、このキバナという人魚は随分オレに親切だ。 『またくれるのか?サンキューな、キバナ』 わしわしと頭を撫でると、キバナは嬉しそうに目を細めた。 * * * * * * * * しまった、またやらかしてしまった。折角久々に教授の家にきたのに、例の写真を置いて来てしまった。それもこれもまたあの夢を見たせいだ。人魚と細やかな交流をする夢を。 あれから随分日にちが経って、俺も島の人と順調に交流が進んでいた。知りたかった方言も、いったいなにが由来かも、欲しいところの情報が殆ど出揃いつつあった。と、同時に俺のこの論文は恐らく墓標になるだろうとぼんやり考えていた。 村の連中は皆気が優しいが、高齢がすぎていて今から村おこしをすることは難しい。若者といえば教授が俺くらいで教授は全く結婚を考えていないそうだからこれから子供も生まれてくることがない。しかも最後に生まれたのは三十年以上前だというから、もはやこの島の文化は絶滅一歩手前なのだ。その文化の死を締めくくる碑文が俺の論文ということになる。慰霊碑のように。 最初は村おこしに人魚伝説にすがっている程度とすこし馬鹿にした気持ちでここに降り立ったことを、今は心底謝りたい。俺はどこかで田舎だと見下していたのだ。哀れむ立場にいると思い込んでいたのだ。 さてそんな感傷と罪悪感に浸っていたら、村の連中に一つ仕事を頼まれた。岬の上に棲まう教授に立派なエビを届けて欲しいとのことだった。岬はそこまで村から離れてはいないが、何せここは超高齢化社会なので老人にあの坂を登らせるのはすこし厳しいものがある。 というわけで俺は教授の元に訪れたわけだが、うっかり写真を忘れてしまうし、そもそも扉を叩いても反応がない。教授が今留守にしているとは聞いていないので中にいるはずだが、こうも反応がないと孤独死を心配してしまう。三十路だって二十代だって十分にあり得る話だ。不摂生な生活をしていれば尚のことだ。 なので人としてどうかとは思うが、断り無しに俺は研究所のドアノブを回した。田舎の文化に感謝すべきか、鍵はかかっておらずすぐに目の前は開けた。 全て自分で買い揃えたのだろうか。天井から床までびっしりと本が詰まっていた。デスクにも何か書き記した紙と本が散らばっていて、いったい教授はどこで寝食住をこなしているのか疑問が浮かぶほどであった。 壁のコルクボードにもびっしりとメモが貼り付けられていて、それはどれも人魚に関するもので、食性は肉寄りだが雑食だとか、人魚の尾で殴られたら人はひとたまりもないであるとか、最大時速六十キロは出るだとか、雄が雌の元に四日通って食事を貢いで受け取ってもらえれば番成立であるとか、番が成立した後に四日雄が雌の元を離れれば破綻するであるだとか、雑学なのか研究なのかわからない走り書きが所狭しと書き立てられていた。 「センセイ、いらっしゃいますか?」 声をかけたがやはり返事はない。本の森とメモの原っぱを抜けて、やっと森の奥深くで机に突っ伏して眠る教授を見つけ出した。数十年前の今日の日付の古い新聞を枕にしている。何か研究の参考になることでも書いてあるかと覗き込んだが、やれ政治家の汚職だ、勝手に基地を建てたせいで海の向こうでいがみ合った国二つの対立が深刻だとか、どこで殺人があっただの、海で男が行方不明になったであるだとか、特にめぼしい情報はなさそうであった。うっかり新聞のスクラップ整理中に寝てしまったのだろうか。 「センセイ、起きてください。首を痛めますよ」 「うぅん」 肩を揺さぶってようやく教授はお目覚めになった。何度か目を擦り、それからピントを合わせるように何度も目を瞬かせ、やっと俺を向いておはようと挨拶をした。 「もうお昼ですよ」 「そんなに寝てたか!ところで一つ提案があるんだけどさ、オレの朝飯とキミの昼食一緒に取らないか?どうかな?」 「タダ飯なら喜んで」 「キミって正直だよな。いいと思うぞ」 我ながら随分な物言いであったと思うが、教授は気を悪くした様子はなかった。それどころか腕に寄りをかけてスペシャルランチをご用意してみせよう、などと腕をまくり上げ息巻いている始末であった。 「キミはどうして言語学をやろうと思ったんだ?」 食事が進むと気が明るくなる。気が明るくなると口も進む。教授は随分ご機嫌で饒舌であった。 「単純で最低な理由ですよ。好きな子が方言を使っていたからお近づきになるために勉強したんです」 「なるほど!それは素敵な理由だぞ」 「センセイはどうして海洋学者に?」 「そりゃ人魚の研究をしたかったからだぞ」 わかり切った愚問をしてしまって俺は少し恥じ入った。 「へえ、センセイってやっぱり人魚が好きなんですね」 教授は食後のコーヒーを胃に流し込んだ。俺も倣ってカップに口をつける。カーテンがひらひらとそよいで、心地よい風が吹き込んでくる。窓の外には一面ターコイズブルーが広がっていた。ホテルであればオーシャンビューの一等室だろう。 「いつからの夢なんですか?人魚を見つけてやる!って」 「二十年以上前だな!」 二十年以上前ということは、俺が生まれる前の可能性が高い。脇目も振らずこんな寂しい場所で、長く研究を続けるということは相当の覚悟が必要だっただろう。 俺は果たしてこの人のように、この島に留まって研究を続けるという選択肢は取れるだろうか。オカルトのような実在しているかもわからない存在を、雲を掴むような存在を、独りで追いかけ続けられるだろうか。 「夢というか、目的だなぁ」 少し寂しそうな声で訂正し、またあの眩しそうな笑顔を教授は浮かべた。金の目をどこか遠くに滲ませ、あの金春色の写真のような、懐かしむような寂寥を佇ませた笑顔を。 俺の滞在期間ももうそこまで長くない。短い春は終わろうとしている。そろそろ写真を返さなくては。帰ったら引き出しから取り出しておこう。 * * * * * * * * 翌日ももしかしたらいるかもしれないと渚に顔を出したら、やはりキバナはいた。贅沢に秘密の入江を仰向けに陣取って、豪快に日光を浴びている。人魚って本当にこんな無防備でいいのだろうか。 『よおキバナ!またきてたんだな!』 オレの声に気がついて、キバナは花が咲くように破顔した。今度は海に引き摺り落とされないように、足を踏んばれるように足のつく岩場に腰掛けた。すぐさまキバナがよってくる。 少し不安もある。生き物に人の手を介在させたら野生で生きていけなくなるように、オレがこうやってキバナと接することでキバナ本来の生き方を奪っているのではないか。実際にオレに懐いてべったりになってしまって三日目だ。このままでいいのだろうか。オレだってずっとキバナを守ることができるだろうか。オレは恐らく、オレ自身の力不足でキバナの命に責任を持つことができない。 『なあキバナ、ここにいていいのか?』 キバナは相変わらずニコニコ機嫌がよさそうに、オレの脚をベタベタ触っている。こちらも相変わらずで人魚は答えたい返事しか答えないらしい。 『オレたちずっと居られるわけじゃないんだぜ?』 人魚にない器官に夢中になって、摩ったり撫でたり、足の指をいじくり回したり少しこそばゆい。足の裏を触るのはやめていただきたい。 キバナはどうもオレといつまでも一緒にいられると信じて疑わない節がある。困ったなと、オレはひっそりとため息をついた。 そういうオレも結局のところ、キバナとの時間を楽しいと思いつつある。本当にキバナを思うなら、今からでもオマエが嫌いだと言って立ち上がり、二度とこの浜辺に顔を出さなければいい話である。そろそろオレも決断せねばならない。胸がじくりと痛む。その痛みに目を向けてはいけない。 金春色の水の中、閃光が走るように鱗の縁が煌めく。オレンジに黄色、白。線香花火のように、あるいは流星のように流線型を描いて輝く。鱗の濃い紺色が夜空のようで、どんなに見ていても飽きることがない。 『鱗、綺麗だな………』 うっかり口からこぼれていたようだ。こういう時ばかりキバナは話を聞く。海のような目を、水面のように輝かせると躊躇なく一枚の鱗をべりっと引き剥がした。 『き、キバナ!?何をしているんだ!?』 いきなりの奇行に度肝を抜かれる。キバナは相変わらず気の抜けた笑みを浮かべていて、涙型の鱗をオレに差し出した。 『オレが綺麗だって言ったからか!?キバナ、気持ちはありがたいが自分を傷つけてはだめだぜ』 あからさまに目尻が垂れて、ついでに尻尾もヒレも力なくうなだれて、オレは慌てて言葉を付け加えた。 『でもオレのためにしてくれたんだよな?サンキューな。今後はこういうのはやめてくれよ。せっかくだしコイツはネックレスにでもするか』 今度はぐんぐん鰭と眉尻が力を取り戻していった。キバナも大概素直なやつだなと笑ってしまう。 それにしてもキバナからもらってばかりだ。そう遠からぬうちにキバナと離れることを考えても、キバナのためにオレからもなにか贈れるものがあれば贈りたい。たとえそれがオレのエゴだったとしても。 『キバナはオレにしてほしいことはないのか?』 キバナはきょとんとした後、すぐにウンウンと頷いて毎日恒例のアレを押し付けてきた。毎度思うのだが、なぜキバナはオレに貝を押し付けたがるんだろうか。今日のやつは艶やかな黄色だ。 『えっ貝?勿論受け取るが、それはして欲しいことじゃないだろ』 中身入りじゃない方が嬉しいがそこはキバナとオレの生き物としての違いなので仕方ない。カラスが助けられたお礼にお気に入りのプルタブを渡したりするというが、そんなもんだろうと思っている。人と他の生き物で価値観が異なるものだ。 キバナはうーんと腕を組んで考え込んでいる様子であったが、すぐに何か思い付いたらしく、目を輝かせて身を乗り出して肩にしがみ付いてきた。ぐいぐいと押されて少し痛い。 『なんだ?身体を倒せばいいのか?』 前屈する要領で身体を倒すと、キバナの両腕が首に回った。アレ、と疑問に思うまもなく、眼前に金春色が迫る。ブルーホールのような瞳孔がよく見えた。それから口に湿った、そして冷たい感触がした。 『キバナ!!!』 そんなことどこで覚えたんだ、結局オマエは悪戯か! 青空にオレの怒声が響き渡った。 * * * * * * * * 「もう明日には帰っちゃうのねえ、寂しくなるわあ。若い人が盛り上げてくれて嬉しかったわ。あなたの研究だったらいつでも手伝うから、またきてちょうだいね」 村で一番俺を気にかけてくれたご婦人は、寂しそうに俺の手を摩った。この年齢であれば今生の別れになってもおかしくはないので、言葉の意味以上にのしかかるものがある。 不便な生活だったはずなのに、終わってみればとてつもなく充実していたような気がする。具体的になにと言われてもわからないが、沢山のもので埋めてもらったような感覚だ。だからこそ俺は最後に一つ、村のためにもこれだけは伝えようと思っていた。昨日見た夢の男のように、終わる前にやっておくべきことがあるような、よくわからない使命感に駆られていた。恐らくこの時の俺はかなりあの夢に感化されていたのだと思う。 「少し気になっていたのですけども」 だから俺は意を決して尋ねた。 「センセイの研究は手伝われないのですか?俺との研究が盛り上がるなら、センセイのだって盛り上がると思うんです。でもずっと閉じこもってるみたいで……」 「あの子はだめさあね」 「だめなんですか」 驚く程に即答だった。俺が許されて教授が許されない理由が、全く理解できなかった。他の老人たちもしきりに頷いている。皆一様に神妙な顔をして俯いた。 「人魚に取り憑かれているのさ、かわいそうねえ」 夫人は岬の方角を見遣った。晴渡った空の向こう、ターコイズブルーを見渡す研究所の方角を。軽蔑をしているのではなく、心底哀れんでいるような目を向けている。俺がこの島に降り立った時に抱いた感情をナイフのように突きつけられたかのような気分であった。 「受け入れられんのさ。だから人魚なんぞ追っている。なに、あの子のことはそっとしといてやってくれ」 かわいそうな子なんだよ、と嗄れた声で言った。カッと頬が熱を持った。かつての俺に対しての憤りなのか、老人たちに対する怒りなのかわからなかった。 人魚を信じて追いかけることがどうしてかわいそうな事なのか。俺はたしかに人魚を信じてはいないが、教授の生き様は決してかわいそうなものではない。老人たちの言葉が、この時の俺には全く理解ができなかった。 明日には発つというのに、俺の心は嵐の海のように荒れ狂っていた。この島にくるまでも時化に襲われたがそんなものの比ではなかった。 どうにも不快な気持ちが胸のうちから溢れ出して寝付けそうになかった。耳許でガラスに爪を立て続けているような、心にやわやわと爪を立てられているような、とにかく耐え難い精神的苦痛に苛まれていた。 うろうろと落ち着きなく部屋を歩き回って、そこでふと気がついた。まだ写真を返していない。うっかり引き出しの外に出したまますっかり忘れていたのだ。俺は何度この写真のことを忘れるのだろうか。 少し色あせた銀写真を手に取る。少しだけ若い教授が金春色の海を背に笑っている。目を細め、髪をたなびかせ、サヨナラを告げるように手を振っている。穏やかなワンシーンのはずなのに、やはりこの写真はいつ見ても胸が張り裂けそうになるような切なさを覚えた。何故なんだろうか、少し若いだけでこれほど印象が変わるものなのだろうか。 とにかく明日この写真を返そう。人様のものではあるが、忘れてしまったら元も子もないので明日着ていく予定の上着に押し込んだ。一応丁重に押し込んだので折れ曲がったりはしていないと思いたい。 ———明日でこの島ともお別れか。少し気持ちが落ち着いて眠気がやってきたので、俺は寝室に向かった。 * * * * * * * * 今日で最後にしようとオレは決めていた。長引いては決心が鈍るだけだ。無邪気で美しい人魚は人と共に生きてはいけない。能天気で悪戯好きで人懐こい彼を抱えて生きていけるほど、オレは守れる力を持たないだろう。生き物に責任を持てないなら生き物に関わるべきではない。例え別れを惜しむ心があったとしても、これは金春色の海に見た泡沫の夢なんだ。 きっと彼は今日もあの浜辺にいるだろう。 『やっぱりいた、キバナ!』 つまらなそうにぼんやりと空を見ていた美しい人魚は、一瞬で相好を崩す。若者が殆どいないこの島で、同じ年齢くらいの男の人魚に出会えて、この柔らかい表情を見ることができて幸せだったなと思う。 今日は珍しくキバナは湾になった岩礁の外側にいるようだった。いつもなら我が物顔でこの浜辺で遊んでいるというのに。 オレは岩場の上を歩いてキバナの目の前までたどり着くと、出来る限り視線が近くなるようにしゃがみ込んだ。金春色の海と同じ色の瞳が、無垢にオレを見上げていた。 『キバナ、今日は話があるんだ。聞いてくれないか』 しかしキバナは相変わらずだ。オレの話が聞こえてはいるが、きいてはくれない。何かあちこち探り回って、いつものように生きた貝を差し出した。今日のカラーはターコイズだ。 あまりのキバナのマイペースさに吹き出してしまった。結局この行動の意味も分からず終いだ。 『キミは本当に変わり者だな、キバナ』 人に懐いて毎日せっせと貝を貢いで。自分の鱗を剥がすことも躊躇しない。悪戯好きで子供のような人魚だった。それでながら心奪われそうなほど美しい存在でもあった。この島の海が一番美しいと信じていたのに。目を伏せて浮かぶ金春色は、いつのまにかこの海の色ではなくなっていた。 キバナから受け取るのはこれで最後になるだろう。海色の貝を手に取ると、オレはポケットの中に仕舞い込んだ。 『聞いてくれキバナ、大切な話なんだ。………キバナ?』 突如キバナが俯いた。オレのこれから伝えたいことがもう伝わっていたのだろうか。ずきりと心が痛む。決して傷つけたいわけはなかったのに。 そう思っていられたのも、キバナが再び面を上げるまでだった。頭を擡げたキバナの口元はルージュのように赤く染まっていた。どういうわけか腕に噛み跡がある。 『なんで怪我をして………』 キバナの腕に手を伸ばして逆に掴み取られた。キバナが口を開く。サメのように鋭く尖った歯がオレの足首に食い込むのを、オレはただ呆然と見つめていた。いつもの優しげな笑顔は消え失せ、獣のようにギラつかせた金春色がオレを捕らえていた。 『ひっ、…キバナ?』 抵抗するまもなく海に引き摺り込まれた。すぐにキバナは口は離してくれたが、オレの身体を押さえ込むように遠くへ、沖へ、底へ沈んでいった。 水面越しの太陽が遠のいていく。口から吐き出された気泡が連なった真珠のように煌めく。ゆらりとオレの髪がキバナの尾鰭のように揺蕩う。二人絡まり合ってゆっくりおちていく。 キバナは優しく微笑んだ。あの、人好きのする、オレの好きだった笑顔。 金春色の瞳が見つめている。ギラギラと夏の日差しのような強さを秘めて、オレを覗き込んでいる。海の色、キバナの色。 (ああ、綺麗だ…) 顎を開かされた。何か冷たいぬめるものが口に入ってきた。血の味がする。甘い味がする。ぼんやりする。 身体を底にむけて押し込まれ、噛まれた足首が浮き上がった。牙で傷つけられた痕の周りに、鱗のようなものが生えているのが目に映った。 ———金春色。オレが一番美しいと思った色。 ゆっくりとオレは目蓋を閉じる。暖かい何かがそっとオレを包み込む。どこからともなく、ずっと聞きたかった、聞いたことのない声が囁いた。 『やっと、てにいれた』 * * * * * * * * 心臓が恐ろしいほどに鼓動を打っている。最後の夢はあまりにも強烈だった。人魚に引き摺り込まれ、人魚に成る夢。こんな夢を見たのは、昨日ヒートアップしてしまったせいだろうか。よろよろと立ち上がってカーテンをめくると、空は雲ひとつなく爽やかに晴れ渡っていた。凪いだターコイズブルーの海が広がっていた。あの恐ろしい人魚の色。 窓から俺は飛び退いてしまった。違う、アレは夢だ。現実ではない。そもそも教授は生きているし人魚ではないのだ。きっと今日だって、見送りに来てくれるはずだ。 果たしてこの島にきた時のように、教授はシャツを胸元までだらしなく開けて見送りに来てくれた。くたびれた白衣を身に纏い、長い藤色の髪が風に揺れていた。 その姿を認めて、俺は心底安心した。やはりアレは俺がみたくだらない夢だったのだ。教授が海に飲み込まれて人でなくなる夢など縁起が悪い。きっとこの島を去る寂しさから勝手にこんなふざけた夢をみただけなのだろう。 「大変お世話になりました」 「おう、また来てくれよな」 腰を大袈裟なほどに折り畳んで、俺は深々とお辞儀をする。随分と迷惑をおかけしたし、いろんなことを知れたと思う。ここに来た時は春であったが、そろそろ春もおわりに差し掛かっていた。気温も摂氏三十度を超える日が多くなり、さすがの教授も白衣を腕まくりして暑さを凌いでいた。俺はとても慎み深いので、それでは白衣の意味がないのではという言葉は噤んでおいた。 「センセイの研究が、報われますように。心底願っています」 「はは、そうなるといいな」 そうして頭を上げて、教授に背を向けて。定期便のステップに足を乗せて。上着のポケットに手を突っ込んで気がついた。そうだ、これをまだ返していなかった。やはり昨日のうちに上着に入れて正解だった。 慌てて教授の元に駆け戻ると、息を切らした俺に元々大きく丸い目をさらに目を丸くしていた。 「どうしたんだ?」 「センセイ。これ、外で拾ったのですけども、お返ししますね」 「ん?」 「写真です、どういうわけか海に浮いてましたよ。風に飛ばされたんでしょうかね。……センセイ、昔は髭を生やしていたんですね」 今の落ち着いた教授には似つかわしくない、牙を模したような髭。教授にもやんちゃな時代があったのだなと少し面白い気持ちになっていると、鬼気迫る勢いで写真をひったくられた。 見たこともないほど怖い顔をして真剣に見つめている。手がブルブルと小刻みに震えている。泣き出しそうに顔が歪んでいる。 「センセイ?」 「違う」 「え?」 「オレは一度もヒゲをはやしたことなんてないぞ」 汐風が凪いだ。鴎の声が途絶えた。波音が遠ざかる。 教授は膝から崩れ落ちて、彼と同じ ﹅﹅﹅﹅ 紫色の髪がふわりと舞い上がった。あの最後の夢のように。 ———まさか、あれは。そういうことだったのか。 「アニキ………」 ぽつりと。溢れでた縋るような慟哭は、金春色の波にさらわれていった。 【終】 懺悔:ホップくん本当にごめん。 あと最初から読むと意味のわかる描写が結構ありますんでなんかコラと思った是非… 最近流行っているようなので人魚パロのダンキバ呟いていい?いいよ!まず人魚にはミロカロスやジュゴンが仲間の派閥とサメハダーが仲間の派閥があってkbnさんはジュゴン側、dndさんはサメハダー側で、ひょんなことから2人は出会って意気投合するんですけど相容れない派閥のため2人で人間になろう!って逃げて薬を手に入れてあとちょっとでヒトになれる!っていうところで争いに巻き込まれて死ぬ。 2人とも人魚のダンキバ 人魚なんて今この時まで信じていなかった (あんな目立つところでいちゃつきやがって…… それを眺めてた人間ネズ ダンキバ、ネズに気付き海に潜る ある日、ダンキバ2人が人間になって浜に流れ着いてるのを拾う なんでオレを頼るんです オマエ、にてる トゲトゲ、なごり どうやらこいつらはオレとヒドイデが似ているから海生まれの陸生活の先輩だと思っているらしい 人間になった先輩がいると分かって自分たちも人間になったとのこと キバナの額(耳でもいい)人魚の名残があったのでヘアバンド リリーラみたい 陸上でしばらく暮らすがダンデが日に日に弱っていく ダンデの方が海で力を持ち海に近い存在だったので陸上に合わない ダンデは海に愛されており、海が呼んでる。 オレさま、オマエと死んでも良いけど、やっぱりオマエが生きてる方が良い キスをしてキバナは泡になり代わりにダンデにはヒレが戻って健康な元の人魚に戻る なるほどこれは海に愛されている 2人はかけおちしたカップルのようで、それを知っていた魔女がどちらか片方が別離を望んだ瞬間に、望んだ方は泡となり消えて残された方は人魚に戻る薬を与えたらしい。 意地悪な。 海に運ぶ ダンデ、姿を消す ネオラントキバナ カイオーガ 色違いダンデ 人間に見つかりやすい場所に仲間は来ないので人間から目立つ場所でいちゃついてたのはわざと。 そこでネズを目撃し、「海洋生物が人間になり陸生活してる前例がある!」と思って薬を手に入れ人間になった。ネズに最初はバリバリの海語で話かけてたけど言葉が通じないと分かって「(まあサカナとヒトデじゃ言葉違うか」と勝手に納得していた かえろう さいごにこれだけ ごめんな 「いつもいつも深海まで来てくれてありがとうな」 「暗闇に佇む星は見つけやすいから平気だ」 今日は久々に恋人との合瀬だ。ダンデの竜胆色の尾がオレのヒラヒラとした鰭を優しく撫でる。 先祖返りした上に色違いのダンデは海に愛されており矢鱈と体が強い。基本的に深海で暮らしているオレと違ってダンデは浅瀬にも海底にも瞬時に自由に移動出来る。そのせいか、デートは普通の人魚のオレを心配して深海ですることがほとんどだ。たまに地上付近にも行くがその時は急な水圧変化が体の負担とならないようにゆっくりと上がる。その深海から海面までのデートは結構好きなのだがダンデがあまりにも甲斐甲斐しくオレの世話を焼くため恥ずかしく、そのデートはオレが誘った時のみとしている。オレだって口から内臓は出したくないのでそのエスコートはありがたいのだが限度というものがあるのだ。 地上付近にあまり行けないオレのためなのか、ダンデはよく地上の話をする。と言っても陸で生活している者達のことはわからないので、あれはなんだろうか、この前見たあれはきっとこうだ、という想像を膨らませた話だ。その話をするダンデの顔は好奇心に満ち溢れたもので、聞く度に少しの間だけでもダンデを人間にして地上での生活をさせてやりたいと思う。ダンデは海に愛されていると言ったがそれと同時に海に縛られている。どこぞから先祖返りを聞きつけた古めかしい連中によって将来が約束されてしまっているのだ。今はオレとも会えているが長い年月を経てコイツは海の神子になる。 地上なら、人間だったなら、そのようなしがらみもなく真に自由なダンデを見られたのだろうな、と思う。 「いいなあ」 「!デートか!?それとも今すぐに地上を深海にしようか!!そうすれば君も心置きなく見られる」 「待て待て待て」 そうじゃない、とダンデを止めるが何故という顔であまりにも真っ直ぐ見つめられたので少し目を逸らし頬を掻く。 「地上だと同じ場所で同じ酸素を吸ってずっと一緒に居られるんだろう? それが少し羨ましく思っただけだ」 顔に熱が集中していくのがわかる。ネオラント特有の鰭の明るさのせいで深海の暗さも肌の濃さも赤面を隠してくれない。ダンデの尾が嬉しそうに揺らめくのが見えた。 「オレは1人では人間になりたくないな。なるとしたらキバナと一緒が良い」 「……次のデートは海面にしようぜ」 「ああ!」 くるりくるりとダンデはオレの周りを遊泳した。柔らかい水流の流れが肌に心地良い。このような愛おしい時間を楽しめる日々がずっと続けば良いと思うのにそれは叶わない願いだと知っている。 やっぱりダンデを人間にしたい。海の神子となる前に、ほんの少しでもいいから地上での生活を味わせてやりたい。そのためなら、オレはどうせ未来では別れる運命なのだから死んだって構わない。 とりあえずは、次のデートが楽しみだという気持ちを込めてダンデにキスをした。 シャチさんはじめまして……!あの……シャチさんの地獄の二ヶ月シリーズの……緻密な文章と意志が強い男達のすったもんだが大好きで………ピクシブの方でブクマさせていただいてます!!フォローバックありがとうございます!!よろしくお願いします…………! 「キバナ教を作ろうと思う」 「帰っていいですか?」 シュートシティのとある一角のパブにて目の前の男はとんでもないことを言い出した。手元にある酒を、そしてこの酔っ払いを置き去りにして帰りたい衝動に駆られる。 今日は本来ならば該当のジムがある場所で行うジムリーダー引き継ぎの書類をバトルタワーで忙しくしているダンデを気遣って届けに来たのだ。そのお礼に、と飲みに誘われタダ酒が飲めるとホイホイ付いて行った。遠慮なく頼め、と言われたので書類を渡しただけなのに偉く気前が良いなと思いつつもハーフパイントで様々な酒を注文し、ちゃんぽんを楽しんだ頃合いに相談に乗ってほしいと頼まれたのだ。 なるほど飲みに誘った本当の理由はこれか、と思い至った。ダンデはホップの兄であり、今までガラルを導く存在として君臨していた。どちらかといえば今もそうなのだから、そりゃあもう悩みを相談出来る相手も少ないだろう。そのため、兄仲間として自身に相談を持ちかけてきたのだろうなと思った。いいですよ、と言葉の先を促したらこれである。後悔していた。 「待ってくれ。誤解だ」 「誤解も何もねえと思うんですけど」 ダンデの顔はかなり赤く染まっている。羞恥ではない。飲み過ぎだ。どう見ても素面ではない。自身もこんな話はマトモに聞いていられないとアルコールを煽った。パブの人々のざわめきが脳内をかき乱す。良い耳が台無しになっていくのを感じた。 中身が何であれあのダンデがおれに相談を持ちかけてきたのだ。乗り掛かった船だ、最後まで聞いてやろうと覚悟を決めた。よし。 「何故そんなことを?」 「まずキバナはオレの最高のライバルだろう?彼が居たおかげでオレはここまで折れずに強くなれた。この世の中でオレを1番満たすのはキバナだ」 「へぇ」 やっぱり聞かなきゃよかったな。前言撤回だ。掌返しが早過ぎるが仕方ない。酔っ払いの戯言だと聞き流す方にシフトチェンジしよう。惚気だ。熱烈だ。しかしその前に彼らは付き合っていただろうか。彼ら二人がお互い相手に向ける視線に特別な光を湛えているのは一目瞭然で両思いということはわかり切っていたので早くくっつけと思っていたがそれは杞憂だったのだろうか。 「オマエら恋人でしたっけ」 「? 神と恋人にはなれないぞ? 何を言っているんだ?」 「聞いたおれが馬鹿でした」 ダメだ。下手に反応したらもっとダメだ。もう適当な相槌で全て返そう。 「キバナは素晴らしい人物だ。努力を惜しまず、何度でもオレに喰らい付き、ポケモンを愛している。流行に敏感ですぐに新しい戦法でオレを追い詰める。SNSも巧みに扱い、銀行のスポンサーも付いてる」 「そうですね」 キバナは奇抜な見た目に反して真面目な男だ。宝物庫の中でバトルするのはいくらタペストリーがレプリカといえど不味いのではと思ったこともあるが、ジムトレーナーにも慕われている。扱いの難しいドラゴンタイプもしっかりと育て、ヌメルゴンとコータスという成育環境の全く違うポケモンを世話することに苦を感じていない。ポケモンブリーダーをやれるほどの腕前だ。 「キバナは雨にも負けず、砂嵐にも負けず……メロンさんとオレには負けるが丈夫な体を持ち……欲は………バトル欲があるが他に惑わされることはない。