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クトゥルフ PC作成ツール
浜ハマタロウ
ID:4147758
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浜ハマタロウ
タグ:
クトゥルフ幸
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生まれ・能力値
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その他増加分
一時的増減
現在値
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CON
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APP
SIZ
INT
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HP
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初期
SAN
アイ
デア
幸運
知識
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SAN
現在SAN値
/
(不定領域:
)
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技能
職業P
/
(うち追加分:
)
興味P
/
(うち追加分:
)
表示
初期値の技能を隠す
複数回成長モード
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通常表示
<戦闘技能>
成長
戦闘技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
回避
キック
組み付き
こぶし(パンチ)
頭突き
投擲
マーシャルアーツ
拳銃
サブマシンガン
ショットガン
マシンガン
ライフル
非表示
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通常表示
<探索技能>
成長
探索技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
応急手当
鍵開け
隠す
隠れる
聞き耳
忍び歩き
写真術
精神分析
追跡
登攀
図書館
目星
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通常表示
<行動技能>
成長
行動技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
運転(
)
機械修理
重機械操作
乗馬
水泳
製作(
)
操縦(
)
跳躍
電気修理
ナビゲート
変装
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通常表示
<交渉技能>
成長
交渉技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
言いくるめ
信用
説得
値切り
母国語(
)
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簡易表示
通常表示
<知識技能>
成長
知識技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
医学
オカルト
化学
クトゥルフ神話
芸術(
)
経理
考古学
コンピューター
心理学
人類学
生物学
地質学
電子工学
天文学
博物学
物理学
法律
薬学
歴史
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戦闘・武器・防具
ダメージボーナス:
名前
成功率
ダメージ
射程
攻撃回数
装弾数
耐久力
その他
%
%
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通常表示
所持品・所持金
名称
単価
個
価格
効果・備考など
価格総計
現在の所持金:
、 預金・借金:
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通常表示
パーソナルデータ
キャラクター名
タグ
職業
年齢
性別
身長
体重
出身
髪の色
瞳の色
肌の色
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その他メモ
えっ、チャンプ負けたの?えっ、じゃあこのケーキのプレート全部差し替え……?ウワッ、嘘でしょ!?ウワ~~~~サインの食用インク転写シートここ1週間分発注しちゃった待って新チャンプの名前は!?……アッ!夕"ンテ"さんいらしてたんですね!試合は家で録画しててまだ観てないんですけど、本当にお疲れ様でした。ケーキいかがですか? つらチェック https://shinitori.net/diagnosis/index.cgi シャチさん @shaaachic 嫉妬の臭いが濡れた石畳から纏わりついてくる。オレは水の中の世界に嫉妬している。地に足を着けず、縦横無尽に自由に動き回るアイツが、 ああそうとも行けるのなら行ってるさ。生憎このビョーキは原因不明なんだ。オレの悔し涙でオマエが泳げるプールを作ってやりたいぐらいだ。塩っ辛さに咽せて苦しめばいい。陸よりも水の中の方が息がしやすいなんて顔をするな。 丁寧に打ち捨てられる 言い換える 迷子だと、みんなオレを探して、オレを追いかけてくれるだろう キバナ、キミはオレの一等星だ。 どうだかな、星はとっくに朽ちていて、残光がオマエを導いてるだけかもしれないぜ。 有翼人魚あとがき ハァイ! どちらかといえばあとがきを先に読む方の幸です。取り乱しました。脱稿ハイです。しかし正確に言うと、茶さんに書いた文章を押し付けて文字組みから先は全て茶さんにおんぶに抱っこなので、料理で例えるならば食材の下拵えをして「あとは先生どうぞ!」と仕事を放棄した助手の気持ちです。駄目では? 私はネタバレ平気人間なので気付かぬ内にこのあとがきに本文の内容に触れるかもしれません。ご注意ください。 さて、最後の「今、この瞬間を幸せでいましょう。」で始まる文章はマザー・テレサの言葉です。好きです。もしもマザー・テレサ大好きな人が居たら申し訳ありません。謹んでお詫び申し上げます。マザー・テレサはいいぞ(良い人なのはみんな知ってる)。 この原稿は鎧島プレイ前に書き上げました。なので、他の地方のポケモンはエネルギーが身体に合わないから渡航はダメ云々カンヌンのところは「ガラルに住み着いている種であればリージョンフォーム等の他地方の姿であっても渡航オッケー」ということで目を瞑ってください。まさかリージョンフォームをポイポイ交換してくるお姉さんやアローラディグダお兄さんが出るとは……。今作の「ガラル地方にポケモンは全種類登場しない」という所にどうしても世界観込みでの説明を入れたかったのです。「こういう解釈もあるんだなあ」と広い心で読んでください(これで冠雪原にカイリュー居たらどうしようね)。 この場を借りて感謝の言葉を述べます。 まず、茶さん。茶さんの有翼人魚のダンデという発想が無ければこの話は書いていませんでした。そしてパソコンが無いと言って本作りから逃げようとしたら文字組みをやると申し出てくださり、私の同人活動において要の存在になり、ほんと、茶さんの信者にそろそろ刺されるんじゃないかと怯えています。本当にありがとうございます。 そしてささみさん。ささみさんがいらっしゃらなければこの本は成立していません(茶さんも私も字書きなので表紙が無くなる)。線も色塗りもとても綺麗で、こんなにも美しい表紙を背負った本に文章を載せられるなんて光栄です。どこか儚げな雰囲気の漂う構図が最高です。本当にありがとうございます。 この原稿はかなり発狂しながら書きました。執筆中のツイートのメソメソ度も高かったと思います。フォローを外さずにいてくれた人ありがとうございます。死の運命が定まっている人を書いている時って気持ちが同調してしんど……となるんですよね。殺すなって話なんですけども。環境を設定したら二人とも死を選んだと言いますか。この話はTRPGで例えるとオチが「SAN値チェック失敗。アイデア成功。発狂ロール。精神分析失敗。説得ファンブル。ロスト」みたいな流れです。いやでも書き終えてみると「楽しかったな……。めっちゃ好き勝手に書いたな……」となっているのが不思議ですね。総評としてはかなり楽しく書かせていただきました。ありがとうございます。 最後に。茶さんと私の合同誌を楽しんでいただけたなら幸いです! では! ビートと主人公 僕っていう1番凄くて強い人の生き証人になれるんだから光栄に思ってよ 長い足を見事に使ったドルフィンキックの泳法は見る物を魅了させた ダを殺さねば逃げられないと思ったキがダの首をしめるが、ダは平気。髪で隠れている首の後ろにも呼吸孔が開いている 現実の牛は乳を出すために妊娠させて出産させてのプロセスが要りますがミルタンクは卵生で図鑑説明では毎日乳搾りしないと具合が悪くなると書いてあったの思い出しました ポケモン世界の人間は卵胎生 有翼人魚 推敲 刃が骨に当たって拗れる。 縦に裂いた。 ないものねだり 一生の内に刻む鼓動の数が決まっているのならば、オレは随分早くに死ぬのだろうと思った。 血液が沸騰していると錯覚する程に熱いバトル。エキシビションだろうと関係無い。太陽と投光照明が降り注ぐグラウンドで、最高のライバルと対峙している時が一番、胸が高鳴る。ギラギラとオレを貫く宝石は、この日のために磨かれた至高のものだ。鼓動がまた一つ速くなった。目の前の男の胸に耳を当てて聞かなくてもわかる。相手だって同じように、このバトルに陶酔している。一緒だ! 今この瞬間、共に生きている! きっと、死ぬ時だって一緒だ。一緒が、良い。幸せだ。他には何もいらない。ずっと一緒に、側に居て、バトルも出来れば最高だ! ああ、楽しいなあ! * チャンピオンタイムイズオーバー。 三日の後の華麗な復活を果たしたダンデからは、墓から遺体が消えるのと同じように背中のマントが無くなった。背負っていたものは幼子に受け継がれ、伝説は彼等の手持ちとなった。空っぽの摩天楼は無敗だった男に捧げられたトロフィーだった。 ダンデが誂えたあの服は一体、いつから考えていたのだろうか。 「よお! ダンデ!」 バトルタワーに足を運ぶようになったのは必然か。以前は自覚していなかった醜くどろりとした執着心が蜷局を巻いている。目的を一度見失い、振り返ってみればダンデのことしか頭に無かった。職業選択はダンデと真っ先に戦うため。ダンデと出会う前は何をしていたのか。いざダンデが居ないトーナメントを終えてみると、趣味のファッションとSNSもただの飾りのように味気なく感じる程、胸にくうくうと風が吹いていることに気が付いた。オーナメントを外された寒々としたモミの木のような、自身の本質は変わらない筈なのに決定的に足りず、満たされなかった。 自身が目指していたのはチャンピオンの座か、一人の男への勝利か。無論、チャンピオンの肩書きを取り外しの出来る飾りみたいにチャチで軽い物だと考えたことは無い。 そうして考えている内に、木から飾りを奪い取りたかったのではなく、木に焦がれている事がわかった。飾りの持ち主にどうしようもなく惹かれてしまっただけなのだ、と。 色々とごちゃごちゃ言ったが要するにダンデの近くに居たいのだ。ただ、ダンデとずっと一緒に居たいという甘く綺麗だった思いは、火にかけすぎて苦く鍋にへばりついたカラメルのように手遅れで、もう後戻りが出来ないものになっていた。 「キバナ! 待っていたぞ」 「おう。ここの奴らみんな強いけど、やっぱりダンデと連戦したいな」 「オレもそうしたいが他の仕事が許してくれない」 ニッとダンデは笑う。オレもそれにニッと笑って返す。観察力の鋭いバトル馬鹿はこういったことには鈍く、焦げ付いた甘露がバレることはなかった。 チャンピオンになってからのコイツはみんなの象徴であり続けた。ポケモンのことを第一に考え、人間は二の次。ポケモンに絡んだことでしかダンデに関わることは出来ない。オフの日に新しい技や特性の論文について意見交換をし、バトルをすることもあるが、それだけだ。緩やかに酒を酌み交わすことは無く、世間一般の友人同士の遊びは無い。そういった意味でならネズの方がよっぽど親友だ。 静かに論文を読むダンデの姿も好きなので不満は無い。だが、チャンピオンを退いた今でも、ダンデとの話題といえばポケモンのことだった。ポケモン以外でのダンデの交友関係を見たことが無いのも、他の話題に踏み出せない一因だった。人物関係において自身は最高のライバルというポジションに居るが、最近ではホップのこともライバル認定したと聞いたので、その地位も危ういという焦りが身を焦がした。 バトルフィールドに立ち、互いにポケモンを出す。ダンデはダブルバトルも強い。と言うより、オレがダブルバトルの方が得意だと話してから更に強くなった。 屋内に砂嵐が吹き荒れる。ポケモンの体力を削る天候操作はトレーナーも疲弊していく。ヒトよりも遥かに丈夫な彼等が傷付くのだ。晒された皮膚がチリチリと痛む。切迫した局面を切り抜けたかと思えば、更なる追撃が来る。楽しい、敗北の押し付け合いだ。赤い光が降り注ぐ。バトルタワーのダンデはキョダイマックスした相棒を惜しみなく引っ込め、苛烈な一手を切り込むことがある。読み合い、先手、後手、何もかも楽しくて、悔しくてたまらない。ジュラルドンの白銀が溶かされる。砂嵐が止まった。オレの、負けだ。 ポケモン達をボールに戻し、労りの声をかける。同じくポケモンを戻したダンデが駆け寄ってきた。 「最高だ。やはり、キバナとのバトルはとても楽しい。ずっとずっと一緒にバトルがしたい。終わらなければ良いと思った」 「オレもだよ」 嬉しいことを言ってくれるが、オマエを倒した新チャンプはどうなんだ、とか、アイツもバトルタワーに通ってると聞いたぞ、とつきりと心が痛くなった。裁縫針よりも細いものがスッと入ってきたような痛みだ。 「なら回復してもう一度」 「いいや。それよりも休んだ方が良いな。早くシャワー浴びようぜ」 近付いてみてわかったがダンデの目の下には薄っすらと隈があり、髪も乾燥していた。髪に関しては砂嵐が一因でもあるが、それにしたって痛々しかった。ダンデがチャンピオンの頃はスタイリストが髪の手入れをしていたが、今は居ない。日に日にぼろぼろになっていく毛先を見かねて、自身も共にシャワーを浴びる時は乾かしてやるのが習慣になっていた。前にダンデの髪を乾かしたのはいつだっけなあと思いながら、手櫛で軽く砂を落とした。 屋内での砂嵐は酷く汚れるため、バトル後のハタキとシャワーは欠かせない。駄々を捏ねるダンデを引き摺り、傷付いたポケモン達と衣服を専用のロトムに任せて共にシャワー室に向かった。 水流を強めにし、落とし切れなかった砂を流していく。自身の髪は刈り上げている分、楽で時間がかからない。早々にシャワーを切り上げ、服を着て先に髪を乾かした。暫くすると髪をしとどに濡らしたダンデがやってくる筈なので、バスタオルを用意して待った。 予想通りびしょ濡れでやってきたダンデをバスタオルで迎え入れ、ドライヤーを当てる。ドライヤーの最中に口を開くと髪の毛が口内に入るのを嫌い、普段と打って変わってオフの時のように無口になるダンデが面白い。しっとりと濡れている髪に指を絡ませながら、少しの揶揄いを混ぜて話しかけるのが好きだった。ダンデはそれに気付いているのだろう。オレの話には首を縦に振ったり横に振ったりして相槌を返してくる。 「そういえば、今度ジムに講師としてワタルさんをお招きするんだ」 本当に、何でもないふと思い付いた話だった。 「……キミが憧れているドラゴン使いか」 珍しく、髪が口に入るのも気にせずダンデが声を出した。 「そう。ガラルでは公式戦には使用出来ないけれど、カイリューも見せてもらう予定。リョウタ達も楽しみにしている」 ガラルに蔓延るダイマックスエネルギーや粒子が身体に合わないポケモンも居るため、基本的にガラルに野生で住み着いていないポケモンは渡航が禁止されている。もし仮に申請が通って渡航出来たとしても、ボールの外に出す許可は中々下りない。しかし、ワタルさんのカイリューは個体のレベルが高く、ポケモン医療機関からの了承も得たため、見せてもらえる運びとなったのだ。思わず顔が綻んでしまう。 ダンデの髪を梳き、根本が乾いたことを確かめてからドライヤーの先を毛先へ徐々に移動させる。ダンデの目元は前髪が乾いたばかりで影が落ち、見えない。 「そうか。キミはいつかミニリュウを育てたいとも言っていたな」 「ああ。ミニリュウからハクリュー、そしてハクリューからカイリューだな。彼等は進化の段階で今までなかった手足が生える。その肉体の変化に困惑する個体もいるが、そこはオレの腕の見せ所だな。リザードンも羽根が生えた時に苦労しただろう」 「ヒトを乗せて飛べるまで大変だったな」 ダンデが話す内容は普通である筈なのに、どこか突っ撥ねるような声色だった。ダンデが不機嫌になるような話題だっただろうかと首を傾げる。 一分程無言の時間が過ぎた。ダンデとの会話の沈黙において、これまで感じたことのない刺々しい空気がチクチクと肌を刺してくる。なんとも言えない居心地の悪さを、ヘアドライに集中することで誤魔化した。 「……?」 黙りこくって何かを思考し続けていたダンデが思いついたように顔をあげ、何故か体が痙攣し始めた。音の濁った浅い呼吸を繰り返している。 「ダンデ……?」 湯冷めだろうか。しかし髪を乾かす手順としてはいつも通りの筈だ。余程疲労が溜まっていたのか。一先ずダンデを横たえて足を台の上に乗せ、スポーツドリンク等の応急処置を行おうとした。 「ダンデ、オレは医務室の人を呼んでくるからちょっと待ってろ」 ダンデの額に張り付いた髪を払って離れようとすると、腕を掴まれて阻まれた。 「どこに、行くんだ……?」 「医務室だって」 「オマエもオレを置いていくのか」 「はあ? ダンデ、それってどういう」 ダンデが急に目を見開き、かひゅっ、と乾いた息を漏らした。手で胸を押さえて苦しみ出す。 「ぐ…………かふっ……が、ぁああああ゛、あ゛」 ダンデが身体をぎゅうと丸め、蹲る。右手は強く胸を鷲掴み、左手は頭を押さえ始めた。呼吸が乱れ、大粒の汗が滝のように流れている。 「ダンデ! どうした! おい!!」 「あたまが、われる」 ダンデの体は痙攣が止まらずぶるぶると震えている。ダンデを襲っている突然の頭への激痛に漠然と、くも膜下という言葉が頭に浮かんだ。救急に連絡するためにロトムに指示を出す。けれど、最初に押さえていたのは胸だ。どうする。吐き気の症状は見られない。 ダンデが一際大きく呻いた。同時に、ダンデの体が淡く光る。頭の一部が盛り上がり、髪の下から何かが現れようとしている。病気とは違う。ポケモンの進化のように、ダンデの体に著しい変化が起きている。 「っあ゛あ゛あ゛あ゛!!」 絶叫。ぶわ、とダンデの頭から白いものが出てきた。髪色と似ても似つかぬ、いや、人から生えるには物語の中でしか有り得ないもの。羽根だ。それも、背中からではなく頭から生えている。 ダンデは荒い息を整えようと必死に吸ったり吐いたりを繰り返した。汗が頬を伝い、落ちる。ひゅっ、ひゅっ、と妙な音の呼吸の後、ダンデが今度は脚を押さえて呻き出した。食いしばった歯の間から呻吟が漏れている。 「ぐぅう゛う゛う゛」 「ダンデ! おい! 痛いんだな!? ダンデ、聞こえるか!」 ぶち、ぶち、と何かが千切れるような音がした。ハッと下を見ると、脚の根本から褐色の肌がくっついているのが見えた。足先が縮み、二本の足がぴったりと一つに纏まったかと思えば、爪先からつるりとした鱗で覆われ始める。 「な!? おい! やめろ! とまれ!」 「うっ、ふっ、……ふううっ、ふっ」 何に対して静止をかけているのかわからないが、目紛しく皮膚を覆っていく鱗の境目を追いかけるように手で押さえた。ダンデが突如としてヒトではない何かに変わり果てていくことにぞっとした。王だった頃にどれだけバケモノじみたバトルをしていても、コイツは人間だったんだ。それが何故、今になってヒト以外にならなくてはいけないのか。 「とまれ! とまれ! とまってくれ!」 オレの願いが届いたのか、それともそこで止まることが定められていたのか。鱗はダンデの腰の辺りまでを覆ってピタリと止まった。ふう、ふう、と次第にダンデの呼吸が落ち着いていく。 数度の瞬きの後に、ダンデがゆるりと顔を上げた。短い動作の筈なのに、時間が永遠のように感じられた。 「キバナ……オレのからだ、どうなって、る?」 じわ、と金色の瞳が揺れている。頭の羽根が持ち上がり、宙を掻く。一つになった下半身が床を跳ねる。 一言で言うなれば人魚。だが、そう決め付けるにはどう見ても違う点である羽根が宙を揺蕩っている。 白昼夢という言葉がふさわしいが、爪を指に食い込ませると痛みがあった。現実だ。 目の前のダンデの姿は『有翼の人魚』と言う他に無かった。 * ダンデは腐りかけの野菜や発酵食品に惹かれる事はなく、また、変わり果てた姿に知恵の実を投げつける者も居なかった。おぞましい人外と表現するには、ヒトの部分が多かった。 簡単な話である。この変身は医者が言うにはムゲンダイナの光線の後遺症だった。ヒトの願いに応じて降り注ぐねがいぼし。それらの親玉のムゲンダイナ。そのムゲンダイナの放った光の残滓がダンデの体の中にあり、ガラル粒子をダンデの願いに沿った形に顕現させた、らしい。何を願ったのかをダンデに問い質しても、はぐらかされてしまい答えを聞けることは終ぞなかった。 バトルタワーはダイマックスのパワースポットだ。エネルギーに満ちている場所はムゲンダイナの力と相性が良い。肉体の変化には持ってこいだ。ガラル粒子によるものならば、時間経過の後に元に戻るのではという僅かな希望があったが、罅割れを埋めるように粒子がダンデの肉体に絡みつき、既に溶き解してしまった卵を元に戻すことは出来ないのと同じように、不可逆のものだった。 ダンデの身体を襲ったのはポケモンの進化そのものだ。これから先、純粋な人間に戻ることは無いと、まるで死刑宣告のように言われた。ダンデの家族が泣き崩れる中、当の本人は医者の話に淡々と頷いていた。 下半身は水棲ポケモンによく似ているため、乾燥を防ぐために半身浴が出来る水槽にダンデは常に入ることになった。タワーに出勤することもままならないので、委員長の仕事はテレワークに変わった。昇格試験には代理が当てられている。水槽の水はダンデが自分で交換出来ると言ったが、いざ任せてみるとロトムの入った電動キャスター付きの水槽を早々に倒して動けなくなっていた。ダンデには介助の者が必要になった。 言うのが遅くなったがガラルリーグ現委員長兼バトルタワーオーナーが異形に進化したことはトップシークレットだ。外の企業へ介護を頼む訳にはいかず、姿の変わった主人を心配しリザードンは離れない。ダンデの他の手持ちはタワーのブリーダー達に預けられた。気の立った炎竜とヒトの姿ではないヒトの相手に、キバナに白羽の矢が立ったのは自明の理だった。家族は? と声を上げたがダンデが拒否した。 「ようこそ」 「すまない。世話になる」 ダンデは心底申し訳なさそうな顔でオレの住むマンションに運ばれてきた。 オレの身長に合わせたシステムキッチンは今のダンデでは手が届かず、作り置きの食事が必要だった。今のダンデが食べやすい物を試行錯誤し、片手で食べられるサンドイッチが最初の食事だった。ぽろぽろと落ちたパン屑が水にふやけて、油が浮かんだ。それを網で掬い、捨てる。その様子をダンデは呆然と見つめていた。ダンデを慰めると呼応するように羽根が動き、羽毛が散った。それらも掃除した。 ダンデの頭の羽根はハクリューによく似ていた。ハクリューは頭部の羽根を大きく広げて飛ぶことが可能だ。図鑑説明にはハクリューの水晶は天候を操ることが出来ると続けられており、オレにピッタリだなあと他人事のように考えた。ダンデの足先をよく見ると、ムゲンダイナの核と類似する色の硬い石があった。渦巻く光が目を劈き、今のダンデにはヒトではない部位があると改めて自覚した。 当然、ダンデは一人でトイレに行くことも敵わない。苦虫を噛み潰した顔で、水が汚れたら報告するから取り替えてほしいと言われた。けれどもオレは、トイレに行きたい時に言ってもらえれば運ぶし抱え上げるからダンデの好きな方で、と返した。自身の排泄物が混ざった水槽に浸かり水換えと身体の清掃の手間をオレに与えるのと、ライバルとはいえ他人に抱え上げられ排泄を介護されるのとどちらが良いか天秤にかけ、合理的なダンデは後者をとった。オレが仕事に行っている間に催してしまった場合は仕方がないが、オレが家にいる時は素直にトイレに行きたいことを伝えるようになった。 ダンデの心はヒトなのに身体の扱いはヒトと乖離していく。ダンデの尊厳の息の根を少しずつ絞めていっている心地がして吐き気がした。ダンデが人外に変わる時に言っていた、オマエもオレを置いていくのか、という言葉がぐるぐると胸の中を巡る。オレにとって都合良く捉えて良いのか、それとも風邪を引いた幼子が熱に浮かされながら親に縋るのと同じものなのか。 懊悩の先には何も見えない。ただ、姿が変わってからダンデがオレの手を握りたがるのは確かだった。 宝物庫やジムの仕事をリョウタ達と分担してなるべく早く帰宅し、一番にダンデの居る部屋へ行く。ダンデはオレの姿を視界に入れると、チャック付きのビニール袋に入れたタブレットの画面を伏せて、おかえりと眦を下げて微笑むのだ。 昼の食事の皿を下げ、リザードンのボールと共に水槽をリビングへと移動させる。ダンデはボール越しにリザードンを撫で、一つキスをしてからオレに差し出す。それを受け取り、リザードンをベランダに向かってボールから出す。リザードンは二、三周程空を飛んで体を動かした後に戻ってくるので、それを見計らってポケモンフーズときのみを与える。屋内で共に食事が出来ると良いが、オレの住む家では体が燃えているポケモンを室内で出す許可は下りていない。ベランダと通じる窓を開け放ち、ダンデとリザードンが触れ合えるようにしてから夕食の準備をする。 こぼしにくい、食べやすい、そして普通の人間の食事と見た目がかけ離れない、食事。かと言って凝りすぎることもなく、手間がかかったとは悟らせない、ダンデが気負わない食事。今ではもう慣れてしまった。ダンデの手が届くように配置した背の低い机に配膳し、オレの分も並べる。オレの高さに合わせた机は隅っこに追いやられ、物置と化している。ダンデに声をかけてから水槽を食卓の前に移動させ、オレはダンデの正面に座った。向かい合って食事を取る。 ダンデの早食いの癖は再発してしまった。あっという間に食事を終えると、ダンデはぼうっと窓の外を眺める。 