温厚で決して怒らずいつも笑っている……」 「そういう人になりたいんですか」 「違う」 ノってやったが違うらしい。酒臭いため息を吐く。ロックのグラスを揺らして氷をカランカランと鳴らした。 「キバナはファンが多いだろう」 「まぁ、オマエには劣ると思いますが」 「そうやって慕い、"信者"と自称する層もいることを知った」 信者という呼び名は一部のオタク的なファンがネタのように使っているのを自身も見たことがある。他にも急な公式発表の後には村が焼けたという表現をしているのも見た。 「そう、キバナ教はすでにあるんだ。宗教は自由だ。オレもそこに入信したいと思ったがどうにも、信仰度が低い。福音書も教典も無い」 そりゃ本当の宗教じゃねえですもの、という言葉は酒と共に飲み込んだ。 「だから新しいキバナ教を作ろうと思った。キバナはオレのねがいぼしだ。キバナが居ないとオレはダイマックス出来ない。新しい教えに今までの信者がついて来なくてもいい。信者はオレ一人でも充分だ。むしろその方が良い」 「そうですか」 「空飛ぶヌードルポケモン教もあるんだ。オレが新しく宗教を作っても問題はない」 未来を担うリーグ委員長兼バトル施設のオーナーが急にそのような私欲にまみれた宗教の教祖になったら問題どころの騒ぎではない。スマホロトムのトップニュースに載るだろうし、それこそナックルシティの歴史を重んじる造詣の深い男がそのような斬新過ぎる宗教を許さないだろうなと思った。 「そういや相談にしちゃかなり決意が固まってますけど」 聞いてから嫌な予感がした。相槌で返し続けようと思っていたのについ気になって聞いてしまった。やけにギラギラとしたダンデの瞳がおれを貫く。 「そうだな、これは決意表明に近い。いや、でもここまでは前置きなんだ。キバナ教は作る。そこで賛美歌を作曲しようと思って」 「帰っていいですか?」 「もう歌詞は書いてきたんだ。しかし楽器の演奏も歌ったこともあまりない。そこでキミにメロディーラインを作って貰おうと考えたんだ」 「帰っていいですか?」 ダンデが文字のびっしり書かれた分厚い紙の束を渡してこようとするので酒のグラスを握り締め手を塞ぎ必死に受け取らないようにする。そうしていると腕の上に置かれた。重い。物理的にも感情的にもかなり重い。斜め上に止められたホチキスが紙の厚さに耐え切れず悲鳴を上げている。可哀想だ。 「本当は俺一人で全て作れたら良かったのだがホイップはマホイップに頼めと言うだろう。専門家に任せた方が良い」 「はあ、そうですか。そういえばキバナにはこのこと話したんですか」 「まだだ」 怖いもの見たさで1枚だけ、と1番上の紙に書かれた歌詞を目でなぞる。言葉選びが上手く、愛の表現の仕方にこんな比喩法があったのかと感心する。結構フレーズが良かった。そしてどこぞの地方のエネココアに砂糖を増し増しにしてホイップをブチ込み、付け合わせにタルップルの背中の皮があるアフタヌーンティーよりも甘いので3行目で読むのをやめた。 「とりあえずキバナを呼んでいいですか」 「いや、これは内密に進めたいんだ。彼はサプライズが好きだろう。SNS映えもする」 サプライズ過ぎる。ビックリするだろうな〜なんて軽いものではない。こんなSNS映えは嫌だ!というネタにされると思う。 「宗教の信仰対象にしたいのなら相手から許可を得ないとダメですよ」 「そうなのか?」 「そうです」 嘘だ。新興宗教の作り方なんぞ知るか。本当にこの酔っ払いを置いて帰りたいが店に迷惑がかかる上に翌朝のニュースに『リーグ委員長ダンデ泥酔!?』と載ることは必至だ。 キバナを話題に出したのはどう見ても自分の足ではダンデをタクシー乗り場まですら運べないので呼ぶ理由が欲しかっただけだ。ジムチャレンジの終わったオフシーズン、特にエキシビションといったイベントも今日はナックルシティでは行われておらず通常業務のはず。退勤の時間は過ぎている。呼んでも問題は無いだろうしダンデ関連となればあの男はすぐに飛んでくるだろう。失礼しますよ、とダンデに断ってからキバナに電話をかけた。3回程待機音が鳴った後にキバナの声が聞こえる。 「もしもしキバナですか?ダンデの野郎が大変なので来てください。場所はメールで送ります」 簡潔に伝えて電話を切った。メールで場所を伝えてスマホを閉じる。キバナからしつこく折り返しの着信が来ているが無視した。ダンデがこれ以上悪化しないように酒と水をすり替える。 しばらくしてキバナからシュートシティに着いたとメールがあった。数分後、店に入ってきた長身の男を見つけ手を振る。焦った顔で入店してきたが赤ら顔のダンデを見て安心したように息を吐いていた。 「コイツ、すげえ酔っぱらっちまって大変なんですよ運んでください」 「悪いな、ネズ」 「本当に早く引き取ってください」 「キバナ………?」 「おう、呼ばれて飛び出たキバナさまだぜ」 視界にキバナを入れたダンデがノロノロと背筋を伸ばし始める。やった。これでこの地獄からも開放される。喜びも束の間、ダンデの目が座りキバナを一心に見つめている。ネイティオではなくても未来が見えた。 「キバナ、話があるんだ」 酔っ払いの突拍子もない行動を舐めていた。いや、話の流れを考えれば当然ではあった。ダンデがキバナの手を取り熱っぽい視線を送る。キバナの返事も聞かずにダンデが口を開いた。 「キバナ、絶対に後悔はさせない。オレだけのカミサマになってくれ」 「えっ………とオレさま、カミサマになるのは無理だけどダンデだけの人間になれるぜ?」 こういう時にどのような表情をしていたら良いのかわからない。笑えば良かと思うよ、と妹の声が聞こえた気がした。キバナの言葉を聞いたダンデが顔を綻ばせキバナを抱きしめた。賛美歌の書かれた紙の束をキバナに押し付けようと思っていたが彼の手は塞がっているので服のフードの中に突っ込む。キバナの首が締まってグェッと潰れたオタマロのような声がした。 「それ、ダンデがテメェに向けて書いたラブレターです」 「鈍器じゃなくて?????」 キバナがクソ困惑した声を上げる。うるせえ。 「まあ、オマエらの結婚式には歌を贈りますよ。なのでほんと、もう」 まずは、飲みの最中に無視され続けた言葉を贈ろう。 「帰っていいですか?」 頭のおかしいダンキバが読みたくてnzさんに犠牲になってもらいました。nzさん視点で進みます。ほぼダさんとネさんの会話文です。突然始まって突然終わります。 デレステ 246067009 ふーちゃん https://www.pixiv.net/users/15451411/manga 剣盾インタビュー記事 https://t.co/h5ps7PtoDr?amp=1 編集済み @TENOjinoHAKA › だれでも かすたろうさんへ。昨日の話のやつ最初に含んでるから飛ばしてね。他の方は超閲覧注意だよ。死ネタの類のkbdnになるので。 【閲覧注意】 ・死体ネタ ・死ネタ ・死後ネタ ・人によってはグロテスクと取れるかもしれない ・ハッピーエンドの後の話やハピエンにすらならなかった話ばかり ・暗い 大丈夫? 人を選ぶどころじゃないよ!気をつけて! むしろこれをパス制にすべきではってくらいアレな話なので気をつけて オッケー?しらないぞ! 推したちが自分たちの時間を終えて天寿を全うした後に、後世の人間が再検証して正しく事実が理解されないまま消えていく、っていうのがすきですきで。人魚の話書いてたけどあの二人がいつか死を迎えた時に身元不明の遺体として浜に打ち上げられて「なぜ片方に足があって片方にはないんだ?(※人魚にされた人間は足の名残があるよ!)」「男同士のようだけどなんで手を繋いでるんだ?心中か?」とか検証された上結局正体がわからず行旅死亡人に掲載された後に無縁仏入りするとか激しく興奮してしまった。「愛した人は僕しか知らない」ってやつ。 あるいは歴代最高のチャンピオンと名高いダンデ死没100周年記念!とかいって遺品晒されて欲しい。で、キダにならなかった世界線でダがキのこと好きだった場合、こっそり恋文を認めて欲しい。それでキが死んだ時に棺桶に入れて持っていってもらおうとか思ってたら思ったより先にダンデが亡くなって(???)手紙処分できなくて、それが死後しばらく経ってから見つかってしまって遺品として保管されてたんだけどダンデを知る人がほぼ亡くなった後世で史料感覚で晒しちゃう。 学者はダンデがヘテロ前提で検証するから恐らく共にチャレンジャー時代を過ごしその後も親交があって、結婚したソニアにあてた気持ちだろうって勝手に決めつけて欲しい。あのチャンピオンも恋愛にはウブだった!?とかテレビで特集してほしい。実際はキへの気持ちなのにね……ポケモン、とりわけゴチルゼルとかエスパー系ゴースト系の子たちは手紙が誰にあてられたものを理解してるからちょっと複雑そうな顔をしたらいいな。 たまに歴史の人物の恋文展示されてるのとか見るけどあれたまったもんじゃないよな…黒歴史やん…って毎回思うから… ※あるいは何らかの事故か何かで死んだのではなく時を止めてしまったダンデ。腐敗もしないけど呼吸もしない。心臓だってとまっているけど死んではいない。キもなんとか助けようとアレコレ手を打つけども結局どうしようもないままキの寿命がきてしまって、他の研究者の手に委ねられるけど戦争がまた起こったりして研究所手放すことになっちゃって、当然ダンデの輸送なんてかなわないので置いてけぼり。で、百年単位の時間が経過して史跡調査に来た研究者たちがダンデを発見。息はしてないし脈はないから死体だと思いこむ。めっちゃすごいエンバーミング技術じゃん!で世界で一番美しいミイラとして扱われてしまう話。調査隊に転生したキバナがいるといいなあ、前世記憶がないけど何故かその地にめちゃくちゃ惹かれちゃうキバナ。オチはあんまりな話なので書きません(察して) エンバーミング系のネタだと∞戦の傷が原因でダが夭折しちゃって、英雄として崇めたてられてレーニンやロザリア・ロンバルドみたいにガッチガチにエンバーミング施されて(後者ぐぐると結構ミイラの画像出てくるから耐性ない方気をつけてね!)展示されちゃうダもいいと思う。絶対にキバナやほpくん達嫌がるし拒絶すると思うけど。キバナはダンデが家では履き潰した靴下履いたり、ポケモンたちが気にいるおもちゃを作ろう!でうんうん悩んだ結果ダンデボールとかいうとんでもない代物作り出してポケモンには不評だったりとか、英雄らしからぬ一個人や地に足のついた人間としてのダンデをたくさん知っているのに、こうやってエンバーミングまでされてダンデの個人像は死んで英雄像が一人歩きしていくっていう話 そういえばXYにてAZにゃんが3000年くらいコータスとかゴルーグ連れ回してたっぽい感じだったけど、キバナのコータスはキバナより断然寿命が長いのではないだろうか。キバナの死後もコータスは生きるのでいろんなトレーナーの手を渡り続けるのもいいな。で、そのうちキバナのコータス→キバナの→キバナってコータスの名前がキバナになってしまうとかいいと思う。特別なコータスだけどなぜキバナって名前なのかどんなコータスだか誰も知らない。 でも私ハピエン厨だから救いが欲しくなっちゃうな…来世で会うとか奇跡が起こるとか。ハピエン厨ってわりにはここ最近書いたそこそこ長いやつ全部明るくない気がするが?????? 逃すつもりの無い王様 「さあ、キミの答えを聞かせてくれ」 「オレは常日頃死んでいる。 しかし、バトルの時にドクドクと胸を高鳴らせ脈打つ血潮が生きていると実感させる。 キバナ、キミはオレの心臓だ」 キバナ、 「オレはキバナが人殺しになると悲しい」 「オマエも人殺しになりたくはないだろう」 黒背景に白でキラキラ オレはキバナに人殺しをしてほしくないしキミもなりたくないだろう オレはキバナに殺人をさせたくはないし オマエも殺人はしたくないだろう 「そういえばオレさま、オマエに勝ったの?」 「昇格試験だからな、オレも本気で戦ってはいるが勝って貰わないと困る。それに、チャレンジャーを一切通さないジムは無いだろう?ビギナー級のオレには勝てるだろうと思っていたさ」 「は?まるでランクが上がったところで待ち構えるオマエにオレさまは勝てないみたいな言い方」 「やってみるか?」 「望むところだ!」 子供の頃からバトル諸々で無茶する度にまんたんの薬やかいふくの薬といったポケモン用の傷薬で治療していたけれどもそれらはあくまでも"ポケモン用"の強力な薬のため身体がそれに合わせて変化しちょっとずつ人間ではなくなっていってるdndさんとそれに気付いたkbnさん 本製品はポケモン専用であり、ヒトに使用することを想定して作られておりません。ヒトの目に入ったりヒトの傷に誤って噴霧してしまった場合には速やかに水で洗い流し医療機関を受診してください。 ダンデの居ないトーナメントをし、心の中にモヤモヤとした暗雲が立ち込め目的を見失っているところに届いた電話は青天の霹靂であり、自身はライバルのダンデと戦いたいだけなのだと気付かされた。 シンオウの神話をご存知ですか。昔はヒトもポケモンも同じだったという。 今でもヒトとポケモンは境目が曖昧なんです。そこにポケモン用の物を使用し続けたことによって身体がそっち側に寄っていってます。かと言って、完全にポケモンになったわけではありません。 昨今のガラルの様子は目紛しく変わった。エネルギープラントの問題に加え、最強王者ダンデが敗れ、新チャンピオンの就任、ジムリーダーの代替わりエトセトラ。それらの騒動から暫く経ったある日、バトルタワーの運営がようやく軌道に乗り余裕が出てきたから遊びに来ないか、とダンデに誘われた。二つ返事でOKを出し、ジムの仕事を最新記録で終えてタクシーに飛び乗りタワーに着いたのが今である。 手早く受付を済ませ、ダブルバトルのビギナー級に乗り込む。順調に勝ち進み、昇格戦まで漕ぎ着けた。 「待たせたなダンデ!」 「ああ!いくぞ!!」 ◇ バトルが終盤に差し掛かり、お互いに手持ちが1体となった。宝物庫という閉鎖空間での天候バトルも慣れてはいたが、タワーの内部という屋内にしては広く屋外というには狭い空間に吹き荒れる砂嵐は初めてで分が悪い。ダイマックスのターンが切れ、ジュラルドンが本来の大きさに戻る。それは相手も同じでリザードンも元の大きさに戻っていた。辺りを囲うように舞う炎をギリギリ耐えたジュラルドンがこちらを見たのでそれに頷きを返す。屋内独特の砂嵐に加えキョダイゴクエンの余波で残った炎の熱による上昇気流が起こす乱気流に呑まれたのか、リザードンの翼がふらついた。その隙を狙い指示を出す。 「ジュラルドン!ストーンエッジ!!」 鋭く尖った岩が駆け抜けるようにダンデ側に伸び、リザードンの急所に当たった。リザードンの体に当たった岩が砕け、風に煽られた欠片がダンデに飛ぶ。 「グッ」 欠片がダンデの額を掠めた、と同時にパッと赤い血が弾ける。ダンデを倒したことよりもそちらに気を取られる。血が出ていることに気付いていないのかダンデは倒れたリザードンを見て帽子で顔を隠し悔しさに震えていた。 「流石だぜ!キバナ!キミとの勝負は最高だ!バトルタワーでのランクを上げるぜ!!」 「ダンデ!傷!」 ジュラルドンをボールにしまい駆け寄る。ダンデは少し首を傾げ、額の汗と思っていたのか手の甲で拭った液体を見てから気付いていた。ポケットからハンカチを取り出し、傷を押さえさせる。 「当たっただけだと思っていた」 「医務室行くぞ。タワーにもあるんだろう?」 タワーの地理は分からないのでダンデの先導する通りにタワーの道を進む。辿り着いたのはポケモン用の医務室だった。 「こんな時に方向音痴発揮してんじゃねえ!」 「いや、合ってる」 ダンデはポケモンの入ったボールをメディカルケースに入れた後、隣の棚から見慣れた紫色のスプレーボトルを取り出した。ポケモン用の傷薬である。鏡の前で傷の位置を確認したダンデがそれを額に噴霧した。 「おっっっっまバカ!!何やってんの!!」 ポケモン用の傷薬はあくまでも"ポケモン"専用の傷薬だ。ヒトの傷が治る訳がない。なのに 「バカとは失礼だな」 ダンデの額はつるりと、傷痕も無く綺麗になっていた。ぺたり、と傷があったはずの場所を触ると乾いた血がパリパリと落ちるだけだった。 「ダンデ、どういうことだ。オマエまさかポケモンってことはないだろう」 「勿論だ」 ダンデの瞳をジイっと見つめる。嘘ではないようだ。それに記憶の中のダンデの母も弟もまごうことなき人間だ。 「キバナ実はな、ポケモン用の傷薬も人間に効くようになるんだぞ」 「はあ!?」 ダンデの話によると、子供の頃からちょくちょく使っていたらしく、最初のうちは染みるだけで全然効かなかったが次第に傷が治るようになってきたとのこと。 昔からコイツのスタミナちょっとおかしいなとは思っていた。チャンピオン時代はガラルの各地を疲れなく駆け回り、そしてトドメはムゲンダイナとの戦いの際に意識を失う重傷を負ったはずなのにまるで軽傷だったかのように3日後のチャンピオンマッチで全力を出していたことである。ポケモンの傷を全回復するような薬が子供のお小遣いでも買える程に医療は発達している。しかし、それはあくまでもこの星の不思議な不思議な生き物用の話で、ヒト用の医学はそこまで発展していない。だからこそ、コイツは人並み外れて体力があるやつなのだと思っていた。 「ちょっと待て、もしかしてムゲンダイナとの戦いの時も」 「ああ!流石に初めて食べたのだが、げんきのかたまりの味は意外と悪くなかったぜ」 確かそこから傷薬の効きも一段と良くなったな、とダンデは独言ていた。自身の持っている傷薬を取り出し、裏面の注意書きを黙読する。 『本製品はポケモン専用であり、ヒトに使用することを想定して作られておりません。ヒトの目に入ったりヒトの傷に誤って噴霧してしまった場合には速やかに水で洗い流し該当の医療機関を受診してください』 アウトだ。 「病院行くぞ」 「ムゲンダイナの傷の時に身体の精密検査はしたぞ」 「ポケモンから与えられた外傷の検査とポケモンの傷薬を使い続けている身体の変化を調べる検査は違うに決まってるだろ」 ◇ ダンデの事情を医療機関に通報するとすぐさま検査に回され、頬の内側の粘膜の採取にレントゲンを撮られた。DNAの検査の結果が出るまで数日かかるとのことだったのでその日はダンデ別れ、2日後に結果が出たので付き添って聞いてほしいと言われて再び落ち合った。初診の時はダンデが迷子にならないようにと共に足を運んだが、2度目ならリザードンも覚えた筈だ。何故。 「こういうのって親とか身内とか………家族と聞くものじゃないのか?」 「ああ、だからこそ問題ない」 ポケモン用のあれらの薬はとても強力で、人間が使うと薬の方に身体を合わせようとして細胞が変化してしまう可能性があり使用は禁じられているのですが」 「検査の結果、ダンデさんの細胞は純粋なヒトゲノムとは塩基配列が異なることが判明しました」 遠回り 迷子の道標 流星の道標 暁の流星 ジョウト発アローラ行き 乗り継ぎ無し シロガネ山 強い野生ポケモンが多く生息しているため、博士などのような上層部に登山許可を貰った人しか入れない特別な場所 シロガネ山の登山許可発行の名簿を見せてもらった ガラルのトップジムリーダーって言ったらすぐに通して貰えたぜ ガラルでは見られないダイヤモンドダストの煌めきをリザードンが眩しそうにしており瞬きの回数が増えている 砂嵐にダイヤモンドダストだったものが混じる。ガラルでは見られない気象現象の混じった砂が場を翻弄させる 美しい氷の粒達を荒々しく砂が飲み込む。 山は良いな。上を目指していれば天辺に着く。そしてもう迷わない ッハァ!ゲホッ、ようやく見つけたぜ。 姿を消したチャンピオンはこの山に来るのがセオリーかと思ってな ならとっととオマエを倒してアローラでバカンスさせてやるよ ハハ、ざまーみろダンデ 指をふる テレポート 色違いに会える確率0.0244% 運命の人に出会える確率0.0000034% 0.000000000000006% 0.00000000000000000000002%説もある 隕石0.000000001% キバナ怪我 ねがいごと キバナは理屈っぽいところあるよな オレがガラルに居たらキミはそのままオレを追いかけ続けるだろう? ちゃんとオレさまのリーグカードの裏読んだか? オレの、これからどうなるかわからない人生にキミを巻き込みたくなかった。 未来がわからないことなんて当たり前だろ。散々オレをライバルだなんだと縛っておいて今更それ言う?それに、訂正するとオレさまから巻き込まれに行ったんだよ。 生憎な、ダンデ、バトルタワーの運営もあんなマニュアル1冊ぽっちじゃ務まらねえんだよ。オマエの席は空いたままだ。帰ってこい オマエは1人でも大丈夫だろうし、オマエにはオレ以外もいるけどオレにはオマエだけなんだ N=Ns×fp×ne×fl×fi×fc×L N 銀河系に存在する高等文明の数 Ns 銀河系に毎年うまれる恒星の数 fp その恒星が惑星系をもつ確率 ne そのなかで生命が生存可能な環境をもつ惑星の数 fl そこに生命が発生する確率 fi その生命が知的生命体に進化する確率 fc その生命体が他の星に対して通信をおこなえる確率 L その高等文明の継続時間 太陽も月も全て星 ダンデ、お前は流れ星だ。綺麗に綺麗に燃え上がって、地上の人々の注目を一身に浴びて、そうしているうちに燃え尽きて、オレの元へ落ちてきた癖して、オレの手からこぼれ落ちようとする。 パラサイト ダンデはこれからどうすんの どうもしない。タワーに戻って業務をし、飯を食って眠って、キバナとバトルする それだけでいいのか 贅沢を言うと、キミと朝を迎えたい。 贅沢を言うと、夜の星に共に見守られながら眠り、朝の光をキミと一緒に迎えたい ◇ 「そういえばオレさまダンデのこと好きなのバレてたんだけどどうしたらいい? オレさま、一言も好きって言ってないのに……」 「ハネムーンから帰ってきて第一声それですか? 土産だけ置いてとっとと帰りやがれ」 ◇ 特殊設定及び捏造設定過多のダンキバです。dndさんが後天的に人間ではなくなります。kbnさんは人間です。 ジョウト発アローラ乗り換えガラル行き 昔からダンデのスタミナおかしいなとは思っていた。ワイルドエリアを駆け回り、ヨロイ島での修行もこなし、街の中を迷子になるという行動をしているにもかかわらず元気なのは生来の体力バカが鍛えたことによって備えられたのだろうか、と。 しかしそれは違ったようだ。ジムからリーグへの提出書類の中にどうしてもダンデの意見を聞きたいものがあり訪れたタワーの執務室にて、ふと視線を机の上に向けるとポケモン用の見慣れた回復の薬があった。スプレーの中身が中途半端に減っている。 「あれ、この部屋でもポケモンの治療すんの?」 「いや、これはオレ用だ」 こう疲れた時にな、下手なエナジードリンクよりも効くぞと言ってダンデは手慣れた様子で口内にワンプッシュした。ゴクリ、とダンデの喉が動く。 「怪我は治るし頭もスッキリするんだ」 「は?」 コト、とダンデは同じ位置にスプレーボトルを戻した。机の上で定位置が決まっているようだ。 「キバナ、実はポケモン用の薬も人間に効くんだぞ」 「はあ!?」 指を立ててダンデは口を開いた。何故かそこから目が離せなくなる。ダンデの話によると、子供の頃に怪我をした時に人間用の薬を切らし、何もやらないよりマシだろうと応急処置に使ったのがきっかけらしい。意外にも傷が早く治り効きも良かったのでそこからちょくちょく使用している、とダンデは悪びれもせず述べた。 「まさかムゲンダイナの傷の時も」 「ああ! 流石に初めて食べたがげんきのかたまりの味はそれほど悪くなかったぜ」 ポケモンの傷を全回復するような薬が子供のお小遣いでも買える程に医療は発達している。しかし、それはあくまでもこの星の不思議な不思議な生き物用の話で、ヒト用の医学はそこまで発展していない。ムゲンダイナとの戦いの際に意識を失う重傷を負ったはずなのにまるで軽傷だったかのように3日後のチャンピオンマッチで全力を出していたのはこういうことだったのか、と納得しかけ、頭を抱えた。一方ダンデは、確かそこから傷薬の効きも一段と良くなったな、と独言ていた。ムゲンダイナとの一件の時はこっちがどれだけ心配して、それこそダンデがもしも死んだり後遺症が残ってバトルが出来なくなったりしたらオレは生きていけないと死にそうな思いだったのにこの男は呑気なものだ。そもそもこの薬は人間に使用しても良いのか、と自身の持っている傷薬を取り出し、裏面の注意書きを目でなぞった。禁止事項の一文を読み、ため息を吐く。そのままダンデに見せつけ黙読させた。 『本製品はポケモン専用であり、ヒトに使用することを想定して作られておりません。ヒトの目に入ったりヒトの傷に誤って噴霧してしまった場合には速やかに水で洗い流し該当の医療機関を受診してください』 「知ってるぞ」 「オマエ、消費期限が切れた食べ物も平気で食べるタイプだろ」 「キバナは食べないのか?」 「いや食うけど」 改めてダンデの体をまじまじと見る。どこにも異常があるようには見えない。むしろ健康そのものの体をしている。回復の薬を飲む前よりも肌の張りもあるし目にうっすらとあった充血も消えていた。 「今まで使っていて気分が悪くなった事はないのか?」 「あったらその時にもうやめてる」 咎められているようでバツが悪くなったのだろう。この話はもういいか?とダンデがふわ、とあくびをした。緩みきった顔にこちらも気が抜け、移ったあくびを隠さず返した。ぱかりと大口を開けたオレを見てダンデが笑っている。嘘をついているようには見えない。この様子なら本当に大丈夫そうだ。 「なんかオレさま、ダンデのあくび見たらすごく眠くなっちまった。そろそろ帰るわ。書類のここにサインよろしくな」 「ああ! 今度は是非タワーにバトルしに来てくれ!!」 勿論だ、とヒラヒラと手を振り執務室を出てタワーの入り口にタクシーを呼んだ。ダンデに告げた通り、あくびを見てから目蓋が少し重くなっていた。変だな、昨日は夜更かしもせず、スマホロトムを見過ぎることもなくキチンと睡眠をとったのに異様に眠い。タクシーを呼び、アーマーガアの上に乗った運転手にナックルシティまでと伝え、席に座り目を瞑った。ガタン、と籠が地面に着いた衝撃で顔を上げるとナックルジムの正面まで来ていた。 「ん!? いつの間に」 「いやあお客さんぐっすりでしたよ。ドライバー冥利につきます」 思いの外疲れが溜まっていたのだろうか。アーマーガアタクシーはどれだけ腕のある運転でも籠の揺れは大きい。それなのに眠ってしまうとは。 「おじさん運転上手いな。アーマーガアもサンキュー」 アーマーガアにきのみを与えて労う。首を傾げつつジムの中に入った。ジムトレーナーに挨拶して回り、自身のデスクに座る。タクシーの籠の中は広く作られているが自身の長い手足だと窮屈だ。ゴキゴキと固まった関節を解す。今日も早目に寝よう。 ◇ シュートシティでのダンデとの一件から数日経ち、ネズから「暇なら来やがれください」とライブの関係者席の券を貰った。ダンデも同じくチケットを受け取ったようで共に向かい、音の熱狂に包まれる。ライブは終盤に差し掛かり、新曲の発表も終えた。そしてお決まりの「ネズにはアンコールは無いのだ!」で締め括られるのだが、それはいつも一度客がアンコールを求め拍手をした後にオチとして行われる。オレもダンデも惜しみなく拍手を送り、ネズが客席を見てタイミングを見計らっているのが伺えた。 「ネズー! アンコールだ!!」 興奮冷めやらぬダンデが熱情のままに叫ぶ。瞬間、ネズがギクリと体を硬らせた。ネズがスタンドマイクを握り直し、息を吸う。決め台詞を言うのだろうと思ったが、ネズの顔が動揺しているように感じた。 「今日は! マキシマムなオマエらのために!! 最低に大胆で最高にささやかな歌を送るぜ!!!」 一瞬、シン……と会場が静寂で埋め尽くされた後に割れんばかりの歓声で満たされる。あのネズがアンコールに応えた。今までに無いことでダンデと顔を見合わせてしまう。先程の動揺は初めてのアンコールのため、ネズも緊張していたのだろうか。なんとネズはその後3曲も歌い上げた。 「おれも、歌も、出し切りましたよ……」 出し切ったという言葉の通り、ネズは肩で息をしている。スタンドマイクにしがみつくように膝を付き、スポットライトが消えたところでライブは終わった。 「凄かったな!」 「この後飲みに行こうってネズに誘われてたけどアイツ大丈夫か?」 ◇ 「大丈夫なわきゃねぇですよ」 シュートシティの路地裏でひっそりと営業しているパブで合流したネズは憔悴しきっていた。酒を飲んでる場合ではないと思ったのだが本人は自棄酒だと言わんばかりにアルコールを流し込んでいる。 「どこぞのバカがポケモンを持ち込んだんでしょう。アンコールですよ。ポケモンの技の」 ライブ会場内にポケモンを持ち込むことは原則禁止されており、入口のクロークに預けられる。トレーナーの高揚に同調したポケモンがボールから飛び出すと危険だからだ。