すい、とダンデの指が外に向けられた。 「キバナ、流れ星だ」 「えっ、どこ」 ダンデが元に戻りますように! ダンデが元に戻りますように! ダンデが 「もう燃え尽きた」 元に、戻ります、ように。 ぐしゃ、と前髪を掻く。 「………ダンデは何かお願い事したか?」 「何も」 ダンデがゆるくかぶりを振る。強い願いの下に燃え尽きることなく落ちてくるねがいぼしと、空を駆けている内に消えゆく流れ星。どちらも願いを込めるものなのに、あまりにも違う。オレがどれだけダンデが元に戻るように願っても、確固たるねがいぼしは降っては来ない。 オレは、どんな理由であれ好きな人と一つ屋根の下の生活のスタートにほんの少し浮き足立っていた。ダンデの近くに居たいという望みは叶っている。オレの浅ましい下心を見透かしているのだろう。祈りも願いも懺悔も献身も、全てが薄っぺらだった。 食事の片付けを済ませ、リザードンをボールに戻しダンデを風呂に入れる。と言っても汗をかくようなことはしていないので、ポケモンを水浴びさせる感覚に近い。ダンデを浴槽に移し、水槽を洗う。ついでに自身もシャワーを浴びる。好きな人の裸がすぐ側にあるが、今更だ。今はそれどころではない。先に上がり、髪をおざなりに拭いてパンツを履き、浴室に戻る。ダンデを再び水を張った水槽に入れるために抱え上げる。鍛えられていた体躯も、水槽生活のせいで筋肉は衰えて脂肪が乗り、少し円やかなラインになっていた。鏡を背に隠してダンデから見えないようにし、さっさと水槽の中に入れて洗面所の外へ押し出す。濡れた身体を拭ってシャツを羽織り、延長コードを付けたドライヤーでダンデの髪を乾かした。否が応にもダンデの姿が変わった時を思い出す。結局、あの日の後のワタルさんの講義には身が入らなかったことを覚えている。 ダンデの羽根を手櫛で整え、寝室に移動する。最初、ダンデが来たばかりの頃は寝室は別にしていた。だが、夜にふと喉を渇きを覚えて起きたついでに様子を見た時に、ダンデの体が水槽の壁からずり落ちていた。顎が水に浸かりヒタヒタと鼻の穴と唇に水面が迫っているのが見えて、恐ろしく肝が冷えた。ダンデの下半身は変化したが上半身は人間で、とどのつまり肺呼吸である。人間は二十センチの浅い水でも十分に溺れる。その時は慌ててダンデを叩き起こし、事なきを得た。夜伽の日々はそこから始まった。 オレのベッドの横に水槽を設置し、座った姿勢で眠るダンデが辛くないように水枕やクッションをあてがう。リザードンのボールもベッドサイドに置き、視界に入るようにする。ダンデはもぞもぞと姿勢を崩し、ある程度動いてからオレを見た。 「キバナ」 ベッドに乗り上げたオレにダンデが手を伸ばす。その手を握り、体温を共有する。手を握る理由をダンデは言わないし、オレも聞かない。言われなくても、ヒトの部位が恋しくて堪らないと、目が、顔が、指先が、全てが訴えているような気がした。その訴えは日に日に強くなっているようにも感じる。だからオレは、オレのヒトの部位を分け与えるようにダンデの手を握る。バトル後の昂りがおさまらぬ内に握手をして知った温度とは違う。黄金の穂の揺れる農村を優しく照らす麗かな日差しのような手だった。 オレがダンデの行動を都合良く捉えているだけかもしれない。けれど、伸ばされた手を掴むようになってから、ダンデは眠るのが明らかに早くなった。 うとうとと夢の狭間でダンデが話しかけてくる。 「さっき、星がすごく綺麗に見えたんだ」 細く開かれたダンデのきんいろが瞬いている。 「空が広くて、星が明るくて、その星が目印になって、どこへでも行ける気がした」 ぐ、と息が詰まった。状況が状況とはいえ、ダンデに軟禁状態を強いているようなものだ。ダンデは強く手を握ってくる。 「おかしいよな。今はキミの助けが無ければどこにも行けないのに。けど、」 「……もう寝ようぜ」 言葉の続きを聞くのが怖くて、ダンデの声を遮った。ダンデは暫し沈黙し、再びクッションに沈んで目を閉じた。 「そうだな。……おやすみ、キバナ」 「おやすみ」 部屋の明かりを小さく絞った。ふと窓の方に目を向けたが行儀良く閉じられた遮光カーテンによって星は見えない。眠ろうとしているダンデの手を解く気にはなれず、そのまま自身も目を閉じた。 繰り返す日々の中でダンデが綺麗だと言っていた今日の星は、嘸かし煌々と輝いていたのだろう。同じ空の下にいても同じ星を見損ねた事実と、停滞を嫌う男を繋ぎ止めている毎日が、じっとりと毒のように心を締め付けてくる。包丁を逆手に持って自身の胸に突き立て、じっと待っているようなものだ。人に後押ししてもらうか、自身の手が動き出すかのどちらかを待っている。 ダンデのことを世間から隠し続けるのは土台無理な話だ。情報を守るシステムだって人が設計している以上、穴がある。タワーのことをあれだけ宣伝していた男がパッタリとメディアに出なくなった時点で、関係者を嗅ぎ回っている奴等が既に出ている。ボロが出る日、つまり終わりの日は近い。 この箱庭が終わるのなら早く終わってくれ、と更に強く目を瞑った。 この願いに星が降ったかはわからない。 * 目を開けると薄墨を溢したような地面に立っていた。それまで何をしていたか思い出せない。 「キバナー!」 声のする方に振り返ると、ぼんやりとした空間に立つリザードンの横でダンデが手を振っていた。ダンデは頭の羽根を大きく動かして優雅に羽ばたき、晴れやかな顔で宙に浮いている。 「ダンデ、飛べるのか?」 「ああ、練習したんだ」 ダンデはにかっ、と歯を見せて笑った。リザードンの頭をよしよしと撫でている。 ダンデ、人間は身一つで空を飛べないんだぜ。なんで、人間の部分をそんな軽々しく捨てるんだ。オレの手を、握ったじゃないか。 「キバナ、オレはリザードンと旅に出ることにするよ」 「……は?」 「星の読み方はリザードンに教わったし、何よりそのリザードンと一緒に行くんだ。何も心配することはない。飛び方だって彼が教えてくれた」 ダンデは軽く宣った。繋いでいた手はとうに離され、否、ダンデは最初から手を振っていたではないか。オレの手は、空っぽだ。 「……え」 「さよならだ。楽しかったぜ!」 リザードンの翼が強く空気を叩き、巨体が舞い上がる。ダンデも同じようにして空へ向かっていく。 「ダンデッ!」 手を伸ばし、走って追いかけた。リーチの長いオレの腕でも届かない場所へと、どんどん遠ざかっていく。 待って、待ってくれ。置いていかないでくれ。ダンデ。人生の半分以上、オマエを追ってきたんだ。前に進んでいくオマエの背中を見て育ったんだ。背中だけじゃ物足りなくて、追いついて隣を歩きたかった。 オマエが羽根付きの人魚になって立ち止まって、そうしてオレの手を握ってきたのはダンデじゃないか。なのに、オマエが縋り付いた手をオマエの方から手放して、人間だったことを捨てて置いていくのか。置いていかないでくれ。 人間で、いてくれ。 一人はさみしい。バトルの時とは違う温かさの手を知らなければよかった。 * 「おはよう」 ダンデの声で目が覚めた。今日は休日で、長閑なココガラの声が聞こえる。 「……おはよう」 ダンデの手とオレの手は夢に反して繋いだままだった。 「悪い夢でも見たのか」 「ああ。……もう忘れたけどな。ダンデが心配することはないよ」 嘘だ。忘れる訳がない。ダンデの手の感覚を覚えていたくて、一度きつく握ってから手を離した。 水槽を移動させ、洗面、排泄、朝食のルーティンワークを済ませる。 「なあ、ダンデ」 「どうした」 ダンデは睫毛を震わせて、それからオレの方に向き直った。人とかけ離れた見た目の羽根がぱたぱたと水槽の縁に触れる。どう見ても、何度夢から覚めても、ダンデに人間ではない部位がある事実は変わらない。 「……今日、バトルしようぜ」 オレとバトルをする。ただの人間のダンデを求めてしまった。ダンデの目が開いていく。 「そ、れは……」 「バトルはリザードンとジュラルドンの一対一。持ち物は有り。ヨロギの実で良いか? 回復アイテムは無し。フィールドは地下の運動場。ここはパワースポットじゃないからダイマックスは無し。ダンデの仕事に一区切りついた後で一戦。どうだ」 「……少し、リザードンと話をさせてくれ」 ダンデはリザードンをベランダに出し、数度会話を交わした。遠くからそれを見つめる。刑の執行前の囚人のように自身の心臓は早鐘を打っていた。ダンデが部屋の中へ振り向く。 「オーケーだ」 「ありがとう」 リザードンにも向けて礼を言うと、すり、とオレの頭に頬を押し付けてきた。オレのエゴに巻き込んですまない、どうかダンデを連れて行かないでくれ、と心の中で謝罪した。 ダンデの仕事は夕方頃に区切りが付き、声がかけられた。ダンデが仕事をしている間にワイルドエリアで採取したヨロギの実をリザードンに持たせる。 ダンデの入った水槽に布を被せて隠し、地下の運動場までエレベーターで移動する。幸いにも誰かと乗り合わせることはなく、運動場にも誰も居なかった。この地下のフィールドは住民なら自由に使用して良いが、屋上にもバトルコートの線は引かれている。尚且つ、多くのポケモントレーナーは外に繰り出して野良で経験を積むため、地下の施設を使うのは余程地面タイプに拘りのあるトレーナーだけだった。万が一そういったトレーナーが入ってこないように扉の前に簡易的なバリケードを作る。一戦のみの僅かな時間だけなので許されるだろう。 トレーナーが立つ位置にダンデの水槽を移動させる。今のダンデでは十分な投球が出来ないためお互い先にポケモンを出し、ロトムの合図でバトルを開始した。 * バトルをしなければよかったと後悔したのは初めてだった。思えば、万全の状態ではない相手をバトルに誘った時点で、オレもほとほと壊れていたのだとわかった。 ジュラルドンには天候操作の技を覚えさせていないから砂嵐は使えない。一見すると不利な状況だが、鋼の弱点の炎はドラゴンタイプが打ち消すためダンデのリザードンには決定打のタイプの技が無く、代わりにこちらは炎にも飛行にも効果抜群の岩技を持っていた。ヨロギの実を真っ先に消費させ、畳み掛けるように技を出していく。 リザードンはダンデの指示の下、尖った岩を華麗に躱していく。合間にリザードンの放った暴風がジュラルドンを混乱させた。ダンデのペースにのまれていることに歯噛みする。ジュラルドンは右へ左へと首を動かし困惑している。混乱の影響でリザードンがどこに居るかを把握出来ていない。 「ジュラルドン! 二時の方向にストーンエッジ!」 方向を指示して技を出すのは砂嵐で視界が悪い時にも行う戦法だった。相棒が心得たと一つ鳴き、岩を突き出す。 「リザードン! 暴風で軌道を逸らせ!」 正しく急所に向かって伸びていた鋭利な岩をリザードンは力強い羽ばたきで阻害した。それでもリザードンの身体を僅かに削り、体力を減らす。 「な、」 見ている風景がスローモーションのように遅くなる。岩がずれて進んだ先にダンデが居た。いつもなら、いつものダンデなら近くに飛んできた技は得意の観察眼で見極めて避ける。だが、今は水槽に入っており身動きが制限されている。バトルに慣れたリザードンがギリギリ避けられる攻撃を、介護用に医療機関から支給されたロトムが判断出来る訳がない。水槽の下の電動キャスターは空回りし、技が直撃した。 水槽に亀裂が入り、割れる。衝撃でロトムが抜け出し、水の中に電気が走る。リザードンは背後からの水に対応出来ず、尻尾に諸に食らい炎が弱まった上に電気が追い討ちをかけて目を回した。全身が元から濡れているダンデにも同様に電気が襲った。 「ッダンデ!」 未だに混乱状態のジュラルドンをボールに戻して駆け寄る。感電の名残りでダンデの身体はびくびくと痙攣し、顔を真っ青にして吐いていた。 「リザー、ドン、の、しっぽ、は」 「炎は消えていない。大丈夫だ。ボールに戻すぞ」 オボンの実を持たせてリザードンをボールの中に仕舞う。ボールの中でゆっくりとだがきのみを食べ始めるのが見えた。 「きもち、わるい」 ダンデがまたゲェと胃の中身を吐く。飛び散った鋭利な欠片で怪我をしないように、水槽を運ぶ時に使った布でダンデの身体を覆った。背中をさすって落ち着かせる。 ダンデの深呼吸が過呼吸にならないように気を配り、ごめん、ごめんと何度も謝った。バトル中に技を避けるのはトレーナーであり続けるための必須事項だ。ダンデはもうバトルが出来ない身体だと、よりにもよってライバルのオレが証明してしまった。 ふと、ダンデが顔を上げてオレを見た。 「きばな、空のボール持ってるか」 「一応、あるけど、何で?」 「オレにくれ」 質問の意図が見えないが、渡すのを拒む理由も無いのでダンデの手の上に空のボールを乗せた。 「ありがとう」 憔悴しきった顔でダンデは不器用に口角を上げた。ぞっと嫌な予感が背筋を伝う。取り上げる前に、ダンデが手に握ったボールをカンッと自身の頭に打ち付けた。額がぱっくりと割れて血が流れる。 「ダンデ!? 何してるんだ! やめろ!」 ダンデは握り込んだボールを離さない。人差し指、中指と一本ずつ指を剥がしていくが、別の指に取りかかった瞬間にまた握り込んでしまう。ダンデは、は、は、と短い息を漏らした。 「ボールに、入れない。オレが、人間だから」 「…………どういう、ことだ」 「ポケモンに、なりきれていないから、ボールに」 「ダンデは、人間、だろ?」 ダンデは答えずガンガンとボールを握った拳で自らの身体を殴りつけている。血がまたぼたぼたと床に落ちた。 人であれと願った相手は、とっくに人間であることをやめようとしていたのか。それならオレはとんだ道化師じゃないか。 「やめろって! 何でポケモンになろうとしてるんだ!」 「きばなの、てもちに、なる」 「は?」 オレの、手持ち? 何故? ダンデがこうなったのはオレのせいだというのか? 「てもちになったら、キバナといっしょにいられる。オレが、オレがポケモンになってキバナのてもちになれば、キバナとずっと一緒にいられる、だろう。バトルも、できる」 「何、言って」 はいれない、はいれない、と駄々を捏ねる子供のように、壊れたラジオのように言葉を繰り返す。 数多のチャレンジャーから人生を奪う者だったオマエが、オレというたった一人のただの人間と一緒に居たいだけで、壊れてしまったのか。血みどろの努力で築き上げた全部を捨てて、オレのポケモンになりたいのか。 ダンデは次第に乾いた高笑いを発し始めた。ハハハハ! と目に血が入るのも気にせず瞳孔をかっ開いて喉を痛めつける発声をしている。興奮状態のダンデを強く抱きしめる。ダンデが少しでも戻ってきてくれるように、愛しい人の名前を何度も呼んだ。 どれぐらいそうしていただろうか。ダンデの呼吸が落ち着き、腕がだらりと下がった。表情は暗く、見えない。真っ暗だった。 「しにたい」 ぽろ、と下がった口の端からダンデの、柔らかいところがまろび出た。 「今のオレは、なにも、できない……。キバナといっしょにいられない」 呼応するようにダンデの足先の石がぐるりと渦巻く。ダンデを更にぎゅうときつく抱きしめた。ダンデにそんなことを言わせてしまった自分が何よりも憎かった。ダンデは脱力したのか、体が徐々に重くのしかかってくる。 「……ダンデ。他人同士がもっと簡単に一緒にいる方法がある」 今まで怯えて言えなかった自分を棚に上げて、迷える小さい生き物を導くように提案した。気怠げに視線がこちらに向けられる。 「……それは、なんだ?」 「家族」 「かぞく……?」 「家族に、なろう。ダンデ」 ダンデは突き放すように首を振った。金色の瞳に、長恨の色が浮き出ている。 失敗した。オレは、間違えたのだ。 「家族の縁なんて、切ろうと思えば切れてしまう。オレのとうさんは、かあさんを、ホップを、オレを、みんな置いていった。でも、ポケモンだけは連れていったんだ!」 「ダンデ」 「だから、オレはポケモンになろうと」 「ダンデ!」 一度体を離し、まっすぐダンデを見た。 「ダンデが人間でもポケモンでも、家族じゃなくても、何でも良い。どんな方法を使ってでもオレはダンデと一緒にいるよ。約束だ。だから、生きてくれ。オレはダンデに、生きていてほしい」 家族という枠組みや、トレーナーとポケモンという契約など、そんな名前の付いたものではなく、二人で一緒に生きたいというオレの願いを、どうか、叶えてくれ。 ばち、ぱち、と瞬きをして、ダンデの瞳に光が戻る。自身の服の袖口でダンデの顔の血を拭いた。ダンデが力無く笑ってこちらを見ている。 「キバナは、オレが何になっても一緒にいてくれるのか」 「ああ、一緒だ。一緒に、生きたい」 つ、とダンデの瞳から雫が伝って落ちた。ダンデを包んでいる布に染み込み、消えていく。 「もう、おそい。もう、ねがってしまった。」 死にたいと、願ってしまった、と後に続けられた。ダンデの体は脱力したまま、オレに押し付けられている。 さっき、ダンデが死にたいと言った時に、足先の石の光はどうなっていた? 首が頭の重さを支えきれないのか、ゆっくりと下がっていっている。いくらここがパワースポットそのものではないとはいえ、ナックルはガラル中のエネルギーを集める塔がある。揺蕩う粒子の量は他の町に比べてかなり多い。 周囲の音がキィ、と遠くなった。轟々と荒れ狂う嵐のように脈拍がうるさい。血潮が駆け巡っているはずなのに、手足の先から冷えていった。願っただけで、叶っていないのならダンデはもう遅いなんて言わない。ポケモンになりたいという願いによって急激に身体が変化した前例は目の前にある。 嫌だ。嫌だ。 「キバナ、すまない」 「いやだ」 「オレは、少しずつ眠くなって、きている。ムゲンダイナの残滓の多くは、オレがこの姿になる時に使われたから、オレの死にたいという夢が叶うには、少し時間がかかる、だろう」 「今からでも取り消せないのか」 「これは、そんな器用な、都合の良い力じゃないんだ。そんなラクなものだったらオレは、とっととハクリューになるか、人間に戻っている」 ああ、ダンデはやっぱりハクリューになりたかったんだな、と剥離した思考が納得した。 「帰ろう、キバナ。キミの家に。死ぬならキミの近くがいい」 もう、つかれた、とぐったりと身体が預けられる。ダンデは微睡み、目が閉じては開くのを繰り返している。 「まだ、眠らないでくれ……!」 「うん……」 意識が遠くなっていくダンデを壁の近くに凭れかけさせる。ボールに戻ったことで混乱が解けたジュラルドンと共に、水槽の残骸をバトルで発生した瓦礫用のダストシュートに捨てた。バリケードも退けて、ダンデを隠しながら部屋に戻った。 腕に抱いた肉塊がオレの罪の重さをしっかり表してくる。その重さに潰されそうになりながら歩くゴルゴダだ。 リザードンとジュラルドンのボールをメディカルケースに入れて回復した。ダンデを浴室に運ぶか少し迷って、寝室に行ってベッドの上に横たえた。その隣にオレも寝転ぶ。オレが乗った弾みで起きたのかダンデが目を開いた。 「はは、この世の終わりみたいな顔してるぞ……」 「誰のせいだと思ってる」 「オレだな……。キミにこんな顔をさせるのはオレだけだ」 オレだけだと嬉しいなあ、なんて言ってダンデは目を細めた。 「そういえば、ダンデは何であの時ポケモンになりたいと思ったんだ」 「キミの手持ちになりたいから、ともう話しただろう」 「あの時の話題と関係無いだろう」 ダンデは一、二度逡巡し、唇を舐めて湿らせてから口を開いた。 「……ある」 「……?」 「あの男と、カイリューに、心底憧れて堪らないと、そんな表情が鏡に映っていた。オレの髪を乾かす時、キミは表情が普段より緩むんだぜ」 「そ、うなのか」 髪を弄るのが好きだと気付かれているのはわかっていたが、鏡で表情までバレていたとは。反射的に少し頬が赤くなったオレを見てダンデが微笑んだ。 「キミは前に、フスベシティにも行ってみたいと言っていただろう」 確かに言った。他にもホウエン地方の流星の滝や、イッシュ地方のソウリュウシティもドラゴン使いの聖地だ。それらをぐるっと回って修行したいと話した。ダンデに、世界で一番強いのはオレだからオレとバトルするのが一番の修行のはずだ、と引き止められ、ムカついてそのまま一戦バトルをしたのを覚えている。 「他の地方のドラゴンタイプを見て、使用ポケモンに縛りのない他地方に、離れて行ってしまうのではないか、と、行くのならオレも連れていけ、と、願った」 「え……」 「馬鹿だと、笑ってくれ……」 「わらえ、ねえよ」 オマエもオレも大馬鹿者だ。ダンデはバトルと、ポケモンに心を奪われ過ぎて、人間として生きるのがヘタクソだ。ポケモンに心を奪われているダンデに惚れたオレもヘタクソだ。お互いに、置いていないでくれと願っていたのだ。 「なあ、ダンデ、そんなにオレと離れたくないのは何で?」 「なんで、だろうな……よく考えたらキミとはホップよりも長く一緒にいるぜ」 「それってさあ、」 好き、なんじゃないの。 好き、という言葉をまるで初めて聞いた赤子のように、ダンデはぱちくりと瞬きした。 「すき」 「そう」 一つ肯く。 「オレは、キバナが好きなのか」 「そう」 もう一つ肯く。つん、と鼻の奥が痛んだ。 「好きだから、こんなに苦しかったのか」 「そう」 更にもう一つ肯く。瞼の下から、熱いものがこみ上げてくる。 「そうかぁ」 「そうだよ」 ダンデがもう一つ、そうかぁ、と呟いて、緩みきった顔を惜しみなく向けてきた。 「キバナ、好きだぜ」 「うん、オレも」 好き、と続けようとして、ダンデの瞼が閉じていることに気付いた。すー、と穏やかで静かな寝息が聞こえてくる。 「ダンデ」 呼びかけても、揺さぶっても、起きない。胸に耳を当てると心臓の音が段々と遅く、弱いものに変化していっているのが聞こえた。 「ダンデ」 ぽん、と隣の部屋でボールが開く音がした。寝室の扉が壊れて開き、尻尾の炎を器用に抱えたリザードンが入ってきた。ああ、周りに燃え移らないように配慮しているのか、と気付いて、涙が出てきた。 「ぎゅ」 リザードンが尻尾の炎をダンデの纏まった足先に近付けている。ダンデの足先の石の光も小さく仄かなものになっていた。そこに命の熱を分け与えるように、一層炎を強めて押し付けている。ダンデの下半身は水棲ポケモンのものだから、炎はダンデの命と関係がないと賢いコイツはわかっているだろう。それでも、役に立たないことでも、無駄だとわかっていても、やりきれないことだってある。シーツがぶすぶすと煙を上げ始めたので、火傷しても構わないと尻尾の中に手を突っ込んだ。炎は熱くなく、リザードンはそっと尻尾の炎をよけて、また抱えた。 「クルルルル」 喉を鳴らし、ダンデの頭にすり寄る。鼻先で頬を撫でて寄り添った。数分後、ダンデから離れたリザードンがオレの顔をべろりと舐めて涙を拭った。 「ギュア」 リザードンが寝室のカーテンを引き、窓を開けろと催促してくる。のろのろと立ち上がって、カチャンと冷たい金属の錠を外すと、リザードンはするりと外に出て飛び去っていった。 夕闇の中に道標のように尾の炎が線を引いていく。オレが見た夢の中と同じように、赫赫と輝いていた。ダンデはリザードンと一緒に居た方が幸福で、そして死ななかったのだろう、と体の芯から崩れ落ちる心地だった。 「ダンデ」 ベッドに戻り、オレの方からダンデの手を握った。末端から冷えていっている。上下する胸で示される呼吸が、浅く、短く変わっている。 やがて、それも動かなくなった。 「ダンデ」 反応は無い。ダンデの手を持ち上げ、忠誠を誓う騎士のように口付けた。友であり王だった人間の道行に、共に行こうじゃないか。 「オレは、約束を守る人だぜ」 * ポケモントレーナーは年に一度、遺書を書いて手元に保管する。自身の職業の引き継ぎ、家族、手持ちの処遇について簡潔に書く。ダンデの遺書もオレの家に共に運ばれていた。ダンデの署名がされた色の薄い封筒の横に、自身の遺書を並べて置く。オレがこれからすることをジュラルドン達が止めるのはわかっていたので、パソコンの転送装置を使ってジムに送った。公式戦で使用するポケモンの所有権の半分は所属しているジムにあり、トレーナーに有事の際や事故などの何かがあるとそちらに引き取られる。ロトムも無理矢理ボールに戻して送った。オレのトレーニングルームに送ったから、リョウタ達が気付くのは明日だろう。 場を冷静に客観視している脳の片隅が、ダンデの死をホップやバトルタワー、病院、世間に報せなくてはいけないと喚いていたが、連絡手段のスマホは手に取った時に電源を落としてしまっていた。ロトムの入っていないスマホは重くて、もう一度電源を入れる気にはなれなかった。ダンデの肉親にひたすら申し訳なくて、リビングのメモパッドに謝罪の旨を書いた。万年筆のインクが涙で滲んでしまい、何度か書き直した。丸めた書き損じはゴミ箱がいっぱいで入らなくて、新品のゴミ袋を出してそれだけを入れた。ちぐはぐだ。何もかも。 ダンデを抱え上げ、浴室に移動した。意識の無い人間の身体は、ぐにゃぐにゃと力のない水袋を抱えているようで酷く重かった。水を張った浴槽に入れると肺の空気でぷかりと浮かんだ。 キッチンからペティナイフを持ち出し、浴室に戻る。刃の切っ先をひた、と左手首に当てた。ふっ、ふっ、と呼吸を整え、グッと力を込めて刃を突き立てる。 「っぐ……!」 痛みでぶるぶると右手までもが震えてくるのを堪えて刃を捻り、肉を抉る。刃が骨に当たって拗れた音がした。柄を持ち直し、腕に沿って縦に裂き、引き抜く。どういう怪我をしたら助かりにくいかも経験からわかっている。どぷ、どぷ、と脈に合わせて傷口から赤色の液体が出てきた。それをダンデの入った浴槽の中に浸ける。水の中にさらさらと赤が広がっていくのが見えた。 「ダンデと一緒にいるって、言ったもんな」 浴槽に入れていない方の手で、ダンデの髪をさらりと撫でた。ダンデの首ががくりと折れる。安らかに閉じられた睫毛の先に水滴が乗った。 「ずっと一緒だ。バトルだってしよう。バトルは一人じゃ出来ねえだろ……。ヨノワールみたいなポケモンも居るし、二人仲良く冥界でゴースト使いになろうぜ。ああ……二人でポケモンになるのも良いなあ…………」 自身も頭を重く感じ、首を垂れた。冷汗が出て、呼吸が浅く、速くなる。やっぱり少し怖くなって、ダンデの手を握った。失血死はどのぐらいかかるのだろうか。時間が早く過ぎているのか遅く過ぎているのかわからない。目が霞んでいく。 失血によって意識が遠のいていく。導かれるままに瞼を閉じた。 あー、好きだって言い損ねたな。 「 」 口を開こうとしたが、もう言葉は紡がれることはなかった。中途半端に開いた口から、舌がだらんと垂れる。 静寂に包まれた家で、動いているものは時計だけだった。 * 今、この瞬間を幸せでいましょう。 それで十分です。 その瞬間、瞬間が私たちの求めているもの全てであって、 他には何もいらないのです。 師匠がチャンプ引退後に島を買って奥さんとラブラブに暮らしているのは公式だから、我々も心置きなくダさんに島を買わせてキさんとラブラブに過ごさせて良い 納涼!ほどほどのソテー やけくそ電子辞書の逆襲 かんたん人生観〜アラスカ風〜 闇鍋1最終形態 すみませんPDFの15枚目の9行目の 『胸側の肋骨を切って本を開く様に割り開きます。