しかし、どうやらあのアンコールに合わせて技のアンコールがネズに撃たれていたらしい。 「見渡してもポケモンが居なかったんで油断してました。ま、元々手荷物検査じゃ調べ切れない面もあるんで改善が必要だったんです」 今度からアロマベールのポケモンを会場に配置させますよ、とネズは肩を竦めた。自身と味方へのメンタル攻撃を防ぐアロマベールという特性を持つポケモンはどれもフェアリータイプだ。あくタイプの使い手としては居心地が悪くこれまでやってこなかったのだろう。 「技を受けたことを観客に悟らせないのは素晴らしかった。混乱も起きずに済んだ」 「そう思うなら今日の酒はオマエらが奢ってください」 ぐび、とネズは新たな酒を煽る。そのぐらいなら安いものだとダンデと目を合わせ頷いた。適度に水を渡しつつ慰め、話を聞いているうちにネズの前のウイスキーのショットグラスが次々と空になる。 「最後に歌っていたバラード良かったぜ」 「オレはその歌の………確かメロディが〜♪〜♪という部分が特にお気に入りだ!」 ダンデがうろ覚えでネズに向けて歌を歌う。それを聞いたネズがゆっくりと船を漕ぎ始め、必死に目蓋を擦っていたがガックリと机に突っ伏した。あまりにも急だったため気分が悪くなったのだろうかと慌ててネズの体を起こす。予想に反してすやすやと穏やかな寝息が聞こえた。 「えっ、寝た?」 「寝ているなあ」 通常のライブでも疲れるだろうに今日はポケモンの技を食らったのだ。電池が切れたように眠ったことには焦りを覚えたが、休むのが1番である。会計を済ませ、ネズを起こさぬようにそっとタクシーに乗せた。余程熟睡しているのかネズは寝入ったままだ。ネズのスマホロトムからマリィに連絡を入れスパイクタウンに送り出す。夜も深くなり、空は真っ暗で星が瞬いていた。長い時間ネズの話を聞いていたからなのか少々時間帯としては遅い。 「じゃあオレもナックルに帰るわ」 「え! 今日は泊まっていかないのか?」 ダンデは現在シュートシティに暮らしている。シュートシティに朝早くから用事がある場合や、休日にダンデとバトルしあって遅くなってしまった時にはお邪魔することがしばしばあった。今日は泊まるつもりは無かったのだがふわふわとした心地よい酔い具合もタクシーの腕によっては台無しになってしまう。かといって急に泊まると迷惑だろう、とダンデに視線を向けた。 「もしかしたら泊まるかもと思ってキミが気になると言っていたブランデーを買ったんだ。クール・ド・リヨンの」 気になっていたブランデーと言うとカルヴァドスだろうか。確かカロス地方のリンゴ酒で、その中でもポム・プリゾニエールという、瓶の中に丸々1個のリンゴが入っている酒の画像をダンデに見せた気がする。そこまで高価な酒ではないため購入しようと通販のカートまで入れ、存在を忘れていた。それなのにダンデは自身が一瞬見せただけのものを覚えていてくれたのか、と胸が温かくなった。視線の先のダンデは先刻まで飲んでいた酒のせいか瞳が潤み、涙目になっている。それを見た途端、どうにもナックルに帰る気が削がれてしまった。 「わかったよ泊まりゃあいいんだろ」 パァ、とダンデの顔が晴れた。歯ブラシや着替えといったお泊りセットはダンデの家に置いてある。早目にシュートシティを出れば明日の業務に差し支える事はない。上機嫌なダンデの手を迷子対策として繋ぐ。歩き慣れた道を進み、勝手知ったる家に上がった。ツマミを適当に作る、と言うのでダンデに任せてソファに座って待つ。暫くして、目の前に皿に乗ったポケモンフーズを置かれた。正規品よりも形が少し荒い。手持ちのポケモン達の能力を最大限に発揮するために手作りするトレーナーも居ることは知っている。自身もカレーの他にも手を広げたいと思っていたのでダンデに先を越されたな、と少し悔しくなった。 「まず味見してみてほしい。オレは美味しいと思って作っている」 ポケモンフーズは人間が誤って口に含んでも問題ないように作られている。実際、パッケージのおいしさ○倍UP!という謳い文句もポケモンの食いつきの他に人間が味見していると聞いた。ポケモンに対して造詣の深いダンデの作った物なら平気だろう、と1つ口に放り込む。舌に乗ったと同時に吐き出しそうになるが噛み砕き、口内で転がして味わう。しっとりふわり、そしてさくりとした不思議な歯応えがあり、えぐみが強いが後味にほのかな甘さときのみの風味がした。人間の味覚から言うと不味いが、かなり上品な部類なのではないだろうか。 「結構美味しい方なんじゃねえのこれ」 「本当か! なら良かった」 ダンデがそのままソファに座り晩酌を始めようとしたので、いや待てと止める。テーブルの上には酒、グラス、ポケモンフーズ、テレビのリモコン、ボールペン、メモパッド、ロトムの眠ったスマホ、どう見てもツマミは無い。 「戸棚にこの間オレが置いていったドライきのみあっただろ?」 「開けてしまうのか? これだけじゃ足りないか?」 ポケモンフーズの乗った皿をダンデが傾ける。量としても質としても充分なのだろうが、人間のメインディッシュではない。味に頓着しないことは分かっていたがオーナー業に忙殺されたダンデがここまで悪化してしまったとは……………と思わずシワの寄ってしまった眉間を押さえた。ポケモン用の薬を常用したり食事をポケモン用で済ませようとしたり勘弁してほしい。もっと身体を大切にしてくれ。ほろ酔い気分が徐々に覚めていく。幸いにも酒はまだ開封していないのでそれを暗所にしまった。リビングに1人取り残されたダンデが困惑した表情で佇んでいる。 「あー、今日はもう飲むのやめようぜ。飯作り置きしとくから明日からそれ食え。酔っ払いが作るから色々と保証しねえけど」 家主の許可を得て冷蔵庫を開け食材を出し深夜のキッチンに立つ。オレさま酒を飲みに来たのに何でコイツの世話を焼いてるんだ?うるせえ。放っておけねえからだ。 次ページ ◇ 「ア〜痛え!」 「キバナさま!!」 ダンデの家に作り置きのおかずのタッパーをたまに届けに行くのが習慣となった頃、ジムの階段で足を踏み外し盛大に転んだ。自身の目から地面までの距離が遠く、日頃から足元が視界に入らない。そのため足を下ろそうとした先にバチュルが居ることに直前まで気付かず、咄嗟に避けて階段から落ちた。結果膝を擦りむき血が出ている。目立った怪我は膝のみだったが、一部始終を見ていたリョウタに医務室に促され、その気持ちを無下に出来ずされるがままに連れて来られた。医務室の椅子に座らせられ、リョウタが消毒液と絆創膏を出す。 「あ! そうだオレさま試してみたいことあったんだよな」 医務室のポケモン用の棚から傷薬を取り出す。そしてそれを傷口に噴霧しようと構えた。ダンデがあそこまで愛用しているので機会があれば使ってみようと考えていたのだ。 「キバナさま、ポケモンになりたいのですか?」 リョウタの言葉に手を止めて顔を見る。 「えっ?」 「あっ、いえその……都市伝説です。ポケモンのものを使ったらポケモンになるぞ! という。ユンゲラーは人間の少年が変身した姿、といった俗説のような噂話です」 ユンゲラーはケーシィの進化系なのに、とリョウタは笑った。曖昧に返事を返し、スプレーボトルを置いて絆創膏を貼る。背中を1つの汗が伝った。 何年も使い続けている傷薬、注目してしまって目線の外せない指、異様な眠気を誘うあくび、ポケモンがいないはずの場所でのアンコール、ダンデが歌った途端に眠ったネズ、オレの帰る気を削いだ涙目、ポケモンフーズを当然のように食べる男。 嫌な予感がした。 ◇ 「確認なんだけどダンデのお父さまってポケモンじゃないよな?」 「人間のはずだぜ! どうしたんだキバナ、急に電話なんて珍しいな。因みに言うとオレの母も弟も勿論オレ自身もヒトだぞ!」 「いや、オレさまの考え過ぎならいいんだけど」 膝の手当をした後、業務に無理矢理一区切りつけてダンデに電話をかけた。2コールもしないうちに出たダンデにリョウタから聞いた都市伝説を話し、自身が思い返して感じた違和感を伝える。 「オレが技を5つも使っているぞ」 「ポケモンだってはたくを忘れたら全く何も叩けなくなるわけじゃないだろ」 「それはそうだが…………」 「頼む。何もないならそれでいい。オレの電話終わった後にやっぱ面倒だな、とか思うなよ。ってかタワーに固定電話あるだろそっち使ってでも今かけろ」 言い淀むダンデを説得してその場で病院に連絡をさせた。電話越しの会話はあまりよく聞き取れない。カタッと受話器を置く音が聞こえた後すぐさまスマホを掴む音がスピーカーから流れる。 「キバナ大変だぞ。今すぐ検査だそうだ」 よければキミも来てくれないか、絶対に迷う。と言われ気付いたらジムを飛び出していた。タクシーを捕まえるまでの時間すら惜しく、フライゴンを出して飛び乗りバトルタワーに向かうように指示を出す。フライゴンにしがみつきながらジムトレーナー達への詫びを考え、文面を打ち出し送る。タワーの入り口にダンデが立っているのが見えたのでそこに降り立った。 「こういうのって救急の迎えが来たりしないのか?」 「どこにも怪我も病気もしていないのに乗るのは忍びなくて断った! リザードンに乗った方が速いしな」 ニッ、とダンデが笑ったので気が抜けそうになってしまうがダンデの身体の異常を考えると悠長なことは言っていられない。病院の住所を地図上で確認し先導して飛び立った。どうか、どうかコイツに何もありませんように、とダイマックスバンドのねがいぼしが埋め込まれた部分を強く握った。 病院の救急用の入り口から入り、頬の粘膜の採取とレントゲンを済ませた後すぐに診察室へ通された。途中、そういえばこういう付き添いって普通は家族とか大切な人とするもんじゃないのか、と気付きダンデに尋ねたが、だからこそ問題無いと返されてしまった。室内の椅子に座り、ドクターが聴診器でダンデの体の音を聞く。少しの間そうした後に聴診器を外し、簡易的な問診を済ませドクターは口を開いた。 「シンオウ神話をご存知ですか。昔はヒトもポケモンも同じだったという」 「聞いたことはあります」 「その神話の通り、今でもヒトとポケモンは境目が曖昧です。ユンゲラーしかり、デスマスも元は古代の人間の魂です」 一度言葉を切り、逡巡してからドクターが再度こちらに視線を向けた。 「ポケモン用のあれらの薬はとても強力で、一度や二度なら良いのですが何度も人間が使うと薬の方に身体を合わせようとして細胞が変化する恐れがあります。そしてダンデさんは何年もそれを続けたことによって身体がかなりそっち側に寄ってしまっています」 ドクターが徐にロトム図鑑を取り出し、ダンデに向けた。通常、ロトム図鑑のスキャン機能はヒトに反応しないように作られている。しかし、スッとロトムから放たれた青い光がダンデの頭から足の先まで動いた。 『繝繝ウ繝�縺ォ繧薙£繧ポケ繧ン ノー繝ルタイプ データなし』 機械音がダンデのスキャン結果を述べた後、図鑑がショートしロトムが目を回してしまった。ドクターがロトムをメディカルケースに仕舞う。 「あとダンデさん。げんきのかたまりを食べましたね?」 「何故それを……」 ドクターがレントゲンの画像を掲示する。ダンデの身体の中心よりも少々左側の位置、心臓と重なるように少し角のとれたげんきのかたまりの白い影がくっきりと写っていた。 「げんきのかけら及びげんきのかたまりは人間に効果は無く、本来は消化吸収されないのです。徹夜を続けた方がげんきのかけらを飲んで緊急搬送されることもあります」 ドクターがレントゲンの角の取れた部分を指す。 「高エネルギー体のムゲンダイナから与えられた傷は、それこそあと一歩で死ぬようなものでした。我々もダンデさんの目覚ましい回復力を疑うべきでした。ポケモンになりかけているダンデさんだからこそげんきのかたまりが効いたのでしょう。しかし、ダンデさんの人間の部分がかたまりを吸収し切れず残っています」 つまり体内に残り続け、常にポケモン専用のものを使用し続けている状態になっている。傷薬の効きが一段と良くなった、と話していた時期とも一致する。 「ポケモン側の本能として、最も重要な臓器を優先し心臓の側へかたまりを移動させたのだと思われます。ダンデさんの心臓とげんきのかたまりは絡み合うように結びついており摘出は難しいでしょう。そして、かたまりが全て吸収された時にはダンデさんは人間ではないことになります」 ぐら、と足元が崩れるような感覚がした。心の底が冷え切っていく。 「定期的にレントゲンを撮り経過観察を慎重に行いましょう。まず、これ以上ポケモンに近付かないように今後はポケモンの薬の使用は禁止です」 ドクドクと心臓の音がやかましい。当事者であるダンデの方が辛いだろうに、身体の震えが止まらず視界が揺れた。カチコチと鳴る秒針の音がやけに大きく聞こえる。 「今のダンデさんの状態は純粋なポケモンでも純粋な人間でもない後天性の新種と言っても過言ではありません。今の姿、そしてもしも完全にポケモンに変化してしまった場合に寿命もどのように変化するのか現段階では判断出来ません」 細胞の詳しい鑑定結果は後日郵送されます、お大事になさってください。と言われ退室した。手の震えが止まらずパーカーのポケットに入れて隠すと、ダンデが手を突っ込みそれを握った。ダンデの手の熱を冷たいオレの手が受け取る。 「大丈夫だぜ、キバナ」 何が大丈夫なんだよ。教えてくれよ。 1週間後、薄っぺらな封筒がダンデに届いた。一緒に見てほしいと言われたので終業後にダンデの自宅へ行った。ホップやダンデの母も居るだろうと踏んでいたのだが2人の姿は無かった。久々に訪れた家は物が減って酷くこざっぱりとしている。ペーパーナイフで封を切り、取り出した紙にはややこしい数字の配列が印字されている。添えられた文面はいっそ予想通り過ぎて笑ってしまった。絶望した時に笑うことしか出来ないのは本当だった。 『検査の結果、ダンデさんの細胞はヒトゲノムとは塩基配列が異なることが判明しました』 何度瞬きをしても無機質な文字は変わらない。手を握り締めて爪を食い込ませると痛みが走った。夢ではない。目に熱いものが込み上げる。最初に気付いた時点でダンデを止めていればちょびっとでもマシだったのではと後悔が後を絶たない。 「キバナ、これを」 ダンデから家の鍵と、厚い紙の束を渡された。 「結果が届くまで目一杯考えてこれが最善だと判断した。内密に処理も済ませてある」 「何を……」 「さよならだ、キバナ」 あいしてる、と口が動いたように見えたがそれに音は乗っていなかった。窓からベランダに出たダンデがリザードンに乗り飛び出して行く。紙の束にはバトルタワーの運営方法がみっちり記述されており、リーグ委員長及びタワーのオーナーの後継について書かれていたが、ぼたぼたと落ちる涙のせいで何も読めなかった。 ダンデがガラルから姿を消した。 ◇ 次ページ ◇ 「見つけたぜ、ダンデ」 次ページ ◇ 刺すような寒さが身を凍らせる。暮らしている野生のポケモンも並のレベルではない。麓のポケモンセンターで食料と薬を買い込んだが到底足りる気がしない。 洞窟を抜け、山頂を目指す。吹き荒れる白銀の世界の中に、ポツンと人が立っているのが見えた。アイゼンを踏みしめて人影に向かっていく。雪山に相応しくない春の目覚めのような瞳がオレを貫いた。 「……来てしまったのか」 「オレはガラルの8番目のジムリーダーキバナさまだからな。すぐに通してもらえたぜ」 シロガネ山の頂上に再び誰か立っている、という噂を知り、ジョウト地方に連絡を取って登山許可発行の名簿を見せてもらった。溶けることのない雪に加えて野生のポケモンの強さから無名のトレーナーは山に入ることすら許されない。名簿にはきっちりとダンデの名が記載されていた。 「山は良いな。上を目指していれば天辺に着く。そしてもう迷わない」 ダンデの竜胆色の髪が棚引く。朝の光が大気中の凍った水蒸気を煌めかせた。 「ドラゴンにこんな寒いところまで来させやがって」 「姿を消したチャンピオンはこの山に来るのが通説かと思ってな」 フッ、と目の前の男は笑った。着けていた登山用ゴーグルを外し、ダンデと目を合わせる。 「なら話が早いな。とっととオマエを倒してアローラでバカンスさせてやるよ」 美しい氷の粒達を荒々しい砂が飲み込み始める。ポケモンバトルだ。 ◇ ガラルでは見られない気象現象の混じった砂が場を翻弄させる。太陽の熱と雪からの冷気が砂嵐に複雑な気流を生み出していた。ダンデのリザードンが放つ暴風がそれに拍車をかける。お互いに手持ちが1体のみとなり、場にはリザードンとジュラルドンが立っている。技を先に当てた方が勝つ程にバトルは切迫していた。ニヤリと口角を上げたダンデがリザードンに良く似た鳴き声が発する。その指示を聞いたリザードンが大文字を放った。 「ポケモンの部分使いこなしてるのな!」 「ああ! オレはオレだからな!」 間一髪のところでジュラルドンが避ける。暴風の影響で混乱状態だったのが解けたようだ。ジュラルドンとアイコンタクトをとり、リザードンが気流に一瞬だけふらついた隙を突く。 「ジュラルドン! ストーンエッジ!!」 雪原を割って現れた硬質な岩がリザードンの急所に鋭く伸びた。直撃したリザードンの羽ばたきが弱くなり地に伏せる。ダンデが目を見開いた後に拳を震わせた。戦闘が終わったことにより砂嵐が止み、雪が煌めきを取り戻す。 「ハハ、ざまーみろダン、デ………」 勝った喜びから気が抜けて、脚から崩れ落ちる。山を駆け足で登った直後に全力でのバトル、体力の限界だった。静かな眠気に誘われるまま目を閉じようとする。最後にダンデに勝てたのは最高だなと思った。 「キバナ!」 リザードンをボールに戻したダンデが駆け寄る。雪に塗れたオレの顔をダンデが鷲掴んだ。 「キバナ、文句は後で言ってくれ」 顎をクッと持ち上げられた後に、指で唇を割り開かれた。何をしようとしているのか分からず抵抗しようとするも腕を持ち上げる事すらままならない。ダンデの顔がそのまま近付き、熱い舌が入り込んできた。 「ん!?!?!?」 ぬめぬめと口内を侵され、ダンデの唾液が送り込まれる。反射的に舌で押し返そうとするがそのまま絡め取られ、飲み込んでしまった。4回程唾液を飲まされた頃に意識がはっきりしてくる。ダンデがさらにキスしようとしてきたので動くようになった腕で拒んだ。 「しつこい! 何してんだ!」 「一か八かいのちのしずくが出来るかと思って試してみた。成功してよかった」 救命行為にしてはねちっこ過ぎる。ダンデの腕の中から逃れようともがくとあっさりと離された。 「いやしの! はどうとか! あるだろ!」 「オレは超能力者ではないし何より久しぶりにキミを見たら我慢出来なかった」 ダンデが隠しもせずに思いを告げ、言葉を繋げた。眉を下げて泣きそうに目元を歪めている。 「まだガラルに居た頃、オレはキバナに告白するつもりだった。気が早いようだが指輪も作って、準備を進めていたんだ。キバナもオレが好きだろう。今までの人生はキバナと歩いたような物だ。これからも当然共に歩くだろうしその誓いを立てようとしていた最中にあの診断がされた」 「ふと、キバナというたった1人の大切な人間をオレの我儘でとんでもないことに巻き込もうとしているのではないか、と冷静になった」 「だから、逃げた。キミはずっとオレを追いかけ続けてくれていたが、ガラル地方のダンデが居なくなればもう来ないだろう、と」 この男は、誰よりもガラル地方の未来を願っていたのに、オレというたった1人の未来のためにそれらを捨てて逃げたのか。手を伸ばし、ダンデの瞳から溢れた雫を指で拭った。 「オレのリーグカードの裏読んだか?オレが拘っているのはチャンピオンのダンデでも、ガラル地方のダンデでもない。オマエ自身だ」 「巻き込みたくないってオマエ散々このオレをライバルだなんだと縛りつけておいて今更過ぎるぜ。それに、訂正するとオレさまがオマエに巻き込まれに行ったんだ。それこそ、チャレンジャーとしてな」 「生憎な、ダンデ、バトルタワーの運営もリーグ委員会もあんなマニュアル1冊ぽっちじゃ務まらねえんだよ。オマエの席は空いたままだ」 ダンデに手を差し出す。オレだって目一杯考えたのだ。もしダンデが人間ではなくなっても、オレはダンデがダンデである限りこの気持ちは変わらない。ダンデがポケモンに近付いた影響でめちゃくちゃ寿命が短くなってオレを置いて先に死んでしまったら残りの人生はダンデの思い出と共に歩くし、逆にダンデの寿命が物凄く伸びてオレがダンデを残して死んでしまったら来世でも必ず会いに行く。 「帰ろうぜ、ダンデ。一緒に」 ダンデ、お前は流れ星だ。綺麗に綺麗に燃え上がって、地上の人々の注目を一身に浴びて、そうしてオレの元へ落ちてきた癖して、うっかりオレの手からこぼれ落ちようとする。星の熱さに手を焼かれても絶対に離さない。燃え尽きる事のない流れ星はオレの道標であり、オレの一等星として輝き続けているのだ。 ダンデがオレの手を握った。ダイヤモンドダストの明滅する光がオレ達に降り注ぐ。 「……ああ! すっかり冷えてしまったからな! うんと南に寄り道してから帰ろう!」 10歳でチャンピオンになりそこから無敗記録を伸ばしつづけている →何年防衛しているか明記されていない 確かにダンデに10連敗 →公式戦のみなのかわからない Who killed Cock Robin Who killed Cock Robin? I, said the Sparrow, with my bow and arrow, I killed Cock Robin. Who saw him die? I, said the Fly, with my little eye, I saw him die. Who caught his blood? I, said the Fish, with my little dish, I caught his blood. Who'll make the shroud? I, said the Beetle, with my thread and needle, I'll make the shroud. Who'll dig his grave? I, said the Owl, with my pick and shovel, I'll dig his grave. Who'll be the parson? I, said the Rook, with my little book, I'll be the parson. Who'll be the clerk? I, said the Lark, if it's not in the dark, I'll be the clerk. Who'll carry the link? I, said the Linnet, I'll fetch it in a minute, I'll carry the link. Who'll be chief mourner? I, said the Dove, I mourn for my love, I'll be chief mourner. Who'll carry the coffin? I, said the Kite, if it's not through the night, I'll carry the coffin. Who'll bear the pall? We, said the Wren, both the cock and the hen, We'll bear the pall. Who'll sing a psalm? I, said the Thrush, as she sat on a bush, I'll sing a psalm. Who'll toll the bell? I said the bull[9], because I can pull, I'll toll the bell. All the birds of the air fell a-sighing and a-sobbing, when they heard the bell toll for poor Cock Robin. 「駒鳥のお葬式」 誰が駒鳥 殺したの それは私 とスズメが言った 私の弓で 私の矢羽で 私が殺した 駒鳥を 誰が見つけた 死んだのを見つけた それは私 とハエが言った 私の眼で 小さな眼で 私が見つけた 死骸を見つけた 誰が取ったか その血を取ったか それは私 と魚が言った 私の皿に 小さな皿に 私が取った その血を取った 誰が作るか 死装束を作るか それは私 と甲虫が言った 私の糸で 私の針で 私が作ろう 死装束を作ろう 誰が掘るの 墓穴を掘るの それは私 とフクロウが言った 私のシャベルで 小さなシャベルで 私が掘ろう お墓の穴を 誰がなるか 牧師になるか それは私 とミヤマガラスが言った 私の聖書で 小さな聖書で 私がなろう 牧師になろう 誰がなるか 付き人になるか それは私 とヒバリが言った 暗くなって しまわぬならば 私がなろう 付き人になろう 誰が運ぶか 松明(たいまつ)を運ぶか それは私 とヒワが言った すぐに戻って 取り出して 私が運ぼう 松明を運ぼう 誰が立つか 喪主に立つか それは私 とハトが言った 愛するひとを 悼んでいる 私が立とうよ 喪主に立とうよ 誰が担ぐか 棺を担ぐか それは私 とトビが言った 夜を徹してで ないならば 私が担ごう 棺を担ごう 誰が運ぶか 棺覆いを運ぶか それは私 とミソサザイが言った 私と妻の 夫婦二人で 私が運ぼう 棺覆いを運ぼう 誰が歌うか 賛美歌を歌うか それは私 とツグミが言った 藪の木々の 上にとまって 私が歌おう 賛美歌を歌おう 誰が鳴らすか 鐘を鳴らすか それは私 と雄牛[9]が言った 私は引ける 力がござる 私が鳴らそう 鐘を鳴らそう 空の上から 全ての小鳥が ためいきついたり すすり泣いたり みんなが聞いた 鳴り出す鐘を かわいそうな駒鳥の お葬式の鐘を 死が2人を別つとも 「死が2人を別つまで、と言うがそんな些末なことで離れることになるのは許せない」 暁星 微睡と温もりを少しずつ手放していく 朝焼けと夕焼けはよく似ている。 夜明けと日暮れ、とも呼べる。 水平線が太陽を別つ時。ゆっくりゆっくりと動いている様をじいっと見なければ、どちらか見分けがつかないだろう。 朝焼けは世界の始まりで眩しい光と共に人々が騒めく 夕焼けはこれから訪れる闇が静寂を連れてくる。 以前、タワーで仮眠をとって、存外長く寝てしまって、ふと窓の外を見たら丁度、水平線のところに太陽があった そん時はどっちだったんだ? 朝だったよ 安寧 ひだまり 薄明 黄昏時 マジック・アワー ゴールデンアワー 微睡と温もりを少しずつ手放していくような目覚めだった。カーテンの隙間から差し込む薄い明るさが自身の目まで届いている。隣で眠る愛しい恋人の腕をするりと抜けて、舞台の幕を上げるように、幼い頃に宝物を詰めたお菓子の缶をそうっと開くように迎え入れた。控えめな光がそろそろと部屋の中を照らす。地平線がぼんやりと赤く染まり、そしてその色と別れを告げようとしていた。空に黄色が差し始める。 「似ている」 「何が」 振り返るとキバナが横たわったまま頬杖をついてこちらを見上げていた。笑みを返す。 「……おはよう、キバナ、起きていたのか」 「いま起きた」 眩しかったか?と問うと首をゆっくりと横に振られた。それよりもオレの言葉の方が気になるようだ。キバナが手招きをしたのでベッドに戻り腰掛ける。ちらりと壁掛け時計を確認するとスマホロトムのアラームとも程遠い時刻だった。キバナの勝色の髪の間に指を絡ませる。 「夜明けと日暮れが似ていると思ったんだ」 夜明けと日暮れ、朝焼けと夕焼けはよく似ている。水平線が太陽を別つ時、空はどちらも黄色から紅に向けたグラデーションが咲き誇り、それは蒼天と対比して鮮やかな様を見せつける。ゆっくりと動いている太陽をじいと見なければ、どちらとも見分けがつかない。 「この前タワーで仮眠をとって、存外長く寝てしまって、ふと窓の外を見たら丁度水平線のところに太陽があった。一瞬、見分けがつかなくてそのまま眺めてしまった」 「その時はどっちだったんだ?」 「朝だったよ。秘書に酷く怒られてしまった」 キバナがフフッと笑みを溢した。スカイブルーを宿した瞳に太陽の黄蘗色が混じり同じ空模様になる。 「なあ、この昼でも夜でも無い時間を写真家達はマジック・アワーって言うんだぜ」 「詳しいな」 「それこそ、魔法みたいに良い画が撮れるんだ。暗さと明るさのどちらにも属さない、混ぜこぜになった特別な空だ」 すごく、綺麗なんだ、とキバナは上体を起こした。空と同じ色をした目が潤んでいる。 「どうしたんだ」 「朝焼けが目にしみただけ」 キバナは張った涙の膜を拭いもせずに、眩しいものを見るようにこちらを見た。窓から覗き込む黄色がキバナに灯った。