で、恥骨を割ります』 を 『胸側の肋骨を切って出来た隙間に手を差し込んで、左右に割り開きます。で、恥骨を割ります』 に変更してもらえないでしょうか。 聖餐 産声 聖餐と産声 彼を最初に目にした時、欲しいと思った。己の全力を持って叩き潰す、血湧き肉躍るバトル。薪でも油でもない一人の人間を焼べた焔は良く燃え上がった。渇望していた何かが満たされ、それでも足りないと思った。もっと、もっと、彼の全てが欲しい。特定の人物一人に注がれるそれは、世界では恋と、愛だと定義されるものだと知った。メディアに彼のことをオレの最高のライバルだとふれ回る事でマーキングし、キバナはダンデのものだと世間に認識させた。キバナも目標と目的の矛先をオレに向けた。プライベートでも交流する様にし、カメラに向けるものとは違う振る舞いをキバナだけに見せた。彼はそれに気を良くして心をすっかりオレに許した。高潔なドラゴンがそろりとオレの掌に乗ってきたと思った。良かった。監禁等の手荒なことは彼の矜恃を尊重するとどうしても行うことは出来ないと踏み止まっていたからだ。湧き上がる高温の熱を灰の下に埋めて慎重に事を進め、チャンピオンを退いた時にとうとう告白した。 じわ、とキバナの瞳が二、三度揺れて、顔を真っ赤に染めて、ゆっくりと噛み締める様に彼が肯いた。ああ、なんて可愛らしい。世界への証明のために用意していたエンゲージリングを彼の薬指に嵌めると、気が早いと言ってへにゃりと笑ったことを覚えている。 キバナもオレにエンゲージリングを贈りたいと言ったためその翌日、彼と店の近くで待ち合わせることにした。ついでに結婚指輪も購入する予定だ。オレにしては珍しく時間ぴったりに到着してキバナを待っていたが、日が落ちても彼はやって来なかった。キバナからの連絡は無く、オレからの連絡にも返信は無かった。ジムや宝物庫等の方方に連絡を入れてもキバナの居場所が分からない。 それが、キバナが誘拐され行方不明になった一日目のことである。 * 何十回目かもわからない程に彼が消えた瞬間の監視カメラの映像を見返す。早朝、キバナはトレーニングの一環としてナックルシティをぐるりと一周走ることが日課となっている。曲がり角、キバナからの死角である場所にオーベムを連れた男性が待ち構え、道を曲がって男と鉢合わせた瞬間にキバナはテレポートに巻き込まれて姿を消した。ガラル地方では人間の移動の手段としてテレポートを使用することは禁止されている。ダイマックスのエネルギーが蔓延っているここではテレポートのサイコパワーが安定せず、相当な訓練を積まなければトレーナーの一部を残して移動してしまう他、上手く移動先の座標を固定出来ずにどこかもわからない闇の空間に取り残されてしまうことがある。音もなく、一瞬でキバナの長身を一欠片も残さずテレポートしたその技術は手練れのものであり、犯人がキバナの習慣を把握していることから入念に下準備がされた犯行だと察せられる。彼がこんな非日常に連れ去られたというのに、その時間帯のオレは胸騒ぎといった予感もなく、指輪を買いに行くことに浮かれて只の朝食をのうのうと食べていた。 既に二週間が経った。街は勿論、ワイルドエリア、果ては他地方にまで捜索の手は伸びているが一向にキバナの居場所は掴めない。キバナが普段持ち歩いているポケモンボックスの使用履歴をポケモンセンターのパソコン本体側から調べると、キバナが拉致された日から一体ずつ外に出されて空になっていた。キバナが犯人に抵抗するためにボックスを使用したのならば一体ずつ出しているのはおかしい。誘拐犯はキバナのポケモンに何らかの危害を加えていることが予想される。故に、育成済みのポケモンを取引する闇売買の市場も調べ上げたが、キバナのポケモンらしき個体は居なかった。犯人に繋がりそうなものはまるで見つからない。 苛立ちからタワーで暴れるだけのバトルをしていると秘書に帰宅と療養を促された。今のオレの精神状態ではポケモンの世話は出来ないと医師から診断され、手持ち達はタワーの管理下に置かれた。寝る時間も惜しく、家でも只管に情報を集めた。結果は言わずもがな変わらない。 深く、深く息を吐く。大丈夫だ、彼は強い。二週間は長い様で短い期間だ。きっと生きている。こんなことになるのならば彼の都合を考えずにGPSなり何なりを埋め込めばよかった。 その時、窓にコツンと軽く何かが当たる音がした。締め切っていたカーテンを開けると、荷物を吊るしたドローンロトムが複数体、そしてそれをキバナのロトムが先導している姿が視界に入った。キバナのロトムがオレを見つけて素早く家の中に入り込み、会話が出来る電子機器の中に潜る。 「ロ! ダンデ! キバナが! キバナが………」 ロトムは顔を歪ませて悲しみのアイコンを出す。キバナ。もしやあれらの荷物は何かキバナの手掛かりになるものか。急いで窓を開けてベランダにドローンを誘導する。ずっしりと重みのある大きめのクーラーボックスが三箱。ロトム達は荷物を届け終わるとドローンから抜け出して電線や建物に飛び、散り散りに消えていった。追われて犯人の居場所が特定されないための対策だろう。 罠の可能性もある、とクーラーボックスの蓋の蝶番側に身を置き、開けた先はひらけた空間にしてそっと蓋に手をかけた。ひやりとした空気が漏れ出すばかりでどのボックスからも何かが飛び出してくる様子はない。恐る恐る中を見ると、真空パックされた生肉やベーコン・ハム等の燻製肉、ブラックプディング、一般の食肉加工で見るものとは異なる特徴的な形のリブロースや枝肉が佇んでいた。肉にはキバナのありふれたリーグカードと、何の記載もされていない真っ白なディスク、あの日キバナに贈った指輪が添えられている。目を見開いて指輪を拾い上げる。ドライアイス特有の冷たさがぴりぴりと肌にひりついた。 「これは……」 「キバナ………」 キバナのロトムが泣き出す。次第に自身の呼吸が速くなっていくのがわかる。クーラーボックスの中からディスクを取り出し、パソコンのトレイに載せた。読み取りの準備が終わるまでの間にボックスを家の中へ移動させる。 ディスクには映像が一つのみ。無情な再生ボタンが画面上に浮かんでいる。それをクリックして動画を開いた。背景にコンクリートの打ちっぱなしの壁が見える暗い室内に、オーベムを連れてラフな装いで紙袋を被った男が立っている。男の体格やシルエットは監視カメラで何度も見たものと同じだった。男の背後には大きな物陰がある。男の手にはジョークグッズの変声用ヘリウムガスの缶が握られていた。 紙袋の隙間に缶の先の細いストローを差し込み、男がスーとガスを吸引した。咳払いの後に男が声を出す。 『……えー、今回は十人目、二桁の大台に乗ったことを祝して屠殺の様子を映像に残したいと思います。一年に一人ずつ殺しているんですけど、ガラルはワイルドエリアもあって行方不明者が多いからか、意外とバレずにここまでこられました。このビデオ、個人用に撮っているんですけど後で焼き増しして誰かに送りつけてもいいですね、ふふ』 今この男は屠殺と言ったか。十人目とは何だ。男は軽快な声を出している。ヘリウムガスを吸った高い声がいやに耳につく。男が肩を揺らして笑った。 『そう、記念すべき十人目のヒトは丁度タイミングも良かったので特別大きいヒトにしました。実は、彼のことはずっとずっとずっとずうっと狙っていたんですよ。贄は大きければ大きい程良い。彼は十年前から平均身長を頭一個越していました。こんなにも美しく立派に育ってくれて感無量です』 男が一歩横にずれる。男の後ろに隠されていたものが見えた。寛げる筈の安楽椅子に項垂れたキバナが固定されている。視界が真っ赤になった。上半身は見慣れたジョギングウェアを身につけているが、下半身は脱がされて介護用の大きなオムツを履いている。その下には中型のポケモンが粗相をした時用のシートが敷かれていた。 『胃とか色々と中が空っぽな方が良いので暫く……でも浣腸もするので二日ぐらいかな。水だけ与えて放っておきます』 スー。 ぴくり、とキバナが身動ぎした。 『う……?』 『起きましたか』 画面の中のキバナがぎこちなく顔を上げる。キバナがきょろきょろと頭を動かし、開口器をつけられ椅子に縛りつけられている状況を見て暴れ出した。椅子がガタガタと揺れる。 『ヴ! ガァッ! ッアア!』 『あー、あー。そうですよね驚きますよね。オーベム、ちょっと』 男の指示を受けオーベムが技を放った。弱い電撃を浴びたキバナの体が麻痺し痙攣している。白目を剥きかけているキバナの薬指のリングが蛍光灯の光を鈍く反射した。 『っ、う゛、う? んあ゛、う? ん゛っ、ん』 『あれ? 指輪……、薬指ってことはキバナさんってご結婚されてましたっけ。只のオシャレかな。まあいいや。あー、オムツ替えなきゃ。ここからは解体まであんまり変化が無いのでカットしまーす』 フッ、と画面が暗転した。黒くなった画面に自身の顔が反射する。びっしりと汗をかいていた。 なんだ、これは。オレは何を見ている? オレの家に届けられた肉は何だ? 質の悪い冗談だろう? キバナのロトムは泣き止まない。 パッ、と画面が明るくなった。三メートル弱のの脚立の上から二段目の足場にキバナの脹脛の先が固定され、逆さまに吊るされている。キバナは腕を後ろに縛られており服も着ていない。キバナの頭の下には大きめのバケツが置かれ、脚立の下には彼を中心に青いビニールシートが敷かれていた。脚立の近くにはまたもや男が立っている。男はレインコートの上にエプロンと薄手のゴム手袋を装着していた。頭に被った紙袋だけは変わらない。 「ッ! キバ」 『頭に血が登るまで三十分程吊るしてから絞めます。暇なのでお喋りでもしましょうか』 男がキッチンタイマーを操作した後、キバナの開口器を外した。は、は、とキバナは呼吸を整え、ギロリと男を睨む。 『と言っても共通の話題も無いですよね』 『……オレのポケモンはどこだ。オマエ、これを動画に撮っているのか』 『ああ、貴方から話を振ってくれると助かります。キバナさんのポケモンは別室に居ます。どれも大きく逞しく育てられていて惚れ惚れしました。動画、撮ってますよ。僕個人用の物なので動画サイトにアップロードなんてことはしません。安心してください』 男はヘリウムガスを吸い直す。キバナはポケモンが無事だと思ったのか些か長く息をついた。 『ここはどこだ』 『僕の秘密基地です』 『オレをこれから殺すのか。何が目的だ』 『殺すなんて物騒な言い方をしないでください。貴方は贄となり、糧となるんですよ』 キバナが男は何者かを問い、男がそれに飄々と返す問答が続いた。徐々にキバナの顔が登った血によって赤くなっていき、男へ投げかける質問も朦朧とした曖昧なものに変化する。キバナの白目は充血していた。整った筈の息が乱れ、声も小さくなっていく。 『あと五分ですね。何か他にも話しておきたいことはありますか』 キバナの目は疾うに虚なものにすり替わっていた。ぼうっと呆けた顔のキバナの額を涙が逆さまに流れる。キバナが話す言葉を聞き逃さない様に耳をすませた。 『だ』 『だ?』 『だんでに、あいたい。だんで、あのひ、いけなくてごめん』 キバナの目は相変わらず涙を流している。ああ、キバナ、そんな、いいんだ。キバナが苦しんでいる状況にちっとも気付けなかった無能のことは。彼は助けを求める言葉すら言わない。すすり泣きの混ざる謝罪と、スーという規則的な音が後に続いた。 『ダンデってキバナさんのライバルの方ですよね。あの人がチャンピオンの時はちょっとキバナさんに手を出し難いなあと思っていました。でも僕が十年目の贄を決めている時にあの人が十一回目に失敗したから、他にも候補の方は居たんですけど、丁度良いなって』 男はケタケタと笑った。僕は運が良い、と。 『最後に思い浮かべるのがライバルのことだなんて、余程バトルが好きなのですね。僕が貴方を攫った日もバトルの約束をしていたんですか?』 『ちがう……ちがう、ちがう、ゆびわ』 『指輪……? ダンデさんと……?』 キバナは必死にこくこくと頷いた。男が暫しの間首を捻り、納得した様に手を打った。 『……あー! これは失礼しました。指輪はオシャレではなく、キバナさんはもう既にダンデさんのものだったんですね? 僕、スマホもテレビもあんまり観ないからなあ。もしかして婚約発表とかされていました?』 『ヴ……』 キバナの瞳からまた新たにぽろぽろと雫が溢れる。 『ああー、もうこれ以上泣かないでください。人のものを盗ったら泥棒! ですよね。貴方のこと食べようと思っていましたけどやめました。貴方のことはダンデさんに届けますよ』 『ほんとぉ……?』 キバナの表情が僅かに晴れる。スー。 『ええ、ダンデさんの家はわかりますか?』 『ロトムに………』 『ロトムが案内出来るんですね。わかりました』 キバナの顔が安堵した色を示す。ピピピピ、とキッチンタイマーが鳴った。男がそれを止める。 『あ! 鳴りましたね。じゃ、キバナさんさようなら。おやすみなさい。良い夢を』 『な、』 ひゅ、と息を飲んだのはオレだったのかキバナだったのか。男がナイフを手に持ちキバナの喉を裂いた。ぱっくりと開かれた断面から重力と脈拍によって勢い良くバケツに血が滴り落ちる。顔の左半分が血に染まったキバナが目を限界まで開きビクビクと震えている。はくはくと開いた口からこぷりと血が漏れ出し、舌が出たり引っ込んだりと忙しない。自身の指先が冷えていくのを感じる。オマエは子供体温であったかいな、とキバナがトーナメントでメロンとのバトルの後にオレに駆け寄って手を握ってきたことを思い出した。 『オッ、ご、』 『生きている時に喉を切った方が心臓が動いていて血抜きがスムーズです。体に血が残っていると味が悪くなりますし肉も傷みやすくなるので腕や脚を揉んで十分に血を抜きます』 ゴム手袋がキバナの素肌に触れて揉む。触るな。オレのだ。触るな触るな触るな触るな触るな! どぽどぽと血の落ちたバケツの中を男が棒で混ぜる。 『この血は後でブラックプディングに使うので固まらない様にかき混ぜて表面を泡立てておきます。頭はもう邪魔なので外しますね』 『グ』 男が慣れた手付きでキバナの頭を捻り、ねじ切った。涙と血に濡れたキバナの表情はもう何にも変わらない。男が生首の断面に手早くオムツを巻き付け、画面外に消えていく。 キバナが、しんだ。悲しむ間もなく、奇異な光景に吐き気がこみ上げる。あまりにも淡々と過ぎていく映像に現実味は湧かないが、キバナのロトムと届いたクーラーボックスと見慣れない形の肉がパズルのピースの様に当て嵌まり最悪の想定を繋げていく。 『冷蔵庫に仕舞ってきました。頭はパーツが面倒なので後で解体します。一応さっき浣腸したんですけど念のため中身が出ない様に縛っておきます』 男がキバナの股間を裂き、細い紐で腸の終わりを縛った。男はキバナの首元から刃を滑らせて腹を裂いていく。膜に包まれた臓器がボルンと重力に従って落ちてきた。男は丁寧な手付きで肉体から膜を剥がしていき、白っぽい内臓を引き摺り出す。 『胆嚢は破けると苦くて不味い緑色の汁が出るので先に取ります。そもそも内臓はどれも破けると大変なので気をつけて剥がします』 男はキバナの腹の中に腕を伸ばし、袋に包んで小さい臓器を外す。その後、再度腕を突っ込み、何やらまた内臓を引き摺り出した。実家が牧場である以上、自身もポケモンを解体したことがある。冷え切った思考が、人間も意外と血が出ないんだなと思い、そして最初に血抜きされたことを思い出した。 『今のこの膜は腹膜で、次は後腹膜です。腎臓や膵臓をまとめて出します。出した後、横隔膜を引っ張って心臓と肺もまとめて抜き出します』 流石、キバナさんは体格が良い分やりがいがありますね、と歓喜の声が聞こえる。 男は新たに用意したバケツの中に取り出した内臓をぐちぐちと仕分け、洗浄している。小腸は腸間膜をこしとる様にして、と聞こえたところで嘔気に耐え切れずトイレに駆け込んだ。 「う、ぐ、オオ゛エッ」 キバナが行方不明になってから食事の時間も惜しくゼリー飲料のみで済ませていたため、びちゃびちゃと流動状のものが便器の中に落ちていく。髪の毛に吐瀉物がついた。つーんと鼻につく胃酸のすっぱい臭いが立ち込める。ハー、ハー、と荒い息が響く。 ダメだ。落ち着け。ワイルドエリアでもっと酷い死体も見たことがあるだろう。落ち着け。気持ち悪い。ダメだ。キバナがころされた。一週間以上前にキバナはしんでいた。落ち着け。ダメだ。あんな、あんな男の手によって。ダメだ。キバナはオレのものなのに。 胃の内容物を全て吐き出し、覚束無い足取りでパソコンの前に戻る。点きっぱなしだった映像は内臓の処理を終えたところまで進んでいた。脚立から降ろされ、簡易的な組み立て式の台の上に首の無いキバナが横たえられている。 『次は皮を剥いでいきます。人間の皮膚はウールーやケンタロスに比べて薄いので慎重に、筋肉と皮を繋いでいる脂肪の層に刃を入れます。あと毛根が肉側に残らない様に注意します。キバナさん、肌綺麗ですね』 みるみる内に褐色の肌が剥がされ、キバナの身体が筋肉を薄く脂肪が覆っただけのものに変わっていった。 『肉の色はみんな同じなので皮を剥いだらもう誰かわかりませんね』 キバナはオレの唯一で、ライバルで、好きな人で、やっと手に入れた、恋人、だったのに。 『肩と脚を外します』 キバナ。キミの骨の色は一生を添い遂げた後に見たかった。 『胸側の肋骨を切って出来た隙間に手を差し込んで、左右に割り開きます。で、恥骨を割ります』 キバナ。キミの胸に耳を当てて生きている音を聞きたかった。 『左右と背骨の三枚におろします。塊の方が熟成が均等に進むのでこのまま……あー、でもダンデさんってヒトを食べるのは初めてですよね。食べやすい加工をする方は先に切り分けちゃいます』 キバナ。 『前に一週間で出来る即席ベーコンとハムの作り方が載っているサイトを見つけたんですよ。前にやった時に割と美味しく出来たので、同じ様に』 動画の中でキバナがどんどんクーラーボックス内で見た姿と同じモノになっていく。 楽しみにしていた甘味がポケモンに食べられその空袋を見つけた時の様な、ラッピングの解けたプレゼントを冬の朝に見つけた時の様な、何をするにも遅過ぎる動画だった。 放心している内に動画は終わっていた。ディスクもそのままにふらふらと立ち上がる。クーラーボックスの中の肉は何度見ても変わらない。吐いてそのままの喉が痛みを訴えた。キバナのロトムがこちらを見上げている。 肉のパックを一つ持ち上げた。ぷに、という生肉の感触と冷気が手に訪れる。全てを優しく守る陽だまりの様な笑顔も、荒く煌々とした金春色が突き刺してくる笑顔も、そこには無い。 オレは彼の全てがほしかった。拘束も枷も、それらは彼の自由を奪うものだと。彼の気儘な姿ごと愛していた。何年もかけて信頼を勝ち取り、その丹念な下拵えを経て、ようやく食べるところだったのに。 ……たべる? たべる。 たべ、る? 食べる。 かちり、とパズルの最後のピースが嵌った様な気がした。目の前には下処理のされた肉となったキバナ達。 そうだ。食べてしまえ。全部。全て喰らい尽くしてしまえ。そうすれば彼は永遠にオレと共に生きる。彼の命だけはこの様な形で奪われてしまったが、それ以外の、心も体も全てオレの下にある。キバナはオレと一緒になってオレの命を使って生きる。生きている。オレが生きていれば、キバナも生きている。 ゆら、と三つのクーラーボックスの中を見た。中をしっかり保冷しているドライアイスがちりちりと音を立てる。自身の口の端が歪むのがわかる。 「ロトム、犯人の居場所を覚えているか」 「ロト!」 涙を振り払ったロトムが任せろと言わんばかりに返事をした。良い子だ。 「ロトム、ヤードの場所はわかるか? 一刻も早く犯人を捕まえたい。ロトムが署に向かっている間にオレが通報してヤードに全て説明をする。キミは彼等を案内をするだけで良い。キミは喋ることも出来るポケモンだが、状況説明や事情聴取はこの映像で済むだろう。辛い記憶は話さなくていい」 よく戻ってきてくれた、とロトムが入った電子機器を撫でた。ロトムは最後に一粒涙を流し、機械から抜け出して外の電線の中に飛び込んで行った。ロトムのボールがあればパソコンの転送システムを使って一瞬で送ることも可能だったが致し方ない。電線の中でぱちぱちと弾ける火花が遠く移動し消えたことを確認してからスマートフォンを手に取り番号を押す。ヤードはワンコールもしない内に出る点だけは優秀だ。チャンピオン時代に培った演技力を呼び起こす。 「こちらガラル警察署です。事件ですか、事故ですか」 すっ、と息を吸ってから言葉を紡いだ。 「ダンデだ。キバナのロトムが単独で戻ってきた」 電話の先がざわりと揺れる。不審にならない程度に間を置いて再度口を開く。 「ロトムの様子から見て事件性が高い。キバナを誘拐した犯人のところから居場所を伝えるために何とか逃げてきた様だ。今そちらに向かわせている。捜索隊の方へも連絡を、すぐに」 努めて平静な、それでいて焦りを滲ませた声色と、一見順序立っている様に見えて動揺による狂いのある説明を矢継ぎ早に告げる。それから数度、電話の先の騒めきとやり取りをしてから通話を切った。通話の最後にはロトムがあちらに到着していた様だから、あの男は今日中にも逮捕されるだろう。ロトムがキバナの末路に関して何か喋ったとしても、ショッキングなものを見てパニックに陥ったポケモンの言葉としてしか取り扱ってもらえない。 クーラーボックスをキッチンに移動する。彼一人、とてもすぐには食べ切れない。二週間の内に空っぽに成り果てた冷蔵庫に、二十一グラム減った彼はぴたりと収まった。 「おかえり、キバナ」 生肉のパックが少し室温に晒されて付いた結露が、一筋落ちた。 * 冷蔵庫からキバナの肋骨の部分の塊肉を取り出し、常温に戻す。 読み通り通報したあの日の内に男は捕まった。現場からは身を焼かれ表皮を削られ皿に加工されたジュラルドンとギガイアス、塩に揉まれてぬめりの取れたヌメルゴン、砂抜きされたサダイジャ、甲羅を割られたコータスとバクガメス、羽根をもがれ皮を剥がされたフライゴン、そしてキバナの一部と衣服が見つかった。男はトップジムリーダーの手持ち達も一体ずつ丁寧に殺し、解体していた。特に大変だったのはバクガメスだったと男は笑っていた。 キバナに対して批判的な一部のマスメディアは一般人に殺される様な弱いポケモンに育てたキバナが悪いと言っていたが、リーグ公式のルールに守られた状況でなければ伝説級でもない限り命を奪うことは容易い。どの様な武器や劇物を用いても良いのだから。野生を離れ、拠り所であり司令塔であるトレーナーを失ったポケモンがどれほど弱くなるかを彼等は知らない。特にキバナのポケモンは一体での攻めの戦術よりも二体での守りが堅い、所謂耐えてから巻き返す戦法だ。精密な天候操作と疾風怒涛の逆転劇はトレーナーの判断と指示が必要である。キバナのポケモンは良く鍛えられていた分だけなまじ体力が多い。男とオーベムに殺された時に長く苦しんだことは確かだった。 キバナの一部、というのは毛髪や爪等の非可食部だ。通常、それだけが見つかり体の大部分が発見されなければ生きている可能性の方が高いと判断されるだろう。しかし、男が所持していた解体映像の原本のディスクがキバナの死の証明だった。原本にもオレに肉を届ける旨が当然入っている。ヤードはオレの下に何か届いていないかと尋ねてきた。それに対して、キバナのロトムが来た以外は、何も、と答える。それだけでオレへの聴取は終わった。ヤードは指輪のことも映像で見たのだろう。最愛のライバルを喪った被害者は疑われる事は無い。キバナの肉体は男のロトム達がどこか見当違いな場所に運んでしまったのだ、という見解になった。墓にはポケモン達とキバナの一部が埋葬された。たった一人生き残ったロトムはポケモンセンターで療養している。ヤードは現在もキバナの肉体の捜索を続けている。 サイコキネシス、電磁波、まもる、テレポートを覚えた犯罪特化のオーベムは法によって殺処分された。通常であれば犯罪に加担させられたポケモンは理解あるブリーダーの下へ送られるが、発達した大きな脳に殺人は悪いことではないと長年刷り込まれ失われた倫理観、訓練によってガラルでも難無く行われるテレポートの技術、尚且つ相手の記憶を操作出来る能力を兼ね備えるオーベムというポケモンは調教し直すにはあまりにも危険な存在だった。 常温に戻す過程で肉の表面に浮いた水気をペーパータオルで拭き取る。骨と骨の間に包丁で切り込みを入れ、塩、胡椒、ハーブを擦り込みオリーブオイルをかけてマリネする。 マリネ用に一時間のタイマーをセットする。オレはその間キバナをじいと見続けた。変化など、タイムラプスで見なければ分からない程に緩やかだ。ビデオ判定の機械はここには無い。 「キバナ、キミのどこを最初に食べるか、すごくすごく迷ったんだ」 クーラーボックスの奥底から見つけた淀んだ浅瀬の海にするか、バトルの時にボールを投げそして最後には握手をする右手にするか、はたまたオレが贈った指輪が一等似合っていた左手にするか、それともキミを生かすために生まれた時から動き続けていた臓腑にするか。他にも、沢山。キミはオレの飢餓感に応じてくれる魅力的な人だから。 「前に、母さんが祝い事の時にクラウンローストを作っていたのを思い出したんだ。心臓に一番近い肋骨の肉を王冠の形にするんだぜ」 キミはこの王冠を嫌がるだろうな。人に勝手に王冠を乗せられるより、奪い取りに来る人だから。 「でも文句は言うなよ。キミと共に新しく生まれ直す記念日なんだ。誕生日はご馳走にしても良いだろう」 キバナからの返事はない。オレの誕生日もキバナの誕生日も今日ではない。けれども火をつけて、それを吹き消したって良いだろう。何でもない日をオレ達の誕生日に生まれ変えさせる。 「心臓はまた今度、次に食べる」 蝋燭に火をつける様に、オーブンに火を入れて温めた。 マリネの時間が過ぎた。骨の部分を内側にして円を作り、糸で縛る。王冠状に形を整え、それが崩れない様に中心にアルミ箔を丸めた玉を入れて固定した。彼を天板に乗せて一八〇度に余熱したオーブンの中に入れる。この家に引越した直後はこんなに大きなオーブンは要らないと思っていたが役に立った。それでもキバナの大きい肋骨には少し窮屈そうだった。タイマーを四十分にセットする。 今日は休日だ。キバナの死がヤードとナックルジムから公式発表された日からオレの仕事は秘書と部下達に取り上げられた。今まで真摯に働いていた功績がオレの背中を押す。おかげでキバナとの時間を大切に過ごせる。 食に時間をかけることはあまり無いが、長い調理時間も彼を彩るためだと思えば苦ではなかった。 オーブンに設置された小さい窓からキバナを覗き込む。加熱によって肉にメイラード反応が起き、香ばしい風味と褐色の焼き色が出る。温もりの中でキバナの肉が縮んでいくのが見えた。 時間をけたたましく告げるタイマーを止め、キバナをオーブンから出す。ぱち、と肉汁が爆ぜた。十分程休ませている間にセラーから肉に良く合うワインを取り出す。キバナが購入し、オレの家に置いていったものだ。ダブルアクションのソムリエナイフも手に取り、食卓にそれらを置く。 休ませた塊肉からアルミ箔と糸を取り除き、肋骨の隙間に包丁を入れて切り分け皿に盛る。残りは冷蔵庫の中に仕舞った。パンもスライスして小型のバスケットに乗せて運ぶ。カトラリーを用意し食卓に並べた。キバナがワインを開けていた動作を思い出しつつ、記憶を頼りにコルクを抜く。ワインをグラスに注いで席に着いた。 ナイフとフォークを手に取る。つぷ、とフォークの先を肉に刺し、ナイフを動かして一口の大きさに切る。そっと口を開け、キバナの肉を頬張った。噛み締める度に彼の筋肉がほどけていく。素朴な味付けにしたため、キバナ本来の味がよく分かる。肉はしっとりと柔らかく、コクがある。それを舌の上で転がし、ゆっくり何度も味わってから嚥下する。喉を、食道を通って胃に温かいものが落ちていく。草食のウールーとは違い、雑食故の独特の風味が鼻に抜けた。ワインを一口飲み、パンを一口サイズに千切って口に運ぶ。久々の二人の食事は静かだった。 一口、また一口、キバナがオレと一緒になる。骨の近くまでナイフで食べ進めた後に、手に持ってかぶりついた。骨に張り付いた筋を歯で刮げとり、軟骨を舐る。ちゅ、と骨を口から離す。 不意にテーブルの上に放置していたスマートフォンから着信の音が響いた。秘書達に取り上げられた仕事もリーグ委員長の意向がなければ通せないものがあるため、緊急時は連絡が来る様になっている。指に付いた脂を舐めて拭った後、画面をタップした。液晶に秘書の顔が映る。 「お食事中に申し訳ありません」 「どうした。何があった」 「オーナー、今テレビを点けていますか」 「点けていないが……」 テレビのリモコンを探し、秘書に伝えられた放送局を映す。画面に映ったのは先日行われたキバナの追悼番組のダイジェストと、キバナの体の捜索が生放送で行われているバラエティだった。素人のコメディアンがカメラを先導している。当番組はナックルジムの許可を得て撮影及び放送をしておりますという言葉の通り、ワイプで映ったスタジオでは彼を慕っていたジムトレーナー達が暗い表情で隅に立っていた。しつこい依頼を断りきれず、そしてキバナが見つかる可能性を餌にされたのだろう。可哀想だな、と他人事の様に思った。捜索隊は全く見当違いなワイルドエリアの土を穿り返している。二年前のチャレンジバンドを着けた子供の骨が見つかったところでコマーシャルに入った。 「放送を止めさせますか」 「いや……、リョウタくん達に悪い。彼等も相当疲弊している。ここでオレが止めに入ったら彼等は更に気を病むだろう」 「そうですね……。それに、こんなものでもキバナ選手が見つかる可能性は捨てきれませんから、皆さん縋るしか無いのでしょう」 早く、少しでも見つかると良いですね。オーナーもおつらいでしょう、と秘書は心底悲痛な様子で続けた。 おかしなことを言うなあ。みんな、おかしい。キバナは生きているのに。 ぽん、と胸に手を当てる。キバナはオレの肉となり、血となり、骨となる。オレはキバナで、キバナはオレだ。どく、どく、と心臓が脈打つ。今日は記念すべき誕生日だ。死者の誕生日を祝う生誕祭ではない。生きている。これからもずっと、キバナはオレとバトルをして、食べて、眠って、起きて、オレとキバナは共に生きる。 「大丈夫だ。キバナはここにいるぜ」 腹からぐるりと返事が聞こえた。 吸死 20潤2溝400億3187万2259無量大数1158不可思議9994那由他7923阿僧祇5925恒河沙3394極17載227正5013澗7636溝3129穣701杼8436垓3237京5482兆1365億2080万2682票 茶さんの誕生日5月24日 人魚一人アンソロ茶さん モデルの人間キが海で下半身を覆うような形のヒレをつけて人魚みたいな見た目になって撮影している時に急に海が荒れて波に攫われてしまって目が覚めたら本物の人魚のダがいて「目が覚めたか?ああ……光の透けた浅瀬の海を湛えたような瞳が美しい。キミはチャームの使い手なのか? もし良ければオレの番になってくれ……」と告白される。人魚のダと人間のキの人魚パロ jiraigen 地雷原です。さちさん お手間おかけする割に残念クオリティで恐縮です。よろしくお願いいたします https://twitter.com/messages/media/1279556395923173381 シャチさん 樹木を枯らす方法を @shaaachi1 パスワード限定公開 2020-07-05 07:20:26 完結するメモ。あらゆる地雷に抵触します。何らかの地雷もちの方はお戻りください。R-18 dnsn nzkb(恋愛感情を伴わない) 前提の四人の話。不倫 swap dn→kb nz→sn となります。ハクメイ6話の最後20秒の通話シーンからできました。 ダンデとソニアは、ダンデからの告白で付き合いはじめ、成人を機に入籍した。 チャンピオンになれたのは女神ソニアのおかげだと信じてやまないダンデからの愛を受けて、ほだされつつ交際を始めた。ソニアを大事にしたい気持ちが高じて婚前交渉もなかったが、人気のないところでキスをするくらいの距離感で、ずっと遠距離恋愛がつづいていた。 たまに会うときにダンデがどんどん性的にかっこよくなっていくのもソニアのお気に入りであり、相変わらず方向音痴なところもいっそ愛おしいソニア。 成人を機に入籍して記念に食事をしたあと、ホテルのスイートで初めてセックスしたくらいの関係だった。 ごくたまの性交渉は、キスでソニアが腰砕けになったところで余裕のないダンデが挿入して、しばらくして射精して終わりというくらいのそっけないのものだがダンデもソニアも十分幸せ。 入籍してからは、シュート開催のダンデの試合後、ダンデの家で一夜一朝の二人の時間をゆっくり幸福に過ごすのがたまの幸福。 もぞもぞ早起きして朝ご飯作るソニアを、キッチンまで追いかけて抱きしめて邪魔するのがダは愉しい。きゃっきゃしてるうちダンデのものが硬くなってお尻にあたるんだけど「ダンデ君…もう朝だからだめ…」って顔真っ赤にして怒るソニアと「しなくていいから、このまま居させてくれ」ってオレンジの髪に顔うずめて笑うダンデ。 入籍や交際は一切公表してないが、リーグ本部によりパパラッチ対策は万全。ローズ委員長としてもダイマックスの研究者の孫とダンデが交際していることはタイミングが悪いということで、実利に叶うサポート体制があった。 寝る前のソニアに毎晩電話をするダンデ。 自分たちを世界一幸せだと二人とも思ってる。 ー 一方ナルシストの気があるキバナは思春期から自分のルックスや痴態が大好きだった。 自分相手が一番興奮するから、いろいろ手を出して胸もアナルも開発し、鏡と録画と高い玩具がお友達である。恋人は途切れないが、可愛いアクセサリーとして愛玩している。性格の悪い女が好き。 たまたま女が途切れたネズと飲みながら下半身事情の話になった際、とろんと酔ったキが「彼女は可愛いけど可愛いだけ、セックスは自分をネタにしたほうが楽しいんだよな、オナニーのほうが盛り上がる」「後ろ開発したら女の子じゃ物足りないから自分のエロ自撮り想像しながら恋人抱いてるよ」っていいだして、俄然おもしろくなったネズが「まえまえからやべーとは思ってましたけど真正でしたか」って笑う。 どんな物ので何すんのか聞いたら、オナニーの道具とかを羅列されて引く。 「本物のチンコは?」ってきいたら「男と寝たことない。大抵の男俺さまより汚いじゃん?」って温厚に笑うキバナ。 「でもネズの顔は好きだぜ」って「なぁ俺様と寝る?」ってキバナがゆるく誘う。あとくされないし暇だしいいかと軽いノリで近いホテルになだれ込み実際に寝てみて、ネズはキバナのその仕上がった体とM気質が気に入る。 キバナのほうもヘテロだった筈の男友人が、男の自分に勃起して腰振ってるのが楽しくて仕方ない。 純粋にネズがセックスが上手いし低い掠れ声で「このザマ配信してやりたいですね」とかキバナ好みの言葉攻めしてくれるのがいい。でかい自分相手に緊縛とかもしてくれるのでキバナは最高のセフレを見つけたってご満悦。 ネズが恋愛感情とか一切なしに始終冷めた顔でセックスするところ、 痣つくまで容赦なくえぐく攻めてくるところと、 奥まで突っ込まれたときにネズの陰毛が尻に押し付けられることと、 射精の最中にせりあがって脈打つ睾丸を会陰におもいっきり押し付けられるところ ネズの長い髪が背中に掛かってくるところ、 最後中出ししながらキスするとき、白黒の髪に閉じ込められるところ、と羅列にいとまがない。 挿入の瞬間のハメ撮りとクリームパイが大好きになる。衛生的にどうなの?ってお互い思ってたが生でもやったし何なら最高だった。でも片づけが怠いから基本ゴムあり、溜まってて仕方ないときとか暴力的にやりたいときは前戯なし生中出しあり。 キバナがダンデに負けてむしゃくしゃしたときとかに「哀愁のデリヘルでーす」とか自傷行為に付き合ってやることにしている。やや参ってるキバナを酒じゃなくて前戯で労いつつ結局「てめぇはあの男にすがっても何にも得られない、そのあと別の男にこうやってアナルにチンコつっこまれて中イキしまくって…惨めで最高ですね?」みたいな言葉攻めでグチャグチャに踏みつけるのが愉しい。キバナも昏い歓びで「そうなんだよ、俺さまの体にわからせて」って自分から堕ちていく。 怠いんで自分で動けよってネズに騎乗させられて、浅いところで自分の前立腺にネズの亀頭ゴリゴリ押し当ててたら「俺でするオナニーは愉しいですか?」って突き上げられてガン掘りされる。無茶しても頑丈でだしあとくされゼロ。 「俺さまこんな冷めた奴が興奮するくらいやっぱエロいんだ」という自認と「自分で開発までして誘っておいてアンアン啼かされてるビッチな自分」が大好きなキバナと、サービス精神旺盛で締まりもいいし男煽るツボわきまえてるキバナに調教やるのが思っていたより面白かったネズの関係はつづく。 低頻度で濃いセックスしてて、溜まったらお互いに行き来する生活をしていたところマリィに「恋人になったの?」って聞かれて二人ともポカンとするがまぁ不自由ないということで「まぁそんなところ」というようになる。しかしお互い外で恋人作ったりと散々。 ー あるときダキの野良バトルおわりに差し入れを持ったソニアが現れた。 シュートの国立図書館に行ったついでだと言っていたが、ダンデが嬉しそうにするので、関係を察していたキバナは笑う。 キバナが「俺さまネズとあそぶからまたな~」ってネズに「起きてダーリン」って連絡してたら、「もし良かったら四人でごはんでもしない?」とソニアが言い出した。 「ダンデ君ご飯屋さん詳しくないし、シーソーコンビの時にはお世話になったけど、あれからみんなでゆっくり話せてないし」とソニアが付け足した言葉に、ダンデも「確かに、俺も報告書は読んだが、細かいことは聞けてなかったから。二人には迷惑をかけた、君たちの都合がよかったら」とダンデが言う。 キバナは内心、ネズに酒のますと普段より手ひどく抱いてくれるしと喜色を浮かべてネズに電話をかけてみる。『あぁ、ハイハイ前戯ですか。いいんじゃないですか、ああいう眩い奴らに食傷してオナるの、オマエ大好きですもんね?』と苦笑するネズに笑い返して、皆でシュートから移動してナックルで落ち合うことにした。 ー キバナが使う高級ホテルの会員制のバーラウンジの個室に顔パスで案内されて、話も酒も進んでいく。 ソニアが楽し気にあのあとホップがねヤローさんがね、と話すのを、ネズがありましたねと応じる話の陰で、酒の回ってしばらく経ったキがおくびにも出さないでネの手の甲を爪の先でなぞりだす。 その場の話がひとしきり盛り上がったあと、ダンデの気のない顔にソニアへの欲情を見てとって、「そろそろお開きにしましょうか、お二人はせっかくの夜でしょう?」ってネズが爆弾発言をした。 にわかに慌てるダンデとソニアに、「わかってるって、心配ご無用。誰から聞いたもないし、誰にいうもなし」って笑うキバナ。 「まぁ俺たちも、せっかくの夜なんで」 ってキの襟首をつかみあげて席を立つネズ。キはネズの態度に爆笑しながら立ちあがって、ネの首筋に顔を寄せて鼻先で、低い位置にあるネズのうなじをなぞる。 「まぁ、すいませんね。オマエのライバル、全然しつけがなってないんで。満足にステイすらできない」 キバナはクスクス笑いながら「って事でここは奢るわ」ってテーブルに額を置く。 「君たちは、そういう…その、あれだったのか?」 とダンデがぽかんというのをキがフニャと笑って「ちげぇよ。最上のステークホルダーなの」って笑う。 最上…?って微妙な顔のダに「ここ上に部屋あるぜ。俺さまの連れならここは完全にセーフ、口利いといてやる。博士はシュートからよりナックルからの方が帰りやすいだろ」ってニコニコ言う。 面食らってたダンデがやや不快そうな硬い顔から苦笑になって、「恩に着る」って苦笑するのを真っ赤なソニアが殴る。「では」「じゃーね」って立ち去るネズとキバナ。 その日は双方燃える。 ダはキの知らない一面に動揺してイライラして、キの手配したスイートでソニアを抱くのに没頭する。自分が一生懸命探した、プロポーズのあと抑えたシュートのスイートの方が絶対に高額で格が上だったのに、こっちのほうがセンスのいい部屋でソニアは「さすがキバナさんって感じ、ダンデ君とも長く居れるし」と純粋に喜んだ。溶けたソニアの赤い顔で支配欲を満たして溜飲を下げる。 キバナは初めて見たダンデのゆるい軽蔑顔が最高に気に入って「ネズみた?あのダンデの顔、俺さま最高のネタかも、おまえほんとにてんさいだよ、ナイスな」ってグチャグチャに最高のセックスしてる。 ー この日を契機にダンデとソニアは緩やかにバランスを崩していく。 ダンデのセックスがより淡白になった。たまに逢えたのにしない日もある。 仕事が忙しい事は知ってたけど、慢性的にどことなく剣呑な雰囲気でそばにいると疲れる。 遠距離でずっとやってきたが、初めて不安になったソニア。自分の体に自信をなくして、唯一のそういう話ができる男友達のネズに相談に行くようになる。 気のせいだって適当にあしらうネズに、でもネズさんもてるでしょ、どんな女の人がいいの?ってきいてソニアは半ば自覚的に自滅のスタートをきった。 ダンデはダンデで仕事中のキバナにそれとなく、 キミは立場があるんじゃないのか、人前でなんでああいう事を、俺だったからよかったもののって、 どこか困惑したままキに話しかける。しかし快楽主義のキバナは余裕綽々で笑って「他人のことより自分の幸せを大事にしなよ、最愛の男がそんな眉間にしわよせてっと困る子がいんじゃねぇの」って皮肉で躱す。 ステークホルダーってなんなんだ、ってダンデはイライラしながら聞く。 キバナは俺の為に居て当り前だと思っていたから、裏切られたような気持ちがするのかもしれないとダンデは思う。傲慢だということはわかっている、わかっているが気にくわないなら叩き潰す、とダンデはこぶしを握る。 「利害関係者はそのままだよ。あぁでも婚姻してる人間はお断り、ゴシップでも法廷でも害しかないもん」ってしっしっと追い払うしぐさで笑うキバナに、ダンデが「恋人でも何でもない利害関係者なら誰だっていいだろ」、と不機嫌に言いつのる。 「なにそんな熱くなってんだよ、こないだはごめんって。ソニアさんが機嫌損ねたなら気に入りそうなカフェでもブランドのお土産でもわたすから許してよ」ってキバナは苦笑するが、ダンデは無視した。 「ネズとはなにがあってこうなった?」 「え?…なにも。なに」 「なんでいまさら男同士が?とっかえひっかえしていた女性はどうした」 「あ、そういうこと言っちゃうか?いくら英雄でも刺されるぞ」 「ちがう。なんでキバナが、ネズと寝るんだ、愛し合ってるわけでもないのに」 「ないけど。あ、愛があればセックスは高尚って宗教?」 「ちがう!濁すのもいい加減にしろ。キバナ、なんで、ネズなんだ」 「頭がよくて、あとくされがなくて、俺の事よくわかってくれて、オマエみたいじゃないから」 「…俺のなにが気にくわない」 「フフッまるで口説かれてるみたいだな。おまえは傲慢だから。でもそこが大好きなんだぜ」 キバナの笑顔に、ダンデはため息をついてこぶしを握る。 自分がなにに拘泥しているのかはっきりせず、冷静ではないことだけわかっていた。 「わかった。じゃあ、リーグからナックルに新しい臨時予算でも買って利害関係者になるか?」 「えーオマエセックス下手そうだからやだよ」 「なら、試してから、買え」 て売り言葉に買い言葉で応じて、キレたダンデがキバナを押し倒す。 キバナは満面の笑みをうかべる。 「これはレイプ、合意は無し。オマエと法廷でバトルはいやだよ」っていう口をダンデが噛みついてキバナの舌を思いっきり噛む。 「フフッ、へたくそ。こうやってやんだよ」 そう言ったキバナがぬるりとダンデの舌をなぞって、それは始まった。 「あっは、チャンピオンが、ん、早漏なの、は笑っちゃうな、ッあ」 「、っ、ク 、は、」 上に乗られて言われながらも、ダンデは初めて抱いたソニアとは違う、しぼりとられるような強い快感に思わず喘がされる。 もはや不倫で、同性なんてありえないと思っていて嫌悪感が酷いのに、騎乗位で揺れるキバナの先走りが伝う陰茎から目がはなせない。 キバナの進んで溶けていく顔と初めて見る痴態と欲情、筋肉の硬さと柔らかさ、褐色の肌に浮かぶ汗の光とうるんだ碧い目にどんどん意識がのめりこんでいく。 一度イって終わってぬいたところで「これで満足した?おまえほんとにつまんないセックスしかできないのな」ってキバナに笑われる。 「お掃除してやる」 そうキバナが言って裏筋しごかれながらカリ裏の敏感なところを舐めまわされて、すぐにまた勃起してイってしまう。自慰すら手抜きだったことをキバナに見抜かれて、睾丸や会陰まで責め立てられて息も絶え絶えなのに、自分の物は萎えない。 「元気じゃん」 キバナが息を吹きかけた。 「サイズと持久力は一級なのに。奥さんかわいそ」 笑うキバナの見え見えの挑発に本気でキレたダが、キを組み敷いて無理やりアナルにぶち込む。 その瞬間にキバナは悲鳴を殺してがくがく震えてイく。ダンデは絞られる中の圧に息をつめる。 「ーッ、い、っ、いぜ、俺さまで、んッ。練習しな、よ」ってヘラヘラ楽しそうに笑うキが、何度もドライでイくのを目の当たりにして、どんどん踏みとどまれなくなるダンデ。 ずるずると関係が始まり、続いていく。 キバナはボロボロに抱かれた後に、ネズのところへはしごして一層背徳感にふける。 さすがにネズも笑った。 「下手でした?」 「うんめっちゃ下手。予想大当たり」 「こっちはこっちで大変でしたよ。実は彼女がうちに相談にきて、ダンデのために開発したいそうです」 その話でキバナは死ぬほど笑う。 「かわいいよな、あの二人」 「本当に」 本当に困ってそうだったら、俺たちであいつらのまえで手ほどきする?4Pってキバナが半笑いでいうのを聞いて、ネズが今度は爆笑する。 「いや変態のナルシストがよがってても参考にならないでしょう」 「うん、俺さまが視姦されたいだけ」 「贅沢もんですね、まぁ機会があれば、縁を切られるのでも待ちますか」 二人でニコニコするネズとキバナ。 ー セックスがを何度かしている中でダンデがそれなりに苦吟しているのを知っていたキバナは愉しくてしょうがない。 恋愛の色をおびた目がキバナを燃やさんがばかりに睨んでくる。 「あぁッ!そ、ッれ、あ、いぁ!!!」 ダンデはキバナの頭と膝を抱え込んで、正常位で垂直にチンコをばちゅ、ばちゅん、と撃ち込んできて、抜き差しする激しい水音と、キバナのバカになったひっきりなしの喘ぎが響く。 ふと、律動がとめられてキバナの内壁は切なげにダンデのものを締め上げる。意識の靄はすこし晴れた。 「キバナ」 「はァ、ッ、ン…な、に?もっとして」 「俺はオマエのなんだ。妻帯者の友達で、ライバル以外で、」 荒い息の中で、とまっていたものがぐっと腹の奥に押し込まれて、奥が期待に波打った。 「あっうご、けよ……えー…りがい、関係者?」 「それ以外で」 「…それ以外?頭まと、まんね…怒らない?」 「聞いてから決める」 「…高性能ピストン、マシン、とディルドかな」 ダンデは鼻で笑って、抽挿を再開した。 ゴリゴリと奥の先を開かれそうになって、期待で腰がはねて背がのけぞった。 あしの先までが反り返って跳ねる。 「アッ、んだよ、ぉ あ、ャバッそこッ!!きゅう、だ、って!!!」 「分かったもういい、せめて好きなところとかないのか」 「あは、ッ、お、まえのチっンコの、厚いカリと、ッ、竿のまんなかがふと、いところが、入り口とか、中にひっか、ッかって、中がめち、ゃくちゃにッなる、あろ、あと奥に、おまえ、の先っぽが嵌るの、すげぇ、すき…ッ、ねぇ、え!…こ、のまんま、アレッ、して…」 「アレは俺だけか?」 「いっ、いからッ!」 「よくない、言え」 「オマエだけだから!ァ、オマエの、俺さまッの奥にハメてッ…!」 「言いなれてそうで、頭にくるぜッ」 ー ソニアはもしかしたら自分をもっと磨かなきゃって女性誌を読んで思い至る。 独りではじめてそういうものを買って、開発に勤しむけど全然うまく行かない。 これは相談したらまずいって思いながらも、決して人をバカにはしない気質にすがる思いでネズのところに言ってはなす。 ネズは最近ダンデがキバナに入れ込んでる事を知ってる。 面白いほうに転がったなと思いながら、ネズもソニアに対して、突っ込む・粘膜同士の接触以外の事を全部やってやることにする。 ラテックスの手袋で鏡を前に全裸になって、真っ赤な顔のソニアに淡々と解説するネズ。 「ここがあなたのクリトリス。小さいけど毎日触ったら大きくなるんじゃないですか。指いれますよ。腹側の、中のこの辺がGスポット。ひっかくんじゃなくてぐいぐい押し撫でる感じでなれたらいけるんじゃないですかね。ちょっとぐっとディルド入れますけどこれ、ここが子宮口、男が突っ込んで当たるのはこの辺」とか淡々と触られて、気持ちいいより恥が勝つ。 「ちゃんと覚えて帰って、ダンデにこう触ってほしいって言えるようになってくださいね」とか言って笑うネズ。しかしそうなるまでの間にもネズのもとに通い詰めて、始動を受ける。「外イキできましたね」とか「ほら、潮吹くじゃないですか」とか開発は続いて、快楽とネズのラテックス手袋が徐々に紐づいてくる。 自分でも知らない、ダンデにも教えてもらえなかったことにのめりこんでく。 乳首や口蓋、アナルまで開発してもらううちにネズに性的な興奮だけ持ってかれる。ダンデの事は好きだけど、ネズにすこしでもいじめられるととまらなくて、最終的にネ図の前でディルドオナニーをするに至る。自分の愛液まみれのラテックス手袋をもらって、家で反芻して自慰をするソニア。 性的興奮もしてなければ無感情に見るネズの目が溶けるのが見てみたかった。 ー 徐々にダンデとソニアの夫婦関係は改善した。 お互いの手の痕跡のない抱き方、歓ばされ方を教え込まれているそんな違和感は圧倒的な快楽に溶けていく。二人は少しづつ最中に要望を言えるようになってセックスはもっと気持ちよくなった。 行為を終えて抱き合ったあと、二人は押し黙るようになっただけ。 「もし子供が出来たら、ダンデ君に似るのかなぁ」とソニアが零す。 「きっとそうだろうな」と苦笑するダンデ。 子供ができない関係で、それぞれお互いが何かを隠し持っていることを察している。 しかし何も、脅かされてはいない。 「…先の話だな。」 「…うん、それがいいなぁ。」 ソニアが生理痛を理由に低用量のピルを飲み始めた事をダンデは知っている。心配していた副作用もない。 ソニアは避妊なしのセックスを望むようになり、ダンデもそれに応じるようになった。 結婚しているのだから、何も問題はない。 本心で話してる二人の、その言外の理由が『この二人きりの夫婦生活を愉しみたい』と『いまはまだ、危ない火遊びも許される』の二つであることをお互いにわかっている。 ー ある日、ネズさんに抱いてほしい、ソニアがと言い出した。 ネズは「俺とキバナがやってるのを見せるのはいいですよ」と応じた。 「あなたは既婚の女性なので、俺たちは手を出せない。単なる視姦なので、もし中が寂しいならダンデを呼んだらいいと思います。キバナに聞いたらあいつは偏見がないらしいですから」と言い始めるネズ。 キバナはキバナで、ダンデに突っ込まれている時に「さいきんマンネリだから今度ネズとみんなでしようぜ。俺さまがネズとするとこみたいだろ?」って持ちかけてダンデを焚きつける。 日時の調整をして当日ホテルの一室でダンデとキバナ、ネズが集まる。二人は愉しそうな顔、ダンデは諦めた顔をしている。メンツはそろったのに、ネズとキバナはグダグダとしていて、休みをとった甲斐がないなと思う。 無理やりキバナを組み敷くかと、熱っぽい目で見ていたら「ネズ、ダンデから俺をかくして」とキバナはにやりと笑った。 ダンデが卓にあったビールを飲み干したときキバナが立ち上がって入り口に立った。 「サプライズゲスト!!!」って笑いながらドアの外に待たせていたソニアを部屋に引き入れるキバナ。 室内にいるダンデをみて目を瞠るソニア、固まるダンデ。 「…あは、そうかもしれないって思ってた」 ソニアが苦笑する。 「…実のところ俺もだ」 ダンデも笑った。 椅子に掛ける二人をよそに、キバナとネズはけらけら笑いながら服を脱がせあいはじめた。 キスしながら身をかがめる、キバナの脱いだシャツの隙間から褐色の肌が艶めく。 ネズの細い指が、垂れてきたキバナの髪を耳に掛けてやる。そのままキバナのピアスをぐいと引っ張って、キバナが眉をひそめながら熱い息をもらした。 二人はテーブルに腰かけてきて、ソニアの足元に空のビールの缶が落ちた。 「ダンデ君は何見に来たの」 「キバナがどうやって抱かれるのかだな。俺以外に。」 「私はネズさんを、みたいなってきたの。素手ですら触ってもらえないから」 「…ソニア」 「なぁにダンデ君」 「信じられるか?こいつら愛しあってないんだぜ」 「ほんとにそうだよねぇ、なんか。笑っちゃう」 「もう、しよう」 「うん、したい」 最愛の、お揃いの結婚指輪を首から下げていて口を寄せ合っても、意識は二人ともテーブルの上のバカ二人にそれぞれ向いている。 心底愉しそうに前戯にふけってるバカが二人、焦がれているのに玩具を取り上げるいじめっ子のように座る二人に触らせてくれない。 ソニアとダンデはぐっとめをつむってキスをする。 動悸が何に由来するかは、ほの暗い恋愛をしている、 初めて見る顔の、目の前の配偶者のせいということにした。 ダキホ吸血鬼パロ 年齢操作有。 昔々、御伽噺が世の理であって、何ら不自然ではなかった頃の話。 ダンデとホップという双子の兄弟がいた。両親は既に他界しているが、村の人は親切で二人は仲良く暮らしていた。 二人が15歳の頃だった。家畜として飼っていた牛が暴れ、ダンデを庇ってホップが瀕死の重傷を負った。牛の頭突きか蹄で踏まれた時か、内臓を破裂しているようでお腹が痛いとしくしく泣いて熱に浮かされている。腹を切ってどうにかする手術技法などこの時代には無いから医者も首を振って帰ってしまった。見ていられなくて夜中にも関わらずダンデは外に飛び出した。 