それはとても美しいものに見えて、触れてはいけない芸術品に心惹かれるように、道端に小さく小さく健気に咲いた花を美しいという理由だけで手折るように、思わず手を伸ばした。髪に緩やかに触れた瞬間、キバナの眦が水を湛えきれず一粒落ちた。星がこぼれるようだった。 なぁ、キバナ。さっきオレは似ていると表現したが、それは見た目だけで、内実は違う。朝焼けは眩しい光と世界の始まりを人々に齎す。夕焼けはこれから訪れる闇が静寂を連れてくる。キバナの瞳のような碧落をそれらが穿つ時、オレはどうしようもなくキバナに焦がれる。キミが特別だと言ったその時間も、ありふれた真昼の空も、変わらない夜の星も、キミと過ごせたならオレの世界は輝きを増す。キバナの世界もそうだと嬉しい。 触れるようなキスでキバナの涙を掬った。へにゃ、といつものように彼が笑った。 黎明の中に一番星が瞬いていた。 キバナさまがワイルドエリアの崖から落ちた。と彼のジムのトレーナー達から連絡が来た瞬間、手先がサアッと冷えて周囲の音が一瞬遠くなった。明日は大切なエキシビションマッチ。キバナもワイルドエリアで鍛え直すとリーグの方へ連絡をくれたのだ。ワイルドエリアでの修行は他のジムリーダーもよく行う。ありふれた日常のため、普通に許可を出したことを悔やんだ。タワーの昇格試験に到達したトレーナーが居ないことをモニターで確認し、仕事に折り合いをつけてすぐさまナックル中央病院へと向かった。ジムトレーナーに伝えてもらった番号の部屋へと辿り着く。一、ニと息を整えてから病室に入った。 「ッキバナ!」 ベッドの上にはジムトレーナーに押さえつけられているキバナがいた。どこにも包帯が無く、足も吊っていない。 「ゲッ! ダンデ呼んだのレナか!?!? オレさま本当に何ともないんだって!! かかりつけのじいさんも平気だって言ってただろ!!」 「いいえ!! このヒトミの瞳は誤魔化せませんよ! この目で落ちるのをしっかり見たのです!!」 「その反応、オレさまのスゲ〜華麗な空中3回転ひねりからの無傷の着地は見てないんだろうな!」 ラブソングを高らかに! 数年前からキバナの背中に羽根が見えるようになった。最初は本当にうっすらと見えていたので、常にキバナの背後に付き纏う靄をゴーストタイプの何かだと思いオニオンに視てもらったが、全くそういった類ではなかった。それどころかオレだけにしか見えていないようだった。月日が経ち、チャンピオンを退いた今では随分とはっきり見える。興味本位でそれにそっと手を伸ばして指の先を触れされると、少しだけくすぐったそうに震えた。羽根はどういう原理なのかキバナの服を突き抜けて生えている。キバナの背筋はいつもピンと張っており、背もたれのある椅子では必ず拳一個分を空けて姿勢良く座っていたのはこういうことだったのかと理解した。アーマーガアのような硬質的な羽毛ではないが、髪と同じ色の翼は艶やかで芯が通っていた。キバナの内面の美しさを表現したようなそれは、何の問題もなく羽ばたけそうなほどに力強かった。 閑話休題、所変わってここはスパイクタウンの裏路地にひっそりと建つバーである。オレの隣にはうんざりした様子のネズが座っている。 「それ、オレのライバルのキバナマジ天使! っていう惚気ですよね? その話を聞いたおれはどうしたらいいんです?」 オレだけに見えている秘密を話し、相談に乗ってほしいとネズを呑みに誘った。オレの奢りという言葉でネズを引き留めている。 「違うんだ。キバナは本当に天使なんだ。酔っ払いの戯言じゃない。オレは本当に困っている」 オレは一週間後にキバナとシュートスタジアムで最後のエキシビションマッチを控えている。最後、と言ってもキバナはジョウト地方のフスベシティをメインに修行の旅をした後にガラルに帰ってくるので厳密には違う。リーグ委員会にきっちりと提出されたトレーニングの日程表に不備はなく、キバナがスランプで伸び悩んでいることを知っていたので条件反射でオーケーを出してしまった。何より、キバナがオレのためにさらに強くなってくれる、と。しかし、 「もしかしたら天に帰ってしまうかもしれない……!」 「はぁ………。そういったことならフェアリータイプの使い手の方が詳しいんじゃないですかね」 「クイズに全問不正解してからポプラさんはオレが何を言ってもピンクとしか答えてくれない」 「自業自得ですね」 ずっと何年もオレに喰らい付いてきたキバナというライバルは、バトルの神がオレのために施したギフトに近い。もしかしたら、万が一、チャンピオンではなくなったオレを見て、神もしくはキバナがどこかでオレのことを見限ったのかもしれない。修行の旅をすると嘘をついてガラルを出て、天の国へ帰ってしまうのではないかと懸念している。 ネズが空になったウイスキーのショットグラスをカウンターに置いた。トン、と軽い音がする。 「今度のエキシビションを最高のものにしたらキバナとその神とやらもダンデのこと見直してガラルに留まったり、なーんて」 「ネズ………天才か?」 「そもそもアイツに限ってオマエを見限るなんてことありえな……今なんて?」 「ありがとう! キミに相談して良かった!」 勢いよく立ち上がると備え付けのはずの丸椅子から激しく音が鳴った。ぽかんとこちらを見上げているネズに酒代よりも上乗せした金額を握らせる。 「本当にありがとう。スパイクタウンの設備の件、予算委員会に有無を言わせず絶対に通す」 「はぁ、そりゃ、どうも………え?」 酒を飲んでいる場合ではない。元々控えめに済ませていたが、これは一刻も早くキバナとの最高のバトルのために鍛え直さなければ。 楽しみだなあ! キバナ! と口角を吊り上げる。ネズの方から、こっわ…………という呟きが聞こえた。 * 迎えたエキシビションマッチ。フィールドで向かい合ったキバナの背中には相変わらず端麗な翼がある。 「今日の試合は絶対に勝つ」 「そいつはオレさまのセリフだぜ」 「勝ったらキミに言うことがある」 「旅に出るライバルへの選別か? 渡せなくなっても文句言うなよ!」 「勿論だ!」 試合開始の合図が響く。今日のエキシビションは旅立つキバナのための試合でありルールはダブルバトル。それ用に調整した相棒達をボールから繰り出した。 * 最高だ! 最高だ!! 今までの人生で一番の試合だったと言っても過言ではない。ほぼ同時に互いの相棒達が倒れ、カメラロトムのビデオ判定を経てキバナのジュラルドンの方が僅かに早く地面に頭を付けていたことが判明した。砂嵐にもみくちゃにされた顔を拭う。 「キバナ!」 「ダンデェ……!」 バトル後の興奮が残り悔しさと楽しさが入り混じったキバナに駆け寄る。本当に、良い試合だった。高揚した気分のままキバナを抱き寄せ、キバナの背中に指を滑らせて羽根の付け根を握り締めて逃げられないようにする。 「キバナ! どうだ!? 惚れ直したか!?」 「惚れっ!? え!? 何!? ってか背中やめ」 「だから……だから…………」 「オレの天使! どうか行かないでくれ! オレと! ずっと! ガラルにいてくれ!!」 突然の告白にシン………とスタジアムが静まり返った後、その静寂を歓声が打ち破った。抱きしめた腕を緩めてキバナの顔を見ると真っ赤に染まっている。 「いつから……?」 「羽根のことか……? 詳しい日付は覚えていないがとにかく今はくっきり見えるぞ」 「そっ、そうか……」 キバナが耳を貸すようにと手招きしたので顔を寄せた。観客席からの声を防ぐように手で道を作る。 「あのな、ダンデ、オレ堕天してるの。天使の羽根がこんな真っ黒な訳ないだろ」 一つ、天使は特定の人間一人に入れ込んではならない。 一つ、天使は戦いなんて野蛮なことを自らの手で行ってはいけない。 「で、この羽根な、オレが好きな相手が、オレのこと好きになると見えるの。相手がオレのこと好きになればなるほどしっかり見える。異形の者を愛せるか、って試練だな」 じわじわと、キバナの熱が移る。好き。オレはキバナのことを好きなのか。そして、キバナはオレに惚れて堕天した、と。 「両想いだな、オレたち」 ちゅ、といつの間にか手のトンネルが外され、頬にキスをされた。メガホンがファンファーレのように打ち鳴らされる。 「では! キミはずっとガラルに……!」 「んー、それは無理!」 翌日、キバナの家の合鍵によって地面に縫い付けられたオレは、彼の瞳のような空を貫く飛行機雲にせせら笑われていた。 ・手持ちにプルリル♂が居る。 ・寒色。 ・髪が真っ白かグレーのふわふわ。肌は色白。体のどこかにタトゥー。 ・ほぼ白に近いうっすい青の髪色(髪色を2種頂いたのでメッシュにします) ・ゴーストタイプメインだがウィンディも居る。 ・色素薄い系男子で服装も全体的に色素が薄い。 ・雪山とかから突然現れる。 ・なんか暖かそうな格好。 ・ちょっと抜けているところがある天然。 ・垂れ目で目尻が涼しげ。知的穏やか。 ・178cm いいね!最高だ! いざない岬 人魚の宝物 そうして二人は結ばれたのでした。 あいしてる うりけへぬせえゆむぬ おれさまのたからもの めでたしめでたし ー 【注意】 ・人魚パロのダンキバでキバナさんが人魚です。 ・人魚に人間の理屈は通じません。 ・神社が出てくるので日本っぽい所が舞台です。 ・筆者は"何かよくわからない怖い存在はとりあえず祭り上げて崇め奉って大人しくしてもらう"という風習が好きです。(そしてその相手自身は「何のこっちゃ」と、崇められていることを知らないやつが好きです) ・この世界にポケモンは居ません。 ・魚が人肉を食べる描写があります。 ・何でも許せる方向けです。 ・本当に大丈夫ですか? ・ホップくんの身に何が起きても大丈夫ですか? ・エッ、本当に大丈夫ですか……………? ◆ 人魚語は五十音で2文字後ろにズラすと読めます 例 「をんあいう」→「あいうえお」 「くわとそね」→「こんにちは」 ありがとうございました! 人魚に出会ったのは偶然だった。自身が暮らす海沿いの村には海面へ向けて切り立つ崖があり、薄暗く海流の激しいそこは自殺の名所となっている。村の大人の男達で定期的に見回りを行なっており、その日はたまたま自身の当番だった。自身の両親は早くに他界しており、たった一人の肉親の弟もいつかこの巡回をするのかと思うと気が滅入る。弟が眠りについた頃にそっと家を出て夜道を懐中電灯で照らす。道は何度も何度も巡回しているうちに脚が覚えた。よっぽど余計なことに気を散らさなければ着く。程なくして崖の上まで着き、崖の上に誰も立っていないことを確認してから海面に目を凝らした。夜の海にゆらゆらと白いものが漂っている。女物のスカートだ。 「間に合わなかったか………」 時間をきっちり決めて見回りをするとその時間を調べ上げ、隙を突いて飛び降りる人がいる。そのため時間を少しずつずらしているのだが、稀に誰も居ない時間が発生しその時に崖に辿り着いた人が身を投げてしまうのだ。女性は前回の見回りが終わった直後に飛び降りたのか、かなりふっくらとしている。やはり動作検知と人感センサーのある機器を設置した方が良い。崖の近くには海を鎮めるための神社があり、景観維持のためにも年齢が上の男達は自分達だけで充分だと言うがこうして穴がある。役場に申し立てをし直さなければ。 ふと、再度海の方へ目を向けると先程は無かった男の上半身が見えた。心中だったのか、と眺めていると、その上半身の方は明らかに波の流れとは違う動きをしていた。生きている。 駆け足で崖を回り込んで海の方へ向かい、黒い岩場へ降りた。足の下にあるフジツボが割れる。海水にふやけた女の水死体に小魚が群がっていた。 「キミ! 無事か!」 男に声をかける。夜の黒々とした海に男の褐色の肌がとけるようだった。勝色の髪が濡れて額に張り付いている。ターコイズブルーの瞳が月の光を反射していた。海側にいる男は言葉に反応せず、魚と同じように女に口を近付け肉を食んでいる。 人が人を食べている光景が信じられず、懐中電灯を落とした。ガチャリという音と衝撃で小魚が一斉に逃げる。男はちらとこちらを一瞥した後、視線を戻してそのまま死肉を食べていた。顔の半分が海に浸かった女と目が合う。 「っやめろ!」 海に入り、男を遺体から引き剥がそうと歩み寄った。海に踏み込んだ瞬間、予想外の方向から海水が襲いかかり伸ばしていた腕を払われる。波が来た方向に顔を向けると大きな魚の鰭が波の間から覗いていた。その鰭は男の上半身に繋がっており、よく見ると男の手にも水かきが付いている。目を擦ると海水が染みて痛みが走った。 「にん、ぎょ……………?」 そんなのもの、絵本の中でしか見たことがない。だが、見れば見るほど男の身体は水中に適した特徴がいくつもあった。人魚は近寄ってきたオレのことを不快に思ったのか、遺体の脚を掴み海の中に引き摺り込もうとした。巣穴に持って帰って食べるのだろうか、と思い至ってから慌てて女の腕を握り引き止める。ふやけて魚に食べられたぼろぼろの体から嫌な音がした。 「ダメだ!」 水を吸って重い女を力尽くで陸の方へ引き上げる。人魚は名残惜しそうに眉を寄せて遠慮がちにこちらを見上げていた。人間と同じパーツが作るその表情に幼い頃の弟が重なる。ホップのお菓子をオレが誤って食べてしまった時と似ていた。 「キミ、お腹が空いているのか」 「?」 言葉の意味を理解していないのか、人魚は瞳をきょろきょろと忙しなく動かすだけだった。食べる仕草やお腹を摩るジェスチャーをして辿々しく伝えると人魚がこっくりと頷きを返す。魚が魚を食べるのは当然のことではあるが、ヒトと似た部分を持つコイツは人間のように感傷に浸るのだろうか。それならば同種を食べることが憚られて陸の生物の死体を食べるのも納得がいく。人魚がずり、と女の脚を引いた。女と人魚の間に割って入る。 「今度何か肉を持ってくる。約束だ。だからもうやめてくれ」 人魚は二、三度首を傾げてからオレの口に手を伸ばし、指先でなぞる。それはヒトと似ても似つかない程に冷たかった。浅瀬の海と同じ色をした双眸が見開き、ギラリと光って金縛りのように動けなくなる。海の匂いを強く感じた。 「うりぬくつろこめびらて。をつ、めかすかろせえ゛いらてや」 謎の言葉を唱えた後、人魚はオレの唇から手を離し尾鰭で水を跳ねてから海の中に消えた。体が動かせるようになり、ほっと息を吐く。女の遺体の目にぽっかりと月が浮かんでいた。 ◇ あの日の翌日、人魚のことを他の男達に話そうとしたが言葉に出そうとすると何故か声が出せなくなり、全く話せなかった。しかし、仮に話せたとしても水死体にショックを受けた男の妄言としか扱われないだろうと思ったため気に留めなかった。 肉を持っていく、と約束した通りに冷蔵庫の中の鶏肉を持って恐る恐る岩場に向かうと、人肉を食らっていた不気味さとはかけ離れた様子で迎えられた。人魚は意外と人懐っこかった。最初は恐ろしいだけの存在だったが、明るい空の下でへにゃりと笑い、細波のように光る目で見つめられるとどうにも力が抜けた。そうして接している内に段々と人魚の仕草に目が止まるようになる。見よう見まねでオレの動きを追い、どこかあどけない顔は可愛らしく見えてきた。髪と同じ色をした鱗を鈍く太陽に煌めかせて泳ぎ回る姿は美しかった。 人間とそっくりな上半身を持っているのならば、喉の構造も似ているはずだ。ヒトの言葉も発声出来るだろう、と根気よく教えると徐々にこちらの言葉が通じるようになった。人魚に自身の名前を名乗ると、キバナと返された。人魚は存外賢く、オレの名前の他にも様々な単語を覚えた。 キバナはオレの足音を覚えており、海の近くに行くと岩場の影からそっと顔を出す。今日も持ってきた鶏肉のパックのラップを外してキバナに渡した。キバナはそれを海水に浸けて冷やしてから口に運ぶ。鶏の脂が水に浮かんだ。 「キバナ、今日は肉の他にプレゼントもあるぞ」 背負っていたザックを下ろし、中からオレンジ色のヘアバンドを取り出す。キバナの前髪は長く、食事の際に邪魔そうに髪を掻き上げることがしばしばあった。その度に纏めた方が良いとヘアゴムを渡したのだが、水かきのある手では結び辛いのか返される日々が続いていた。ヘアバンドをまずは自身が被って着け方を見せる。動作を数度繰り返した後に海水に浸しキバナに差し出した。キバナは肉の脂のついた指を舐め、髪を後ろに撫でつけ濡れた布を受け取り器用に被った。水中に潜ったり浮き上がったりして付け心地を確かめている。 「どうだろうか」 「イイ」 キバナはヘアバンドをしたままニッコリと笑った。鋭い犬歯が口の端から見える。くるくると遊泳し、再度水に潜ったキバナが海中から古びたブリキのバケツを取り出した。淵が少し腐食しているが底は開いていない。 「ゴミか? 拾ってきてくれてありがとう」 キバナは首と脇腹の下にエラがある。首のエラは海上に出しても平気なようだが、脇腹は常に水に浸らせているためキバナが完全に陸に上がる事はない。ゴミを受け取ろうと静かに海に入るとキバナが嬉しそうに目を細めた。キバナがバケツをひっくり返して中の水を出し、オレの頭に被せてくる。帽子にしてお揃いのつもりだろうか、と思案していると海の中へ引き込まれた。キバナがオレの体を掴んでいる。バケツの持ち手が顎に引っかかり、辛うじて中の空気を吸える。 「がふっ! キバナ!」 もがく。何も見えない。纏わり付く服が邪魔で仕方ない。バケツの中の空気が浮力によって浮かび首が締まる。取手を外そうとする度に酸素が逃げた。そうしている内にもキバナの腕によって沈んでいく。 「ごふ、キ、バナ! すまん!」 聞こえているかは分からないが詫びを入れてキバナの腕に思い切り爪を立てた。驚いたキバナが手を離す。海水を蹴り上に向かってひたすら泳いだ。 「ハァッ、ゲホッ、オ゛オエッ」 必死に岩場に上がり、海水を吐き出す。激しく咳き込んでから海の方へ向き直ると、バケツを持ったキバナがジッとこちらを見つめていた。 「は、はは、海の中を見せたかったのか?」 キバナは数秒瞬きをし、ゆっくりと頷いてから身振りと手振りを加えて短く単語を発した。どうやらバケツに空気を確保してオレも呼吸を出来るようにし、海の中に連れて行きたかったらしい。賢いな。ヘアバンドのお礼だろうか? 浦島太郎の話を思い出した。しかしここは御伽噺の中ではない。 「すまないな。ヒトは海の中には行けないんだ」 キバナが眉間に皺を寄せた。明らかに拗ねている。怪我をしていないだろうか、と腕を見やると爪を立てたはずの場所に傷は無かった。人魚の皮膚は丈夫に出来ているようだ。 「そうだ、キバナ。オレの髪好きだろう? もう濡れてしまったから今日は触っていいぞ」 キバナはオレの髪を気に入っており、よく触ろうとしてくる。キバナの手で触られると、魚特有の表面のヌメりと海水が髪に付く。最初はそれを許していたのだが弟に不審がられたためここのところ避けていた。今日はもう全身ずぶ濡れなので分からないだろう。岩場に寝転がるようにして海の方へ髪を垂らす。キバナが嬉々として腕を伸ばし髪を梳いた。 「……オマエの、かみも、めも、イイ」 「目の色も好きなのか? オレの弟も同じ色なんだ。髪も目もお揃いなんだぞ」 「おとうと、おなじいろ?」 「ホップって言うんだ。弟とは一緒に暮らしている」 「ソウカ、ソウカ」 キバナは何度も頷きを返した。するり、と髪から手が離れる。食欲が満たされ、オレの髪も触って満足したのかキバナは海の中へ帰っていった。バケツも持って行ったのであれはゴミではなかったらしい。キバナの私物だろうか。 「また来る!」 手を振るとキバナも手を振り返した。 ◇ 「アニキ、野犬でも飼っているのか?」 肉のパックをザックの中に入れて家を出るのが習慣となった頃、玄関でホップが声をかけてきた。 「どうしてそう思ったんだ?」 「アニキなんだか休日に出掛けることが増えたし、そんな少ない量の肉でこんな頻繁に一人バーベキューするのは変だし、それなら生肉を食べるような相手が居るのかなって」 弟は何かと鋭い。人魚のことを喋ろうとすると声を出せない症状は今も続いており曖昧に返すことしか出来ない。何より早く行かないとキバナといつも会っている時間に遅れる。 「あ、ああ、実はそうなんだ。すごくお腹が空いているようでな、つい」 「確かにオレとアニキの二人暮らしで大変だけどさ、野生のままを餌付けするよりもきちんと飼った方が良いと思うんだ」 近い内にその犬見せてくれよ!とホップがニカッと笑った。自身も笑みを返して扉を閉める。弟に嘘をついてしまったことに罪悪感を覚えながら海に向かった。 遅く岩場に着くと、キバナは暇潰しなのか何かを手に持っておりそれで手遊びをしていた。近付いて見てみるとそれは弱った魚だった。キバナがオレに気付いて顔を綻ばせる。仲間が怪我をしたのか、と声をかけようとしたその時、キバナが魚に食らいついた。尖った歯が手のひら大の大きさの魚の皮を貫き、ピンク色の肉が顔を見せる。ビクリ、と生きながら食われている魚が震えた。人魚は煩わしそうに魚を持ち直して頭部の方を噛み砕く。はく、と止まっていた息を吸った。 「………キミは、普通に魚を食べられたんだな」 と呟いてから、酷く馬鹿なことを言ったと思った。そうだ、だって考えてみれば人が落ちてくるのは稀になるように巡回していて、遺体を食べている理由だってこっちが勝手に考えたものだ。本当に陸の生物の死体を主食にしか食べていないのだったらとっくに飢え死にしている。人魚からすれば都合の良い動かないご飯があっただけのことなのだろう、と考えついてからゾッと背筋に汗が伝った。キバナは魚を食べ終わり、歯に挟まった小骨を取っている。立ち尽くして動かないオレをキバナが見上げた。口の中が乾く。 「ダンデ、オレのめ、みて」 言われるがままにキバナの目を見てしまう。垂れ目から一転して吊り上ったキバナの瞳の秘色が明滅する。海の匂いが強く漂った。 「うりろくれえ゛らて」 パチンと泡が弾けるような音がした。キバナがこてんと首を傾げて垂れた目でこちらを見ている。かわいい。かわ、いい? そうだ、キバナはかわいい。キバナがオレの服の袖をくいと引き、肉を催促する。肉のパックを開くことはもう慣れたはずなのに、自身の手はぎこちなく動いた。渡された肉をキバナが海水に浸してから食べる。妙に頭が重く、暫くぼうっと海を眺めているうちにキバナは肉を食べ終えた。キバナはオレの服に指を擦りつけて脂を拭った後、いつぞやのバケツを差し出してきている。バケツの中にはシシャモ程の大きさの小魚が2匹入っていた。 「たべろ。オマエと、おとうと。これ、どくないさかな」 先日、海中遊泳という礼が出来なかったからだろうか。キバナの言葉を断る理由も無く、素直にバケツを受け取る。キバナの目がまた爛々と光った。 「ねめかえいたち、うてごんるぬうつあつつせびる。へらぐつ、すぬへへ」 肉を食べて礼を渡す用事も済んだからなのかキバナは早々に海に帰っていった。オレもはやくかえらねば。はやくかえって、おとうととこのさかなをたべる。はやくかえる。たべる。 ちゃぷん、とバケツの中の海水が揺れた。 ◇ 足早に帰宅し、作った夕食に魚を焼いて添える。まるごと焼かれただけのそれを食卓に着いたホップが不思議そうに見ていた。 「アニキ、これどうしたんだ?」 「信頼出来る人から貰ったんだ。毒は無いから安心して食べていい」 「本当か!」 食事の合図をし、早速焼魚を食べようと口を開く。ホップの方が先に魚を頭から齧った。数回咀嚼した後にホップの表情が曇り、顔をしかめる。 「なんか硬いの飲んじゃったんだぞ…………アニキの方は変なの入ってないか?」 「変なの………?」 ホップの言葉に手を止め、皿に戻して魚の身を崩してみる。すると中から白い粒が転がり出た。電灯の光で柔らかく輝くそれは真珠だった。ホップの椅子がガタリと揺れる。 「うわ! オレもしかして真珠飲んじゃったのか!? もったいない……! でも何で真珠が……?」 「この魚は以前プレゼントした物のお礼に貰ったのだが、まさかこういう仕掛けをしてくるとは………」 真珠は真円に近く、素人目で見てもかなり上質なものだ。キバナは余程ヘアバンドを気に入ったのだろうか。どうしよう、とホップが頭を抱えている。 「ホップはお腹痛くなってないか? ご飯残してもいいぞ」 「まだその段階までいってないんだぞ……それに折角アニキが作ったご飯を残すなんてそれこそもったいない!」 ホップが夕食の残りをガツガツと食べた。気分は悪くなっていないようだ。その様子に安心し、自身も箸を進めた。真珠以外は何の変哲も無い普通の魚だった。 ◇ 食事が終わり、夜も更けてホップがそろそろ寝る、と自室に戻った。洗って綺麗にした真珠を一人残ったリビングで眺める。月明かりに透かしてみると、それは淡く青みがかって見えた。キバナからプレゼントされた物だと考えると一層大切に思えた。言うなれば食べてしまいたいほどに。はて、食べたいとは。 一度その考えが思い浮かぶと頭から離れなくなった。真珠は食べ物ではないのに、何故だ。いや、はやく、まるごと、そのままたべろ。 あと少しで舌の先に真珠が触れる、というところでホップがリビングに再度入ってきた。驚いて真珠を手から落としてしまう。 「ホップ、どうしたんだ? トイレか?」 真珠を拾い、隠すように机の引き出しに仕舞った。ホップから返事はない。腕がだらりと垂れている。 「ホップ……?」 「んえておめ」 ホップの口から出た音は、キバナが話す人魚の言葉によく似ていた。 「あほとんえておめ」 ホップはオレを無視してリビングを通り抜け玄関に向かった。ガチャガチャと荒々しく鍵を外し裸足のまま出て行く。 「ホップ! 待て!」 ホップの腕を掴む。覗き込んだホップの目は虚で光が無かった。弟の体からむせ返るような海の匂いがする。ホップの肩を強く掴んで揺さぶった。 「おい! 聞こえるか! ホップ!」 「をとお、ごめへてわぜず」 ホップの細い体からは想像もつかないような力で腕を剥がされた。呆然としているうちにもホップは、んえておめ、んえておめとぶつぶつ呟きながら海の方へ駆け出して行ってしまう。見失わないように走ってホップの後を追うといつも人魚と会う岩場に着いた。 「待て!」 ホップが何の躊躇いもなく、そのまま道を歩くように海に入ろうとしたので咄嗟に背後から組み付き岩場に転がる。ホップの裸足の足は何かで切ったのか血が出ており、オレから離れようと暴れる度に赤い足跡が岩に付いた。ホップが向かおうとしていた先で海の中のキバナがうっとりと笑っているのが見える。だが、陸でホップを引き留めているオレを見てキバナが眉を潜めた。ホップは未だにオレの腕を外して海に入ろうと手足をバタつかせている。 「ダンデ、なんでオマエ、こっちにこない?」 さかな、まるごとそのまま、たべろっていった。キバナは表情を変えずに冷たく言葉を発する。身をほぐして出てきた真珠が思い当たった。 「キミの仕業なのか」 キバナは当然というように頷いた。 「オマエのいろ、イイ。ほしい。でもダンデうみはいるのいやがった。ニンゲンのままだとうみだめだから」 「は…………?」 「だからさかなあげた。なのにオマエ、さかなまるごとたべなかった。でもおなじいろのおとうと、たべた。なかまになった。おなじいろのおとうと、つれていく」 言葉は通じるようになったはずなのに、言っている意味を理解するのに時間がかかった。もがくホップの力が強くなるのと比例して海の匂いも濃くなる。夜風のせいだけではない震えが全身を駆け巡った。 「ッダメだ! ホップは連れて行かせない! ホップを戻してくれ……!」 「しんでるやつうみにいれるのもだめ。いきているやつつれていくのもだめ。ダンデ、だめばっかり。それに、よくみたらおとうとはかみのいろ、すこしちがう。なら、やっぱりオマエこい。ダンデのいろ、すきだ。まいにち、みせろ、ずっと」 キバナがつい、と空中で指を動かした。ホップの動きがピタリと止まり、口から薄く発光する真珠がまろび出て岩場の隙間に消える。ホップが目を閉じてぐったりと力無く横たわった。 逃げなければ、と思った。そっと悟られないようにホップの体を抱え直し、立ち上がろうと足に力を込める。 「とぎらて」 キバナの赫赫とした目がオレを貫く。脚が縫い付けられたように動かなくなった。いつの間にか正面に来ていたキバナの瞳から雫がこぼれる。涙は頬を伝う内に白く固まり見覚えのある真珠になった。それを口に含んだキバナに顔を掴まれる。 あ、と気付いた時にはキバナに口に噛み付かれていた。唇を割り開かれ冷えた舌と硬い粒が入ってくる。歯を食いしばって抵抗したがチカチカと光るキバナの目が視界に入った途端に力が抜けてしまった。 つるりとした感触が喉を下る。キバナがオレの顔から手を離した。指を突っ込んで出そうとしたが上手く吐き出せない。オレの様子を見てキバナが楽しそうに笑っていた。その表情が瞼に焼き付く。キバナが笑っている。へにゃり、とめじりのさがった、かわいらしい、わらっている。 ……? キバナが笑っているのなら何の問題も無いではないか。 喉の奥を突いていた指を外して立ち上がる。弟の体が腕の間から滑り落ちた。 早く海に行かなければ。陸が息苦しい。海水に足を浸けると爪先から泡立つような感覚がした。ざぶざぶと波をかき分けて進むとキバナが寄り添ってくる。絡みついてきた腕の温度が心地良い。シアンの瞳が星のように眩しく美しかった。きれいだ。 「ダンデ」 オレさまのたからもの、あいしてる、と言われた。口が自然にオレもだ、と返していた。 ◆ 病院のベッドの上で目が覚めた。何をしていたかはっきり思い出せない。確か兄が久々に夕食を作って、魚を食べて、それから。 ベッドの周りを村役場の男達が囲んでいる。可哀想なものを見る目をオレに向けていた。ひそひそと何かを話している。起き上がって男に掴みかかった。手がわなわなと震える。寒気が止まらない。 「アニキは……?」 あれは魅入られた、と首を横に振られた。茫然としているうちにあれよあれよと崖の近くの海沿いの神社に連れていかれる。おはらいというものをするそうだ。社の中には仰々しい服装をした男が数人立っていた。 何がどうなっているかわからない。居心地が悪く視線を動かしていると、普段は締め切られている神棚の扉が開いていることに気が付いた。御神体、というやつなのだろうか。上半身は人間で下半身は魚の形をした像が中に飾られていた。所謂人魚だ。目があるであろう位置に布が巻かれている。固まったオレを見て男達が口々に言葉を発した。 「あれの目は見てはいけない」 「あれの瞳は人を惑わせる」 「あれは」 「あれに」 男達が次々に声を響かせる。狭い社の中を低い声が反響してうるさかった。 「あれ、あれ、ってみんなおかしいんだぞ!! あの人魚がオレとアニキに関係あるのか!?」 像を指差して叫ぶと、ぴた、と男達の声が止んだ。違和感を覚えて男達の方へ振り返る。男達はぱくぱくと音のない言葉で喋り続けていた。口だけを動かしている様は、陸に打ち上げられた魚のようだった。 ◆ 人魚語は五十音表に当てはめて2文字進めると読めます。 例 「をんあいう」→「あいうえお」 「くわとそね」→「こんにちは」 わからない場合はDMでお教えしますのでご連絡ください。 ありがとうございました! 「キミは、普通に魚を食べられたんだな」 と呟いてから、酷く馬鹿なことを聞いたと思った。鋭く尖った歯が手のひら大の大きさの魚の皮を貫き、ピンク色の肉が見せていた。ビクリ、と生きながら食われている魚が震える。人魚は煩わしそうに魚の頭部の方を噛み砕いた。 ◇ うりけへぬせえゆむぬ おれさまのたからもの 「うりぬくつろこめびらて。をつ、めかすかろせえ゛いらてや」 おれのことをしゃべるな。あと、やくそくをたがえるなよ 「うりろくれえ゛らて」 おれをこわがるな 「ねめかえいたち、うてごんるぬうつあつつせびる。へらぐつ、すぬへへ」 はやくかえって、おなじいろのおとうととたべろ。まるごとそのまま 「んえておめ」 いかなきゃ 「あほとんえておめ」 海にいかなきゃ 「をとお、ごめへてわぜず」 あにき、じゃまなんだぞ 「とぎらて」 にげるな 「ねめかせびる」 はやくたべろ 秒は、セシウム 133 の原子の基底状態の二つの超微細構造準位の間の遷移に対応する放射の周期の9192631770倍の継続時間 短歌? 朝起きる 顔を洗う 歯を磨く 服を着替える 新しく買ったホットサンドメーカーを使ってみる 案の定焦げた 焦げた面を裏にして自身の皿へ 上手くいった二枚目を相手の皿へ 作り置きのおかずの残りがあとちょっと 半端に残しておくのも嫌なので相手の方に少し多く盛る 相手がコーヒーを入れている 食卓に並べる 不平等な副菜がバレてしまう イコライザー 今日も美味しいと相手が笑う それは何より コーヒーを啜る 焦げたパンは自身の口の中に消えた 人魚語答え合わせとイラスト 作中でdさんが人魚kさんに飲まされたものは? 英語にして半角小文字5文字で pearl ◇ タイトル うりけへぬせえゆむぬ →おれさまのたからもの 「うりぬくつろこめびらて。をつ、めかすかろせえ゛いらてや」 →「おれのことをしゃべるな。あと、やくそくをたがえるなよ」 「うりろくれえ゛らて」 →「おれをこわがるな」 「ねめかえいたち、うてごんるぬうつあつつせびる。へらぐつ、すぬへへ」 →「はやくかえって、おなじいろのおとうととたべろ。まるごと、そのまま」 「んえておめ」 →「いかなきゃ」 「あほとんえておめ」 →「うみにいかなきゃ」 「をとお、ごめへてわぜず」 →「あにき、じゃまなんだぞ」 「とぎらて」 →「にげるな」 ありがとうございました! 人魚語答え合わせ https://privatter.net/p/5523886 「うりけへぬせえゆむぬ」のエピローグ?という程でもないその後の一枚絵 https://privatter.net/i/4529697 【ダンキバ】遠きネフェル・ラー【R-18G】 【ダンキバ】遠きネフェル・ラー【R-18G】 フォロワー限定公開 2020-02-24 22:42:15 エロもグロもぬるいけど念のため。綺麗に死んだkbnを連れ出したdndが、自分の至る場所を自覚するまでの短い話。屍姦あるので要注意。 ――さあさ王の凱旋だ。 ――手向けに白い別れ花。 ――君の好きな服を着よう。 ――天国への扉は、もう赤いか? * 壮麗なカーマインのマントに、艶やかな黒のユニフォーム。曇天の下、ぬかるんだ道をもう誰のものでもなくなった長い髪を靡かせ、彼は悠々と歩を進める。 誰もがその姿を固唾を飲んで見守っている。ダンデはぽっかりと空いた世界の裏側に通じる穴の前に立ち、じっとその底を見つめた。風だけが彼の隣を通り過ぎていく。傍らにいつもいた、あの男の姿はもうどこにもない。息絶えた竜は、もう二度と空へは戻れない。 キバナは神に召された。美しい死に顔を最初に網膜へと映したのはダンデだ。痛みもなく、一瞬にして絶たれた尊い命はまだそこに確かにあるようで、薄絹をかけられたようなこの光景の中では、誰もが彼の姿を探してしまう。 普段は揃いのユニフォームを着ているジムトレーナー達は、質素な洋服で整列していた。その内一つの影がふらりと列を離れて、ダンデの隣に進み出た。 「どうか、こちらへ。オーナー」 ダンデはじっと穴を見つめている。わずかに盛り上がった土の下には、愛しい男が息を潜めている。まるで肖像画がそのまま世界に焼き付けられたような表情は、悲しみも怒りも、およそ人間の抱えるべき感情を全て、死体と同じく地の底に埋めてしまったような白紙に近いものだった。 声をかけても、腕を引いても、彼はそこから動かなかった。彫刻じみたその姿に、もう誰も触れることはできない。美しいオルガンの音だけが、遠く遠く世界の果てで鳴り響いている。 粛々と進められる全ての物事は、最後までダンデを動かすことはなかった。 夜が来て、朝が来る。明け方の雨が彼を濡らしても、傘を差し出してくれる人は、いない。 * 三日間の小さな死の間、ダンデはずっと考えていた。彼の死は一体誰のものなのか、と。失われたものを所有するにはどうすればいいか、そればかり考えていた。 何も飲まず、食わず、眠らず、話さず、呼吸以外の全てを、恋人になぞらう。三日もこの場所にいてようやく染み出してきた、彼の孤独を理解出来そうな予感にダンデは目を細めた。 水を含んで柔らかくなった土の上に立ち、ダンデはその手をキバナを隠した厚い壁へと差し込んだ。乗せられた石の塊の周りを掘り返して、彼の名が刻まれたそれをひっくり返す。また手を差し込んで、延々と土を掻き出す。途中でもどかしくなった彼は、木の側に立てかけられていたシャベルを持ち出してきて、ただ真下へと掘り進める。まだ辿り着かない、まだ辿り着かないと、焦る心は彼の体を操り人形のように動かす。 弾みで切ってしまった手から流れる赤い血が、一滴また一滴と土へ吸い込まれていく。ああ、この血を飲み干して吸血鬼にでもなって彼が蘇ったのなら、自分の肉体を余すところなく捧げてもいい。髪の一本、爪のひとかけらまで、自分は彼に喰われても構わないと、思う。 長い長い時間の後、ダンデはそれに行き着いた喜びに思わず声を上げた。 「キバナ、一緒に帰ろう」 最後に思い至ったのは、せめてこの世に残った遺骸だけでも、というささやかな願いだった。 魔法で魂を呼び戻すことが出来ないのなら、彼の上でこの胸に引き金を引いてしまうのもいい。ダンデは固く閉ざされたギフトボックスをそっと開けて、神へと捧げられるはずの肉体をぎゅう、と抱き締める。 「なんだ、思いの外、暖かいじゃないか」 深夜の夜露に濡れた彼は、氷のような脚で帰路を辿る。 * 褐色も鮮やかな指に滑らせた唇は、とても嬉しそうに弧を描いている。 肌は確かに、以前抱いた時と光沢も感触も何もかもが違っていた。それでも、肉の奥底に沈んでいた情欲の温度をどこか感じるようで、夢中になって口づけを続ける。 辿り着いたのは街外れの古い教会で、礼拝堂の奥で孤児院を開いていたのか、ベッドも家具もいくつか残されたままであった。そのうちのベッドを一つ綺麗に清めて、キバナを寝かせた。眠っているような顔、化粧を施すと共にかすかに与えられたコロンの香り、死の気配などそこにはなかった。 今度は唇を貪ろうとそっと舌を固く閉ざされたそこに当ててみる。エンバーミングの処置をされた口内は、ひとりでに口が開かないよう糸で縫い止められてしまっていた。残念に思いながら、ダンデは弾力のあるほのかに赤い唇に、子どものような軽いキスをした。淡い色のリップはダンデの唇に移り、キバナの唇の色を少しだけ冷めさせた。 「……君のために、口紅を買ったことはなかったな。君は、たくさんの女性に、買ってやったのかもしれないが……」 贈り物を選びに行く暇はあるだろうか、とダンデはぼんやりと考えを巡らせたが、もうすでに巷は騒ぎになっているとしか思えなかった。自分達はここから出ることは出来ない。 彼をたくさんの花で飾ってやることは叶わないし、美しい服を纏わせることもない。ダンデがキバナにしてやれることは、本当に少なくなってしまった。だから、こうして身体だけでも愛してやりたいと思った。どんな姿になったとしても、ダンデの献身は決して揺らぐことはない。 シンプルなデザインの白いスリーピース、糊の利いたシャツは、汚さぬよう丁重に運んできたおかげでまだ染み一つない。胸に挿した深い紫の薔薇も、摘んだばかりのように瑞々しく見える。ダンデはジャケットのボタンに手をかけると、ゆっくりと一つずつ外していく。ベストもシャツのボタンも同じように。 露わになった胸から腹を、指でそっとなぞる。皮膚の下にたっぷりと流し込まれた液体の感触が、指先にはっきりと伝わる。ちゃぷん、と揺れる水の流れは、血液より固く指を押し返した。防腐剤を隅々まで巡らされた身体は、ダンデが抱き締めていれば温もりを取り戻しそうな程に生き生きとしているように見えた。二十一グラムを失ってなお、彼の体は以前通りに張り詰めている。 胸の先をちゅう、と吸い上げる。反応はない。自分のどんな動きにも繊細に反応していた彼の唇は、何も紡がない。 「でも、嫌がられることもないな」 横へすっと舌先を滑らせ、脇のくぼみに尖らせた舌を押し付ける。ここを嬲られるのをキバナは酷く嫌がった。最も彼の匂いを感じられる場所は、今は首筋に吹かれたわずかなムスクとエタノールの匂いだけで満たされている。それでも、また同じようにこうして触れられる事実に感謝するより他にない。 アイロンのしっかりかかったパンツに手をかけると、下着ごとずるりと脱がせた。脚を上げてくれないので、足先まですっかり脱がせるのには時間がかかった。ついでに靴下も剥ぎ取る。 ダンデは濡れた自身の服を全て脱ぎ捨てると、眠るキバナに跨がった。臍の数センチ上の辺りに、小さな傷跡がある。見えにくいがホチキスのようなもので留められたそこを舐め上げて、中身を飲み込んでしまうように吸い上げる。そこからは何も漏れ出してこない。残念に思いながら、そのまま舌へとキスを落としながら体をずらしていく。 だらりと重力に負けたキバナの陰茎は、ダンデからすれば愛らしいものにしか思えなかった。後ろで絶頂を迎え続けた時の彼の男性の証は、ちょうどこんな風に力をなくして項垂れていたのを思い出す。まるで女性になるみたいだな、とダンデが笑ったのを、キバナは涙を浮かべて否定していた。 「ファンデーションを塗って、紅をさして……本当に、俺のために変わってくれたようだな?」 ダンデはキバナの両足を持ち上げ、自分の膝を差し込む。自身の欲望は熱を持ち膨れ上がっていて、堪え性のない男だと自分で自分がおかしくて仕方がない。 後孔に指を這わせる。遺体の処置として詰め込まれていた脱脂綿が指先に触れた。ダンデはそれをゆっくりと引き抜く。消毒液が染み込まされたそれが外界に現れる程に、不快な匂いが漂う。病院でキバナを待つ時に嗅いだ匂いと同じだった。単調なバイタルサインの音と、かすかに聞こえる医者の怒号を思い出す。背筋がびりびりと震えるのを感じて、慌ててダンデは首を横に振り、想像を押しやってしまう。 濡れた先端を、ぽっかりと空いたそこへあてがう。綿を飲み込んていたそこは確かに少しだけ口を開けてはいたが、ダンデの怒張を受け入れられる程ではない。唾液を垂らした指でまさぐっても、それ以上広がるようには思えなかった。 「酷いと思うだろう? ……俺を受け入れない君と、君をいつまでも求める俺、本当に酷いのは……」 体重をかけて、無理矢理に体を暴く。肉の引き攣れる感触と、裂ける音、わずかに残った凝固しかけている血液の温度、体を満たしていた防腐剤の匂い。どれもがダンデの望むものではなかったが、彼に受け入れられたという安堵が全身に広がっていく。 ゆったりとその身体を揺する。冷えたゼリーに包まれるようなその感触に、ダンデはきつく唇を噛んだ。声を上げてほしくて、何度も最奥まで叩き付けるように、腰を動かす。キバナの瞼は軽く閉じられ、唇はやんわりと笑みを作ったままだ。誰にも許されるはずのない行為を、キバナだけは秘密だぜ、と言って見ない振りをしてくれる。 ダンデの瞳は段々と獣の色を失い、絶え間なく涙を零すようになった。嗚咽を隠すこともなく、嬌声とも泣き声ともつかぬ声で、誰にも届かない叫びを上げる。 「……ぐ、ぅ……キバ、ナ。……ふ……う、ゔ、なあ……声を、こえ、を……声を……!」 物言わぬ人形は、ただ微笑むだけだ。 ダンデは息を止めて奥の奥で精を吐き出す。体の中のものを、全てキバナに注ぎ込んでしまって、自分が皮だけになってしまえれば、キバナは目を覚ますだろうかと、思う。ぺらぺらの風船に成り果てた自分に息を吹き込んでくれたなら、中身などなくても自分は起きてキバナに寄り添うことが出来る。そうしてみせると、誓えるのに。 動かぬ胸に倒れ込んで、ダンデは長く長く叫びを上げた。街の外れの朽ちたこの場所で、何が行われているかなど、誰も知るはずがない。彼が疲れ果てて眠りにつくまで、悲哀に満ちた咆哮が途切れることはなかった。 * 朝、目が覚めるとキバナの上にいた。彼はいつも重いと苦々しい顔でダンデを責めるので、慌てて飛び退いて優しい口元にキスを落とす。挨拶は返してくれない。 ダンデは自分のマントが乾いていることを確認すると、軽くはたいて汚れを落としてしまってから、キバナの裸体をそれで隠した。珈琲色の肌に、赤と金の意匠はよく似合う。 「おはよう。今日は、何をしよう」 本当は、もう出来ることなど何もないことを知っている。行き止まりになった道の前で、ダンデは静かに涙を流しながらキバナの口元を見ていた。 自分の胸に穴が空いてしまっているのをこんなにもはっきりと感じているのに、何故こんなに綺麗な胸のキバナには何も感じることが出来ないのだろうかと、ダンデはまたキバナの胸に指をくるくると滑らせる。 もうこのまま眠ってしまおうと、ダンデは床に座り込んだまま目を閉じる。このまま朽ちてしまえばいいと思う。キバナはずっと綺麗なままで、自分がすぐに腐っていく。こんな人間の末路としては似つかわしいだろう。 ダンデが数百回の呼吸を繰り返して、ああ眠りに落ちると思ったその瞬間、眩しい輝きに思わず目を開く。 「……キバナ……」 強い日の光がキバナを包み込み、きらきらと光るようだった。ああ、今、目を開けてくれたなら、あの静謐な湖面を思わせるあの瞳を、見ることが出来たなら。ダンデは思わず手を伸ばし、その頬にそっと手のひらを沿わせる。 少しずつ光は失われた。ダンデの背後にあった窓から差し込んだ陽光は、二人にほんの少しの奇跡を与えた。キバナにはやはり光が似合う。近付けば身を焦がすような太陽に寄り添って生きてきた男だ。息をしていなくとも、それは変わらない。 ダンデは自分の手をじっと見つめる。ほんの数日前までは、何をしていても光を放つと自負していた体は、今や闇に沈み込みいつ崩れ落ちるかも分からぬ砂の月のようだ。 「不甲斐ないと、笑っているんだな」 光を直視してちかちかと瞬く視界の中で、自分のマントだけがはっきりと輪郭を持って見える。あれは自分の熱の象徴だ。最も心を燃やし、彼と二人で互いを喰らい合っていたときの。 「分かった。君に、俺に足りないのは」 ありったけの布を集めて、キバナのための棺を作る。土の中では冷た過ぎた。彼は自分の熱で、燃やし尽くさなければならない。魂を火に焼べてこそ、彼は本当の意味で自分のものになるのだと、ダンデはようやく思い至る。 キバナを抱き上げて床に作られた布の巣に横たわらせる。戸棚に入っていた湿気たマッチを延々と擦り、ようやく点いた火種を棺へ点した。少しずつ燃え広がり、足下に寄ってきた火を、今度は自分の体に移す。ダンデは満足げに微笑むと、キバナの隣へ横になって、その横顔をじっと見つめる。 「俺は、君の太陽だものな」 ――もう地上ではどこへも行けぬのならば、空を飛んで旅に出よう。 * 『――引き続き、ニュースをお伝えします。××日未明、シュートシティ南の廃教会にて、火災が発生し建物が全焼しました。焼け跡からはバトルタワーオーナーのダンデさん、元ナックルシティジムリーダーのキバナさん両名の遺体が発見されており、現在詳しい出火原因などの調査が進められております。キバナさんの遺体からはダンデさんの体液が検出されており、埋葬されていた遺体を持ち去ったのがダンデさんであると――』 ぶつり、とわざとらしい音でテレビのスイッチを切る。 連日朝から詰めかけている報道陣の対応で、すでに半日を費やしてしまった。リョウタは深く息を吐き、あの扉の向こうからびっくりしたか? とキバナが飛び込んできてくれるのを待っている。 記憶の中の彼らはいつも笑っている。外野が何を言おうと、何を抹殺しようと、その過去は変わらない。 窓ガラスに石が投げつけられる。割れた破片はリョウタの頬を掠めて、一筋の赤い線を作った。顔を見せてはいけないと思いながらも、激情に身を任せて窓の前に躍り出る。 「……え?」 そこにはばたばたと倒れるカメラを持った男達がいるだけで、誰も立ってなどいなかった。 高い嘶きを上げた黒い影が二つ、ジムの上を通って街の外れへ飛び去っていく。 きっと果てへ向かうのだろう。翼竜達は、振り返らない。 Ωバースぱろ ダ アルファだしキもアルファだと思っている。アルファ同士でも結婚出来るし、一番心惹かれるのはキだし問題ないだろ?と思っている キ アルファを装っているがオメガ。フェロモンでダのことを誘惑するのも嫌だし、ダが自分のフェロモンで狂うのも嫌なので黙っているし抑制剤もめちゃくちゃ使っている ある日、ダの家に遊びに行った時にたまたま使用済みティッシュを見つけ、つい持ち帰ってしまい、自身のオナの時に使うキ。 処女受胎 心当たりがダのティッシュしかないキ。妊娠したことがバレたらオメガだとバレてジムリもやっていられないし何よりダにバレたくない。逃亡。 ダもちろん追いかけてくる。想い人でありライバルが突然居なくなったので。そこには子供と暮らすキが!!!!!!!!!!!!!!!! なんかあってハッピーエンド 右を見て 左を見て シアンとマゼンタに 挟まれる私たちは クロムイエロー オマエあれだ パンジャンドラム どこに行くか わからないやつ ソックリだ 誰が殺したチャンピオンのダンデを それは私と少女が言った 私の意思と強さでもって 私が殺したチャンピオンを 誰がなるか付き人になるか それは私とドラゴンが言った 暗い道でも迷わぬように 私がなろう 共に向かおう 倫理がない発想 ・カニバを含むダンキバ kbnが行方不明になってから全く手掛かりが掴めず、2週間ほど経ったある日、dndの家にクール便が届く。3箱の配達物はやたらと重い。開くと中に生肉(パックの生肉の他にベーコンやハム等加工済のものもあれば細身な枝肉もある)と、USB(とかsdカードとかとにかく録画されているもの)が入っている。それにはkbnの通常のリーグカード(世の中に一番出回っているようなコレクターの中でも価値が低い一般的なもの)が添えられていた。何か手がかりがあるかもと再生する。憔悴しきったkbnが画面に映っている。kbnの解体される様子が撮影されたものだった。 ▽ここで分岐 →dndさんの倫理がある√ すぐさま通報し宅配の経緯から犯人を炙り出す。猟奇的快楽殺人犯が捕まる。dndさんは酷い精神的ショックを受けつつも周りのサポートもあり回復する。 →dndさんの倫理がない√ 実はkbnに告白してフラれていたdnd。彼を監禁でも何でもして自分だけのものにしたいと思っていたが自身の立場と彼が努力し手に入れた地位を踏みにじるのか?と思いとどまっていた。自身とは関係ない者の手でkbnがこんな姿にされてしまったのは腸が煮え繰り返る思いだが、渡りに船。「一緒に生きてくれよな」と残さず食べる。後に猟奇的快楽殺人犯は捕まるが、kbnさんの遺体はどこからも出てこなかった。 dさんがちょっとおかしいダンキバ ・kbnさんがWAでもいいしとにかく突然死ぬ。dndはkbnの見ている景色が見たい、と自身の片目をくりぬきkbnさんの片目を入れる。当然、そちらの方の目は失明する。この事実は周囲によって隠蔽され眼帯をしたオーナーが誕生する。たまに誰もいないところで楽しそうに独り言を言うオーナーが目撃されるようになる。 ちょっとkさんが死に過ぎなのでdさんにも死んでもらいました。みんな本当に閲覧大丈夫ですか。ダメな方は本当に見ないでください。間違って来た方は引き返してください。 kさんが可哀想なダンキバ(モブがでしゃばる)(またカニバ) ・気がつくと椅子に固定されていたkbn。無機質な部屋で物騒なアイテムが壁にかけられている。不意に壁の向こう側からdndの「やめろ!」とか「ぐっ、ア゛ア、い゛っ!?!?」とかいう悲鳴が聞こえる。少しして声が静まり、モブが部屋に入ってくる。どういうことかモブに問い詰めるとのらりくらりと躱されつつ「kbnさんが大人しく従ってくれたらdndさんにこれ以上酷いことはしない」と言われる。「dndに少しでも会いたい」と話すと一旦モブが部屋を出てdndの悲鳴が再度聞こえ、収まった頃にモブが生爪ひっぺがしたやつを持ってくる。「"少し"持って来ましたよ」と。下手なことは出来ないと悟るkbn。「dndさんも少しでも会いたいと言っていたのでもらっていきますね」と爪を剥がされる。「(大丈夫、爪が無くたってバトル出来る」「(骨だっていずれくっつく」「(dndだって頑張ってるんだ」と己を鼓舞し精神を保つ。そんな日々が続き、モブから食事を与えられていたのだが「今日はご馳走ですよ」と言われる。何のことかわからない。とにかく早くオレもdndも解放してほしいと考えている。仰々しいワゴンをガラガラと押して入ってくるモブ。「脳も目も腐りやすいので大変でした」と。ワゴンには頭頂部を切りとられ頭蓋骨のところに皿をはめ込まれたdndの生首が乗っている。dndは既に死んでいたと絶望する。食べさせられる。 ▽分岐という程でもない分岐 →kbnさんも解体され死亡。 →kbnさん解放されるが精神崩壊している。犯人はdndさんの他にも色んな人を解体しておりその手を洗わずdndさんの調理とかしていたのでそれのどれかからもらってきたプリオン病でkbnさん死ぬ。 補足。dさんが捕まった頃とkさんが捕まった頃は時間差があり、kさんが捕まった直後はまだ生きていた。少しでも会いたい、は本当にdさんの言葉。 変異型後天性真人魚症候群、というものをご存知だろうか。シレノメリアと言った先天性の疾患ではなく、本当に人魚に変化していくのだ。脚からは鱗が生え始め、陸上での呼吸は困難になり水中での生活が余儀なくされる。最終的には本当に本に描かれるような人魚の姿になる。この世界はポケモンになったエスパー少年だっているのだ、今更、人間が何になろうと不思議ではない。この病はどこからともなく発症し、治療法も見つかっておらず人によって治ったり治らなかったりする。治らなかった人専用の施設が出来るほどにこの病には一定の患者数がいた。 そんなある日、ダンデの歩き方がどこかぎこちなかった。ダンデ曰く最近歩くのが難しい、と。休んだ方がいいと無理矢理休暇を取らせて家に送った。オーナー業を詰め込み過ぎているのだ。 3日後、ダンデから「ちょっと来てほしい」と連絡があった。急いで駆けつけてみるが玄関で呼んでも返事は無く、しばらくして「ここだ!ここ!」とバスルームから水音がした。バスルームの扉を開くと、浴槽に並々と水を張りそこに潜っているダンデが居た。以前、この湯船はキバナも脚を伸ばせるサイズにしたんだぜと言っていたのを思い出した。その時はいつ役に立つんだそんなもの………と思ったがなるほど。備があれば憂いなし。現実逃避しかけたが今、目の前のダンデの足には鱗が生え始めていた。 から始まるんですけど、まあ魚って涙が必要無いんですよ。どうしても泣きたくない、泣けない人が、涙の無い存在になりたくて発症するんです。なんやかんやでそれに気付いたキバナさんが「オマエがこんな姿になっちゃったら、バトル……は出来るか、一緒に食事………も出来るな。」「でも、オマエと一緒に寝ることも、泣くことも出来ない」って告白して、dndさんの目から涙が流れると同時に鱗がぽろぽろ剥がれて人間に戻る。というお話なんですけど……… 治った人の話を聞きにいく みんな真珠を持っていた なんでも、不意に泣いた時にその涙が真珠になり気付いたら鱗が剥がれ始めていたとのこと 不気味だが色も形も美しくどうにも捨てられなくなってしまう 【キバダン】 ■ like the raspberry フォロワー限定公開 38views 5favs 1 2020-02-24 19:13:17 【R-18】ゲイ ?なキバナ×モブのフリをして抱かれるダンデのはなし 【注意】 ※キバナが男モブと関係を持った描写があります(ものすごく軽く) ※ダンデがモブのフリをしてキバナに抱かれようとする話です オーケー? 今宵ダンデは品行方正で理想の大人を脱ぎ捨てて、享楽的な遊びにふける悪い男になる。魔法にかけられたみたいに姿を変えて、たった一夜の夢を見る。ガラスの靴は残さない。その店の前で竦みそうになる脚を叱咤して、ダンデは一歩踏み出した。 ■ like the raspberry サクサクのタルト生地の上に、甘くて爽やかな酸味が香るラズベリージャム。更にバターとアーモンドの練り混ぜられた黄金の生地がどしりとのっかり、てっぺんには狐色が眩しいかりかりのフレークが散らしてある。カフェのデザートにはなかなかのボリュームな気もするが、ダンデはこのベイクウェルタルトをいたく気に入っていた。遠い昔の夏の終わり、幼いホップとラズベリーをカゴいっぱいに摘んで、このタルトを祖母に作って貰った記憶が蘇る。清涼で、でもどこか青臭い草いきれの香りと、暑い日差しをたっぷり含んだ乾いた土の匂いが漂ってきそうだ。 「ここのタルトは特に美味い!食ったら元気出るぜ」 先ほどから紅茶でため息を喉に押し込んでいるキバナにそう言った。普段から温厚な顔立ちの男だが、今日はヘアバンドのむこうに隠れた眉が、情けなく垂れ下がっているのを知っている。容姿端麗で良くも悪くも衆目を集めるこの男は何かと色恋の噂が絶えない。つまるところ彼は六回目のゴシップ誌の表紙を飾ったばかりであった。 「オレが昔ラズベリーが好きだって話をしたこと、覚えてたんだろ?気を遣わせてすまないな」 「そう思うなら早くいつも通りになることだな!キバナらしくないぜ、オマエが雑誌にでっち上げで書かれるなんていつものことじゃないか」 「いつものことね」 とうとうキバナは飲み込み損ねたため息を一つこぼした。こうまで憂鬱なキバナも珍しい。あったこともない人物としたこともない恋愛を書かれるなんて本当にいつものことだ。ひとつ珍しいことがあるとすれば、今回キバナと噂されたのは女性ではなく、キバナより頭ひとつ小さい男だったくらいか。褐色で、青みがかった黒髪が腰まで垂れていてともすれば女性に見えなくもなかったが、骨張った腕と筋張った脹脛が彼の性を正しく伝えていた。 男と歩いているくらいで噂になるのならダンデと歩いていてもそのうち噂されるのではと最初は危惧したが、よくよく見るとその男の腰に見慣れた濃い肌の腕が回されていた。