森の奥には吸血鬼が居るから夜中に外に出ちゃいけない、特にダンデとホップは紫の髪に黄金の瞳と、まるで夜明けの瞬間のような見た目をしているから、夜明けは吸血鬼が求めて止まない物だから、絶対外に出ないでね、という生前の両親の言いつけを破ってしまった。罪悪感に苛まれながらも、ダンデは足を止めることが出来なかった。木の根に躓き、派手に転んだ。痛くて苦しくて、でもホップは自分のせいでもっと苦しんでいて、と泣き出してしまう。 泣いて泣いて、ふと足音がして、そちらを見上げた。夜目で何とか目を凝らして、長身の男の姿が見えた。 「よぉ、最悪な目覚めをありがとう」 「な……」 男が近くに寄ってきた。跪き、ダンデの頭に乗っていた葉っぱを払う。擦りむいた膝を見て顔を顰めていた。男の目は爛々と光っている。 「オレはこの森の奥に住んでいる。子供の泣き声で目が覚めるなんて趣味が悪い。何があったんだ」 何者かはわからないが、こちらの話を聞いてくれるようだ。 「弟が、オレのせいで大怪我をして」 「うん」 「お医者様も、助けられないって」 「うん」 「それでオレ、辛くって飛び出してきてしまって」 「うん」 男は頷きを返し、ダンデの話を真剣に聴いてくれた。男が口を開く。 「まず、家に帰ろう。一人で待ってるなんて弟がもっと可哀想だ」 「ここ、どこ……?」 「森の外まで送ってやる」 男はヒョイとダンデを抱え上げ、大股ですごいスピードで走り出したと思えば、すっかり森の外へ出ていた。 「ここからならわかるか」 「わからない……暗いし……オレ、道に迷いやすいんだ……」 「ふむ」 男は蝙蝠を1匹飛ばした。 「ちょいとばかし目を貸してもらう」 「え?」 男が手でダンデの目を覆った。その暗さに慣れていくと、村の風景が瞼に浮かび始めた。あ、これさっき飛ばした蝙蝠の視界か、と気付いたところで家を見つけた。 「あっ、今、今見えたところ」 「わかった」 パチン、と男が指を鳴らすと一瞬でその蝙蝠が居た位置へ移動した。目の前には家がある。すとん、とダンデは地面に下ろされた。 「弟を見守ってやれ」 男は踵を返して帰ろうとしていた。 「ま、待って!!」 男の服を掴んで引き止める。 「お兄さんなら、弟を助けられるんじゃないのか」 「見ない限りは何とも。オレを家に入れたいのなら招いてくれ」 「勿論だ。入ってくれ」 「ありがとう」 弟の居る部屋に案内する。ホップは相変わらずウンウンと泣いて苦しんでいた。呼吸がさっきよりも弱い。 「ホップ、一人にしてごめん。でも、魔法使いのお兄さんを呼んできたんだ。きっと良くなる」 「ちょっと待て」 男が手で静止をかけている。 「あー、ごめん。名乗り遅れた。オレは魔法使いじゃない。少し長く生きてるだけの吸血鬼だ。あれは魔法じゃなくて、魔術だ」 「……?魔術だと、ホップは助からないのか……?」 うりゅ、とダンデの瞳が涙で歪む。男が慌てて兄弟の近くに寄った。 「やめろやめろ。オレはその目にひどく弱い」 待ってろ、と男がホップの体に手を当てていく。四肢、頭、胴体と触っていき、お腹の上で手を止めた。 「ここだな」 くるりとダンデに男が振り向いた。 「本当に魔術をかけていいのか」 「ホップが助かるなら」 「わかった」 ずぷ、と男の腕がホップの服を、皮膚を突き抜けて入っていった。不思議と血は出ていない。ぐち、ぐち、と肉が弄られる音がして、こぷ、とホップが血を吐いた。男がホップの腹から手を抜く。 ゲホゲホと血を吐き終わるとホップが目を覚ました。 「アニキ……?」 「ホップ!」 血を拭いてやり、ダンデはホップを抱きしめた。一方、男だけが苦い表情をしている。 「アニキごめん、ちょっと、もう少しだけねる……」 再び目を閉じてしまったホップを横たえ、男に礼を言った。男が重々しく口を開いた。 「手を尽くしたが持って3日だ」 「え……?」 男曰く、内蔵の位置や形を治しはしたが、ここからは本人の体力勝負、しかし、消耗し切っている体ではここから持ち直すことはない、と。死の期限を伸ばしただけだと。 「それと、さっきの瞬間移動ではオレの魔力を使ったが、今の弟の治療には弟の魔力を使った。体力があれば魔力を使っても平気だったんだがな……」 「どっ、どうしてホップの魔力を」 「他者の体の中のことに他人が魔力を使って手出しすると、混ざるんだ」 「混ざると、どうなる」 「オレと同族になる。弟を人外にしてまで救いたくはないだろう」 弟と最後まで一緒に居てやれ、それが弟にとっての救いだ、と男は出て行こうとした。 「い、嫌だ」 ダンデは泣いて縋り付いた。 「オレの、たったひとりの、家族なんだ。死ぬのは、最後なんて嫌だ」 弟を生きながらえさせてほしい、と願った。 「吸血鬼は長く、辛く、苦しくって、寂しいぞ」 「いい。ホップにはオレがずっと一緒にいる。寂しい思いは絶対させない」 「……了解した」 くるりと男はホップに向き直り、今度はホップの胸に手を当ててぶつぶつと呪文を呟き出した。次第に、ホップの表情が和らいでいく。パッと手が離れる頃には穏やかな寝息を立て、変な汗もかいていなかった。 「オレの体力を分け与えた」 「助かった、のか?」 「ああ」 よかった、とへたりと膝をついた。男は、何か困ったことがあれば森の中まで来いと言って出ていった。 ホップが助かった話は村中に知れ渡った。奇跡だと言われた。男に口止めされていたのでホップがどうやって助かったかは話せなかった。あの吸血鬼と名乗る男と同族になったため太陽に焼かれてしまうのでは、ニンニクや十字架がダメになるのでは、とダンデは恐れていたが、ホップは全く変わらず元気に畑仕事をしていた。 ただ、食事の趣味だけ変わったようでホップは生肉を好むようになった。家畜の血抜きの血を飲むようになった。幸い、人を襲うことは無かった。思えば、男も目の前で怪我をしていたり吐血した少年がいたのにその血を啜ろうとすることは無かったなとダンデは思った。 数年の月日が過ぎた。双子でそっくりだったのに体型に差が出てきた。結論から言うと、ホップが老けていない。15歳の、少年の若さと青年の大人びた雰囲気の狭間で揺蕩っている。ホップはそれを気にして家に篭り本を読むようになった。ダンデは自分の容姿を活かしてホップのフリをした。 やがてそれも破綻していく。ダンデは一人で二人分の仕事をしているのだ。徐々に疲れが見え始め、顔色が悪くなっていった。確か、困った時は森へ来いと男が言っていたなと思い出して、ホップを連れて森へ行った。 森の半ばまで来たところで男が現れた。ダンデとホップを家の中に招き、個別に話を聞いてくれた。 「なあ、落ち着いて聞いてほしい」 男はふぅ、と息を吐いてから口を開いた。 「弟のことはオレが引き取る」 「な、なぜ」 「オマエも、弟も、限界だ。村の人だって今に気付く。弟もそれで良いと言っている」 ホップがコクリと頷いて男のいる方のソファへ座った。 「容易に人外の道に引き入れて悪かった」 「あなたも、アニキも、誰も悪くない」 ダンデは一人で家に返される。ホップは遠くへ行ってしまったと、村の人に話した。一人の家が寂しくて、自分は存外寂しがり屋なのだとダンデは気付いた。 数年後、ダンデは一人の女性と結婚して子供が生まれていた。弟が居なくなって一人になったダンデを可哀想に思って、数年の交際の後に結婚した妻だ。子供は紫色の髪に黄金の瞳と、ダンデにそっくりだった。 ある年の子供の誕生日にダンデは大きな街に行ってプレゼントを買って戻ってきた。しかし、村の様子がおかしい。夕飯の時間ならばいつもは飯炊きの音や団欒の音がしているのに静かだ。嫌な予感がして家まで走った。家の前に、見間違える筈がない、ホップが立っている。時間が止まったかと思った。 「ホップ」 「アニキ、楽しそうだな」 ホップが笑った。 「結婚式も、子供が生まれたことも、知らせようと思えば出来たのに、アニキはオレを忘れて楽しそうだったな」 呼ばれたら頑張って行って祝ったのに、と。ホップの笑っている口元はよく見ると赤い液体で汚れている。 「村の人は、どうした」 「久々に村に入ったらさ、幽霊でも見たような顔をして、襲ってきたから」 飲んじゃった。 「そしたらみんな家に入って静かになった」 オレとアニキの家にも入れなくてさ、あ、もうアニキの家なのか。 ホップが家の前で立っていたのは、招かれないと入れないからだと気付いた。 「ホップ、すまない、帰ってほしい。会いたいならオレが向かうから」 「あ〜、人間に名前を呼ばれるとやっぱり弱いんだぞ」 ホップはぐしゃと頭をかいた。その時、黒っぽい霧がどこからともなくやってきて、長身の男の姿になった。 「ホップ!」 「キバナさん」 男の名前はキバナと言うのか、と思ったところで、ホップの声が弾んでいることに気付いた。キバナは夕陽に焼かれてじわじわと皮膚が爛れていっている。ホップは変わらず太陽が平気なままのようで幼さの残る頬は綺麗だった。 「ホップ、帰るぞ」 「アニキともうちょっと話がしたいんだけど」 「後でも出来るだろう」 「はあい」 アニキ、また来る、と言ってホップは姿を消した。ダンデとキバナだけが残されている。 「夜明けの一族の末裔よ。太陽の甘露をありがとう」 ニヤリとキバナは笑った。 「どういうことだ」 「ホップは太陽を克服している。将来は吸血鬼の王だ。美しい、永遠の夜明けの王だ」 「何を、言っている?」 「吸血鬼が求めて止まない物を、オマエはプレゼントしてくれたってこと。ありがとうな。オマエのおかげでこれからの長い生も寂しくない。最後に一つ、名前も知らない大人を頼るのは良くないぞ。子供にも言っとけ」 礼として、今後何があっても魔の存在からダンデとダンデの家族は守るし、手を出さない、と。 「じゃあな!良い人生を!」 爛れた顔を歪ませてグチュと音を立てながらキバナは笑った。来た時と同じように霧になってキバナは姿を消した。 呆然としたまま、地面に落としてしまっていたプレゼントを拾い上げて、ダンデは家の扉を開けた。 おかえり! と子供が抱きついてくる。今日はご馳走よ! と妻が食卓の前で笑っている。 ダンデは声を上げて泣いた。 っていう………。この後、ダンデはヴァンパイアハンターになって弟殺しを決意します。村人を殺されたから、自分が招いてしまったことに責任を取ろうとします。ホップ倒すところまでいくとめちゃくちゃ長くなるこれ……と思ったので切りました。 お腹の中に腕が突っ込まれる描写が見たかった。ホップのフリをするダンデが見たかった。あと、王になったホップが見たかっただけなんですけど…………。ホップ、王になってくれ………。 せいぼりちん(強がりの姿)は知恵の輪を「ッハ!名実共に工スパータイプのワタクシの手にかかればティーの子サイサイですよ!しかしこの技は門外不出……少々お待ちなさい」と言って物陰に行って力尽くで曲げて解決している。 ゐも太郎さんはじめまして。新刊の進捗を読んで「喉から手を出してでも絶対欲しい」と思ったためマスマロを送りました。ゐも太郎さんの絵柄も、話の構成も全部好きです。この、ニヒルな振る舞いのkbnさんと、なんとかしてお近付きになりたいdndさんの、表情の描写が堪らなく好きです。 絵柄めちゃくちゃ好きです……全ページ大好き…………(読後の余韻を噛み締めている) 新刊楽しみにしています。梅雨の湿り気と近付いてきた夏の暑さで体調を崩しやすい時期です。どうかご自愛ください。 吸血鬼パロ キバナから変化の術(名前をかっこよくする)を教えてもらったホップ 顔を手で覆うホップ 次のコマで手が下にずれたらダンデになっている ダンデと歩幅の違いを埋め合って歩くのが大好きだった。ダンデが気になった店に寄って行く時はオレが歩幅を短くして、オレが気になった店に寄る時はダンデが少し早足になって、そうやって一緒に歩いていた。前にうっかりショーウィンドウの中の物に心惹かれ同伴者を忘れてずかずかと歩いてしまった時、隣に立っていたのはダンデだけだった。バトルではいつもダンデに置いていかれていたのにおかしな話だ。 タンパク質合成因子 https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20120116/pr20120116.html アウロラ(トリノ デルタ(南イタリアパレーテ オマス(ボローニャ スティピュラ(フィレンツェ カンポマルツィ(ローマ ティバルディ(フィレンツェ マーレン モンテグラッパ(ベネト州 ビスコンティ ダライッティ(ラツィオ レオナルド ポケモン剣盾考察 https://t.co/qfnyYxVm88 人魚アンソロ 基礎 そんなある日、ダンデの歩き方がどこかぎこちなかった。ダンデ曰く最近歩くのが難しい、と。休んだ方がいいと無理矢理休暇を取らせて家に送った。オーナー業を詰め込み過ぎているのだ。 3日後、ダンデから「ちょっと来てほしい」と連絡があった。急いで駆けつけてみるが玄関で呼んでも返事は無く、しばらくして「ここだ!ここ!」とバスルームから水音がした。バスルームの扉を開くと、浴槽に並々と水を張りそこに潜っているダンデが居た。以前、この湯船はキバナも脚を伸ばせるサイズにしたんだぜと言っていたのを思い出した。その時はいつ役に立つんだそんなもの………と思ったがなるほど。備があれば憂いなし。現実逃避しかけたが今、目の前のダンデの足には鱗が生え始めていた。 気分の高揚 この病に罹った者の殆どは悲観的にならない。この病に関しての福利厚生が手厚いことも一因だが、病に罹っても苦痛を伴わないことが大きいのかもしれない。人魚の下半身は皆美しく、脱衣の開放感もあってか総じて楽観主義者の様に陽気になる。姿の変化に関してもポケモンが身近に居るため『まあそういうこともあるだろう』と当事者も世間も寛容だ。 大きな水槽の中で水タイプを使ったバトルは キバナも人魚になればいい 水の中に引き摺り込む な? 綺麗だろう? 上を見上げれば水面が安い室内灯の光をキラキラと反射していて、久々に聞いたダンデの声は弾んでいて、 ああ、嫌になる程きれいだ オレは人間の方が良いよ 水の中のダンデはひどく自由だ。オレが雁字搦めに手を加えたオーナー服だって着ていない。 ジュラルドンストーンエッジで水槽が割れる から始まるんですけど、まあ魚って涙が必要無いんですよ。どうしても泣きたくない、泣けない人が、涙の無い存在になりたくて発症するんです。なんやかんやでそれに気付いたキバナさんが「オマエがこんな姿になっちゃったら、バトル……は出来るか、一緒に食事………も出来るな。」「でも、オマエと一緒に寝ることも、泣くことも出来ない」って告白して、dndさんの目から涙が流れると同時に鱗がぽろぽろ剥がれて人間に戻る。というお話なんですけど……… オマエの声が聞きたいよ。一緒に歩きたいよ オレが、オマエが泣ける場所になる。オレは守護の番人だ。誰にも見せないように囲ってやれる。 治った人の話を聞きにいく みんな真珠を持っていた なんでも、不意に泣いた時にその涙が真珠になり気付いたら鱗が剥がれ始めていたとのこと 不気味だが色も形も美しくどうにも捨てられなくなってしまう 「どうだ?」 「良い感じだ」 トントン、とダンデが踵を鳴らした。磨かれた革靴が柔らかく室内灯を反射している。 「これ、履いたまま帰っても良いのか?」 「良い。オレが靴持つよ」 人魚アンソロ 様 こと 時 タイトル「Be spoken」 変異型後天性真人魚症候群、というものをご存知だろうか。シレノメリアと言った先天性の疾患ではなく、本当に人魚に変化していくのだ。初期症状は足の倦怠感。次第に鱗が生え始め、両脚をピタリと繋ぐ様に下腹部まで覆われる。足先は水ポケモンの鰭とよく似たものに変形していく。比例する様に陸上での呼吸は困難になり、水中での生活が余儀なくされる。鱗が生え揃い、水に漂う姿はまさしく本の中に描かれる人魚と違わない。この世界にはポケモンになったエスパー少年だって居るのだ。今更、人間が何になろうと不思議ではない。この病はヒトとヒトで感染することはない。どこからともなく発症し、明確な治療法も見つかっておらず人によってはいつの間にか治っていたり、将又一生治らなかったりする。元に戻る体の変化であるため、ヒトのメガ進化説を提唱する者もいた。傷病者専用の医療用保護施設の開設や、一般家庭にも手の届きやすい値段の移動式の水槽が普及する程にこの病には一定の患者数がいた。 これは、そういう話だ。 * ダンデがチャンピオンを退いたあの一戦、天地がひっくり返る様な思いと、現実味の無いそれに同じことを繰り返すチープなラジオのノイズを見出したオレはそれはもう泣き喚いた。ダンデは敗者に似つかわしくない希望に満ち溢れた顔で記者からのインタビューに応じていた。悔しさを滲ませたのは帽子を投げる前のあの一瞬だけ。チャンピオンダンデ十一回目の防衛に成功という垂幕の嘆きも、ダンデを祝うケーキに既に据えられていたチョコのプレートの哀哭も彼には届かない。だって負けた張本人のダンデが一滴も涙を溢していないのだ。オマエの分まで泣いてやる、と生まれて初めて過呼吸を起こすまで泣いた。ムゲンダイナとの戦いによって傷付き倒れたダンデを目の前にした時も泣いたが、あの時は子供を導く大人として冷静でいなければならなかったため心に寒々とした風が吹く代わりに涙は一筋のみで済んだ。一方今回散々泣いたオレの目蓋は腫れ上がって翌日は頭痛と共に視界を覆った。その日一日、日常生活もままならずダンデに手を引いてもらったことを覚えている。まあそのダンデの手はリザードンが引いていた訳だが。 目の腫れも引いた頃にダンデにブティックへと連れて行かれた。スーツを仕立てるから形と色を選んでほしい、なんて。チャンピオン時代からお世話になっている専属コーディネーターよりもオレを頼ったことが嬉しくて、たっぷりたっぷり時間をかけて選んだ。バトル用に動き易いカットアウェイでダンデの身体の厚さによく似合うダブルブレストのテールコート。臙脂色と金の装飾に馴染む特徴的な形の黒の襟はバトル中に煩わしくない様にボタンダウン、その癖ジャボタイなんて風に煽られやすいものを合わせてしまった。この点に関しては威厳のある見た目が良いというダンデの言葉に甘えてかっこよさを取った。バトルの戦術にダイマックスを使用するトレーナーは対戦相手から見える場所にバンドを着用することが義務化されている。ダンデはバンドを着けるために袖を折ると言ったので裏地にも拘った。キュロットはロングブーツの中に裾を入れるブリーチタイプ。多忙なコイツに故郷を思わせるために、染めていないウールーの毛織物の色であるベージュを選ぶ。ロングブーツは手入れに手間がかかるが、靴を磨く時間ぐらいは休息を得てほしいと勝手な願いを込めた。テーラーに最終確認をしてもらいデザインの微調整をする。金のボタンがキミのピアスとお揃いだな、と笑ったオマエは、ダンデの目の色に合わせてピアスを買った事実を知らない。フルオーダースーツは完成に数ヶ月はかかる。ダンデはチャンピオン時代にあれ程せっかちだったとは思えない穏やかな顔でそれを快諾した。その間に進めることがあると。そうしてめでたく誕生したのがバトルタワーだ。テープカットの場にてダンデのオーナー服もお披露目され、誇らしかった。 新たな旅立ちを目論むダンデを記念して、そのダンデに並び立って歩きたくて後日オレも自分用にこっそりビスポークシューズを購入した。履きやすいサイドエラスティックに防塵防水性の高いストームウェルトの靴はプライベートで重宝している。 「キミは最近いつもその靴だな」 「ダンデと会う時だけだ。ちゃんと休ませてるぜ」 昼下がり、あたたかな光が店内に差し込む。光は質の良いレースのカーテンをすり抜け、カトラリーを柔らかく輝かせた。 ダンデと休日に会う時はバトルの後にお互いのお気に入りの店に相手を連れて行く。道中、歩幅の違いを埋め合って歩くのが大好きだった。目的地までにダンデが気になった店に寄って行く時はオレがダンデに合わせて歩幅を短くして、オレが気になった店に寄る時はダンデが少し早足になって、そうやって隣り合って一緒に歩いていた。前にうっかりショーウィンドウの中の物に心惹かれ同伴者を忘れてずかずかと歩いてしまった時、隣に立っていたのはダンデだけだった。バトルではいつもダンデに置いていかれていたのにおかしな話だ。 前回は自身がガレットの美味しい店にダンデを、今回はキバナが連れられる番だった。マホイップのチョークアートに迎えられたこの店では、様々なフレーバーの個体がパティシエのパートナーになっている。ダンデのオススメだと言うミルキィソルトのホイップで飾られたケーキは美味しかった。この店で唯一キョダイマックス出来るマホイップのホイップらしい。ダンデはアップリューの酸性液を希釈して作られたシロップとタルップルの背中の皮が使用されたタルト・タタンに五回フォークを突き立てて食べた。大口を開けて二口で済ませていた頃よりは慎ましくなったと言えよう。 「キバナの足の大きさだと男物でも皮の既製品は中々無いからな。よく仕立てられている。オレも欲しいぐらいだ」 「本当か?」 「こんなことで嘘を言って何になる」 赤み掛かった琥珀色の紅茶を音を立てずに飲んでダンデは口を湿らせた。ゆるく立ち昇る香りが気に入ったのか、そのまま二、三度カップを傾けている。 「じゃあ、今度一緒に行く?」 この靴を作ってもらったのは一見さんお断りの店で、かく言うオレもスポンサーからの紹介で知ったのだ。由緒あるビスポークだが、最近の流行にも柔軟に対応し、オレの天候操作バトル向けの靴も作ってもらえた。流石にバトルが普通のトレーナーと比べると激しいものなので、定期的に手入れに顔を出している。予め連絡をしておいて、次に行く時にダンデも連れて行けば良いだろう。 共に歩く時に揃いの靴を履いていたら更に楽しいだろうな、と心の中で浮き足立った。 「よろしく頼む。キミの次の休みは」 「今出すからちょっと待て」 カレンダーアプリを起動し、日程をダンデに見せる。ふむ、と顎に手を添えて思案した後に、ポンとタップをして印が付けられた。三ヶ月後だ。 「この日なら一日空いている」 「オーケー。後で店に伝えとく」 「ありがとう」 ふ、と顔を上げて、ダンデの顔が存外近くにあったことに気付く。吐息が顔に触れるという訳ではないが、オレとダンデの間で絡んで宙を揺蕩う距離だ。炎を秘めているファイアオパールの瞳がとろとろと熔けて、オレの青色が混ざってフレアが輝いていて。ああ、こんな表情が出来る様になったんだなあ、と、子供の頃にまるで世界のために作られた人形の様だったダンデを思い出した。今のダンデは人間らしくて好きだった。 「次の予定も決めたし、そろそろお開きにするか」 「そうだな」 空になったカップをソーサーに戻し、立ち上がる。その時、ダンデが少しよろけた。テーブルに足が当たり、ティースプーンが派手な音を立てて落ちる。 「おっと」 「大丈夫か?」 慌てて腕を掴んで支えた。体重がオレの腕に強くかけられたことを考えると、本当に転ぶ寸前だった様だ。 「すまない。足が縺れた」 「疲れてるんじゃないのか?」 「いや……最近、急に動かすとたまにこうなる。気を抜くとすぐこれだ」 「病院は」 ダンデの腕を強く引いたまま、立て続けに問い質してしまう。じ、とダンデとオレの目が合った。窓から差す陽光はダンデを逸れて床に落ちた哀れな銀色を煌めかせていた。 「……そんな心配そうな顔をしないでくれ。この店に来るまで普通に歩けていただろう? 週末にでも行くさ」 こりゃはぐらかされたな、と頭を掻いた。ダンデは掴んでいた俺の手を離し、ぐっぐっと足を伸ばしている。 「いーや、明日行け。すぐ行け。どうせ休暇ため込んでるんだろ。秘書の嬢ちゃんが嘆いてたぜ。一人で病院に行くのが怖いってんなら今から救急でも良いぞ」 「わかったわかった。揶揄うな。行くぜ。一人で行ける」 本当か? と見つめるとダンデは任せとけとでも言う様にニカッと笑った。当事者がこれでは仕方ない。まあ、ダンデは約束を違えない性格だ。 「……わかった。じゃ、出るか」 「ああ」 会計の時にスプーンの旨を詫び、外に出る。マホイップのチョークアートは相変わらず可愛げな笑みを浮かべて客を見送っていた。 「明日、絶対だからな」 「わかっている。今度の休み、よろしく頼む」 またな、と手を振り店の前で別れた。空に雲が出て、太陽に陰りを齎した。上空で風が強く吹いているのだろう。雲の流れも速い。ぞくりと、嫌なものが背筋を伝って身震いした。 * 良い知らせと悪い知らせが同時に来ることは本当にあるんだなあと驚いた。ダンデがちゃんと病院に行った所までは良い。そのまま自宅療養となったのだ。 不自由な足では生活しにくいだろう、見舞いついでに世話もしてやるか、と連絡しようとスマホを開くとダンデから既に連絡があった。キミの考えはお見通しだ、とか、本当に困ったら呼ぶぜ、とか書いてあって、ほとほと呆れた。ならば此方もヤケだ、と連絡を絶った。ダンデは本当に手遅れになる前にキチンと連絡をしてくるタイプだから、不安は無かった。 三日後、ダンデから連絡があった。文面は『困ったことになった。ちょっと来てほしい』だけだった。早すぎる。軽いノリのSOSの発信元を速攻で訪ねた。 コンシェルジュを顔パスで通り抜け、ドアベルを鳴らすが返事が無い。『来たぞ』『おい』『寝てるのか』とメッセージを送る。すると、カチ、と玄関の電子ロックが解除される音がした。ノブを捻るとすんなりと開く。出迎える者の気配は無い。 「……? 入るぞ」 声をかけて中に身を滑り込ませた。鍵をかけて玄関に上がる。続いていく廊下はひっそりと静まり返っており、薄暗い。 「ダンデー! どこだ」 少し声を張り上げた。呼応する様にパチャンと水音が聞こえる。バスルームの方からくぐもった声が続いた。ヒトが溺れている時の、水の中からあぶくと共に登っていく声だ。 「ダンデ!?」 荒々しく廊下を走り、バスルームの扉を急いで開けた。焦り過ぎて力を強く込めてしまい蝶番からは軋んだ音が鳴った。浴槽になみなみと水が張られ、そこにダンデが沈んでいる。紫色の髪が水中にぶわりと広がって鮮やかな様子を見せていた。 「おい! 大丈夫か!」 腕を強く引いて水から引き上げると激しく抵抗されて手を離してしまう。兎にも角にも意識はある、と他に異常はないかダンデの全身に意識を向けて、三分の一程が紫色に覆われている下半身が視界に入った。目を凝らせば、紫色の正体は揺れる水面が反射してキラキラと光る鱗だとわかった。 「は」 ダンデ一人丸々入れるバスタブを改めて見て、以前、この湯船はキバナも脚を伸ばせるサイズにしたんだぜと言っていたのを思い出した。その時はいつ役に立つんだそんなもの……と思ったが、なるほど。備があれば憂いなし。現実逃避しかけたが今、目の前のダンデは人魚に変化しつつあった。 ダンデは水中からにょっきりと腕を伸ばし、近くにあったタブレットを操作した。ご丁寧にチャック付きのビニール袋に入れられている。メモアプリに辿々しく文字が打たれていく。水中から目を凝らしている様だが、水面を挟んだ視界は嘸かし見にくいだろうと思った。 『昨日の夜から、息がし辛くなった』 「そうか」 『実は変異型後天性真人魚症候群の診断が出て、』 「見りゃわかる」 『下肢の違和感が治らなかったら連絡しろと言われていた。