隙間ひとつない密着具合からして、二人はただならぬ関係にあることを思わせた。後ろ姿の写真でも一目見てキバナだと見紛うほど背格好がよく似ているし、よくできたフェイクニュースなものだ。 かぶりついたタルトから豊潤なラズベリージャムが目一杯広がった。アクセントの酸味が程よくタルトを引き締める。ダンデにとってこれは瑞々しくて少し切ない夏の味だが、世間では甘酸っぱい恋の味と言うらしい。 「相手が男だったからと言ってそう落ち込む必要はないだろ?寧ろよく男同士でスクープになると思ったな、あの記事は」 「………何も思わないのか、オマエ」 「思うって、何が。だってどう見たって嘘だろ?」 どうにも歯切れが悪い。晴れた秋空のような瞳を曇らせて、キバナはカップの中を見つめている。彼の注文した飲み物はエスプレッソだったかと錯覚するほど苦りきった顔をしている。一体どうしたんだとダンデが尋ねる前に、彼は口を開いた。 「嘘じゃねえよ」 ゆっくりと、はっきりと。カフェの穏やかな音楽にあわせて静かな声色が鼓膜に届く。ぱちくりとダンデは目を瞬かせた。 ダンデは最初、キバナが何を言っているかわからなかった。口にした言葉一つ一つは理解しているが、異国の言葉のように文にならずにすり抜けていってしまったのだ。だってあの写真の中、隣に並んでいたのはダンデと大してかわりのない背格好の男だ。あのキバナが恋や愛に至るはずがないじゃないか。 「すまないキバナ、なんて言った?」 「嘘じゃねえって言ったんだ。相手が男だからってそんな驚くことか?」 キバナは苦笑いを浮かべた。決して相手が男であることに衝撃をうけたわけではなかったのだが、ダンデの抱えた真実を彼に伝える訳にはいかなかったので、否定できないまま誤解は続いた。 「今回に関しては事実だよ。互いに了承のもと"遊んだ"ところをうっかり撮られちまった。相手に悪いことをしちまったな、ばっちり顔が映ってた」 紅茶を口に含んだばかりだというのに、ダンデの口の中がからからに乾いている。喉に干ばつがおとずれて、かちかちにひび割れて痛みすら覚える。こわばって引っかかって上手く音を紡げず、それでもどうにか言葉を絞り出した。 「オマエも、そういう遊びをするんだな。正直意外だ」 「オレさま、聖人君子じゃないのよ?オマエが思うほどお行儀よくもねえし、枯れてもねえし。やっぱり男相手だってのが驚いたか?オマエの言う通り女相手と差はねえよ、股についたもん以外な」 午睡にぴったりの陽気な昼下がり、気取った店内にもキバナにも似合わない擦れた物言いをする。わざと下衆で蔑まれるような言い回しをする。言葉による自傷行為にもみえて、ダンデは思わず鋭く咎めた。 「キバナ」 「わかってる、わかってるって。すまなかったよ!大丈夫だ、節度はもってるしオマエとのポケモンバトルやジム運営に影響はださねえよ。あとオマエはそういう対象じゃないから安心してくれ」 口を挟むすきもなく、キバナが捲し立てるように言い募り、最後にとどめの一撃を放った。ダンデの手からフォークが滑り落ちて、ビニールのテーブルクロス上で静かに、小さく跳ねた。 それからのことをダンデはよく覚えていない。自分はなんと返したのか、結局キバナはあのタルトを口にしたのか、そこから何を会話したのか、どう店をでていったのか。 ただ一つだけ。あの日胃の底に沈んだはずの甘酸っぱいラズベリーは覚えている。むせ返るような夏の終わり、恋の味。それが胸の内にチクチクと根を張り、臓器をむりやり押しやって、息苦しく花を咲かせた気がした。 敗北の経験は二度目かもしれない。例のゴシップ雑誌を眺めながら、ダンデはそんなことを考えた。一つ目は新しいチャンピオンに王座を譲り渡したあの瞬間。もう一つはこのゴシップ雑誌の中、キバナの隣を歩く長髪の彼。或いは、もっと無数の顔も知らぬ男たち。 キバナはダンデをそういう目で見ていないと言い放った。彼らはキバナの性の対象に選ばれたのに、ダンデはその対象にすらなれなかったのだ。じくじくと恋心が鈍い痛みを訴える。明かりもつけずに薄暗い部屋の中、一人ぼっちのソファの上で、ダンデは痛んだその部分をくしゃりと握りしめた。 ダンデがキバナのことを好きだと自覚したのは、もうずいぶん昔のことだ。なにか特別なきっかけがあったわけじゃない。ダンデがすぐ道で迷子になるように、気がついたら既に恋の中にいた。自分が今どこに立っているのか、全く知らぬ場所にいると知覚しゾッとするみたいに、ダンデの心はいつのまにかキバナに埋め尽くされていた。ワイルドエリアの霧のように覆い尽くされていて、自分が恐ろしくなった。 ライバルとして剣呑に見据える鋭い瞳も、普段の優しい垂れ目がちな表情も、控室で戦略を立てることに夢中で真剣で鋭いのにどこか茫洋とした目つきも、見る角度で色が移り変わる変色性の宝石のようにどれも美しく、そして蠱惑的だった。 それを自分にむけて欲しい、それで満たして欲しい。細胞という細胞が開くような興奮を覚え、食い尽くしたいと渇望し、時として性的な衝動を伴った。シャワールームからでたばかりのキバナと鉢合わせてしまった時など、首筋を舐めるように水滴が滴り、なめし皮のように艶めいているのを視界に入れた瞬間。ダンデは腰に重たく蟠るものを感じてしまい、絶望したものだった。ここまできてこの気持ちの正体が何であるか分からない、ダンデは鈍感ではなかった。鈍感でいられなかった。 恋人になりたいとは何度も考えた。ライバル以外の関係と名前も、強欲にも欲しがった。しかしキバナはあの容姿である。メディアを通すと派手なところばかり注目されるが、人当たりもよくてクレバーだ。スポンサーとの懇談会ではいつも女性に囲まれていて、実際にダンデもよく知る企業のご令嬢に、見合いや婚約を迫られている場面を目撃したことは一度や二度ではない。 結局彼は丁重に固辞したようだが、キバナが受け入れなかった彼女たちは皆宝石のように美しかった。丹念に磨き上げられ洗練され、覗き込めば連なったルチルのインクルージョンが煌めくような深い造詣を見せ、見合ったカットを選ぶように自分が最も輝く方法を知っている。何れの女性もポケモン勝負への熱情と実力という劈開面 へきかいめん をもつという一点を除いて、彼女たちはキバナの隣に立つにあたって申し分のない魅力を備えているように見えた。レセプションの度に宝石の海がぐるりとキバナを取り囲むのを、ダンデはいつも浜辺から打ち寄せる波を眺めるように遠巻きにして見つめていた。それでもキバナのターコイズの瞳は、色取り取りの彼女たちを選ぶことはなかった。 あんなに美しくて煌めいているのに。あれに勝たねばキバナの性的なパートナーとしての土台に立つことすら叶わないのだ。あんな、非のうちどころのない、瑕疵のない女性たちに。 勝つ、といってもダンデが何をどう望んだって柔らかな曲線で描かれ、すべらかでふんわりとした肌をもち、守りたくなるような繊細さや美しさでできた女性に敵いなどしない。それは諦観ではなく分析に基づいた純然たる事実だ。 ポケモン勝負であったとしても、ダンデはいくらポケモン達を信じているからって真っ向から無策で不利な相手に挑むなんてことはしない。リザードンにソーラービームを持たせたり、エースバーンにエレキボールを打たせてタイプそのものを入れ替えて不利な相手と同じ土台にたち、戦況をひっくり返すのだ。恋愛だってそうだろう、がむしゃらに正面からぶつかっていけばいいものではない。 しかしながらダンデはそういったリザードンの隠し技のような、特別なものは持ち合わせていなかった。己の特別なことといえば無敗であったことと、チャンピオンであったことくらいでそのどちらも色恋には役に立たないし、しかもその何方も新しいチャンピオンに明け渡してしまった。エースバーンのように自分の全てを有利に変えることもできない。 そうして足掻いて、考え抜いて出したダンデの結論は、ひっそりと胸の内で珠玉の恋を慈しむことであった。最高のライバル、気のおけない友人というこの上ない関係に、熱を入れてコランダムが溶かしまうように、あるいは無理なカットを行い割ってしまうように、亀裂を入れてしまったら元も子もない。ダンデは恋愛とライバルを天秤にかけたら迷うことなくライバルを選ぶ。だから虫を閉じ込めた琥珀のようにように、甘やかな気持ちで包み込んで押し込んだ。胸の奥、腹の底、美しい化石になるまで。 キバナが女性を選ばなかったのは、彼女たちの魅力が足りないからではなかった。ただ性別が男性でなかった、ただそれだけだった。だというのに、ダンデはそれでも「そういう対象」にはならなかった。選ばれることはなかった。それを敗北と呼ばないで、何を敗北と言うのか。 雑誌の中、キバナの隣。顔のわからぬ長髪の男。ダンデは指先でその男をなぞる。爪をたてて三日月の凹みが残る。 「それでもオレは、何度だってライバルであることを選ぶぜ」 雑誌に立てた爪を、手の内に食い込ませる。その気持ちに嘘偽りはない。キバナは最高のライバルだ、恋愛よりも何よりもその関係が至上のものだと断言できる。けれども、そうである限りキバナが絶対に見せてはくれない一面がある。ダンデは恐らく一生目にすることをないそれを、数えきれない人間たちが知っている。世界で最高の関係であると自負しているのに、それが張り子でできているような、身震いするほどの寒気が襲いかかってくる。寒くて、腹が減って、とても惨めだ。 どうしても、どうしてもだ。一日だけでいい。一夏の夢でいい。たった一度でいい。あのターコイズの向ける劣情を独り占めにしたい。女性になることはできなかったが、男性なら、男性であるならば。そう、例えばエースバーンのように、リベロのように——— 一度何かに熱中するとマッスグマのように一直線で、それ以外のことには少しばかり盲目 ﹅﹅ になるのはダンデの悪い癖だ。通常であれば馬鹿げていると一笑に付すその考えも、その時のダンデは勝負で窮地を打開する一打のような、いみじくも素晴らしい名案に思えていた。キョダイマックスでリザードンが姿を変えて、何もかも覆すその瞬間、真っ只中にいる気さえしていた。 ダンデの行動は早かった。彼はソファから立ち上がり、肩にかかっていた髪のふさを手で乱雑に払い除けると、大股で足早に、大きく足音を立てて部屋から出て行った。 --- ダンデの髪は今、夏の終わりのラズベリーに別れを告げて、ありふれた金色に染まっている。ヒゲをなくして髪の色を入れ替えただけだというのに、鏡の中にいるダンデはタワーのソファに腰掛けた厳粛なオーナーではなく、裏ぶれた裏路地を歩く軽薄な若者に見える。 そこにいるのが自分には見えなくて、大きなマネネがガラス越しに人の皮を被り、ダンデの動きを真似している気分だった。 「凄いな!この鏡にうつるのがオレだなんて不思議な気分だぜ」 自分の口にあわせて鏡の中の自身が動くことに、これほど違和感を覚える日がくるとは。いつも伸ばしっぱなしだった前髪は緩やかな弧を描いてサイドに流され、帽子を被るうちについてしまった癖も藁葺きのようにおさまっている。その見慣れぬ自分の後ろで、美容師の相棒らしきオーロンゲが大きな麦穂をせっせと編んでいた。 強面で悪戯すきなこのポケモンを美容室で見かけるのは珍しいが、髪の色を変えている最中の時間を全て使って、彼女はいかにこの相棒が素晴らしいかを語ってくれた。あの筋肉繊維のような髪を伸ばして、上手くカットが出来なかった彼女の練習相手になってくれたらしい。 「ふふ、弊社の自信作なんですよ"シンデレラメイク"!イベントで特別な演出をされたい方やお忍びで満喫されたい方に凄く人気があるんです。ダンデさん、目の色はどうされますか?」 「目の色か………そうだな、紫色があれば」 その色を選んだことにさしたる意味はなかった。ただ目が珍しい色であれば、彼の目に留まりやすいのではないかと思っただけだ。 髪を編み終わったオーロンゲがスミレの絵が描かれた小瓶を取り出し差し出す。コンタクトで変えるのかと思いきや、薬剤を点眼して塗り込めるらしい。妖精の呪いのようだな、とダンデはディスプレイ越しの演劇をみている気持ちで、鏡像の二人を眺めていた。 「今からこれを目にさしますので、点眼後十秒目を閉じてください。髪も目も効果は二十四時間で終わりますし、身体に害はないのでご安心ください。時間が経過する前に戻したい場合は専用の洗髪剤と目薬が必要になりますが、おつけしますか?」 「いや、いらないよ。大丈夫だ」 オーロンゲが一見してオリーブオイルのような液体の入った瓶を取り出そうとしたのを、ダンデは手で制した。途中で魔法が解けてはこまるのだ、ダンデには必要のないものだった。 「眼の方は一般的な洗眼薬で色落ちしてしまいますのでご注意ください。それではちょっと眼、冷たいですけども我慢してくださいね」 滴が目に落ちてきて、目を伏せて。次に目蓋を開いた時、ダンデの瞳はスミレの魔法にかかっていた。 ダンデがキバナの性愛の対象でないのであれば、ダンデでなければいいのだ。たった一度きりでいいからキバナの性を垣間見たいのであれば、雑誌の彼のようになればいいのだ。ラズベリー色の髪を捨て、タルト ﹅﹅﹅ 、とどのつまりふしだらな男になって彼と一夜をともにすればいい。この後ろ暗い目的を達成するために、ダンデはまず抱かれる準備にとりかかった。 キバナから直接ボトムをするのかトップをするのかたずねたことはなかった———そもそもあれ以来ゴシップ誌のことはタブーになってまった———が、彼が「男も女も大差ない」と口走ったことから察するに、彼はトップの方だろう。ボトムなら女性とかわりがないなんて言えないはずだ。少なくとも抱かれるためにダンデが己の尻を割り開いて数々の行いは、ダンデの持つ男としての矜恃や男性性といったものを一つずつ一つずつ、ゆっくりと潰していき、ジャムのようにぐずぐずになっていくような、長年かけて形成された自分が形無しに損なわれていく底知れぬ恐怖を覚えた。 男を受け入れることは一朝一夕では難しいとダンデが知ってから、時間をかけてその場所を広げていったのだが、これがまたとてつもない苦痛を伴った。残念ながらダンデにその才能はなかったのか、その場所をいくら探し回っても快感めいたものを覚えることはなかったし、ただただ腹の中に何かが詰まっているという圧迫感しか残らなかったのだ。とはいえ、正直キバナが果ててくれれば自分の快楽なぞどうでも良かったので、そういう意味では都合がよかった。 けれどもタルト ﹅﹅﹅ の男として相手をするのに勃っていなかったらキバナだって萎えるだろう。だから自宅のシャワールームで必死に尻に指を押し込みながら、自分の前を擦り上げて反射反応を仕込もうとした。そこで鏡の中の自分と目があった。ぎょっとするほどぬめって、そしてぎらついている。おぞましい欲の獣がそこにいた。 抱かれるかもわからない相手に、自分の性を打ち捨て捧げようとその場所を開拓し、触れられることを夢想しながら陰茎を擦っている。みっともなく、すがるように、からっぽで、くうふくで、みじめに。 ダンデはぎゅうと目を瞑る。その縁を押し出された生暖かいものが濡らす。ゆるゆると頭をふって、立ち込める暗雲めいた気持ちを振り払った。 たった一度だけだ。それで満足する。我慢はこの一度だけ。そう言い聞かせて、拷問めいた、あるいは自傷めいたこの行為を乗り切った。 それからキバナがいつ、どのゲイコミュニティと接しているのか、どの程度に頻度で、どのタイミングで向かっているのかも調べあげた。 敗北慣れしていないのも考えものだ。ダンデはいつも自分の努力と才能で全てを叶えてきたものだから、可能性がある限り諦めたり、手加減をするすべを知らない。 ダンデは少し、夏の終わりのラズベリーのことを思い出した。ホップと一緒に摘んで持ち帰ったラズベリーを、興味本位で庭に植えてしまい、あっという間に庭を繁殖力の強いラズベリーだらけにしてしまった。そのことで母親にしこたま怒られて、二人で庭中の株を退治したのだが、少しでも土に根が残っていると何度でも芽吹いて侵食し、その攻防戦は何年にわたっても続いた。恋の病理は、諦められないこの気持ちは、少しそれに似ている。ラズベリーの根。深い執着。 不埒な遊びにふける青年に姿を変えて、ダンデはその扉を潜り抜けた。清涼なベルの音に、店が水を打ったように静まりかえる。演じることは慣れているはずなのに、背中の筋肉がかちかちに硬化していくのがわかる。足が震えそうになる、気を抜くと足が鉛のように重くなって動かなくなりそうだ。あれだけ衆目に晒され、プレッシャーを受け続けたチャンピオンだったというのに。 キバナが懇意にしているというゲイバーは、一見すると酒にこだわりのある隠れ家のような雰囲気の社交場であった。既に何人か客がいるようだったが、薄暗い店内で顔はよく見えなかった。赤みを帯びたマホガニーのカウンターが、ランウェイのように浮き上がっている。ダンデはここで刹那的に生きる青年を演じるのだ。そしてキバナの相手に選ばれる。ダンデは口をひき結んだ。 カウンターのむこうには天井までキャビネットがそびえ、ディグダのように無数のボトルが突き出ていた。証明の色も相まって、少し第一鉱山を思わせる。ボックス席の方はチェスターフィールドなんだろうか、どっしりと重厚な革張りに、打ち付けられた釦が鈍く照明を跳ね返していた。カクテルも頼めば作ってもらえるようで、時々シェイカーの中でカラカラと混ざり合う氷の甲高い音がし、ステアでかき回された氷がミラーボールのように光を弾いていた。 顔は見えないが視線がいっせいに向けられる気配がした。ダンデは背中を丸め、出来る限り足音を立てないように忍びながら、カウンターの端のスツールに腰掛けた。変に注目を浴びないように小声で一杯頼み、お釣りを貰うのも面倒だったので多目に紙幣を押しつける。マスターはダンデの天辺から腰までゆっくりと視線を落としてから、ごゆっくり、とぶっきらぼうに言って背を向けた。 程なくしてドアベルの音がした。硬質な床をコツコツとかかとが叩く音が続いて、ゆっくりと長身の影が現れる。ヘアバンドもなければ髪型も服装も異なっていたが間違いない、キバナだった。周囲の客たちも彼の到来を心待ちにしていたのか、水が波打つように俄にわきたって、餌に群がるコイキングのように彼はあっという間に取り囲まれた。しまった出遅れた、と思うももう遅い。キバナが人気ある男だと、よくよく知っていたはずなのに。いつしかのレセプションで女性に囲まれた彼の姿が重なる。だが尻込みしてもいられない、ダンデはきやすくて、軽薄で、尻軽で、安い男にならなければならない。 「キミも彼狙い?」 腰を浮かそうとしたところで暗がりから声をかけられ、出鼻を挫かれた。声の主はダンデの隣のスツールを足で引き、やっと彼の顔が照明で浮き彫りになる。赤茶けた髪を短く切りそろえた、人懐っこそうな男だった。 「ああ」 「そうか、なら残念だね。彼見ての通りだから、なかなか相手してもらえないんだよ。シーズン中のダンデ戦チケットばりの競争率だ」 なんとも言えない例えに、ダンデは曖昧な笑みで答えた。 キバナはというと広めのボックス席で脚を組み、ぞろぞろと後を追いかけていった客たちに次から次へと酒を奢られているようであった。グラスが空けばキバナの意思も関係なく、すぐに次のグラスが突き出される。グラスの中の大きな氷が、安い宝石のように煌めいていた。 「こういう場所ははじめて?」 ダンデがキバナに向けた視線を遮るように、饒舌な男はカウンターに身を乗り出した。思わず顔を顰めそうになったが奥歯を噛み締めて堪える。目当てはキバナだが、今のダンデは"遊び慣れたふしだらな男"だ。出来る限り軽い男を演じようと思い、いつもより声を高めに意識して口を開いた。 「ここは初めてだが、こういう場所は初めてじゃないぜ」 「今日は彼目当てで?」 「そうだ」 「諦めた方がいいと思うよ、あの調子だもん。彼って相手を決めるときに一杯奢るんだけどさ、あの包囲網たちはそれを狙ってるんだ。僕は嵐のワイルドエリアに放り出されたほうがマシだと思うんだけど、アレに飛び込む勇気ある?」 その例えには胸の内で大いに賛同した。ワイルドエリアの方がずっと気持ちも肉体的にも楽だ。何よりポケモンたちと修行ができて楽しい。 ダンデは、キバナが人をかき分けてまで主張する人間を好まないことを知っている。時折我こそはと押しのけてキバナの元に駆けつける御令嬢がいたが、そういう時僅かに、ずっと見ていないとわからないほど小さく、眉間にシワを寄せるのだ。ただしそれはほんの一瞬のことで、すぐ人当たりのいいキバナに覆われてしまう。 だから今からダンデがキバナの元に押しかけたところで、あまりいい印象は与えないだろう。隣の彼のいう通り今日は手遅れなのだ。大人しくキバナとの接触は次の機会にして、今日のところは新しいゲイコミュニティを見つけた青年として振る舞おうとダンデは考えた。そう思うと、肩に籠もっていた力が抜けた。 「確かにな。ところでキミは?彼目当てじゃないのか?」 「僕?僕はあいつのテッポウオだから」 「テッポウオ!なるほどな」 「彼狙いの人が多いからさ、ここレベルが高いんだよ。だからさ、一つ提案があるんだけども、もし———」 彼の言葉が途切れた。かつかつと床を蹴る一定のリズムが、ダンデのすぐ横で途絶える。キバナの訪れ以降賑やかだった店内が、スイッチを切られたように静まり返っていた。ダンデがおもむろに振り替えると、どういうわけかそこにはキバナが立っていた。ターコイズの眼が無機質にダンデを見下ろしていて、思わず息を飲む。 「オレ目当てなんだ?」 キバナの目線がダンデの頬を撫でて、そこが摩擦で火がつく燐のように熱を持った気がした。やましいことをしにきたというのに、あの目にやましい心が見透かされることが酷く恥すべきことのような気がして、ダンデはつい言い訳めいたものを口走ってしまった。 「ああ、えっと…聞こえてたんだな。噂でキミのことをきいたんだ、とんでもない天国を見せてくれる、バルドルのような男がいるって」 隣の男がぴゅう、と下品に口笛で囃し立てた。それからダンデに、「素晴らしいビギナーズラックだ、幸運を祈るよ」と耳打ちすると、ダンデの隣をあっさりとキバナに譲って去っていった。あの身軽さ、軽快さは少し見習うべきかもしれない。話し相手になってくれた御礼を言おうともおもったが、彼はゴーストポケモンのようにあっというまに店の暗がりに溶け込んで見えなくなってしまった。 キバナはそんな赤茶の彼の背中を無表情に見送り、空になったスツールを乱雑に陣取って、それからすぐにバーテンダーを拱いた。 「マスター、彼にハイ・ライフを」 いっせいにあちこちでため息があがった。張り詰めていた糸がぶつりと途切れ、店内に穏やかな空気が戻ってくる。皆キバナが誰を選ぶかその行方を息を潜めてうかがっていたようだが、ダンデが今夜の相手だと判明すると、あちらこちらから向けられていた視線も興味を失って霧散していった。 ダンデは少し混乱していた。離れた席でキバナの話をしていただけの自分がどうして選ばれたのか分からない。いや、きっとそこに他意はない。いつも同じものを食べていたら飽きたりする。いつもの店で偶然新しいメニューがあればたまには頼むことだってあるだろう。きっとただ、それだけだ。それでも困惑した表情を浮かんでいたのだろうか。キバナはダンデの顔を見て声もなく笑った。 「名前は?」 「なまえ…」 マスターがハイ・ライフの入ったグラスを置いた。上流階級を意味する、今のダンデには似つかわしくない名前をもつ黄色のカクテル。 ここにきてダンデは、ダンデではない誰かになったというのに名前をもっていないことに気がついた。ジョン、マイケル、アレックス、ありきたりな名前が浮かんでは消えて、さてどれにしようとグラスに目を落としたとき、ガラス越し、薄い黄色の中に浮かび上がる紫の瞳と目があった。赤みのかかった、紫色のラズベリー。軽薄な金色のタルト、いつか二人で食べたラズベリー入りのタルト。 「……ラジー」 「フフ、ラジーねえ。ある種ぴったりだな。オレのことは"ライ"って呼んでくれ」 明らかに偽名のダンデに、キバナもあからさまな偽名で答えた。ライ、嘘つきな男。うっかりキバナと呼ばないようにしなければ。今ここにいるのはダンデとキバナではない、ラジーとライ、初めてここで出会った二人だ。そしてこれから一夜限りの淫らな遊びに身を投じていく。 ダンデは薄い黄色の液体を見つめている。この杯を空けたら、もう戻れない。これを飲み干せば了承の合図だ。ダンデの口の中はカラカラに乾いていた。 ぐっと腹に力を込めて、ダンデはグラスの中身を喉の奥に押し込んだ。カクテルの飲み方として正しくはないと思うが、少しずつ味わっていたら横から突き刺さるキバナの視線で穴が空いてしまいそうだった。 ダンデがキバナに向き合うと、彼は勝負の時の獰猛な目で、けれども口元はいつもの優しげな笑みを浮かべた見たこともない表情で、ダンデの腰に腕を回してきた。あのゴシップ雑誌の写真のように。 --- どこでもいいかとキバナにたずねられ、てっきりダンデは場末の安宿かプライバシー管理の徹底されたホテルかという選択肢のことだと思い、どこでもと答えた。道迷いのクセがあるダンデにはホテルの案内などできそうになかったし、ダンデとしては目的さえ達成すれば、あとはなんだっていいとその時は考えていたのだ。ところがキバナに連れられたその場所を目にした瞬間、ダンデは足を止めてしまった。そしてどこでもと答えたことを後悔した。 「どうした?」 「ああ、いや……いいのか?ここ、ライ、の家だろ?」 何度か来た事があるので間違いない、キバナの家だ。まさかホテルではなく直接家に案内されるとは思っていなくてダンデは少し動揺していた。それと同時に、胸がつきりと痛んで顔を歪めた。今までこうしてキバナの夜を過ごした人たちは、皆ここで朝を迎えたのだろうか。 「オレの家だよ、何か問題でもあったか?」 「オレみたいなのが勝手に押し掛けるかもしれないぜ?」 「フフ、なにかと思えば。押しかけられるなら大歓迎だよ。それに、そんなことをわざわざ忠告をするヤツが押し掛けてくるなんて到底思えないけどな」 キバナは悪戯っぽい笑みを浮かべていたが、腰に回した腕は有無を言わせぬ力が込められていた。キバナが強引な素振りをみせるのは珍しい。勝負中の言葉遣いや「オレさま」といった呼称は尊大ではあるが、その実笑顔を絶やさず人への思いやりを欠かさない好青年だ。少なくともダンデは、"ダンデ"であったときこのような振る舞いを受けたことも見かけたこともない。ダンデには見せてくれない、ダンデの渇望した一面なのだろう。その腕にひかれるまま、ダンデはキバナの家に足を踏み入れた。 「ラジー、シャワー浴びるだろ?部屋でて右に真っ直ぐだから先にあびてこいよ」 手早く、そして自然にダンデからジャケットを剥ぎ取ると、キバナは案内を残してポールハンガーの元へ向かった。そう、ポールハンガーがどこにあるのかだってダンデは知っているのだ。広いリビングの隅、ポケモンがぶつかっても倒れない機能重視のものだし、大きなソファもポケモンがかじりついても身体に害のない丈夫で安全で、汚れても掃除がしやすい素材でできている。このソファに腰掛けて二人並んで、画面の中のポケモン勝負を見ながら夕食をつついてああでもないこうでもないと語り合ったものだ。 ダンデではなく今はラジーだというのに、あまりにダンデの地続きの日常がそこら中に蔓延っていてめまいがしそうだ。今からその大切な思い出たちを踏みにじる行為をするのだから。ダンデは早足にリビングを出るとシャワールームに駆け込んだ。 キバナのいう「シャワーを浴びるだろう」というのは準備をしてこいと、そういう意味だろう。ダンデはこれから使うその場所を念入りに洗浄し、ポケットに避妊具とともに忍ばせていたパウチのローションをゆっくりと塗り込めた。 洗顔剤、幾つものシャンプーだかコンディショナーだかわからないもの———ダンデはスポンサーから送られたものをそのまま使っているので、正直そういったものの種類には疎い———や、黄緑色のヘアオイル、カラーコンタクト後に使うのだろうか、どういうわけか目薬のようなもの。キバナの物に囲まれて、キバナの家でこんなことをしているという罪悪感と背徳感で、涙が出そうなのに下腹部には甘い疼きが走る。上半身と下半身で別々の生き物みたいだ。 鏡を覗き込むと、情けなく眉を垂らした見慣れぬ金髪に男がそこにいて、美容室のオーロンゲが編んだ三つ編みがばらばらにほつれていた。 ダンデは頬を叩いた。勝負みたいなものだ、これは。演じてみせねば。役者なら慣れているだろう。 尻が心許なかったのでつい下着はつけてしまったが、殆ど裸でバスタオルを巻いただけの格好で脱衣所を出る。出てすぐ横の壁に、キバナがもたれかかって待っていた。そこにいるとは思わなくて、ダンデは咄嗟に隠すように避妊具を握りしめた。 「寝室、あっちな。いうの忘れてたわ」 そう告げてダンデの肩を叩いて、入れ違いにキバナは脱衣所へ入っていった。 