症状の進行に個人差があると言われていたが、こんなにも早いとは』 「で、何でオレを呼んだんだ。医者を呼べ」 ぴゅっ、と水が飛んできた。顔にかかったものを袖でおざなりに拭く。 『電話が出来ない。医者に連絡してくれ』 悪戯っ子の表情で、ダンデがニッカリ笑った。ため息を吐き、スマホロトムを呼び出す。 「……ハ、ダンデ。靴の予約までにはさ、治せよ」 数秒の間があって、文字が打ち込まれた。 『善処する』 * この病に罹った者の殆どは悲観的にならない。この病に関しての福利厚生が手厚いことも一因だが、病に罹っても苦痛を伴わないことが大きいのかもしれない。下半身の変化は著しいが、内臓の疾患は不思議と起きないのだ。人魚の下半身は皆美しく、脱衣の開放感もあってか総じて楽観主義者の様に陽気になる。容姿に関してもポケモンが身近に居るため『まあそういうこともあるだろう』と当事者も世間も寛容だ。 かくして、ダンデが人魚に変化したニュースは瞬く間に広まったが、趣味の悪い雑誌にちゃんちゃらおかしく書かれる事はなかった。ヘェ、アノ人モアノ病気ニ、ソウナンデスネェという消費のされ方だった。ただ、これはダンデに仕事で関わっていない人々の反応であり、リーグ関係者にはセンセーショナルに伝わったらしい。バトルタワーという新しい事業を建てたばかりだもんなあ、と肩を竦めた。話題が収まる頃にはダンデの下半身はすっかり鱗に覆われて、巨大な水槽のある保護施設に移動していた。 タワーの昇格試験やら運営云々のゴタゴタが収めて数週間後。ダンデの見舞いに行くと、丁度保護施設のチャリティーイベントの開催日だったのか、強化されたアクリルガラスの中で見世物としてバトルが行われていた。他にも透明度の高い筒状の水槽に、水着と同じ素材の服を着た美しい人魚が居た。人魚と一緒に食事を、のコンセプトで作られた水陸両用のフレーバー付きペーストの試食もやっている。食べてみると可もなく不可もなくと言った味だが、人魚の舌には美味しいらしい。人魚の保護代も馬鹿にならないとはいえ商魂が逞しい。服や食品の販売も行っているが、それよりもポツリポツリと等間隔に並び募金箱を持った職員の方が多い。文字通り、プール賭博ではなくプール募金だ。薄ら笑いを浮かべて人魚と人間が手を取り合ったマスコットキャラクターが募金箱にプリントされている。 ダンデは水槽の中でそれはもう生き生きとバトルをしていた。相手も同じく人魚のトレーナーで、シャワーズが水中に溶けて身を隠し、場を翻弄していた。水中では空気で声帯を震わせることは出来ないため陸上での声は失われたが、水の中ではまた違った発声が出来るらしく、ポケモン達への指示も問題無く通っていた。 あ、ダンデってサシカマスやギャラドスも持っていたんだ、ダダリンのパワーウィップの独壇場だな、と思考が泡のように浮かんでは弾けて消えていった。水中で苛烈に戦う様子は幻想的過ぎて、いっそ夢みたいだった。 ダンデは別にオレの前じゃなくてもあんなに楽しそうに戦えるんだ、と今更思った。 ムシャクシャして、財布の中の現金を全て募金箱に入れた。オレも今日からキャッシュレス主義者だ。札のマットレスの敷かれた募金箱の中に、後から入れた小銭達がちゃりんちゃりんと控えめな音を出した。箱を持っていた職員がありがとうございますと何度も礼を述べている。ドォンと水槽の方から激しい飛沫が上がった。ダンデの対戦者のシャワーズが目を回して漂っている。ダンデは水の中で元気にリザードンポーズを決めていた。隣にリザードンは居ない。水飛沫の名残がパラパラと降って観客を濡らした。 ああ、何もかもうるさい。 * 『水の中はポケモンの技の余波がダイレクトに伝わってくるんだ。それと、水棲ポケモンが水中だと縦横無尽に動く。今までの陸上でのバトルが彼らにとっていかに制限されたものなのかわかった』 「そうかい」 イベント終了後、ダンデに呼ばれて居住スペースの水槽に来ていた。個室に分けられている様で、備え付けられたフィルターがせっせと仕事をする音だけが響いていた。水槽の端っこにはまた別の水流の速い循環濾過装置があり、トイレはその付近で済ませるという。 水槽の外側に付けられたモニターにダンデが中から打ち込んだ文字が表示されていく。こちらの言葉は音声で自動入力されて水槽側に向けられたモニターに映る。 『今日のバトルのポケモンはタワーのレンタルチームから連れてきてもらったんだ。よく鍛えられていただろう?』 モニターから視線を外してダンデを見ると、ニヤッと笑ってこちらを見ていた。ダンデが人魚になって陸を離れてから日も浅いというのに、好戦的な瞳を随分久しいものだと感じた。 『キバナ、ちょっと梯子を登って上まで来てくれないか』 職員が水槽の上に登るために設置された梯子を指差される。 「なんで」 『いいから。あっ、パーカーは置いていってくれ。靴も脱いだ方が良い。靴下も』 突然服を脱げなんてセクハラだが? ダンデの指示通りに服を脱いだオレも人のことは言えないが。梯子を登り、水面近くまで来たダンデを覗き込む。ぱく、ぱく、とダンデが何かを喋っている。 「あ? 聞こえねえよ」 水中からの声が聞こえる筈もないのに、反射的に耳を近付けて聞こうとし、ダンデの腕が不意に伸びてきて引き摺り込まれた。 「がぼっ」 水を思い切り飲んでしまう。耳の中にも鼻の中にも水が入ってツーンと痛んだ。何をするんだと掴みかかるが水着素材の服はよく滑って手から逃げ出した。 「キバナも人魚になればいい」 水の中でダンデの声が振動を通して伝わってくる。 「オレはキミと戦いたくて仕方がないんだ。さっきのバトル、キミだって体が疼いた筈だ」 わかる。わかるさ。オマエのあんな楽しそうな顔を見たら、ライバルのオレさまはイチコロだ。何で目の前にいるのがオレじゃないんだろうと思ったよ。 「な? 上を見てみろ。綺麗だぞ」 上を見上げれば水面が安い室内灯の光をキラキラと反射していて、嫌になる程きれいだった。久々に聞いたダンデの声は弾んでいた。本当に全くもって嫌になる。己の陸の生き物の体が重くて息も出来ず、苦しくてたまらない。 それでも、オレは人間の方が良いよ。 水の中のダンデはひどく自由だ。掴めたと思った指の隙間から逃げ出す泡だ。オレが雁字搦めに手を加えたオーナー服だって着ていない。チープな、量産された無地の服を着ている。何の拘りもない、機能性だけを求めた服だ。オマエはオレが誂えたあの服に何回腕を通した? オレと一緒に歩いて、靴を買いに行くんじゃなかったのか。どんなに通い慣れた道でも迷子になる立派な足はどうした。ここは自由だけれど、狭くてしょうがないだろう。なのに、何でそんなに楽しそうに笑っているんだ。 オマエは、この水槽に混じったオレの涙も知らないんだろうな。 * 「よ! ルリナ」 「あらいらっしゃい」 人魚の話を聞くためにバウタウンに足を運んだ。人魚化した傷病者の多くはバウタウンに住んでいる。暮らす水は真水でも良いのだが、新鮮な海水の方が居心地が良いそうだ。家庭用にも水棲ポケモン用を流用した海水の素が販売されている。灯台の近くで潮風に吹かれる。遠くの海に人魚が泳いでいた。 海に隣接しているバウタウンでは人魚の雇用が試験的に始まっている。人魚化した人間は陸での活動が限られるため、仕事は基本的に防水のタブレットを使用したデジタルなもの、又は幻想的な見た目を活かしたモデル業にほぼ限られてしまう。しかし、バウタウンでは追い込み漁等のアクティブなものが導入され始めていた。元々スポーツマンだった人達にとってはこっちの方が性に合っていると人気らしい。 ただ、これは治る病気なのだ。二週間の水泳の研修を受けていざ本番となった時に、鱗がぽろぽろと剥がれて治ってしまう人も僅かに居るとのこと。勿論、病気が治るのは良いことだが雇用主としてはやりきれない。尚、漁の最中に人間に戻って溺れることがない様に、就業中はかわらずの石を持つことが取り決められている。 「ダンデが人魚になったって聞いたわよ。様子はどう?」 「本人は至って普通。インテレオンやガマゲロゲは水槽の近くで楽しそうにしている。あとレンタルチームの水タイプのやつらも。他のリザードン達の世話はブリーダー任せだ」 「一番の相棒と相性が悪いのは可哀想ね」 「全くだ。リザードンは毎晩寂しそうに鳴いてるよ」 生ぬるい潮風が肌に張り付く。キシ、と柵に手をかけた。 「人魚から、人間に戻ったって人の話を聞きたくて、ルリナ知らない?」 「知ってるけど、参考にならないと思うわ。医療関係者じゃない素人のキバナが気付く特徴があるなら、とっくにみんな治ってるわよ」 「だよなあ」 柵を握ったまま、ずるずるとその場に蹲み込んだ。近くなった海面とその中のサシカマスと目が合う。濁りを伴った海水に揉みくちゃにされて絡まった海藻が、己の心中を表している様で笑えた。ダンデの言葉に、仕草に、自身の心は浮いたり沈んだりと忙しない。 「気長に待ってみなさいよ。すぐ死ぬ病気でもないし、本人が悲観的になっている訳でもない。ドラゴンタイプを育てる時の大らかさはどうしたの?」 「…………別に、ダンデとビスポークの予約入れちゃっただけ」 「それだけ?」 「それだけ」 嘘だ。ダンデとオレは丸一日の休みが無くとも、退勤後にフラッと集まってナイターをすることもあった。どこそこのバーに新しく入った酒が美味いから今から来れないか、ということもあった。今はそれらが一切無いのだ。寂しいという感情と、それを全く意に介さないダンデに腹立たしいという思いが虚しさを伴ってぐるぐると腹の底で渦巻いている。 沈黙。濁った空が重たい雲を風で押し流そうと躍起になっている。雲は厚く、太陽の所在さえも隠していた。 ルリナが静かに口を開いた。 「あのね、私も小さい頃に人魚だったことがあるのよ」 「えっ!?」 声に驚いてサシカマスが逃げていった。ルリナを見ると風に煽られた長い髪を煩わしそうに耳にかけているところだった。 「人魚になっている時って、見ているもの全部が美しくて、硬い地面に縛られていなくて、本当に楽しいの。私は特に水タイプが好きだから、彼らとの距離が近くなって本当に嬉しくて楽しかったわ」 ああ、ダンデも楽しそうだった。水タイプの使い手ではないダンデでさえそうなのだから、ルリナは相当楽しかっただろう。 「それでね……実は、人魚になる前にソニアと喧嘩していたのよ。今思うとつまらない理由なんだけどその時は悔しくって、絶対泣いてやるもんかって。それでずうっと会わないでいたら私が人魚になっちゃって」 「……それで?」 「ソニアがお見舞いに来てくれて、持ってきてくれたのがソニアのおばあさまのアップルパイで……いつも仲直りの時はそのアップルパイを一緒に食べていたのよ。私がお茶を淹れてね。でもほら、水の中でお茶なんて淹れられないじゃない?」 「そうだな」 「私は、あ、お茶を淹れなきゃって思ったの。ソニアとこのまま仲直りが出来ないのは嫌だって思ったら悲しくて、水槽の中でわんわん泣いたわ」 「…………」 「泣いているうちに息が苦しくなって、水を吸い込んでも余計に苦しくなって……気がついたら鱗も剥がれて人間に戻っていたの」 一際強く風が吹いた。厚い雲が僅かに薄くなり、姿こそ見えないものの太陽が透けて見えた。 「ね? 治った当事者でもこれだもの。参考にならないでしょう?」 「……確かに、一人の意見だと参考に出来る条件が少ない」 「ま、あなたならそう言うと思った。人魚の従事者のリストを特別に送ってあげるから、ダンデが人魚のままの方が幸福かどうかも含めてちゃんと考えなさいよ。治るといいわね」 治らないでほしいのか治ってほしいのかどっちだよ、とは声に出さなかった。治ると良いと言ったのは、水槽の中で一人という孤独を知っているからだろう。ダンデは一人で待ち続けることがある意味得意だ。放っておけば人魚のまま寿命を迎えて死ぬだろう。ならば、オレは食らいついてそこから引き摺り出すだけだ。 * 二ヶ月経った。病気が発見された頃から今にかけての人魚の論文に目を通し尽くした。ランダムにピックアップした人魚にアポを取って話を聞き、レポートを纏めた。検証としてはあまりに短過ぎる。ハッキリとした共通点も朧げなままだ。 それでも、ダンデの居る水槽に足を運んだ。 『久しぶりだな、キバナ』 水槽の中のダンデは変わらない。揺らぎを伴った髪はそのままで、室内灯の光が水面から透けてダンデを輝かせていた。ダンデの口の端が歪んで持ち上がっている。 『キバナは、人魚になる決心はついたか? エキシビションやトーナメントの招待を受けられないとキミと戦えないことに気がついた』 目が合った。水槽越しの目線は身長差が消えて真っ直ぐにお互いを捉え合った。 しかし、人間のオレと人魚のダンデではバトルを行うことは出来ない。 『キバナ、早く人魚になってくれ』 ダンデは水の揺籃に揺られながら微笑んで、オレが人魚になるのを待っている。 『キミとバトルがしたくて仕方がない』 妖艶に、絢爛に、滑稽に、莞爾として楽しそうに笑う。まるで、手の届かないショーケースの中の宝石みたいだ。チャンピオンだった頃よりもずっと遠く、ガラス越しの人間を笑って見ている。そしてダンデはその宝石の立場を甘んじて受け入れている。 冗談じゃない。温厚だと評価されるオレでもひくりと目を眇めた。歯がギシリと音を立てる。ふつふつと、瞋恚の念が坩堝の中で湧き上がる。ダンデを人間に戻すために頭の中で理論立てていたレポートはたった今白紙になった。迷子になったら待っていろ、というのはよくあるが、迷子にもなっていないのに足並みを止めて待つな。追いかけてくる者を待つ立場は、とうに終えただろう。オマエはこんな狭い場所で終わらない。オレが終わらせない。 『キバナ……?』 ガンガンと荒々しく音を立てながら梯子を登った。不審に思ったダンデが水面に近付いてくる。都合が良い、と胸倉を無理矢理掴み上げた。自慢の大きい手を目一杯使い、水着の素材を絡み取る。 「そんなにオレとバトルがしたいのならオマエの方から戦いに来い!」 ダンデがごぷりと水を吐き出しながら口を動かすが音は空気に乗らなかった。対話の形を成していない。けれど叫ばずにいられなかった。水を吸ったダンデの髪の毛が重く、オレも水槽の中に落ちそうになる。 「オレはオマエと戦いたい。でも水槽の中なんざごめんだ。オレさまの相棒も水に濡れると錆びる。オレさまのトレーニングの内容知ってるか? ダンデのリザードンと戦うための特訓だ。この十年間ずっとそうだ。なのにオマエはっ、オマエの相棒の世話も放棄してのうのうと待っている」 ダンデの息が苦しそうだ。オレも水槽に引き摺り込まれた時、何もかも苦しかったよと悪態をついた。 「オマエは知らないかもしれないが、オレはダンデとたまに行く食事が大好きだった。一緒にバトルをして、一緒に食事をして、一緒に歩くあの時が!」 ああくそ、目の中が熱くなってきやがる。オレはすっかり涙脆くなってしまった。こんなに泣いているのはダンデのことだけだ。オレは負けた時だって泣かないのに。ぽろぽろと落ちた雫がダンデの頬に乗って流れ落ちていく。 「オレばっかり、泣いて、フェアじゃねえ。オマエも泣けよ! リザードンだってオマエと離れて泣いてるんだぞ!」 しゃくりが混ざって言葉が途切れる。チャンピオンの頃はイメージ戦略もあり、泣く事なんて演技でしかなく、近頃ダンデが感動して涙を流したのはホップと新チャンプの試合ぐらいだ。何かに心を痛めて泣いている場面は見たことがなかった。子供の頃に目を腫らしていたのは見たことがある。十の頃から親元を離れたから、そのままチャンピオンになって身体も心も追いつかないまま大人の舞台に引き上げられたから、一人で泣いて、枯らしたのかもしれない。嫌だ。やっぱりフェアじゃねえ。 「オレが、オマエが泣ける場所になる。オレは守護の番人だ。泣くのを見せたくないのなら、誰にも見えない様に囲ってやれる。だから」 ぐ、と下唇を噛み締めた。オレは嘸かし酷い表情をしているだろう。わなわなと口を開く。 「……オマエの声が聞きたいよ。一緒に歩きたいよ、ダンデ」 手を離し、みっともなく涙に濡れた頬を拳で乱暴に拭った。遅れて水槽に落ちたダンデがざぶんと飛沫を上げる。涙も塩水だというのに、拭った手に付いていた水槽の中の海水が目に染みて更に泣いた。 「ひっぐ、うぐ、ん、えっ」 泣き続けていると、ごぼ、げぼ、と激しく咽せる音が下から聞こえた。生憎、目が痛くて開けられない。ひた、と冷たい手が頬に当てられた。ヒュウヒュウと息を整える音が続く。 「っげほ、ヒュッ、泣かない、で、くれ、キバナ」 嗄れた、懐かしい声が聞こえた。目をこじ開けるとダンデが腕を伸ばしてオレの頬に手を添えている。 「キバナ、こっちを、見ろ」 ダンデの瞳に水の膜が張って、その膜が滲んで浮かび上がって、そうして生まれた雫が眦から流れていた。 「目が、合ったな。オレと、バトルするぞ」 きらきら、きらきらと、一枚ずつ脚の鱗が剥がれて、水中に漂っていくのがダンデの体越しに見えた。鱗の下から現れた褐色の脚が、ダンデの胴体と繋がっている。脚はヘタクソな立ち泳ぎをしていた。 ダンデが、人間に戻った。 * 「人魚から戻る鍵は涙か」 「そう単純なものじゃないみたいだぜ」 魚ポケモンには涙が必要無い。どうしても泣きたくない、泣けない人が、涙の無い存在になりたくて発症するのが変異型後天性真人魚症候群だと学会が発表した。しかし、この病は精神的な面が強く、メッソンの涙から作った催涙剤が人魚の臨床試験に使われたが、無理矢理泣かせようとしても効果は無かったと報告が上がった。ただ、泣く理由のきっかけとしては有用で少しずつ改良されていっている。 人魚から人間に戻った直後ダンデは歩けなかった。水中で暮らしていたため、体が重いと暫く杖をついていた。そしてリハビリを終えて、杖も外れて、約束の日が来た。ビスポークはキャンセルせずに済んだ。 革靴の木型を作るための採寸の様子をぼんやりと眺める。一度人魚になったせいで足のサイズが微妙に変わり、オーナー服に合わせたロングブーツも合わなくなっていたためそれのサイズ直しも行われることになった。測定が終わり、スタッフが一度個室の外に出た。ゆっくりと、口を開く。 「……ダンデはどうして人魚から戻ったんだよ」 ダンデが一、二度瞬きをした。 「オレもキバナとこうして一緒に出かけてバトルをして食事をして、一緒に歩くのが好きだと伝えたかったが、人魚のままだと声で伝えられないことに気付いた」 「声じゃなくてもモニターで伝えられただろうに」 「オレの声が聞きたい、オレと一緒に歩きたいと泣いていただろう」 「は!?」 確かにその通りだが、改めて自身の行動を客観視するとあまりにも子供らしくて恥ずかしくなってしまう。顔に熱が集中していくのがわかる。今まで一緒に遊んでいた友達が引っ越しで遠くに行ってしまい、もう遊べないもっと遊びたいとタダをこねる子供そのものだ。 「フ、そんなに赤くなるな。久々のリザードンとのバトルは楽しかったから良いじゃないか」 「オレが負けたけどな!」 からからとダンデは笑った。ちくしょう。室内灯の無機質な光を、展示された革靴が柔和に受け入れている。ダンデが注文した靴はオレと同じ型だ。オレと会う時に履く靴だから、オレと同じものが良いと。お揃いで歩くのが待ち遠しい。 「キバナ、どうかこれからもずっとオレと一緒に歩いてほしい」 「当たり前だ。オレの方からも頼むぜ」 「本当に、そうか?」 不意に手を握られ、顔を向けられる。軽口を返していた口はダンデに食べられた。あ、目を閉じていない、と思考が飛んだ。数秒、見つめ合った後にダンデの顔が離れる。 「オレは人魚になって立ち止まった時の様に、これからもきっとどこかで歩みを止める。普段から、迷子になった時は足を止めている。躓くことだってある。けれど、キミが隣にいるとまた歩き出せるんだ。キバナはオレの道標で、導き手だ。そんなキミと一緒に歩けたら、オレは迷わないし迷ったとしてもキミが隣にいたならそれで良い」 「……え?」 「一緒に歩いてほしいっていうのは、こういう意味だぜ。キバナ」 ファイアオパールが真っ直ぐにオレを射抜く。オレの青色が混ざり、カフェでの光景を思い出した。あの時よりも距離が近い。フレアがオレの身をちりちりと焦がし始める。ドッ、と勢いよく血流が回り始めた。あつい。顔も、握った手も、一度触れただけの唇も。なんで。あ、オレの大好きって、こういう大好きなのか。ポケモン達に向けている愛おしいとはまた別の、燃える様な感情を自覚した。 「だから、オレが膝をつくのを許してくれないか」 「こ、告白みたいだな。熱烈な、やつ」 「オレを人間に戻した時の言葉も十分告白に聞こえたぜ。オレの告白はそれに対する返事だ。キバナの希望通り一緒に歩くために、まずはオレに膝をつかせてほしい」 膝をつくっていうのは、アレか。プロポーズで指輪を渡す時に跪くやつ。前に、オレの父の革靴の片っぽに折れ目が入っていて、何故かを聞いて両親が照れていたのは、そういう。 オ、オレたち恋人同士だったっけ。待て、今までの食事も見様によってはデートと言えなくもない。だが、いきなりプロポーズというのは、その、心臓がもたない。顔から湯気が出そうだ。ぱくぱくと口を閉じたり開いたりしてから、音を発した。 「ダンデに、膝をつかせるのは、バトルで負かした時だけだ。それまで絶対、靴に折り目をつけるなよ」 「! ……ああ!」 楽しみだ! とダンデは笑う。急いでパッと手を離した。タイミングが良いのか悪いのかガチャリと扉が開けられ、スタッフが手入れの済んだオレの靴を持ってきた。ダンデが跪いてそれを履かせようとしてきたのを全力で拒否した。膝をつくなと言ったばかりだろう、恥ずかしいと言っているのがわからないのか。スタッフは微笑ましくオレたちを見ている。 カーテンから覗く麗かな光が階段を作っていた。オレたちも、これからその光の中で二人で歩いて行けたら良い。 ブラフ 2418240 ダンデイメソン https://www.youtube.com/playlist?list=PLNGkutvu79qeuxcr-tKH6p5OZUWwlwBO2 とうとう出た! 全ページ人魚パロディ! 最高〜〜!! ヤッタ〜! まず、主催を申し出てくれた茶さんに感謝を。そして執筆を名乗り出てくださったアンソロジー参加者様、手に取って読んでくださった皆様に感謝を。本当にありがとうございます! 目眩く人魚の世界をお楽しみください! 幸(@niziyouaka110) pixivID : 12894936 M203GL タクティカルL 丹波(大英博物館 アホエロdnkb。死ネタ。死後、キの守護霊となっていたダがキの愛用している一人遊び用のディノレドに憑依してしまう。キが毎晩「何で死んじゃったんだよ……こんなんじゃ足りねえ……!」と言って泣いているのを見続けてとうとう憑依してしまったのだ。 「んあっ、お゛っ!? 勝手に動い、ィイ!?」 「(キbn……! オレだ! 気付いてくれ!」 「このピストンは夕"nd!?」 幸いにもバイブ機能付きだったためモールス信号が打てた。しかし、何故かキの体内にある時しかダは動けなかったため挿入したままヴィ、ヴィヴィ、とキのイイトコロを責めながら会話する。 「んっ゛、あっ、ほんとに、んぅ、夕"nd、なのか」 力強く、そうだ!と言うようにバイブが一際大きく震える。 その後、夕"ndの死の真相や、キの体内でしか動けないのはキの生命力を使ってダが顕現しているからなので「ヴィヴィヴィヴィ!(キミを死なせたくない!」「ア゛ッ、んぃ、夕"ndと一緒に逝けるなら本望だ……! ン゛アッ!?」「ヴィ……ヴィ……(キミは……本当に……」みたいな一悶着がある。 書けん。 プリチャン マイキャラ苦手な食べ物 ユキ……しいたけ ちさ……ブロッコリー ユキヲ……なす ちさき……ゴーヤ ゼノちゃんは何でも食べるけれどゼロカロリー食品(エネルギーにならない物)が嫌い。 好物、ちさはナタデココとか寒天とかの歯切れの良いゼリー系でユキはタピオカ、ユキヲはワッフルでちさきはドーナツ特にフレンチクルーラーかな………… ゼノちゃんの好物はチュロス。特にミスドのやつ。 マイキャラ、ゼノ(プリチャンアイドル名)、込野黒祢(こみの くろね)、大食らい、鍵っ子、ローズアイパッチ手に入れたい マイキャラ本名 ユキ→幸(ゆき) ちさ→幸(さち) ユキヲ→幸織(ゆきを) ちさき→幸綺(さちき) 一家の名字は暁星(あけぼし) オズワルドくんです!!!!よろしくな!!!(本名:?? 煌綺(?? こうき)) アズ、梓 グループ名、「textum clavis (テスクトゥム クラーヴィス)」 ちさき、ゼノ、オズワルドの3人グループ こあくまボイスのキャラ作りたいんですよね…………こあくまボイスの場合のセリフパターンが聞きたいと言いますか……………………(今まで作ったマイキャラはみんなこあくま以外)(ユキ→げんき、ちさ→かっこいい、ユキヲ→ピュア、ちさき→おっとり、ゼノ→つよき) アズ7月7日生まれ あ、あのね、プリチャンでもう1人作りたくなってるけど理性がやめろって言ってる。名前はあずきできりっとの目のタイプでおでこ出しマッシュショートピンク髪の青目が作りたい誕生日は7月で好きな食べ物はエクレア ちさユキ1月10日 ユキヲちさき3月6日 ゼノ2月29日 オズワルドイースター アズ7月7日 ゼフィル5月5 ユキ……本名:暁星幸(あけぼし ゆき) ちさと双子の男の子。 かわいいものが好き。スイートハニーのコーデが特に好き。かわいいライブがしたい。ソロデビュー。 活動してから妹たちもデビューしてることを知った(※ユキとちさはお互い知らなかった)知ってからは妹たちと一緒にライブすることも増えた。 最近キューティーハピネスが気になる。 好きな食べ物はタピオカ。 苦手な食べ物はしいたけ。 ちさ……本名:暁星幸(あけぼし さち) ユキと双子の女の子。 かっこいいものが好き。ロマンスビートのコーデが特に好き。かっこいいライブがしたい。ソロデビュー。 上記の通り、ちさもユキも妹たちがデビューしていることを知らなかった。知ってからは一緒にライブすることが増えた。 最近ダンスアンドストリートが気になる。 好きな食べ物はナタデココ。 苦手な食べ物はブロッコリー。 ユキヲ……暁星幸織(あけぼし ゆきを) ちさきと双子。 上の二人に負けていられない!と妹とデビュー。ユキヲは上の二人が活動しているのを知っていた。 最近はクロエくんとRomantic Soldier(ロマンティック ソルジャー)というグループ名で二人活動。 好きな食べ物はワッフル。 苦手な食べ物はなす。 ちさき……暁星幸綺(あけぼし さちき) ユキヲと双子。 ユキヲに連れられデビューしたものの姉が別の人とグループを組んでしまったのでしょんぼり。ちさきも上の双子がデビューしているのは知っており、ずるいなあと思っていたのでユキヲの提案に乗っかった部分がある。 最近"ゼノ"と名乗る女の子と一緒に活動している。 好きな食べ物はフレンチクルーラー。 苦手な食べ物はゴーヤ。 ゼノ……本名:込野黒祢(こみの くろね) ユキヲちさきのクラスに来た謎の転校生。私服の時は鍵がモチーフの髪飾りを付けている。何でも知っているけれどたまに天然でズレた行動をする。 クラスではちさきの隣の席。ちさきのことを何故か気に入っておりよく一緒に活動する。実は転校生として学校で紹介される前に一度、ちさきと一緒に二人ライブをした。 好きな食べ物はチュロス。 ドーナツバイキング出禁になるほど大食らい。 嫌いな食べ物はゼロカロリー食品。 ゼフィル……本名:境??(さかい ??) ゼノの異母弟。そこまでプリチャンに熱を入れている訳ではないが、面白そうな事してんじゃん混ぜて!という感じでデビュー。 オズワルド……本名:??煌綺(?? こうき) ちさきとゼノのことを「ママ」や「母さん」等と呼ぶ謎の少年。本人は未来から来たと言っている。ゼノは何かわかったような表情をしている。ちさきは「オズワルドはゼノのいとこか甥っ子で、そういう設定で遊んでいる子」だと思っている。 実は未来のゼノが不思議パワー(魔術)で頑張った正真正銘ちさきとゼノの実子。 過去のプリチャンの服やシステムが好きで、夏休みを利用して未来から遊びに来た。10歳。 好きな食べ物はオールドファッション。 ゼノ譲りの大食らい。嫌いな食べ物はゼロカロリー食品。 アズ……本名:星守梓(ほしもり あず) 謎のJK。オズワルドに対して親しく振る舞う。 モデルキと人魚ダ 照りつける太陽と白い砂浜。如何にも、これこそが美しい海の代名詞とも言われるテーマの企画にキバナことオレさまは呼ばれていた。けれどそのありきたりな煽り文句はトップモデルのキバナを損なうことのないようにと企画者が頭を捻りに捻って捻り過ぎた結果、至極わかりやすく単純なものになったという経緯を知っている。マネージャーから撮影の流れを聞きながら、オレは目の前の透き通る海に心を躍らせていた。 オレは自身で言うのも難だが幼い頃から整った顔立ちに滑らかな四肢を持ったそれはそれは美しい玉だった。特に、煌々と瞬く青緑色の瞳は浅瀬の海のようだとよく言われた。幼いキバナが自身を褒める時に使われる『海』というものがどういったものなのか興味を持ったのは当然である。両親はすぐに海の生き物の図鑑や海の映像を観せてくれて、オレさまはたちまち海に夢中になった。海に行きたい、と話すと危険だからとまずはスイミングスクールに通わされ、基本的な泳ぎを一通り覚えた九歳の頃に海に連れて行ってもらった。足の裏を焼いてくる砂は熱く、跳ねるようにして海に入った。ゴーグルをかけて海の中を覗けば沖の方にサンゴ礁と太陽の光を鱗に纏った魚が見えた。ぷは、と顔を上げて唇を舐めてみれば本で読んだ通りの塩味がして笑った。追いついた母に支えてもらい、波を堪能する。浜辺ではパラソルを立てた父が手を振っていた。美しい思い出だ。 人魚のヒレをつけて撮影していたところ、波に飲まれる。 あいつも下半身が人魚だ。紫の髪は美しく、黄金の瞳は煌々と輝いていた。もう一人モデルを連れてきていたのか?それにしては 波に飲まれる 目が覚めると洞窟の中、入口は海で塞がっている。高い場所から光が差し込んでおり、密閉空間ではないようだ。 逃げるために貝を割って作った鋭利な破片でダを刺す。 またはキが怪我をしてしまったところをダが舐め、みるみるうちに治っていく キ、逃げるためにダの首を絞めるが、呼吸の穴が首の後ろ側にあり効かない。 キミが人魚ではないことぐらいわかっていたさ。 実は徐々に言葉が通じるようになっていたダだが、本当はキがダに近い存在になっていってわかるようになっていた。 今の声で助けを呼んでも、ヒトからはキュウキュウとイルカが鳴くような音にしか聞こえないだろうな、とダが笑う。 悩み事の相談に乗りたかった弟と、メンタルが弱ってた兄の話。 夏の暑さにやられている二人です。n番煎じネタでは……?と思いつつも投稿。刀を書くのは初めてなので、本.丸や諸々の設定がおかしくても目を瞑ってください……! 蜂長 踊った阿呆と見た阿呆 踊った阿呆と見た阿呆 | 幸 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13573319 冗談のつもりだったのだ。まさか蜂須賀がここまで己を慕っているとは思わなかったのだ。 目の前には兄の仇と怒りと共に抜刀した蜂須賀が立っていた。 * 政府に呼ばれて未来へと一度帰った主が、からぁこんたくとなる目の中に入れる色付きガラスを持ってきたのだ。曰く「みんなの目の色が綺麗だから私もお洒落したくなった」とのこと。近侍のおれもつけてみろと言われ、弟達と同じ翠が目に止まった。そして物理的に目に入った。反射的に少し涙が出た。ヒトの肉体はこんな僅かなことでも涙が出て煩わしい。 「視界はどう?」 「問題無い」 黒目から蒼目になった主が手拭いを出してきたので素直に受け取って拭った。主の持つ手鏡で己の顔を見ると、似合わない翠色がくりくりと動いていた。目は翠に染まったのに視界はいつもの通りなので不思議だと唸った。 「みどりの目の長曽祢さん新鮮だなあ。これワンディで一日着けていられるやつだから、夜まで着けられるよ。寝る前には外してね」 「あいわかった」 「折角だからみんなに見せてきなよ。近侍は加州に頼むから」 加州。なるほどあいつは爪の先に紅を塗っていたりと洒落ているから、この色付きガラスも嘸かし気に入るだろう。おれよりも主と話が弾む筈だ。 主の部屋から離れるが、己は何かと見せびらかす性格では無いため、決まった誰かに見せに行こうという気は起きなかった。主の言う「みんな」と言えど数は多く、更にこの本丸には新たに六十を超える刀が支給された。一度の顔合わせのみで会話をする事もなく、それらの育成のために遠征に発った奴らも多い。かと言って、内番をしている者達に見せに行くのも仕事の邪魔だ。しかし、主命を蔑ろにするのも頂けない。 ふむ、と顎に手を当てて考え、とりあえず本丸をぐるりと一周してみようと思った。散歩のようなものだ。部屋を訪ねる事はせず、廊下ですれ違った者に見せれば良い。その後は己の部屋に戻って休むとしよう。 歩いていると庭の先の向日葵が視界に入った。夏を焼き付ける太陽を主と決め、一斉にそちらを向いて力強く咲く花だ。一面に咲いている向日葵を見て、蜂須賀が「有象無象に存在する贋作と同じぐらい生えているねえ。ほら、目の色なんかお前とそっくりだよ」と笑っていたのを思い出した。そんな事を言ったら矢鱈と真っ金金な蜂須賀もあの綺麗な花とお揃いだぞ、と言えば黙ってしまったのを覚えている。贋作とそっくりだと喩えた花を、色が真作の蜂須賀とお揃いだと言われたら嫌な気持ちになるだろう。悪い事をした。 どうにも、ままならぬ。おれがここに来たばかりの頃に比べれば、蜂須賀のあの口はましになったとも言える。ましになったと言えるが、突っ掛かられる数は増えた。かなり最初の頃だが、おれが負傷して手入部屋に入れられた時は、何故贋作なんぞをきちんと刀として扱うのかと主に尋ねていたのを見た事もある。主は真作と贋作の違いはどうでも良いらしく、力こそぱわーだと言っていた。要するに主は実力主義という事だ。おれの「言葉より行動」という言葉も主は気に入っている。 おれは行動で力を示していかなければそれこそ有象無象の只の贋作に成り果てる。元の主が虎徹だと信じて疑わない程の剛刀。その力が無ければ、おれは何者にもなれない。蜂須賀と浦島の兄だと名乗っているが、正しく虎徹だと評価された強さだけがその肩書の足場だった。 じいじいと鳴く蝉の音が遠く聞こえる。向日葵を見て呆けてしまった。夏の陽炎の揺らめきが、己の根本を巻き込んでぐらぐらと揺らして気分が悪かった。照りつける明るさとは反対に、己の心は暗澹としていた。袖口で額に浮いていた汗を力任せに拭った。 「……馬鹿馬鹿しい」 「何が馬鹿馬鹿しいんだい?」 今だけは最も会いたくない者の声がした。蜂須賀だ。後ろから声をかけられたため、咄嗟に歪んでしまった表情を見せずに済んだと胸を撫で下ろした。 「贋作、今日は主の近侍の当番だろう。こんな所で風に当たる暇は無い筈だ」 贋作。そうとも、言われなくてもわかっている。兄と名乗っても足場こそ偽りだと冷や水をかけられた心地だ。もう、ぐるりと散歩をする気にはなれなかった。早く部屋に戻ってしまおう。 「それで、何が馬鹿馬鹿しいと思ったんだ?」 足早に去ろうと思えば肩を掴まれた。やはり蜂須賀がおれに突っ掛かる頻度が増えている。肩を掴む手が動くままに振り向いて蜂須賀を見た。蜂須賀が何故かおれの顔を見た途端に驚愕の色で顔を染めた。 「贋作、その目は……」 そうか。真作である蜂須賀と浦島と同じ翠の目をしているから驚いているのだと気付いた。 こんなに驚いている蜂須賀を見るのは初めてだ。少し、常に自信たっぷりで飄々としている蜂須賀の意表を突いてみたくなった。そうすればおれの気持ちも晴れるだろうかと思った。芝居を打つのは得意ではないが、相手が混乱している場合はやり易いだろう。 「おれは真作の長曽祢虎徹だ。蜂須賀と浦島と同じ、翠の目の長曽祢だ」 ニィ、と蜂須賀がやるような笑みを真似て微笑んだ。己は豪快に笑う方が慣れており微笑むという表情はあまりしないため、筋肉が強張るのがわかった。まあ、嘘だど一蹴されて終わるだろう。 「う、うそだ」 ほら。 「貴様、私の兄である長曽祢虎徹をどこへ隠した」 ……今何と言った? 「? 蜂須賀、お前はおれの」 「黙れ! 貴様は偽物だ。本物の長曽祢虎徹はどこだ!」 肩を掴んでいた手がいつの間にか胸倉を掴む形へと変わっている。きつく睨み付けてくる翠の目は鋭い。もしやおれは芝居をまだ続けなければならないのか。自尊心が高い蜂須賀は贋作に騙されたと知れば傷付きそうだが、おれから芝居を明かしたらそれこそ恥だろう。必死に思考を巡らせて言葉を紡ぐ。 「偽物だ本物だと喧しい。おれが真作、本物だと言っている。あの黄色の目ん玉の奴は食っちまったさ。贋作の長曽祢虎徹と真作の長曽祢虎徹が並べば、真作の方が上だとお前もわかっているだろう」 早く気付け。近藤勇の持っていたおれは贋作の長曽祢虎徹で、それは史実そう残されていて、真作と名乗る長曽祢虎徹が近藤勇が考えた新撰組のだんだら模様が入った服を着ていたらおかしいだろう。袖口をわざと蜂須賀の前にちらつかせるが、胸倉を掴んでいない方の腕で払われた。 「黙れ、黙れ、黙れ! 偽物が兄と同じ声で喋るな。食ったと言うのならば叩っ斬ってそのはらわたから引き摺り出してくれる。手入部屋に入れればまだ間に合う筈だ」 頑丈さが取り柄のおれだが間に合わないと思う。というか、その、蜂須賀はおれのことを兄だと、思ってくれているのか。こんなにも語気が荒い蜂須賀も初めてだ。嬉しいが、後に引けぬ嘘を吐いている最中では素直に喜べない。いや、しかし、嬉しいぞ。 「ニタニタと笑いおって、何がおかしい」 「いや……贋作のおれは随分と好かれているようだ、と」 「当たり前だ」 当たり前なのか。 「兄は贋作だが、その事実を受け入れてそれでも誇りを持ち、逸話に違わぬ力強さでこの本丸の隊を率いていた。悔しいが俺よりも誉を取ることも多い」 胸倉を掴んでいた手が荒々しく離され、突き飛ばされた。勢いのままに二、三歩程引く。元々はだけているようなものだが、着物の胸元を整えた。ゆるりと蜂須賀の方へ視線を向ければ、刀に手を掛けて鯉口を切っている。蜂須賀はまだ嘘に気が付いていない。 「物騒だな。蜂須賀は真作の虎徹は嬉しくはないのか?」 「その首を切り、腹を裂いて兄を出す」 蜂須賀は御託を並べる事が多く話が上手いが今だけは話が通じない。背中に伝う冷や汗に錆が混じり出すのではと思う程に居心地が悪い。しかし、逆にこれは好機とも言えるのでは。内番にて蜂須賀と手合せした数は知れず。刀を交えれば言葉よりも相手の事がわかる筈だ。そうすれば、蜂須賀もおれが本物の贋作の長曽祢虎徹だと気付くだろう。……本物の贋作とはややこしいな。兎にも角にも、己も刀に手を掛けて鯉口を切った。瞬間、蜂須賀が抜刀し構えを取る。 「仇は取る」 仇までいってしまうとおれは刀剣破壊されているが。まあこれでやっと蜂須賀も芝居にも気付くだろう、と柄を握った。風が凪ぎ、湿気の篭る中で手の汗が滲んだ。 暫し睨み合っていると、ぺたぺたと気の抜けた足音が廊下を伝って響いてきた。 「あっ、長曽祢さん居た! 蜂須賀さんは何で刀抜いてるの? 喧嘩?」 ぴんと張り詰めていた空気を打ち破ったのは主の声だ。蜂須賀がすかさず主を背中に隠した。 「主、危険です。下がってください。この者は偽物の贋作です」 「えっ? 長曽祢さんが偽物で贋作なのは元からじゃん?」 「違うのです」 進まない問答に痺れを切らし、何やらおれに用事のありそうな主に声を掛ける。 「主、おれを探していたのか」 「黙れ偽物」 「あ、うん。コンタクトの外し方を教え忘れてたと思って」 蜂須賀の横をするりと抜けて主がおれに近付いた。蜂須賀が蒼い目の主を見てぽかんと口を開けている。主が目の表面に指を添えて、ぬろ、と一枚の皮を剥がすように蒼い目を取った。蜂須賀が開いていた口をはくはくと閉じて忙しない。 「こう、簡単に取れるから。出来れば洗面所でやってね」 あと建物の中であんまり暴れないでね、と言い残して、片目が黒に戻った主は廊下を戻っていった。蜂須賀が、普段は柔らかく細く笑んでいる目を見開いておれを見ている。鯉口を元に戻し、柄から手を離した。 「その……すまない。ちょっとした意趣返しのつもりだった。あ、いや、意趣返しというのは言葉の綾だ。蜂須賀の事を嫌ってはいない。真作が贋作を蔑むのは普通の事だからな。それに、お前の審美眼ですぐに見抜かれるだろうと」 「ほ、」 「……ほ?」 「本物の、贋作か」 蜂須賀の声が震えていた。おれはもう、何故だか辛抱たまらなくなった。弟に悲しい顔をさせたくて一芝居したのではない。咄嗟に右目の方に指を入れて翠の薄膜を取った。弟達とお揃いよりも、おれには黄色が似合っているようだ。 「そうだ。おれは源清麿が打った贋作の長曽祢虎徹だ。お前の兄を名乗っている不届き者だ」 蜂須賀が刀を収めた後、膝をついて項垂れた。やはり目利きに自信を持っている蜂須賀はおれの芝居を見抜けなかった事に深く傷付いたようだ。閾値を見誤った。 「蜂須賀、本当にすまない。贋作が真作を騙すなど……お前は怒って良い」 蜂須賀の肩に手をかけて起こそうとして、細く、蚊の鳴くような声で、「よかった……」と聞こえた。それはすぐに蝉時雨に飲み込まれてしまった。向日葵の方を向けば、夕立の雲が伸び上がっている所だった。蜂須賀の手がおれに向けられ、そのまま巻きついてきた。蜂須賀に抱きしめられている、と頭は冷静に判断した。 「贋作、俺は怒っている」 「当然だ」 「贋作なんぞ折れてしまえ。いや、もう俺が折る。贋作を折り尽くす」 「それは困る」 「嘘を吐く贋作を閻魔に代わって成敗する。舌を抜くだけなどの甘い事はせず、折ってやる」 蜂須賀が巻きつかせている腕に力を込め始めたので、言葉の通りおれを胴で半分に折るのかと思えば途中でぴたりと止まった。密着した体が暑さに埋もれ、流れた己の汗が蜂須賀の服に吸い込まれて消えた。 「蜂須賀は、おれに本当に折れてほしいか」 腕に一層力が込められたが、苦しくはなかった。否の意味を示すように蜂須賀の首が横に振れて、長い紫苑色がさらりと揺れた。 「蜂須賀。おれはどんなに言葉を尽くされても、行動の方を信じてしまうぞ」 寸刻の沈黙の後に、それで良いと言うように肯きが返された。 御本届きました!報告が遅くなり申し訳ありません。boostは「昔の本を出してくれてありがとう代」で突っ込んだのでまさか唯一無二のアナログ絵が送られてくるとは思わず、かっこいい皆守くんを見て悲鳴を上げました。本当に表情もこちらに向けられた眼差しも何もかも最高です。ありがとうございます……!! そして御本拝読致しました!わちゃわちゃと戯れるキャラクター達とそこに存在している皆主の関係がとても良かったです! 愛と誠のお話内のプリクラゲットのために愛を囁き、そして皆守くんに既成事実を迫ってそれを聞きつけたバディ達が駆けつけるコマが大好きです! Day and Night Feverではカレーパンを食べながら物思いにふける皆守くんの表情と、そこからの抱き枕騒動、そして≪夢≫を見る間も与えない≪宝探し屋≫という余韻が大好きです! 君の瞳はダイヤモンドダスト、あの双丘をつかめ!!、戦術指南のどれもがほのぼのギャグでニッコリしながら拝読しました! この度は皆主本頒布に加えて書き下ろしのイラストを付けてくださり、重ねてお礼申し上げます。御本を書いてくださったお二人の益々のご多幸を心よりお祈りしております……!! シャチ https://privatter.net/p/6328199 別つ袂のないことを 続編途中 タイトル仮 雑 医者に、「休息とはやりたいことだけをやり、やりたくないことをやらないことである」と説教をされていた。 料理や家事をやり出した時に、ダンデにもたまに言われた。 料理はいい気分転換になったが片づけは怠い事もある、と伝えたらダンデがその場で食洗機を注文しかけた。 無暗やたらにうちに物を増やすなと制止したら、片づけは自分がやると言い出した。 言い出したら聞かないのでまかせた。 ダンデすまねぇな貯金が捗ってしまった。 そして俺がわがままを言うと僅かに嬉しそうな顔をすることに気付いた。 前々からよくわからないロジックの中に生きてると思っていたが、俺さまは困惑を深めつつもそれが好ましかった。 復帰してからもその指針をある程度守って仕事をしていたら、なんというか、意外にも、いろんな事が許されていた事を知った。 休職に入る前死ぬつもりで作っておいた引継ぎの多さに、普段からもっと仕事を割り振れと職員に説教をされ、 有休を使いたいとバックヤードのスタッフに打診すれば、いままで使わなかった事を叱責された。 何ならまとめてバカンスでも行ってきなさいと言われて、ポカンとする。 長期の休みを取るという発想がなかった。 「バカンス…」 なにをする予定もなかったが、手持ちを連れてのんびりオフを過ごしたいなと思った。南国とかで。 トップジムリーダーの公務に復帰して三ヶ月、ナックルシティ議会主催のパーティに参加した。 この保守的な街において、慣例は身分や形式的な立場に優先する。 気ぜわしげな視線を注がれるだろうと、元気アピールの為にめかしこんで来たら、ホストもゲストも非常に温かかった。いわゆる名士も実業家も参加している。 しかし多くが、初対面のその令嬢や親戚筋の子女を随伴して、である。なんかちょっと毎年と様相が違った。 いろいろなご令嬢の手を取って踊りながら、 「ずっと心配していた」「お目にかかれてうれしい」という台詞を、ずっと笑顔で流し続ける。 いつからここはデビュタントバルになったのか。 初対面なら挨拶せねばならないし、丁寧にエスコートせねばならない。左回りに、フロアを回りながらワルツは延々と続く。平衡感覚を失いそうだ。 ナックルは身分階級のなくなった今もアッパークラスでは社交を重んじる。 そして抜け駆けや不公平は許されない。 どこかの誰かが何かを言い出して、足並みそろえてこうなったことは想像に難くない。 合間合間に快気祝いに是非どこかで食事でもと誘われる。 ここまでくると、ナックルシトワイヤンの同族意識には感服するほかない。 正面切って来ればまだ躱しようもあるが、相手が患った精神疾患も何のその、手中の宝玉を差し出して俺さまを慰撫してくれようとしているらしい。 ダンデが俺の後見もどきに立った際もざわついたとは聞いていたが、ここまで露骨ならいっそ叙勲の後とかの方がましである。 ダンデの面倒以外にも、ワイルドエリアでの救難や整備、史跡保全環境保全とかいろいろ頑張っている。 世話になっている人ばかりなのだが、挨拶すら億劫になってきた。複雑である。 「こうして俺さまは売られていくのか…」 「慕われてると仰ってください、ポジティブに。」 ダンスの輪から壁に逃げて呟いたらレナに窘められた。渡されたグラスはシャンパンでなくタイザーだった、わざわざノンアルコールを用意をしてくれていたらしい。医師から復帰の許可は出たものの、飲んでいた薬は減らしていくのに時間が掛かる。復帰してからは可能な限り酒は避けていた。レナは律儀に俺に合わせてアルコールを控えているようだった。 「要塞に間借りしてるだけなのにな」 「何を仰います、名誉職でしょう。ご不在の間、いろんな方が見えて大変でしたよ」 「あぁ、あしらい方が堂に入ってきてるってダンデが褒めてた」 「もう、他人事ですか」 「うん、お前ら三人には世話をかけた。ありがとな。折角だし飲みなよ」 俺は笑顔を浮かべて、ため息を吐くレナに、傍のウェイターから受け取ったシャンパンを差し出す。 先日、これに顔を出すために午後休貰うなと言ったら、何故かトレーナー三人の合議がはじまった。 レナとヒトミの熾烈なフルバトルの結果、負けたレナが俺に同伴することになった。 俺一人でもいいと再三伝えたのが、 「負け犬に拒否権はありません。門番の番犬としてダンスレッスンに通います」と謎に漢を見せられた。 何を大げさなと思っていたが、結果的にレナが居てくれて助かっている。 一曲目を踊ったことで多少のバリアが効いている、気がする。 美味いかと聞いたら、レナはフフと笑った。料理と酒は気に入ったらしい。 「ジムへ日参されたスポンサーや市議のお名前、毎日お花を届けてくださったご令嬢、いただいたお見舞いの品、全部まとめてあります。ご参考にされますか」 レナがロトムを差し向けてきたので見たが、スクロールバーの長さに嫌気がさした。苦笑して下げさせる。 「ポイント交換制じゃん」 「…それだとぶっちぎりで委員長ですよ」 俺は一瞬考えてから、黙ってタイザーを飲み干す。 「嫌だ」 「お嫌ですか」 「うん。本気で嫌だわ。向こうも欲しくはないだろ」 贈り物に関して、日持ちしない菓子や見舞いの花はジムで消費してもらった。 ハイグレードな茶葉が多いのは有難かったな。 残るものの類は一応持ち帰ったが、客間に全部押し込めてしまった。復帰後の初仕事はお礼状の送付となった。 香水、貴金属の類は、センスは脇に置いておいてもとにかく多い。 しかもポケモンに無害の物となると結構被っていた。 ダンデに似合いそうなものは無理やり押し付けて、ダンデを家から追い出した。最近はタワーで大人しく仕事をしているらしい。 ダンデは、たまに討ち入りのようにうちに現れる。 バナナを使った菓子を持ってくることもあるが、やはり大抵は好きになれない。 ダンデは別にバナナが好きなわけでも、バナナ好きの代理戦争をしたい訳でもなく、俺さまのいう「かろうじて食える」ラインを探っているらしい。 そして大抵そのまま俺を連れ出して飯を食い、気まぐれにうちの客間に泊まって帰っていく。 美味いトマトクリームパスタも探していると言っていた。 休職中に連れて行ってもらった店が十分美味しかったのだが、変に凝り性な所にヒットしたらしい。 客間はダンデが居座っていた時のままになっていて、書斎机やPCがそのままになっている。 大量のプロテインバーはありがたくジムに持って行って、皆のおやつになっている。 変わった生活といえばそのくらいだ。療養中に取り上げられてた刃物や玄関ドアのアラートは元に戻したが、壊された寝室の鍵はそのままだ。 これに加えて、このあたりのメンツに食事に誘われたりして、よかったら知人の同席を許してほしいとか適当な口実で婉曲なお見合いが始まりそうだ。 「うーん…折角復帰したのに仕事どころじゃねぇな。」 「まぁ…お話は増えそうですね。私たちも探りをいれられるんですが…どういう方針でいきましょう」 「逃げる」 「は?」 「公私混同は好きじゃない。このキバナ様があれしきのことで身売りをさせられてたまるか」 「身売り、ですか…」 「ジム戻るぞ。適当に一芝居打とう」 一曲、目のあった女性をエスコートしてフロアでLODを辿って、終わった頃合いを見計らって、レナに掛け寄ってきてもらう。 適当な耳打ちを聞きながら足早に輪を抜けて、笑顔を一瞬で剥がしてホストの元に向かう。 先方と目があった所で前で一拍遅れて苦笑を貼り付けなおす。 傍に歩み寄って、耳打ちして挨拶を済まして、目くじら立てられない程度の早足で会場を抜けた。 裏口に近いところでウェイターがワゴンでシャンパンクーラーとボトルを会場に運ぼうとしていたのですれ違いざま下段から一本失敬した。 「お見事…それどうなさるんです」 「ん?お前ら三人のお土産」 「キバナ様、な、なんか悪になりました?」 「んー委員長に毒されたんじゃねーかな」 はい、お土産だよ、とその服のままジムに戻った。 脱走の顛末をレナにばらされて、留守番二人にも素行が悪くなったと言われて苦笑する。 定時を回っていたのでリョウタとヒトミの仕事を切り上げさせて、四人でちぐはぐなグラスで乾杯した。 俺さまはジンジャーエールだったが、色と見た目だけは全く同じに見えた。 少しだけ爽快だった。 医師に言われたのはこういうことでいいのだろうか。まぁおそらく違う。 分からないが、一朝一夕に分かるものでもないような気もしていた。 面と向かってやりたいことを考えさせられると当惑する。 何にせよ復帰して三ヶ月、時間がたてば環境は変わった。 まるで何事もなかったかのようにだ、いっそ清々しい。 しかしここは現実で、なにかひずんだものは形を戻したとしてもその金属疲労を中に遺す。 脆くひずんだままになる、そのはずだ。 タバスコまみれのパスタを食べた半年前と同じ顔で、同じ顔触れの中で俺は笑う。 明確に変わったものはあった、あった事は覚えている。 レナが撮った写真、ヒトミがくれたタバスコ、リョウタから返してもらった万年筆。 自分がやろうとしたことの荒唐無稽さや、あの逼迫した思考の視野狭窄と疲労。 分かってはいる。 暗い部屋での覚束ない会話、強く握られた右手の痛み、天井。 でもそれらは捉えどころがない。手にとれる物ではない。 分かっているのに あったさまざまなものが、霧散していくようだった。 ――――たまに、俺は喧しさを潜めた淵を覗く。 枯井戸に石を落とすように問いを投げてみる。 まれに反響音と一緒に自分の影の囁きが帰ってくる。 俺をひどく慰める声音で、変わらないと言う。 これは、対置してはじめてその姿を自分の視野に捉えたものだ。 医師はこれをバグと呼び、正論の見せかけであると言っていた。 しかし俺はこれを疎みながらも放逐はしない。間違いなく、俺を見ている俺ではある。 変わらないか。 まぁ、そうだよなと、俺はそれを慈しむことにした。 そこから一カ月しゃかりきに仕事に打ち込み、三週間の有給申請を書いた。 逃げるのだ。 ダンデが頑張ってリーグでのペーパーレスは進んだが、今は主に本部の中での運用になっている。 したがってこの用紙は郵送する必要がある。 俺の不在を経て一層有能になったトレーナー三人をおいて、フライゴンに飛び乗り一路シュートを目指した。 フライゴンは久々の遠乗りにはしゃいで曲乗りをかます。 減った俺の体重はおおよそ戻したが、それでも数キロまだ軽い。 久々の二人っきりだし気が済むまで好きにさせたら、ローリングを数十回かまされてバーディゴに陥りかけた。パイロットの6割頭を察したフライゴンが慌てて止めた。 ヨロヨロしながらタワーの最上階の欄干につけて、暫しガラス壁を背にすわり込む。 