寝室に入るのは初めてだった。キバナと食事をとったり勝負をすることはあっても、仕事のつごうで泊まっていくようなことはなかった。だから、正真正銘知らない世界に踏み込むのだ。 明かりをつけないままダンデはベッドに腰かけた。スプリングが音も立てずに緩く伸縮する。ベッドはキバナの身長をもってしても余りあるほど大きい。キバナの身の丈を考えれば当然だが、これだけ広いと寒々しいだろうとは思う。握りしめすぎてしわのついたそれをヘッドボードにそっと乗せた。今からそういう行為をするのだと生々しく突きつけてくるので、正直正視に耐えない。 ダンデがそんなもの思いに耽っていると、突然寝室が舞台のように照らされた。どうやら主役のご登場だ。彼のチョコレート色の肌が、水分を含んで艶めいる。 「なんで明かりつけてなかったんだ?」 「暗い方がいいかと思ったんだ」 「見えづらいだろ?」 そういうものなんだな、とダンデは素直に納得した。照明を背に受けて翳ったキバナが迫る。ターコイズの瞳が蓄光しているかのようにぼんやりと光って見える。ダンデが何かを答える前に口を塞がれた。 されるがまま受け止めていると、キバナの舌がうかがいを立てるようにダンデの唇を舐めた。そうだった、されるがままではいけない。口を開いて迎えようとして、すぐに弾力のある舌が捻じ込まれた。 柔らかく、丁寧に、キバナがダンデの口を探る。舌、その裏側、口蓋。ダンデより二回りも大きな掌が、耳の付け根からうなじの生え際にかけてそっとなぞる。酸欠になったような、ぬるい風呂に浸かっているような、やんわりとした快感に頭から沈む。 「ふ、」 やり返そうと思うのに、手管に丸め込まれてなかなか反撃ができない。鼻から抜けた息に甘やかなものが混ざる。ダンデの首の後ろ側を撫でていた指が、ゆっくりと、羽のようにそっと背骨を伝って降りていく。触れられているのは皮膚だというのに、剥き出しの神経をつつかれたかのように、身体がびくりと勝手に跳ねた。 キバナはダンデの肩を掴んで、ベッドに押し倒す。ハイ・ライフのグラスを倒したみたいに、ばらりと金髪がシーツの海に広がってた。慣れない、魔法にかかったタルト色の髪だ。 つづく 心臓切った話。これはdnkb思考の人が書いてます。 心疾患見つかった時から書きます。全部の検査書くとすごい長いのでざっくりめ。 成人してから偶々撮った胸部のレントゲンで心臓がめちゃくちゃデカく映った。心臓は肺の幅を100とした時に40%ぐらいの幅らしいが私は50を超えてた。(この辺の詳しい数字はうろ覚え)(最初見た時、心臓のパース狂ったか?ってなった) 詳しい検査(エコーとか呼吸器機能検査とかCTとかMRIとか運動負荷試験とか諸々)をするうちに心臓の左右を分ける壁に穴が開いていることがわかった。それも生まれつき。知らずにずっと生きてた。えっ?マジで? 心臓には4つ部屋があり、私はその中でも左心房と右心房を隔てる壁に穴が開いていた。心室の方での穴だともっと小さい頃に見つかるらしいがこの場所だと成人期にわかることが多いそうだ。 さて、何故心臓がデカくなったかと言うと通常は動脈からバッコンバッコン来る血液が壁のおかげで堰き止められ左心房→左心室も行く。それがその壁に穴が開いてるため血流がそこを通って左心房→右心房に行き負担をかけていた。本来心臓は意外とスリムな形をしているが私のは主に右心房がデカくなってちょっとポテッとした形だった。デカくなってるから今なら食人嗜好の人にとってはちょっとお得だなと思った。 検査入院して穴の詳しい位置と形と大きさと肺何ちゃらを測ることになった。カテーテル検査と食道エコー。 カテーテル検査の時、万が一のリスク(0.1〜0.2%の死)も説明されたため検査中めちゃくちゃ怖くて泣いた。足の太い血管からカテーテルを入れるため、その止血に6時間絶対安静で立ってトイレに行けなくなるので尿道カテーテルも入れた。挿れる時も抜く時も尿道はめちゃくちゃ痛い。推しcpの尿道プレイはファンタジーだと思った。心臓にカテーテルを入れるとどうしても不整脈が起きるのですごい気分が悪かった。ストレッチャーで運ばれるのは中々面白い。(私は観覧車とかジェットコースターとかアトラクション好きです) カテーテル検査も終えて別の日に食道エコー。胃カメラみたいに機械を突っ込んで食道から心臓の裏を撮る。検査中にオエッとなるとまずいので喉に麻酔をする。喉の麻酔は自分で飲み込む形式で、喉の奥に注射器で垂らされたものを飲んだ。ちょっと甘いような薬っぽいようなよくわからない味。薬が付いた舌が少し熱いような感じがして段々と麻痺してくる。感覚が無くなるまで飲みますよ〜と言われて2本ぐらい飲んだ。眠くなる薬(鎮静剤)を点滴で入れられた。絶対寝ないもんね!と思っていたが点滴が刺さったところからヒヤッと液体が入れられる感覚がした後すぐに寝た。寝たという感覚すら無く、気がついたら車椅子に乗せられて部屋のベッドまで運ばれていた。立てますかと言われたが頭が物理的に重く感じてそれどころではなかった。看護婦さんに助けられながらベッドに横たわった。ぐるぐるとした気持ち悪さがしばらくあった。 穴の詳細がわかる。2センチ程の穴はカテーテルで塞ぐには位置が悪く、開胸手術することになった。心臓の近くの血管の位置も違ったのでそこもパッチを貼って流れを治すことになった。手術のための入院をする。 手術の手順はざっくり言うと 点滴刺さってるところから麻酔 ↓ 新たな点滴(首や手の甲)やら尿道カテーテルやら鼻に管やらいっぱい刺す ↓ 胸を切る(心臓に到達するまでの諸々。皮膚とか胸骨とか) ↓ 心臓切る(この時、心臓を止めて空っぽにして保存液を使いつつ作業する)(心臓止まってる間は機械に血液を通して循環させる) ↓ パッチで塞いだり流れを治したり ↓ 閉じる。手術自体はここで終わり ↓ CCUで1日見張られる(Coronary Care Unitの略。ICUの循環器版みたいなところ) ↓ 一般の病棟に戻る この時私はマジか?の思いでいっぱいで「何か質問ありますか」に対して「骨閉じるワイヤーって飛行機の金属探知に引っかかりますかね」とか変なこと聞いた。引っかからないと言われた。麻酔、臓器の保存液、輸血等も説明される。保存液無しで心臓止めると10分持ちませんとか言われて「そりゃあな!そりゃそうだわ!」となった。それらを使わない場合はめちゃくちゃ死と隣り合わせで焦りまくりの危険な手術になるけれど使ったら使ったで合併症のリスクもほんの少し(本当に少し)あります、よろしければサインを、と出された同意書を断れる人はすごいと思う。答えは「はい」か「YES」しかない。 手術前日に点滴の針を刺し、当日はご飯が食べられないため最後にこれだけ!とプリンやらケーキやら食べた。あと体をなるべく清潔にしたいので無駄毛は全部剃るように言われた。うなじ等の手が届かないところは看護師さんに剃られたし、ヘソの掃除もされた。 当日、簡易的な浴衣とT字帯(ペラペラの褌みたいなやつ)のみ着用し手術室に歩いて向かった。検査の時もそうだったのだが歩ける場合は基本的に歩いて向かう。手術室よりちょっと前の部屋で医療ドラマでよく見る頭巾みたいなのを被った。いよいよ手術室。手術台にも自分で上がるのだが、2%の死の確率が頭から離れなかった私は断頭台に上がるような思いだった。ここでもちょっと泣いた。ガチャSSRが単発で当たったら死ぬ。アニメイトで予約したねんどろいど、私が死んでから届いたら最悪だなと思った。 台の上で浴衣無しになり全裸。布をかけてもらう。心電図や酸素の測定器諸々を付けられる。泣いていたので女医さんが手を握ってくれた。手があったけえ〜と思っているうちに麻酔が入る。エッ今?私が記憶を失ってるだけで何か声かけがあったのだろうか。点滴の管から液体が入る時の独特のヒヤッという感じはあったような気がする。 目が覚めるとCCU。ここから意識朦朧パートです。話し声は聞こえるしうっすら目も開けられる。部屋が明るいのか暗いのかわからない。自分の体には管がいっぱい付いてるのでそれをつい引っ張ったりしないように手が固定されていた。胸骨を切ったので胸帯を胸に巻かれている。何も飲食してないので喉が乾く。でもこの時は水飲んじゃダメなので冷たい水でうがいをした。こっそり少し飲んだ。意識が戻ったので服を着せられる。 人影が視界に入り「看護師さんが様子を見に来てる!」とそちらに目を向けると誰もいない。そんな幻覚をめちゃくちゃ見た。変な夢も沢山見た。時間もわからない。並びに痛み止めの副作用ですごく気持ち悪い。熱が出てる自覚は無かったが体温を計った看護師さんが38度代の温度を言っていた。漫画諸々で大怪我した時に熱が出てる描写は正しいことを知る。 胸のド真ん中の神経は少ないらしく、傷口の痛みは控えめだったが放散痛で肩がものすごく痛かった。肩凝りのキングみたいな痛み。 因みにICUやCCUは患者の身内しか入れない。でもdnkbは結婚しており家族なのでダンデさんがそこに入っててもキバナさんは様子を見に行ける。結婚してなくて様子を見にいけず歯痒い思いをするシチュもアリ。 そんなこんなで1日目が終わり一般病棟へ。CCUのベッドの隣に一般病棟のベッドが置かれ、滑る板に乗せられてそっちに移り、ベッドを押されて病室に運ばれた。この時には鼻の管とかは抜いていた。点滴は何本か刺さったままだし、体内に溜まった水を抜くためにドレーンと呼ばれる管を3本入れていたのでまだまだ体に色々付いている。ドレーンの管の先があるであろう脇腹が痛かった。熱にうかされて幻覚も変な夢も継続。夢にはめちゃくちゃ不気味な川が登場した。灰色の地面にはデカい観音様みたいな像がゴロゴロ転がってて白い花が咲いている。川に近付くと波乗りした虎が吠えてくるので近付けなかった。後で友人に話したら「三途の川じゃね?」と言われた。こんな三途の川は嫌だ!でグランプリ取れるぐらいにはイメージとかけ離れた場所だったので絶対違う。 段々と自分がどんな状況かわかってくる。縫われた所に透明なテープが貼られている。首に刺していた点滴の管を抜かれる。息を吸うだけで脇腹が痛いし物を満足に食べられない。2〜3口食べて痛みに耐えかねて残す。肩凝りのキングも退位しない。寝返りがうてないので看護師さんに転がされる。痛みやら物が食べられないやら寝付けないやらで、いっそ殺せ………とネガティブな思考になりつつも熱が引いてくる。37度の微熱。幻覚と変な夢の頻度が減る。 経過観察のためレントゲンを毎日撮る。部屋にレントゲンの機械が持ち込まれその場で撮る。便利。 3〜4日目?うろ覚え。点滴も腕に刺している1本のみになり、体を起こしたり、ベッドから足を下ろしてその場で立ったりし始める。久々に足を着いた床はぐにゃぐにゃで、 ①、私のような人が転んでも大丈夫なようにこの病室の床は柔らかくなっている。 ②、そんなことはない。レントゲンの機械の車輪が埋まるし何より足音が固い音なので私の感覚がおかしい。 の二つの仮説がよぎった。正解は②だった。立って少しは歩けるのでトイレには行ける。尿道カテーテルが抜けた。 ダンデさんへ、一度寝たきりになったら地面が超ぐにゃぐにゃで全然立てずフラフラでした。チャンピオンはすごい。 その翌日か翌々日に歩いてレントゲン室に向かった。秒速5センチの花びらに負けるスピード。一歩が10センチ。点滴の針やらドレーンの機械やら引っ掛けてるスタンドに掴まっていないと歩けない。そもそも人に支えられて歩いている。ちょっと歩くだけで汗をかいて顎から滴り落ちた。ポケモンバトルは無茶です。 体を動かしたからなのか、食べねばという思いが強くなりこの頃から食べられる量が増える。私の場合は特に食事制限も無く、好きな物を何を食べてもいいからと言われたので親に色々と持ってきてもらった。食べられるようになると一気にマトモな思考が戻ってくる。術後、顔も無表情だったのがニコニコ出来る様になった。声もまあまあしっかり出せる。スマホを触る余裕も出てきた。点滴とドレーンが抜けた。体から管が無くなった。 エコーやらCTで経過観察。 風呂事情を書いてなかったので書く。まだ風呂は入れないのであったかい濡れタオルで拭く。体が動かせない時は看護師さんにやってもらい、動けるようになってからは自分で拭いた。髪はシャワー室のような場所で洗面台に向かって頭を下げ、看護師さんに洗ってもらった。顔がすごく濡れる。キバナさんに身体拭いてもらうダンデさんは居ます(確信) 食べられる量が増えたことで歩くエネルギーが付く→歩いて疲れた分食べるを繰り返しているうちにかなり回復した。術前と同じぐらい食べられるようになる。手術から1週間後には念のためにスタンドを持ちつつも廊下を長い間歩けるようになる。速度は遅い。1週間で割と回復するもんなんだなと思った。多分この頃ならギリギリポケモンバトル出来る。痛みはマシになったがまだある。肩凝りのキングの力は弱まっていた。携帯型の心電図が外れる。 ベッドの上で開胸した部分の抜糸。チクッとするような痛み。そこまで痛くは無いが刃物が皮膚すれすれを切っていくのが怖かった。ドレーンが刺さってた場所も糸で閉じているのだが、退院してから外来で抜糸と言われた。え?糸残ったまま退院するの? 経過観察で撮っていたレントゲンを交えつつ説明。肺がすごい萎んでいた。動きを止めたらどうしても肺活量云々が半分以下になるらしい。これはリハビリを続けていたら戻った。 容体が悪くなった時に看護師さんがすぐ来れるようにナースステーションの目の前の部屋だったが、かなり安定してきたのでちょっと遠い病室に移る。抜糸後の傷口を観察しちゃんと塞がっていたので、シャワーを浴びられるようになる。ドレーンの部分の糸は残っているのでそこを抜糸するまでは風呂は禁止。胸帯は骨がくっつくまでの3ヶ月間は着ける。それまで重い物は持ってはいけないし高いところの物も取れない。腕を上に動かすと鎖骨が連動して胸骨が痛かった。 退院。久々に外の空気を吸う。今まで知らなかった排気ガスの臭いがわかった。病院の空気は綺麗だった。 手術後は血の塊が出来やすいので血がサラサラになる薬を半年は飲む。 終わり!今では心臓もかなりスリムになったしダンスゲーム出来る程に元気です!! #好きな漫画10個あげると人柄がバレる あの人の胃には僕が足りない うしおととら 乙嫁語り 血界戦線 篠崎くんのメンテ事情 ダンジョン飯 地縛少年花子くん 白暮のクロニクル 宝石の国 北北西に雲と行け 人魚表紙 nzの生活で増えたものたち 靴、杖、食器、服、練習帳 人魚語は五十音で2文字前にズラすと読めます 例 「うえおかき」→「あいうえお」 「しいねてふ」→「こんにちは」 ありがとうございました! 人魚ネーム切り直し、描けたら良いなメモ、 食事シーン、サニーゴ、人魚たちにここのは死んでて食べられなくて可哀想という目で見られるnzさん、ヒト"イテ"のままだと餌が無いから人間になったと思われている。 他、陸での歩行に遅れが出るdさん。kさん、割と陸を楽しむけど陸デートにdさんの体力が持たなくて早々に切り上げる。kさんからdさんは海だと強かったぜ説明、なんで陸に来たかも説明、 ーこれはアイツの鎮魂歌を書くためのワダツミの備忘録である。 ネズ……スランプで休養中のパンクロッカー。人間。 キバナ……人魚。 ダンデ……人魚。 ダンデ、海だとめちゃくちゃ強い それこそ、大雨を降らせて地上を深海にできる程に 「……ヒドイデ?」ヒドイデ? 「ヒドイデづぬ」ヒドイデだな ひそひそとした話し声が聞こえた。人魚がおれを指差す。 「れこねヒドイデぐえろ!ちわゆヒトねぬとなろ!」陸にヒドイデがいる!それもヒトになってる! 「けめ!」きみ! 「……? しにぶんくろく? ゆせくせなヒドイデふしにぶぐてぐおひく?」……?ことばわかるか?もしかしてヒドイデは言葉が違うのか? 「ちわとくとなろぬいな、きむかふぞえぼいねいざいひほれぐおむえいづぬ」それつかってるなんて、オマエはずいぶんにんげんのふりがうまいんだな あとがき 初めてのコピ本。いやまさか本になるとは思わなかった。私は人魚パロが好きだ。儚く泡のように消えるのも、人を惑わし海に引き摺り込むのも全て好きだ。私はそれらを何としてでもダンキバで読みたかった。この頃は人魚パロ描きませんか、と話しかける相手すら居なかった。欲しかったらまず自分が描くしかない。最初はまあ王道に、と泡になって消えるendを描いた。これを見た人が人魚パロという発想を受け入れて作品が増えることを願いながら投稿した。 しばらく経って、話しかける人も増えてきた頃に人魚パロの話をしているフォロワーが居た。逃しはしないと思った。「私はもう描いた、みんなも描くか書くかしろ」と。そうしたら人魚パロを甚く気に入ってくださった方が「本にしないんですか」と持ちかけてきた。浮かれた私は本にしようと思った。しかしTwitterにある人魚漫画のフォントを見れば分かるように、あれはかなりアイビスに不慣れな頃に描いたので恥ずかしく、説明不足な点も多く見受けられたので文章として書き直した。そして書き直した文章と漫画を合わせてネップリに登録しようとしたら10MBを超えていて登録出来なかった。泣いた。なので漫画が載っていません。 そんなこんなで出来上がったコピ本です。長々とお付き合いありがとうございました。 「いつもいつも深海まで来てくれてありがとうな」 「暗闇に佇む星は見つけやすいから平気だ」 今日は久々に恋人との合瀬だ。ダンデの竜胆色の尾がオレのヒラヒラとした鰭を優しく撫でる。 先祖返りした上に色違いのダンデは海に愛されており矢鱈と体が強い。基本的に深海で暮らしているオレと違ってダンデは浅瀬にも海底にも瞬時に自由に移動出来る。そのせいか、デートは普通の人魚のオレを心配して深海ですることがほとんどだ。たまに地上付近にも行くがその時は急な水圧変化が体の負担とならないようにゆっくりと上がる。その深海から海面までのデートは結構好きなのだがダンデがあまりにも甲斐甲斐しくオレの世話を焼くため恥ずかしく、そのデートはオレが誘った時のみとしている。オレだって口から内臓は出したくないのでそのエスコートはありがたいのだが限度というものがあるのだ。 地上付近にあまり行けないオレのためなのか、ダンデはよく地上の話をする。と言っても陸で生活している者達のことはわからないので、あれはなんだろうか、この前見たあれはきっとこうだ、という想像を膨らませた話だ。その話をするダンデの顔は好奇心に満ち溢れたもので、聞く度に少しの間だけでもダンデを人間にして地上での生活をさせてやりたいと思う。ダンデは海に愛されていると言ったがそれと同時に海に縛られている。どこぞから先祖返りを聞きつけた古めかしい連中によって将来が約束されてしまっているのだ。今はオレとも会えているが長い年月を経てコイツは海の神子になる。そうなったら自由は無い。 地上なら、人間だったなら、そのようなしがらみもなく真に自由なダンデを見られたのだろうな、と思う。 「いいなあ」 「! デートか!? それとも今すぐに地上を深海にしようか!! そうすれば君も心置きなく見られる」 「待て待て待て」 そうじゃない、とダンデを止めるが何故という顔であまりにも真っ直ぐ見つめられたので少し目を逸らし頬を掻く。 「地上だと同じ場所で同じ酸素を吸ってずっと一緒に居られるんだろう? それが少し羨ましく思っただけだ」 顔に熱が集中していくのがわかる。ネオラント特有の鰭の明るさのせいで深海の暗さも肌の濃さも赤面を隠してくれない。ダンデの尾が嬉しそうに揺らめくのが見えた。 「オレは一人では人間になりたくないな。なるとしたらキバナと一緒が良い」 「……次のデートは海面にしようぜ」 「ああ!」 くるりくるりとダンデはオレの周りを遊泳した。柔らかい水流の流れが肌に心地良い。このような愛おしい時間を楽しめる日々がずっと続けば良いと思うのにそれは叶わない願いだと知っている。 やっぱりダンデを人間にしたい。海の神子となる前に、ほんの少しでもいいから地上での生活を味わせてやりたい。そのためなら、オレはどうせ未来では別れる運命なのだから死んだって構わない。 とりあえずは、次のデートが楽しみだという気持ちを込めてダンデにキスをした。 「鎮魂歌」全編モノクロ小説 32P 値段……320円 内容……人魚パロ漫画の書き直しノベル+前日譚 印刷期間 3/6〜3/13 23:59まで 印刷手順 1. セブンイレブンのマルチコピー機まで行く。 2. プリント ネットプリントを選択。 3. 番号 34GT3ZTP を入力。 4. 「小冊子」→「右閉じ」を選択し、その後は 弄らず印刷。 5. 印刷されたものの順番を変えずに半分に折る と本になります。 人魚パロ解説 何故結婚式を挙げた日から熱を出したか どんなにチープなものでも海の神子にあるまじき誓いを立てる儀式をしたから another story 茶さん 幸さんの人魚パロ三次創作です 「ダンデさんは、とおいとおい、海のかおりがするわ」 ダンデがキバナの職場の入り口で待っていると、同僚だという女の人が声をかけてきた。世間話に花を咲かせている途中、彼女はそんなことを言った。 「そうですか?」 「ええ。懐かしくて、でも、ちょっと怖いのね」 「ダンデ! 待たせて悪かったな。あれ? 珍しいですね、こんなに早く」 「ええ、今日は誕生日で、旦那が迎えに来てくれるの」 「なるほど、それはそれは、おめでとうございます!」 「うふふ、ありがとう! キバナさんとダンデさんは、お誕生日はいつなのかしら」 「え、」 「……秘密です! けど、オレたちは、同じ誕生日なんです」 「あら、そうなの! 恋人どうしが同じ誕生日だなんて、とってもロマンチックだわ!」 「フフッ、そうでしょう? それと、すみません、そろそろ家に帰らないといけないので、…失礼しますね」 「あら、ごめんなさいね、引き止めて」 「いえいえ、大丈夫ですよ。良い一日を!」 上品に小さく手を振る彼女にふたりで手を振り返し、帰路につく。 「随分と仲が良さそうだったな」 「お? なんだよ、嫉妬か?」 「違うよ、キミがやっとヒトに慣れてきたかと思って、嬉しくなったんだ」 キバナは、人間の仕事に随分と慣れてきて、人と喋るのが上手くなった。ネズのもとを離れるにあたって、今はまだ多くはネズからの仕送りに頼っているが、負担をかけまいとキバナは雑貨屋で仕事を始めたのだった。 大丈夫なのか、といろいろな意味で心配するダンデだったが、地上に慣れたのはキバナのほうが随分と早かった。ダンデには未だ、海の呪いがつきまとっている。 向かっているのは、山の上に建つ小さな一軒家だ。二人は今、ここに住んでいるのだが、住み始めるのにも色々あった。 ダンデたちには、「こせき」というのが無かったらしい。しかし、ネズがあちこち走り回ってくれて、オレたちに「こせき」をプレゼントしてくれた。げっそりとした顔つきで、おれはもう寝ます、とネズは死んだように眠った。机の上に投げ出された書類を見ると、家の写真が沢山載っていた(不動産の意味はあとから知った)。ネズが目を覚ますと、随分と上手くなった字で『ここ!』と書かれた紙が、机の上に置かれていた。その家が、いま二人が住んでいる家である。 知り合いの不動産屋やいろいろなところに頼み込んで、ほとんどタダで住めるような家を探しにネズは走り回ったのだった。この二人のおかげで音楽活動がほとんど出来ていなかったが、そろそろ再開したいと思い、それに晴れてヒトとなれたお祝いもしてやらねば、と。つい二ヶ月ほど前から、二人は住み始めた。 そんなこんなで手に入れた家が、ようやく見えてきたというところで、 「あ! 待ってくれ、オレさまが先に入る」 と言って、少し小走りにキバナは駆けた。それを追い、ダンデは杖をついてゆっくりと歩く。 「おかえり! ダンデ」 「ただいま、キバナ!」 そう言って、ハグをした。 これは、人間たちに伝えられた儀式らしい。出かけるときは「いってきます」「いってらっしゃい」と言い、相手の無事を願ってキスをする。そして、帰ってきたときは「おかえり」と「ただいま」で、相手の無事を祝ってハグをする。早くヒトになるために、ダンデたちはそれを知ってから毎日ちゃんと繰り返している。 海から上がってすぐの頃は、それはもう大変だった。 徐々に具合を悪くしていくダンデを怪しみ、ネズがキバナに問い詰めると真実を彼は告げた。早く海へ返さないと、と若干ヒステリック気味で言うキバナをなんとか宥め、オレがなんとかしますから、と、根拠も何もないのにネズは言った。 「さて……どうしますかね…………」 精神的に疲れてしまったのか、キバナはベッドで眠ってしまった。その隣のベッドでぜえぜえと苦しそうに眠るダンデを見ながら、ネズは頭を悩ませる。すると、眠っていたはずのダンデが突然ネズの腕を掴んだ。 「ネ、ズ……海に、連れて行ってくれ、……」 病人とは思えない、力強い瞳で、ダンデはネズを見た。はじめは、キバナは起こすなと言って出ていこうとしたダンデだったが、転倒した音で起こしてしまい、三人で海まで出ることになった。 その日、外は、土砂降りの雨だった。 あほえ゙うくたちんら、とキバナは怯えながら言った。ねめか、ねめかぜわぢろえいけてんつ、とも言った。普段は見ないようなキバナの怯えようにネズが訝しげにおもったのに気づいたのか、 「カイオーガ様は……海の神様だ、海はカイオーガ様のご加護で存在している……だから、海で生きていたキバナは、怒りに触れて少し不安定になっているんだろう……」 ダンデはそう、ネズに説明した。なるほど、海を広げることのできるカイオーガが怒っているのか、だから土砂降りなのだと、合点がいった。 海まで、二人でダンデを支えながら歩かせると、心なしか体調が良くなっていくようだった。浜辺につくと、ダンデは杖を手放し靴を脱ぎ捨て、そのまま海へ歩いて行く。 「!? ぜわぢ、へち! うへいねんへ、のつつえゆせぜ、をりせあほぢうぶりちこな!」 「ぜんごゃあばぜぎ、おね゙て。……キミと海底で人間になったとき、オレは意識を飛ばさずに陸までずっと泳いでこれた。不思議と息もできた……ヒトの身体になっても、海の加護は未だオレを縛り付けている」 初めの方は、何を言っているかネズにはわからなかったが、後半部分は人間の言葉で喋ってくれたおかげで、理解することができた。 「ぜわぢ! へち、へち! へたちかり! うりむんか!!」 「ぜみぜ! おほねぜみぜ、うりえ゙のつよぢんか、……ぜんごゃあばぜや、えてゆざえいたちから。おほつ、きたくわこおろをぎらへぢ、うりねこにてんえゆて」 会話の中で説得を諦めたのか、キバナは砂浜に座り込んで嗚咽をもらした。ダンデは申し訳なさそうに眉根をさげてから、どんどんと沖の方へ向かい、遂には潜ってしまった。 空はまだ、機嫌悪そうにごろごろと唸っている。 しばらくネズも海を見続けていたが、天候が良くなる気配も無い。そろそろ家に帰らなければふたりとも風邪をひいてしまう。未だ蹲るキバナの腕を引いて起き上がらせようとするも、キバナはいやいやと首を振って抵抗した。 「ほら、大丈夫ですから。なんて言ったんですか、ダンデは」 「えいたちから、…………かえってくる……」 「……そうですか、なら、大丈夫ですね。ほら、帰りますよ、オマエが風邪を引いたら、オレがダンデに怒られます」 ネズの言葉にようやくキバナは立ち上がり、大人しくネズに手を引かれて歩いた。身体のでかい年下の兄弟みたいだな、とネズは思った。 まるで葬式みたいに暗い空気の中、ネズとキバナは夕食を済ませ眠りについた。起きると、あれほど荒れていた空は嘘のように晴れていた。珍しく自分から目を覚ましたキバナがネズを起こし、早く海、ダンデ迎える、と言った。 言葉通り海へ向かうと、それはもうあっさりダンデは帰ってきていた。あの日みたいに、浜辺に倒れていた。 「ぜわぢ!」 慌ててキバナは駆け寄り、その身体を抱き上げた。 「…………おね゙て……?」 「やえたせ、ばごぢ……ぜわぢ…………」 「こわねんえきちさへてえたせ……むあぜんごゃあばぜや、おほつざたつよかとんゆりら」 ダンデの言葉にキバナは涙を流し、キスをした。お熱いですね、といつもならからかうネズだったが、今日くらいは祝ってやってもいいだろうと思った。 その日、キバナがどうしてもとせがむから、ネズは慌てて結婚式の用意をした。暖かな昼下がり、ふたりは晴れて家族となった。 海から帰ってきたダンデの体調は、やはり少し体が弱いものの、以前ほど悪くはなくなった。散歩にだってキバナとふたりで行けるようになったし、よく食べるようになった。……ネズの財布には少し痛かったが。 何も起こらない、そんな生活が続いて一年が経った頃、ネズは音楽活動を再開することにした。スランプ、といっても仕事をしなければ収入は無い。おまけに突然やってきた二人のおかげで貯金は三倍速でなくなった。幸い、三人で過ごすことで気分が晴れ、インスピレーションも得たりしたからお互い様だった。 「ヒト同士の性交はどうやるんだ?」 ある日、キバナが仕事に行ったあと、ダンデはそんなことを聞いた。 「そ、…………………そこまで世話させやがるんですか……?」 「いや、ただ教えてもらおうと思って……オレは、直接的性行為ができないから……」 セックスができない、ということか。陸に居るための代償として、生殖能力を無くされたりしたのだろうか。ダンデたちを拾ったときからいろいろなことを覚悟していたんだろう、ネズ、頑張れと己を応援する。懇切丁寧に教えてやろうとしたとき、とある事実に気づく。 「ま、まさか、オレがいない間にリビングとかでヤっては……」 「…………どうかな……」 「おい!!」 ……ふたりに一軒家を用意したのは、イチャつきにそろそろ胸焼けがし始めたからでもあった。 「引っ越し祝いです。花瓶も買ってやったので、毎日水をかえてやるんですよ」 「これは?」 「オマエたちの名前と同じ名前の花です」 「店で名前言ったら、買えるのか?」 「ちゃんと、花を売っている店で……」 いざ、家を買ってやり引っ越しの手伝いをしてみると、花の飾り方すら二人にはわからないのだと気づいた。引っ越しはもう少し遅らせてもよかったかもしれない。 「ありがとな、ネズ。今まで……」 「いいですよ、どこかで野垂れ死なれてもオレの気分が悪いので」 また遊びに来いと言えば、当たり前だろ、ネズもオレさまたちの家に遊びに来いよ、とキバナは笑った。 「ははは」 まあ、ダンデとキバナの家には、最初のうちはトラブル対処に何度か向かうことになるだろうなあ、とネズは思った。 リビングのソファにふたりで座り、おやつのタルトを食べる。果物は人魚には新鮮で、未だに食べるたび、その瑞々しさにふたりは感動してしまう。 タルトを食べきり、隣でうつらうつらするダンデを見つめ、キバナはきゅっと目を細めた。そんな様子に、ダンデは不思議そうに問う。 「まだ、太陽が眩しいか?」 おやつには少し遅い夕方、広い窓からはリビングにまで強い光が差す。深海で住んでいたキバナの目には、強すぎる光は毒のはずだった。 「ううん、随分慣れたよ」 そう言ってキバナはぽろぽろと涙をこぼす。 「……困った、なぁ、ヒトの身体は……泣いたらすぐにバレちまう……」 儚い笑顔に、ダンデはぎゅっとキバナを抱きしめ、その背を撫でた。 「……こわかったよ」 オマエが、オレさまよりもずっとずっと長く生きてしまうのが。 「でも、もう大丈夫だろ? オレたち、ヒトになったんだ。ヒトの寿命は長くても百年だって聞いた。たとえ今すぐ死んじまったって、離れ離れで苦しいのはたった八十年くらいなんだ」 「八十年、……それでもキミにとったら十分長いだろう?」 「はは、オマエが経験するはずだった苦しさを思えば、十分短いさ……」 キバナはダンデを抱きしめ返して、その背をゆるりと撫でた。食後、ヒトは眠くなる。体温が高くなっても、眠くなってしまう。ままならない眠気というものを、ふたりはヒトの証として喜んでいた。 「ダンデ、ゆっくりおやすみ、…」 意識がどんどん遠ざかる。身体を抱く腕の温かさも無くなる。 ダンデの耳に、最後に、聞こえたのは、 うみのかみさま あなたのきおくはなにいろですか? 「ッ?! っ、ハ……、ハ……? ……夢……?」 居眠りをしてしまっていた。 懐かしい夢をみた気がする。太陽のような笑顔の、誰か。……地上になんて産まれてから一度も行ったことがないから、太陽なんて直接見たことがないというのに。 カイオーガ様がお眠りの今、海の全権はオレが握っている。先祖返りのヒレの色。ヒレに刻まれたカイオーガ様の模様。このヒレの柄は、高貴な者の証だ。このヒレの色は、特別な力の証だ。他の人魚とは違う、ただひとつのもの。それに見合うよう、強い意志を持って守に就かなければならないのに、不意に、地上を全て海で覆い尽くしたくなってしまって困る。 使命を全うしなければ。反抗したオレを殺さずに、カイオーガ様は寛大に受け入れてくださったのだから。……? どのような不敬を施したのか、今では思い出すこともできない。 ……あと二千年。 少なくとも、二千年はオレに残されている。死の訪れるその時まで、オレはこの祠を守り続けなければならない。 遠くにネオラントのヒレが光る。この深海で明るいものは、オレの瞳と、ネオラントのヒレくらいだった。 キバナ あほえ゙うくたちんら うみがおこっている ねめか、ねめかぜわぢろえいけてんつ はやく、はやくだんでをかえさないと 「!? ぜわぢ、へち! うへいねんへ、のつつえゆせぜ、をりせあほぢうぶりちこな!」 だんで、まて!おまえはいま、ひととからただ、あれたうみでおぼれてしぬ! 「ぜんごゃあばぜぎ、おね゙て。 だいじょうぶだげ、きばな。 ……キミと海底で人間になったとき、オレは意識を飛ばさずに陸までずっと泳いでこれた。不思議と息もできた……ヒトの身体になっても、海の加護は未だオレを縛り付けている」 初めの方は、何を言っているかネズにはわからなかったが、後半部分は人間の言葉で喋ってくれたおかげで、理解することができた。 「ぜわぢ! へち、へち! へたちかり! うりむんか!!」 だんで!まて、まて!まってくれ!おれもいく!! 「ぜみぜ! おほねぜみぜ、うりえ゙のつよぢんか、……ぜんごゃあばぜや、えてゆざえいたちから。おほつ、きたくわこおろをぎらへぢ、うりねこにてんえゆて」 だめだ!きみはだめだ、おれがひとりでいく、……だいじょうぶだよ、かならずかえってくる。きみと、けっこんしきをあげるまで、おれはしねないからな キバナ 「えいたちから、…………かえってくる……」 「ぜわぢ!」だんで! 慌ててキバナは駆け寄り、その身体を抱き上げた。 「…………おね゙て……?」きばな 「やえたせ、ばごぢ……ぜわぢ…………」 よかった、ぶじで……だんで………… 「こわねんえきちさへてえたせ……むあぜんごゃあばぜや、おほつざたつよかとんゆりら」 しんはいかけてすまなかった……もうだいじょうぶだよ、きみとずっとりくにいられる 前略、茶さんへ。 この度は人魚漫画の三次創作をありがとうございます。不躾ながら感想を送らせていただきます。 冒頭シーンからの海の匂わせが最高です。職場、という言葉が出てきたので「おっ!これは茶さんが救済すると言った通りにヒトの社会に溶け込んだやつ!救済だ!」と喜びました。合っているけれど全然違いました。いや救済ではあるんですけど、イ~~~~~~~!!!閑話休題。誕生日、これ人間になった日だろ!と読み進めておりました合ってました。 ネズさんがダンキバのために色々と世話するのすごく良いです。仕送りしてくれてる………親か……?確かに"ヒト"の側面での育ての親でしたね………。人魚達が文字書けるようになってて嬉しくなりました………書類と写真から選んだということは文字も読めるんですよね…………頑張ったね………となりました。 おかえりとただいまをするダンキバ愛おし過ぎませんか……?最高…………。 さて陸に適応出来ず苦しんでる部分はどうするんだろうと思っていたら見事な手腕で結婚式まで挙げていて驚きました。ネズさんのスランプも解消されて…………救いの手腕が本当に凄いです。地獄の描写の手腕も凄いんですけど。 神子は綺麗な身体、という設定を拾ってくださりありがとうございます!!!ネズさんびっくりですよね………このネズさんは拾ったペットを最後までキチンと世話するタイプですね…………解釈の一致…………。花………花瓶…………。 果物って確かに海には無いものですよね。その発想は無かったので、天才か……?となりました。 『怖かったよ。オマエが、オレさまよりもずっとずっと長く生きてしまうのが。でも人間になったら寿命が一緒だから、』ほんと、これ、茶さん、寿命、ほんと、エエ??????????ここ、言葉を失ってしまう。この、幸せを噛みしめる台詞をキバナさんに言わせておいて、本編を読んでる最中も「そうじゃろそうじゃろ」とニッコリしていたのに、DMでこの所業。これこそ鬼。鬼畜。 最後、「地上になんて産まれてから一度も行ったことがない」という記憶を失ったことの示唆、「不意に、地上を全て海で覆い尽くしたくなってしまって困る」という、前日譚の記憶の欠片、「使命を全うしなければ。反抗したオレを殺さずに〜思い出すこともできない」ほんと、ああ………記憶を失ってしまった………。二千年、あまりにも、あまりにも長く、寂しい、二千年で辛過ぎます…………ネオラントのヒレも、ああ…………。私は救済話を読んでいたはずなのに、気がついたら地獄を読んでいたんですけど………幸せな場面の描写と最後がジェットコースターが弟子入りするレベルで、ああ…………ほんと、何で………? 長文失礼いたしました………。三次創作書いてくださり本当にありがとうございました………!その上、茶さんの言葉がなければ漫画を書き直すこともコピ本にすることも無かったので、感謝してもしきれません……!改めて、本当にありがとうございました……! アンチがキャラに生卵を投げつけるっていう描写あるじゃないですか。あれポケモン界隈でやる時、卵は鶏サイズではなく普通のポケモンの卵で、かなりの重みと質量のものが頭に当たってカチ割れて、くわんくわんと揺れる視界に割れた卵からぐんにゃりとしたナックラーのなり損ないが出てるのを見てキバナさんが吐く、みたいなネタ絶対あるだろ!!!と思ったら無いんですよね。私の検索方法が悪いのか。みんな鶏の無精卵投げつけてて優しいなあ。 人魚描き直し 眩しい朝焼けが海を照らす。彼らに最初に出会ったのは日課である発声練習をしに早朝の海岸を歩いていた時だった。家の中でやっても良いのだがどうにも、一人暮らしの伽藍堂の中で毎日声を出していると自身の声だけが響き渡る空間に虚しさを覚えてしまう。 砂粒が靴の中に入る。潮の混じる朝の空気が世界に目覚めを染み渡らせている。海に向かって立ち、喉と舌の力を抜く。低く唸った後に、あ、え、い、う、え、お、あ、お、と声を張ろうとした。 ぱちゃ、と海の中に人影が見える。それも二つ、男だ。どちらも褐色の肌だが、どちらかと言えば薄い方は紫色の髪で、より色黒な方は黒髪だった。体格は色黒の方が細めだった。 言わずもがな早朝の海は凍える程に寒く遊泳には向かない。しかし、堤防から落ちたにしてはあまりにも沖の方に居る。そして男達は狼狽える様子もなく海の中を優雅に泳いでいた。 色黒の方が一度海中に潜る。その際に通常よりも遥かに大きいネオラントのヒレが波間から覗いた。見間違いでなければ男の上半身と繋がっている。 人魚だ。人魚はポケモン神話や御伽噺の中に登場しており、海に暮らすポケモンの下半身を持つ生物で本当に居るとを提唱する学者もいた。胡散臭いオカルト番組で観たそれは真実だったようで、波に呑まれず男達は絡み合っていた。 二人の間にはあまりにも甘い空気が漂っており、公共の場でイチャつくカップルを見てしまった時のような気まずさと居心地の悪さで一歩足を引く。 ふ、と人魚達が顔を上げた。自身と目が合ったのは一瞬のことだったが、人魚達はこちらに視線を向けたまま頭の天辺から足の先までじろじろと見ている。紫髪の人魚の金色の目に、何故かぞくりと畏怖を感じた。 「……ヒドイデ?」 「ヒドイデづぬ」 ひそひそとした話し声が聞こえた。人魚がおれを指差す。 「れこねヒドイデぐえろ! ちわゆヒトねぬとなろ!」 何かを嬉々として話した後、彼等は海に潜っていった。意味がわからない。大抵、本の中の人魚は人から身を隠す。それなのにあの二人は希望を見つけたように喜んでいた。 「おかしな奴らですね」 学者たちが番組の企画とやらで海を浚っても出てこなかった連中な上に、何年もこの日課を続けていて人魚に会ったのは初めてだ。この入江には偶然来たのだろう。もう二度と会うこともないだろうし、これに懲りたら人間に見つかるような場所には来るな、と思った。 * 唖然とはこのことを指すのだろうか。人魚との邂逅から数週間経ち、あれは寝惚け眼が見せた幻覚だったのだろうかと思った頃。浜に打ち上げられている彼らを見つけた。上半身が流れ着き、下半身を海水がひたひたと覆っている。遠目から見てもかなりぐったりと横たわっており、浅瀬に迷い込んだ挙句に浜に乗り上げたホエルオーが死んだというニュースが脳裏によぎった。海に戻さねば、と恐る恐る近付く。 男達の上半身に注視してみると、小さくだが肩が動いている。息はあるようだ。 水中に押し戻すために自然と海側へ視線を向ける。しかし、海に浸かっている彼らの下半身に鱗は無く、人間の足があった。一度息が止まる。 もしや、人魚ではなかったのだろうか。いや、記憶の中では確実にこの色黒の方にはネオラントのような鰭があったはずだ。だが。 困惑していると紫色の髪の方が目を覚ました。腕をついて勢いよく起き上がり、おれの姿を見つけるとパァと顔を輝かせた。 「けめ!」 周囲に人影はないのでおれに声をかけたのだろうか。自身の胸に手を当てて自分のことかとジェスチャーをするがそれは無視されてしまった。 「……? しにぶんくろく? ゆせくせなヒドイデふしにぶぐてぐおひく?」 人魚は何かを喋り続けている。警戒の色は見られない。辛うじてヒドイデという言葉は聞き取れたが近くにその姿はない。 その時、う、と呻いてもう片方が目を覚ました。ふるりと震えた後にくしゃみをする。以前、冷たい海を物ともせず悠々と泳いでいた姿とは似ても似つかない。理由はわからないが今この二人は見た目も中身も人間になっているようだ。 早朝のこの寒さに全裸の男二人を放置するのはいたたまれない。人魚なら海に戻せば済むが人間にはそうもいかない。少しの逡巡の後にとりあえず自身の家に避難させることに決めた。 「立てますか」 二人は揃って首を傾げた。脚を指しその場で足踏みをする。脚を使えという意味が通じたのか、彼らはそろそろと水から脚を引き上げた。色黒の男の方は少しふらつきながらも立ち上がったことに対して、紫髪の方は脚を地につけた途端に苦痛に顔を歪めて倒れてしまった。人魚が人間になった仕組みはわからないが、脚の具合に個人差があるのだろうか。 無理に立たなくて良いと指示し、自身のトップスとインナーを脱いで男達の腰に巻いた。朝の風が冷たいが自身の上半身は髪で隠せば良い。これで彼等がもし人目に止まっても海に水着を流された哀れな海パン野郎として誤魔化せるだろう。紫色の髪の方は体格が良く、自身の力だけではどうやっても運べない。相棒の力を借りるためボールに手をかけた。 「タチフサグマ、頼みます」 ボール越しに話を聞いていたのか、飛び出した相棒は心得たとばかりに紫髪の方に肩を貸した。もう片方にも歩くことに不慣れであろうと自身の肩を貸す。男達は驚いた様子でチラチラと腰のホルダーを見ていた。 「……オマエらは訳は知りませんが人間になったんでしょう。捕まえようとは思ってませんよ」 言葉が通じるとは思えないが努めて穏やかな声で話した。男がぱちくりと瞬きをする。 「ちわとくとなろぬいな、きむかふぞえぼいねいざいひほれぐおむえいづぬ」 「おれの家はすぐ近くです。それまでは頑張ってください」 潮風で洗濯物が大変になることは度々あるが、この時ばかりは海に近い家で良かったと思った。 * 人魚達は賢かった。言葉の理解も早く、ジェスチャーによる会話を試みるとすぐに反応し返してくる。海には帰りたくないらしく、元人魚達は人間の生活に深く興味を持っていた。本当にこのまま海に帰らず人間として生きていくのならばそれらは不可欠だろう。紫髪の方はダンデ、黒髪の方はキバナと名乗った。 人間の生活を練習させる内に、歩行に関してキバナは全く問題ない程に違和感のない動きが出来る様になった。一方ダンデは脚の痛みも引かず、上手く動かせないようで杖が必要になった。ダンデは体力もなく、すぐに息が上がってしまう。ふらつくダンデをキバナは支えながら歩く。キバナの顔は険しかった。 「ダンデは、海の方が向いてるんだ。ダンデは、海だとすごく、強かった」 おろおろとその様子を見ていた時に、キバナから寂しそうにそう告げられた。ダンデの下半身が元は何のポケモンだったか見当もつかないが、確かにキバナの下半身であったネオラントは通常のポケモントレーナーも連れ歩いている。ダンデは余程、海に近しくそして珍しいポケモンだったのだろうか。 人間の食べ物も人魚達は受け入れた。それどころか、人間の食事を用意し食べるおれを見て、オマエも人間になってよかったなあ、と彼等は顔を綻ばせていた。何のことか分からず先を促す。 「オマエ、ヒドイデだろう」 「はあ!?」 「ガラルはサニーゴが死んでるから、ヒドイデのご飯、少ない」 「だから、こうやって飯食ってるオマエ見ると、よかったなあって」 タチフサグマに似ていると言われたことはある。しかし、陸に縁がなかった人魚達は髪のトゲトゲとした癖がヒドイデに見えたようだ。人魚達が最初から警戒しなかったのは、おれのことを海生まれでありつつ人間になり陸で生活している先輩だと勘違いしているからだと合点がいく。 「えーと、おれは人間で」 「オレ達も今は人間」 訂正しようにもニコニコとおれを頼る人魚を見るとその気が抜けてしまう。アニキは面倒見良かとね、と今はもう都会に出た妹の顔が思い浮かんだ。今も彼らには誤解されたままだ。 はー、とため息を吐き視線を逸らす。窓からは高潮が増えた海が見えた。 * キバナは陸を楽しもうとしており、特にファッションに興味を示してよく雑誌を眺めていた。探究心も強く、自分が知ったことをあまり歩けないダンデに対して語り聞かせる姿もよく見た。作詞の資料として購入した学術書も彼は読んだ。 男二人を養うとどうしてもエンゲル係数が高くなる。それの見返りはいずれ人間として独り立ちしてもらった時にで良いが、食を優先すると彼らの服や趣味に関しては後回しになることが多かった。必要最低限の物しか買い揃えられていない。確かネオラントは深海でひらひらと光るポケモンだったはずだ。おしゃれに気を使いたいたいのだろう。 「キバナ、ちょっとこちらへ」 キバナを呼び寄せて風呂場の椅子に座らせる。服は金銭面でどうにもならないが、髪を弄るぐらいなら出来る。滑りの良い生地のケープを羽織らせ、バリカンを手に取った。 「前におれの妹の刈り込みを見て、いいなと言っていたでしょう」 おれが髪を切ろうとしていることがわかったのか、キバナは顔を輝かせた。動かないように、と妹の髪を切った時と同じ要領で刈り上げてツーブロックにする。美容院のようにはいかなかったが中々うまく出来た。自身のヘアゴムの予備で髪をいくつかに束ねる。合わせ鏡を作りキバナに髪型を確認させた。キバナは首を動かして鏡の中の自分をきょろきょろと忙しなく見ている。 「どうですか」 「良い! すごく!」 キバナはニパッと顔を綻ばせた。御機嫌な様子で刈り上げの部分をペタペタと触っている。 「オレ、最後に陸に来れて、良かった!」 最後、とは。陸に適応出来ていないダンデならともかく、キバナは十分に生活出来ている。どういうことだ。 「ネズ、ありがとう」 目を細めた表情は柔らかい。しかし、どこか達観したような、手放したくない物を手放す覚悟を決めているような、そんな色が混ざっていた。 今日も海は荒れている。 * 「人間の番ならではの事がしたい」 「例えば?」 今日は珍しくダンデの調子が良い日だった。咳き込むことも無く食事を終えた時に、それはポツリと呟かれた。歩行や体力ではキバナに劣るがダンデの方が言葉は達者だ。キバナはダンデの分も家事を手伝っており今は皿洗いをしている。部屋にはおれとダンデの二人きりだ。ダンデが指を組み口を開く。 「海沿いに、白い壁でシンプルな、しかし統一感の無い色付きガラスが嵌め込まれた場所があるだろう」 「……教会、ですね」 「そう。その教会で、白い服を着た人間の番が何かしているのを見た。幸せそうだった。あれは何をしている?」 結婚式、という言葉が頭に浮かんだ。番になることを祝う文化がそちらにあるのか分からず、説明のためにも言葉を選ぶ。 「あれは好き合っている者同士がその愛を誓い、第三者に証明する儀式です。結婚式、と言います」 「愛を誓う。ケッコンシキ」 二、三度瞬きをし、ダンデが数秒思案した。一瞬、目が伏せられ顔が歪められる。視線が再度こちらに向けられた。 「──それは、あの建物ではないと出来ないものか?」 縋るような声だった。諦めの声音が伺える。ダンデの足では到底教会まで辿り着けないからだろう。 「いえ! 場所は関係無く、愛を誓う二人と立会人……その誓いの証人が一人居れば成り立ちます」 ダンデは陸での生活がままならないことにもどかしい思いをしている。普段から、おれの負担になるようなことも、勿論キバナの負担になるようなことも言わない。ダンデからこういった欲求は初めて言われた。叶えてやりたい。ダンデの体調も明日はどうなっているかわからない。やるなら今日、今だ。 「ダンデとキバナ、そして証人のおれ。この場でも、出来ます」 * 洗い物を終えたキバナに、ダンデがやりたがっている、と結婚式の説明をするとそれはもう物凄く喜んだ。そもそもコイツらは日常的にキスをしているお熱い二人だったな、と肩を竦めた。 家の中で準備出来る物は少ないが、それっぽく整えようと奮闘した。主役達が着るタキシードは一般家庭には置いていない。せめてトップスぐらいは小綺麗なものにしようとクリーニングから返って来た後にクローゼットへ放置していた白いシャツを引っ張り出す。洗濯のりが効いているそれらはキバナは着れたが袖が足りず、ダンデに至っては腕が通らなかったため肩に羽織った。キバナにライブ衣装の白いズボンを履かせるが、またも丈が足りない。ダンデは当然の如く太腿でおれのズボンが悲鳴を上げたため、下は部屋着のまま行うことにした。 生花もすぐには用意出来ない。海沿いにはブーケに出来るような大輪は咲いておらず、小さくささやかなものだ。重ねたティッシュを折り畳みホチキスで止め、広げて造花を作る。セロテープにも活躍してもらい、お遊戯会のブーケが出来上がった。 家の中で一番大きく光の入る窓の前に二人を立たせる。生憎今日は鈍色の雲が空を覆っていた。 ムードもへったくれもない。指輪も無い。誓いだけを立てるチグハグでチープな式だ。それでも。 作詞のために覚えていたテンプレートを口から吐き出す。 ─健やかなるときも、病めるときも、 ─喜びのときも、悲しみのときも、 ─富めるときも、貧しいときも、 ─愛し、敬い、慰め、助け、 ─その命ある限り、 ─真心を尽くすことを誓いますか? 二人に結婚式の手順も教えてある。二人は頷きを返し、誓いのキスを促すと影がそっと重なった。波の音だけがうるさい静かな式だった。 この日の夜からダンデが熱を出して寝込み始めた。 * ダンデの熱が下がらない。呼吸も笛声喘鳴を伴うような、荒いものに変わり果てていた。水をよく飲みたがる。潮風が窓をガタガタと揺らした。ダンデの看病をしていたキバナが不意にこちらを向く。 「ネズ」 「何ですか」 「……ダンデはやっぱり、海の方が合っている。それこそ、海はダンデのことを愛している」 「はい………?」 キバナの目が伏せられる。キバナ曰く、海という存在、現象、その全てががダンデのことを気に入っており、ダンデが海から離れることを許さない。ダンデが歩くことも困難で陸に適応しない原因はそれか、と繋がった。言葉の先はまだあるようで、それはダンデに聴かせたくない話なのかキバナに連れられて別の部屋へ移った。 「ダンデは海の神子になる力を持っている」 「海の何ですって?」 うみのみこ、という言葉の通りダンデは大雨を降らせて海を広げることも可能な程に海中では強大無比の存在だった。それなのに陸に行ってしまったから海が呼び戻そうとしている、と。何やら人間の範疇では理解し得ないことがダンデに降りかかっているようだ。 「それなら何で陸に来たんです」 「本格的に海の神子となる儀式を終えたら自由は無い。海の神子は勝手に決められた。拒否権は無かった。それまでに少しでもダンデに色んなものを見せたかった」 キバナの表情は穏やかなものだった。 乾いた笑いがキバナからこぼれ落ちる。 「それにもしかしたら、奇跡でも起きたら、海から逃げ切って、オマエみたいに陸の人間として何のしがらみも無く生活出来るかも、ってな」 「……」 おれは、おれはヒドイデでは無いんです、という言葉はあまりにも残酷に思えて飲み込んでしまった。 「オレはダンデを元の姿に戻す。ダンデは歩けないだろうから、とりあえず風呂場まで運ぶ。元に戻ったら体調も良くなるはずだ。ネズはそこからダンデを海に連れていってほしい」 「……キバナも戻るんですよね? おれの家の風呂は男が二人も入れる程デカくないのはもう知ってると思うんですけど、一人ずつ──」 言葉の先を紡げなかった。まただ。キバナは手放したくない物を手放す覚悟を決めた目をしている。首を横に振られた。 「大丈夫だ」 「ダンデを戻す代償にオレは泡になるから」 「は……?」 「奇跡は起こらないことを知っている。最初からこうなるとわかっていた。怖くはない」 泡とは生き物ではない。 「そんな、オマエ、まるで陸には死ぬために来たみたいな言い方」 あまりにも強い意志に触れ、足が竦み立ち尽くす。 ダンデを生かす代わりにキバナは死ぬつもりだ。 咄嗟にキバナに手を伸ばしたが届かない。キバナはするりと抜けてダンデの寝ているベッドへ戻ってしまった。帰ろう、ダンデ、と。慈しむ声だった。熱に浮かされているダンデから返事は無い。キバナはダンデを浴室に運び、水を張った浴槽へそろりと入れた。おれが止める声をキバナは聴かなかった。 「生きろよ、ダンデ」 キバナがダンデに向かって何やら小さく言葉を呟く。その後、人間には聞き取れない呪文のような言葉を述べた。刹那、キバナの輪郭が泡立ち崩れていく。それと同時にダンデの呼吸が安穏としたものに変化していった。 「ネズ、ありがとう」 泡塗れの表情は見えなかった。溺れるようにキバナが泡となり消える。浴槽の中でダンデの体積が増えたのか水が溢れ、それらが流されていった。 浴槽の中を覗くと、ダンデの姿は変わり終えていた。人間とはかけ離れたつるりとした紫色の体に特徴的な赤い線、帯のような尾鰭がある。 神話の中でしか見たことがない、色の違うカイオーガの下半身がダンデに繋がっていた。 * 緩い潮風が肌を撫でる。物置で埃を被っていた手車に水を張り、ダンデを乗せて進んでいた。砂浜ではそれの車輪が沈んでしまうため堤防に向かって押し進む。重さで時折ふらつき水が跳ねる。人目が付かないように選んだ早朝の時間帯は、初めて会った時と同じ空模様だった。 タチフサグマの力を借りて海中へダンデを移す。ダンデは海面からこちらを見上げていた。あの日と違うのは隣にキバナが居ないことだけだ。 「キバナのことは残念でしたね……。おれのことを頼って陸に来てくれたのに、力になれずすみません」 雄弁だった彼の瞳が人魚に戻ってからは特性なのかプレッシャーによってあまり直視出来ず、どのような表情をしているか読み取り難かった。荒れていた海はダンデを歓迎するように柔らかい波が揺らいでいる。ダンデの髪が波に漂う。 「ネズ、ありがとう。どうか、元気で」 「……オマエも、気をつけてくださいよ」 交わした言葉はそれだけだった。海中に潜ったダンデの姿が遠く消えていく。水を捨てた手車の車輪は軽かった。 帰宅して手車を少々乱雑に仕舞い込む。玄関のドアを開けて中に入った。サイズの違う服、増えた食器、支離滅裂な文字の練習帳、歩行のために使った杖、おれにとってブカブカな二足の靴、と数えきれない多くの痕跡に迎えられる。扉に背を預け、ずるずると崩れ落ちた。 「あーあ………」 一番大きな窓からは、海を祝福のようにあたたかな光が照らしているのが見えた。 * 思い返せば季節が巡ることもない程に短いものだった。あれ以来人魚には会っていない。埃の積もりやすい造花の手入れをする度に渚に耳を澄ませてしまう。波は安らかに囁くだけだ。その度にひたすらペンを走らせた。 歌おう。彼を、彼等のための歌を。あぶくに消えてしまった彼を。彼はどのような思いで陸へ来たのかを。希死念慮の欠片も無いような男が自己犠牲を謳歌した姿を。ひっそりと神から隠れるように行った結婚式の立会人として。 おれにはその方法でしか人間だった彼等を弔うことは出来ないから。 私のネップリコピ本は何の備忘録だったでしょうか。ローマ字9字 あろ井さんの鎮魂歌のファンアートをネップリ登録してもらいました! 【AGLRT2JA】 L版で印刷されます。よろしくお願いします。 本当に最高なので見てください。 こちらのあろ井(@alloy_dk )さんの鎮魂歌ファンアートをセブンのネップリに登録してもらいました……!リンク先に番号があります。本当に本当にありがとうございました……!https://privatter.net/p/5587301
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