腰の後ろで6個のモンスターボールが俺を案じて暴れている。 愛おしいパートナーたちは相変わらず矜持が高く、そして素行が悪い。 眩暈が収まってきた所でしょげてしまったフライゴンを労ってボールに戻す。 背中のボールたちもぽんぽんと叩いて、ため息をついて立ち上がる。予定を見た限り本部に詰めているはずの、ダンデの執務室に向かう。 と、思ったがいなかった。 高い菓子と紅茶を供されて、ぼんやり応接用のソファに凭れていたら、ダンデが部屋に戻ってきた。 「すまない、だいぶ待たせたな」 「いーよ、こっちこそ悪かったな。別に急ぎじゃないのに」 「いいんだ」 ダンデの背後に、迷子捕獲部隊のリーグスタッフが顔をのぞかせたので、手を振りあう。親指を立てて労うと、相手は破顔して去って行った。 「面識があるのか」 ダンデが対面のソファに掛けながら言ったので、「ダンデ捕獲部隊だろ。城壁で哨戒してるとよく行き会う」と応えると、ダンデはてらいなく笑った。 「で、昼飯を買いにどこの国まで?」 「どこだろう。小さい川が引いてあって、古い家がいくつかと水車小屋があった」 「…ターフ?ハロン?」 「多分、違うな。水車をたまに動かすらしいが、麦じゃなくてコーンを挽いてるらしい。」 「めずらしい」 「美味しいパン屋があった。水の豊かな田舎で、景色がよかったぜ。今度キバナも行こう。あ、どこだったのか隊長に聞こう」 ダンデが真面目な顔で応接テーブルにおいてある内線端末に手をのばした。ダンデをあわてて止める。 「いや隊長がかわいそうだろ、普通の仕事も掛け持ちしてるって聞いたぞ」 「まぁ、でも彼らの業務形態は今に始まった事じゃないからな…。俺の捕獲マップを作ってるらしいからすぐ教えてくれるぞ」 「ちょっとは悪びれろよ」 ダンデが抱えていた紙袋からサンドイッチを掴みだす。 「キバナ、昼は?」 「食べた」 「これも食べろ。うまいぞ」 「ん、お前の昼ご飯じゃないの?」 「俺は散歩しながら食べた。ちょうどそれを食べ終わったところで捕まって、キバナが来たって聞いたからもう一個買ってきたんだ」 温かい紙袋を渡されて、ため息をつく。最近いろんな人間が隙あらば食べ物を差し出してくる。 昼もトレーナーに睨まれながら真面目に食べてる。 「端から食べさす気ならわざわざ聞くな…ありがとな。そのサンドイッチは?」 「間食」 カラっと言われた言葉に呆れる。「テレワークを止めたら食欲が戻った」とダンデは笑っている。 「いや迷子のせいだろ」と笑い返して、紙袋を開いた。 ホイルに巻かれた物を開くとブリトーだった。トルティーヤは具がこぼれないように端を折り返してある。 特に腹は減ってなかったがとりあえず一口ほおばった。汁気が多いが、酸味と爽やかな辛さが口に広がる。 「ん。これ、うまいな」 「だろ。何が入っているのか分からなかったが」 ダンデが楽しそうに笑う。 「なんだろ…ワカモレと肉、あとたぶん…ウィニースだっけ。ソーセージとチリと豆とトマト」 「あぁ、そんな事を店主も言ってた。昔ラテラルのパン屋で修行して、独立したらしい」 「あ、裏路地のかな。パン屋っていうか、多国籍料理のデリ」 「俺はしらないが。うまいのか」 「わかんない。宝物庫に出入りしてる研究員が通ってる」 それにしても美味い。紙袋に、店の名前でもないだろうかとひっくり返したが何も書いてなかった。 ラテラルに行くことがあれば聞いてみよう。 「キバナ、なんか用があったんだろ」 ダンデはサンドイッチを頬張りながら言う。 「ん、ひょっとまへ」 俺さまはもごもごと口の中を空にしてから、背中に手を突っ込む。 胴に巻いているボールホルダーに挟んでいた書類封筒を引きずり出して、ダンデに差し出す。 ダンデが苦笑しているが、飛行するポケモンに騎乗するトレーナーがまぁまぁ使う手段ではある。 カバンや装備は邪魔になるから、こうして服の中にしまいこむ。 「キバナ、俺だからいいが」 「お前じゃなかったらちゃんとタクシーで正面からきた」 「職権濫用かな」 「あ?どの口が言えんだ。うちにあるお前の家財道具着払いで送りつけるぞ」 「あぁ、あれな。まだ暫くおいておいてくれ」 ダンデは言いながら受け取った封筒の紐を解いて、中からクリアファイルを出して広げる。 「…へぇ、休みか。いいな。どこ行くんだ」 「まだ決めてないけど、遠く」 ダンデは胸元から万年筆を取り出した。持ち歩いているのを意外に思う。 休暇の理由をつつかれたりしたら面倒だなと思ったが、何もなくダンデは中を見ていく。トップジムリーダーの長期休暇には委員会理事か委員長のサインが必要ではある。 俺が手入れをしてやった万年筆のキャップを空けて、ダンデがサインをした。筆致は掠れや引っ掛かりもなく、美しい。 俺は無言でブリトーを食べる。 「リョウタを見習ってたまに手入れをしてる」 ダンデはサインしながら言う。少し意外に思ったが、嘘を吐くやつではない。 オレンジとレモン、手入れをしてやった時の話を思い返す。 「シュートに戻ってから暇だからな」 暇だというのは違うだろうと思いながら聞き流す。 周囲がうっかりダンデを逃がすくらい、そしてダンデが息抜きがしたくなるくらい、本部が立て込んでいた事は想像に難くない。 リーグの総会まであと二月かと思いを巡らせる。 「…ペーパーレスは、もういいのか」 「まぁ、こうしてキバナが来るならいいんじゃないか?」 「なんで?」 質問に質問で返されたので更に質問を返す。ダンデは微笑んだが、相変わらず会話は捉えどころがない。 対応する側はいいかもしれないが、提出する俺からしてみれば正直手間である。 ダンデもわざわざ楽しい迷子散歩から呼び戻されている。 「あ、そうだ。キバナちょっと待っててくれ。」 ダンデは急に席を立った。紙を持って、足早に隣の部屋に入って行った。おそらく秘書室だ。 まぁいいかとブリトーを食べ進める。満腹になった所で、秘書のひとりが新しい紅茶を勧めてくれた。 珍しく、うちで客に出す茶葉と同じだった。 暫く経ってからダンデは満面の笑みで戻ってきた。 「キバナ、俺も休みとったぜ。三週間」 「はっ?」 俺が驚愕していたら、ダンデは「委員長とお前が一緒にガラルを空けるのは厳しいかと思ったが、マサルもホップも留守にしていいといってくれたからな、伝説のポケモン三体いれば、まぁなにかあっても大丈夫だろう、ということにしておいた」と訳の分からない話をしている。 「どこか行くんだろ。俺も行くぜ」 「え…なんで?」 「なにがだ?」 「逆になんで?頭でも打ったか?どうした?」 「嫌か?」 疑問符だらけのボールがなにも解決されないままテンポよくラリーされる。 「う?うん、嫌。っていうか訳がわからねぇ」 「まぁ、嫌というなら仕方ないな、キバナの休暇は総会の後にずらさせて貰おう」 「は?いや待て俺さまも日程動かすのは無理だ。」 俺は謎の取引を持ちかけられて引いている。 「いやダンデ、万が一、誤解のないように言っておくが、別に俺さまは失踪したりしないぜ。」 「あぁ。」 「五体満足でより健康になって帰ってくる。定期的に医師に掛かっているが、ぶり返す兆候はない。お目付け役は要らない」 「知ってる。医師の経過観察は受け取ってるぜ。」 「じゃあなんで来る?」 「ついて行きたいからだ。俺も訳あって暫くガラルを空けたい。丁度アテンドを探していたんだが、キバナが一番丁度いい」 絶句した。この人間一年生、見方によってはストーカーである。職権濫用、色々な言葉が頭の中で渦巻いている。 「いや待て、俺さまがお前に付き合う義理があるか?」 「ないな」 ダンデはカラっと言い放った。笑顔が眩しい。 「だよなぁ」 「でも考えてみてくれ、俺が三週間のうち迷子になって帰国が叶わなければ、休暇明けに一番困るのはお前だろ。」 「なん、」 「リーグ総会で俺の代わりに登壇するか?」 ダンデが真っすぐな目で俺を見る。委員長が不在のリーグ総会はありえない。 他に例えば接待やチャリティがあれば、実務面での委員会の理事が、表向きの顔としての俺が、タッグで駆り出されることは想像に難くない。 「いやそしたらお前が総会後に休みを…」 「あぁ、常に一緒に過ごす必要はない。一人でウロウロする」 無視された。 俺は頭を掻く。 「…じゃあ、現地の空港で別れて、最後にお前を回収して帰るだけでもいいってことか?」 「あぁ、それがいいな。」 「…」 「お前が良ければ、それがありがたい」 「それ…尚のこと俺さまでなくてもよくないか?」 「ではキバナの旅は総会のあとか…」 ダンデはしょげて見せる。 「いやその二択がおかしいだろ。あとそういう時だけローズさんの真似すんな」 「わかった言い方を変えよう。お前じゃなきゃ嫌だ。出発時刻と集合場所を連絡してくれ。空港のラウンジとかだとありがたい」 ダンデは言いながら申請書の受理日付を書きこんだ。発効しちゃった…。 俺は手の中に丸めたブリトーの包み紙を見つめる。 「俺さま安いな…」 「どういう意味だ?」 ぼやいたらダンデにスパっと聞き返された。通じる気がしない。 「いや…なんでもないわ。じゃあ、来週、集合場所はお前の家で、俺さまが車で迎えにいくから荷造り済ませて、一歩も家から出んな」 部屋の中でゴミ箱がないか探す。 「あぁ、奥のデスクの陰だ。その辺に置いておいてくれ」 「椅子の右奥?」 「そうだ。」 ダンデが言う部屋の奥を見やるが完全に陰になっていて分からない。 こいつがチェアに座ったときの右手はあの辺、その奥、座りながら椅子を回転して丁度届く位置、壁側と見た。 見えないゴミ箱めがけて投げる。ダンデが放物線を目で追う。パス、と軽い音は一回。絨毯の音ではない。入った。 「…実用的な特技だな」 「…お前の、目測で身長当てる方が役に立つだろ」 「あれはキバナを見ていて鍛えたスキルなんだ」 「そうなの?すごいくだらない事聞いたな」 言いながらスマホでGarazonを開き「GPS 最強 頑丈 防塵 防水 耐衝撃 15気圧 国際規格」と思いつくままに打ち込んでいく。高評価でお届け日時が早いものを選んでしてダンデに突きつける。 「あとダンデ、稟議」 「なんだ」 「これ買うから本部の経費で落とせ」 スマホを突きつけると、ダンデが一人で笑いだした。 「これ系に詳しいのはソニアか捜索部隊だ。待ってろ」 ダンデが目尻を拭いながら、応接テーブルにおいてある内線端末に手を伸ばす。 俺がため息をついていたら、通話をしながら隊長が執務室にストレージボックスを抱えてやってきた。 ダンデは一切の悪びれがないので俺が謝ったら、「回復されたから言えますが、キバナさんのおかげで半年もバカンスを貰いましたから」と逆に感謝された。なにか、ダンデが、俺の言うことなら聞くと思われているようだ。全くありがたくない。 事情を話すと、海外に行くならダイマックスバンドの代わりに腕につけるウェアラブル端末がいいだろうということになった。隊長が荷物を開くと、さっきスマホで見ていた品がゴロゴロ出てきた。タグがついていて、「三日で故障」、「70mの落下で破損」と書いてある。過去オフの度にダンデに持たせていたもので全て壊れたものらしい。 GPS端末を並べながら 「懐かしい、これもダメだったな」 「荷物にとりつける系はことごとくダメでしたね」 「これは落とさなくて良かったけど、だくりゅうで直ぐに壊れたな」とダンデと盛り上がっている。 硬い表情で秘書室室長までやって来て、「くれぐれも総会の二週間前には戻れるように」「ご出立までのスケジュールを組みなおしました、あと20分でここを出ますので、急いで」と言い募る。 ガラルリーグのトップがバカンスをとるに当たって、騒ぎの話題の中心が迷子である。 俺は疲れてきた。 ふと、顔を上げたダンデが俺を見る。顔を整える間もなかった。 「顔色が良くない、仮眠室があるから使え。ナックルには連絡をいれよう」 この動物的な察しの良さは一体何なのだろう、と俺は思う。 「いや大丈夫だ。帰る。飯ありがと。またな」 苦笑して、部屋を出た。 おそらく、三週間野放しにするとこいつは国境を越えるかもしれない。 カニバ修正 すみませんPDFの15枚目の9行目の 『胸側の肋骨を切って本を開く様に割り開きます。で、恥骨を割ります』 を 『胸側の肋骨を切って出来た隙間に手を差し込んで、左右に割り開きます。で、恥骨を割ります』 に変更してもらえないでしょうか。 聖餐 産声 聖餐と産声 彼を最初に目にした時、欲しいと思った。己の全力を持って叩き潰す、血湧き肉躍るバトル。薪でも油でもない一人の人間を焼べた焔は良く燃え上がった。渇望していた何かが満たされ、それでも足りないと思った。もっと、もっと、彼の全てが欲しい。特定の人物一人に注がれるそれは、世界では恋と、愛だと定義されるものだと知った。メディアに彼のことをオレの最高のライバルだとふれ回る事でマーキングし、キバナはダンデのものだと世間に認識させた。キバナも目標と目的の矛先をオレに向けた。プライベートでも交流する様にし、カメラに向けるものとは違う振る舞いをキバナだけに見せた。彼はそれに気を良くして心をすっかりオレに許した。高潔なドラゴンがそろりとオレの掌に乗ってきたと思った。良かった。監禁等の手荒なことは彼の矜恃を尊重するとどうしても行うことは出来ないと踏み止まっていたからだ。湧き上がる高温の熱を灰の下に埋めて慎重に事を進め、チャンピオンを退いた時にとうとう告白した。 じわ、とキバナの瞳が二、三度揺れて、顔を真っ赤に染めて、ゆっくりと噛み締める様に彼が肯いた。ああ、なんて可愛らしい。世界への証明のために用意していたエンゲージリングを彼の薬指に嵌めると、気が早いと言ってへにゃりと笑ったことを覚えている。 キバナもオレにエンゲージリングを贈りたいと言ったためその翌日、彼と店の近くで待ち合わせることにした。ついでに結婚指輪も購入する予定だ。オレにしては珍しく時間ぴったりに到着してキバナを待っていたが、日が落ちても彼はやって来なかった。キバナからの連絡は無く、オレからの連絡にも返信は無かった。ジムや宝物庫等の方方に連絡を入れてもキバナの居場所が分からない。 それが、キバナが誘拐され行方不明になった一日目のことである。 * 何十回目かもわからない程に彼が消えた瞬間の監視カメラの映像を見返す。早朝、キバナはトレーニングの一環としてナックルシティをぐるりと一周走ることが日課となっている。曲がり角、キバナからの死角である場所にオーベムを連れた男性が待ち構え、道を曲がって男と鉢合わせた瞬間にキバナはテレポートに巻き込まれて姿を消した。ガラル地方では人間の移動の手段としてテレポートを使用することは禁止されている。ダイマックスのエネルギーが蔓延っているここではテレポートのサイコパワーが安定せず、相当な訓練を積まなければトレーナーの一部を残して移動してしまう他、上手く移動先の座標を固定出来ずにどこかもわからない闇の空間に取り残されてしまうことがある。音もなく、一瞬でキバナの長身を一欠片も残さずテレポートしたその技術は手練れのものであり、犯人がキバナの習慣を把握していることから入念に下準備がされた犯行だと察せられる。彼がこんな非日常に連れ去られたというのに、その時間帯のオレは胸騒ぎといった予感もなく、指輪を買いに行くことに浮かれて只の朝食をのうのうと食べていた。 既に二週間が経った。街は勿論、ワイルドエリア、果ては他地方にまで捜索の手は伸びているが一向にキバナの居場所は掴めない。キバナが普段持ち歩いているポケモンボックスの使用履歴をポケモンセンターのパソコン本体側から調べると、キバナが拉致された日から一体ずつ外に出されて空になっていた。キバナが犯人に抵抗するためにボックスを使用したのならば一体ずつ出しているのはおかしい。ポケモンを取り出した場所を逆探知して調べるが、テレポートを使用しているのか場所が毎回変わっており居場所は掴めない。誘拐犯はキバナのポケモンに何らかの危害を加えていることが予想される。故に、育成済みのポケモンを取引する闇売買の市場も調べ上げたが、キバナのポケモンらしき個体は居なかった。犯人に繋がりそうなものはまるで見つからない。 苛立ちからタワーで暴れるだけのバトルをしていると秘書に帰宅と療養を促された。今のオレの精神状態ではポケモンの世話は出来ないと医師から診断され、手持ち達はタワーの管理下に置かれた。寝る時間も惜しく、家でも只管に情報を集めた。結果は言わずもがな変わらない。 深く、深く息を吐く。大丈夫だ、彼は強い。二週間は長い様で短い期間だ。きっと生きている。こんなことになるのならば彼の都合を考えずにGPSなり何なりを埋め込めばよかった。 その時、窓にコツンと軽く何かが当たる音がした。締め切っていたカーテンを開けると、荷物を吊るしたドローンロトムが複数体、そしてそれをキバナのロトムが先導している姿が視界に入った。キバナのロトムがオレを見つけて素早く家の中に入り込み、会話が出来る電子機器の中に潜る。 「ロ! ダンデ! キバナが! キバナが………」 ロトムは顔を歪ませて悲しみのアイコンを出す。キバナ。もしやあれらの荷物は何かキバナの手掛かりになるものか。急いで窓を開けてベランダにドローンを誘導する。ずっしりと重みのある大きめのクーラーボックスが三箱。ロトム達は荷物を届け終わるとドローンから抜け出して建物に飛び、散り散りに消えていった。追われて犯人の居場所が特定されないための対策だろう。 罠の可能性もある、とクーラーボックスの蓋の蝶番側に身を置き、開けた先はひらけた空間にしてそっと蓋に手をかけた。ひやりとした空気が漏れ出すばかりでどのボックスからも何かが飛び出してくる様子はない。恐る恐る中を見ると、真空パックされた生肉やベーコン・ハム等の燻製肉、ブラックプディング、一般の食肉加工で見るものとは異なる特徴的な形のリブロースや枝肉が佇んでいた。肉にはキバナのありふれたリーグカードと、何の記載もされていない真っ白なディスク、あの日キバナに贈った指輪が添えられている。目を見開いて指輪を拾い上げる。ドライアイス特有の冷たさがぴりぴりと肌にひりついた。 「これは……」 「キバナ………」 キバナのロトムが泣き出す。次第に自身の呼吸が速くなっていくのがわかる。クーラーボックスの中からディスクを取り出し、パソコンのトレイに載せた。読み取りの準備が終わるまでの間にボックスを家の中へ移動させる。 ディスクには映像が一つのみ。無情な再生ボタンが画面上に浮かんでいる。それをクリックして動画を開いた。背景にコンクリートの打ちっぱなしの壁が見える暗い室内に、オーベムを連れてラフな装いで紙袋を被った男が立っている。男の体格やシルエットは監視カメラで何度も見たものと同じだった。男の背後には大きな物陰がある。男の手にはジョークグッズの変声用ヘリウムガスの缶が握られていた。 紙袋の隙間に缶の先の細いストローを差し込み、男がスーとガスを吸引した。咳払いの後に男が声を出す。 『……えー、今回は十人目、二桁の大台に乗ったことを祝して屠殺の様子を映像に残したいと思います。一年に一人ずつ殺しているんですけど、ガラルはワイルドエリアもあって行方不明者が多いからか、意外とバレずにここまでこられました。このビデオ、個人用に撮っているんですけど後で焼き増しして誰かに送りつけてもいいですね、ふふ』 今この男は屠殺と言ったか。十人目とは何だ。男は軽快な声を出している。ヘリウムガスを吸った高い声がいやに耳につく。男が肩を揺らして笑った。 『そう、記念すべき十人目のヒトは丁度タイミングも良かったので特別大きいヒトにしました。実は、彼のことはずっとずっとずっとずうっと狙っていたんですよ。贄は大きければ大きい程良い。彼は十年前から平均身長を頭一個越していました。こんなにも美しく立派に育ってくれて感無量です』 男が一歩横にずれる。男の後ろに隠されていたものが見えた。寛げる筈の安楽椅子に項垂れたキバナが固定されている。視界が真っ赤になった。上半身は見慣れたジョギングウェアを身につけているが、下半身は脱がされて介護用の大きなオムツを履いている。その下には中型のポケモンが粗相をした時用のシートが敷かれていた。 『胃とか色々と中が空っぽな方が良いので暫く……でも浣腸もするので二日か三日ぐらいかな。水だけ与えて放っておきます。あ、キバナさん今日は朝ご飯は食べたんですかね? 後で聞いてみて日数は少し調整します』 スー。 ぴくり、とキバナが身動ぎした。 『う……?』 『起きましたか』 画面の中のキバナがぎこちなく顔を上げる。キバナがきょろきょろと頭を動かし、開口器をつけられ椅子に縛りつけられている状況を見て暴れ出した。椅子がガタガタと揺れる。 『ヴ! ガァッ! ッアア!』 『あー、あー。そうですよね驚きますよね。オーベム、ちょっと』 男の指示を受けオーベムが技を放った。弱い電撃を浴びたキバナの体が麻痺し痙攣している。白目を剥きかけているキバナの薬指のリングが蛍光灯の光を鈍く反射した。 『っ、う゛、う? んあ゛、う? ん゛っ、ん』 『あれ? 指輪……、薬指ってことはキバナさんってご結婚されてましたっけ。只のオシャレかな。まあいいや。あー、オムツ替えなきゃ。ここからは解体まであんまり変化が無いのでカットしまーす』 フッ、と画面が暗転した。黒くなった画面に自身の顔が反射する。びっしりと汗をかいていた。 なんだ、これは。オレは何を見ている? オレの家に届けられた肉は何だ? 質の悪い冗談だろう? キバナのロトムは泣き止まない。 パッ、と画面が明るくなった。三メートル弱のの脚立の上から二段目の足場にキバナの脹脛の先が固定され、逆さまに吊るされている。キバナは腕を後ろに縛られており服も着ていない。キバナの頭の下には大きめのバケツが置かれ、脚立の下には彼を中心に青いビニールシートが敷かれていた。脚立の近くにはまたもや男が立っている。男はレインコートの上にエプロンと薄手のゴム手袋を装着していた。頭に被った紙袋だけは変わらない。 「ッ! キバ」 『頭に血が登るまで三十分を目安に吊るしてから絞めます。暇なのでお喋りでもしましょうか』 男がキッチンタイマーを操作した後、キバナの開口器を外した。は、は、とキバナは呼吸を整え、ギロリと男を睨む。 『と言っても共通の話題も無いですよね』 『……オレのポケモンはどこだ。オマエ、これを動画に撮っているのか』 『ああ、貴方から話を振ってくれると助かります。キバナさんのポケモンは別室に居ます。どれも大きく逞しく育てられていて惚れ惚れしました。動画、撮ってますよ。僕個人用の物なので動画サイトにアップロードなんてことはしません。安心してください』 男はヘリウムガスを吸い直す。キバナはポケモンが無事だと思ったのか些か長く息をついた。 『ここはどこだ』 『僕の秘密基地です』 『オレをこれから殺すのか。何が目的だ』 『殺すなんて物騒な言い方をしないでください。貴方は贄となり、糧となるんですよ』 キバナが男は何者かを問い、男がそれに飄々と返す問答が続いた。徐々にキバナの顔が登った血によって赤くなっていき、男へ投げかける質問も朦朧とした曖昧なものに変化する。キバナの白目は充血していた。整った筈の息が乱れ、声も小さくなっていく。 『あと五分ですね。何か他にも話しておきたいことはありますか』 キバナの目は疾うに虚なものにすり替わっていた。ぼうっと呆けた顔のキバナの額を涙が逆さまに流れる。キバナが話す言葉を聞き逃さない様に耳をすませた。 『だ』 『だ?』 『だんでに、あいたい。だんで、あのひ、いけなくてごめん』 キバナの目は相変わらず涙を流している。ああ、キバナ、そんな、いいんだ。キバナが苦しんでいる状況にちっとも気付けなかった無能のことは。彼は助けを求める言葉すら言わない。すすり泣きの混ざる謝罪と、スーという規則的な音が後に続いた。 『ダンデってキバナさんのライバルの方ですよね。あの人がチャンピオンの時はちょっとキバナさんに手を出し難いなあと思っていました。でも僕が十年目の贄を決めている時にあの人が十一回目に失敗したから、他にも候補の方は居たんですけど、丁度良いなって』 男はケタケタと笑った。僕は運が良い、と。 『最後に思い浮かべるのがライバルのことだなんて、余程バトルが好きなのですね。僕が貴方を攫った日もバトルの約束をしていたんですか?』 『ちがう……ちがう、ちがう、ゆびわ』 『指輪……? ダンデさんと……?』 キバナは必死にこくこくと頷いた。男が暫しの間首を捻り、納得した様に手を打った。 『……あー! これは失礼しました。指輪はオシャレではなく、キバナさんはもう既にダンデさんのものだったんですね? 僕、スマホもテレビもあんまり観ないからなあ。もしかして婚約発表とかされていました?』 『ヴ……』 キバナの瞳からまた新たにぽろぽろと雫が溢れる。 『ああー、もうこれ以上泣かないでください。人のものを盗ったら泥棒! ですよね。貴方のこと食べようと思っていましたけどやめました。貴方のことはダンデさんに届けますよ』 『ほんとぉ……?』 キバナの表情が僅かに晴れる。スー。 『ええ、ダンデさんの家はわかりますか?』 『ロトムに………』 『ロトムが案内出来るんですね。わかりました』 キバナの顔が安堵した色を示す。ピピピピ、とキッチンタイマーが鳴った。男がそれを止める。 『あ! 鳴りましたね。じゃ、キバナさんさようなら。おやすみなさい。良い夢を』 『な、』 ひゅ、と息を飲んだのはオレだったのかキバナだったのか。男がナイフを手に持ちキバナの喉を裂いた。ぱっくりと開かれた断面から重力と脈拍によって勢い良くバケツに血が滴り落ちる。顔の左半分が血に染まったキバナが目を限界まで開きビクビクと震えている。はくはくと開いた口からこぷりと血が漏れ出し、舌が出たり引っ込んだりと忙しない。自身の指先が冷えていくのを感じる。オマエは子供体温であったかいな、とキバナがトーナメントでメロンとのバトルの後にオレに駆け寄って手を握ってきたことを思い出した。 『オッ、ご、』 『生きている時に喉を切った方が心臓が動いていて血抜きがスムーズです。体に血が残っていると味が悪くなりますし肉も傷みやすくなるので腕や脚を揉んで十分に血を抜きます』 ゴム手袋がキバナの素肌に触れて揉む。触るな。オレのだ。触るな触るな触るな触るな触るな! どぽどぽと血の落ちたバケツの中を男が棒で混ぜる。 『この血は後でブラックプディングに使うので固まらない様にかき混ぜて表面を泡立てておきます。頭はもう邪魔なので外しますね』 『グ』 男が慣れた手付きでキバナの頭を捻り、ねじ切った。涙と血に濡れたキバナの表情はもう何にも変わらない。男が生首の断面に手早くオムツを巻き付け、画面外に消えていく。 キバナが、しんだ。悲しむ間もなく、奇異な光景に吐き気がこみ上げる。あまりにも淡々と過ぎていく映像に現実味は湧かないが、キバナのロトムと届いたクーラーボックスと見慣れない形の肉がパズルのピースの様に当て嵌まり最悪の想定を繋げていく。 『冷蔵庫に仕舞ってきました。頭はパーツが面倒なので後で解体します。一応さっき浣腸したんですけど念のため中身が出ない様に縛っておきます。胃の方は空っぽなので今回は食道を縛らなくても大丈夫です』 男がキバナの股間を裂き、細い紐で腸の終わりを縛った。男は刃の先端に球がついたナイフに持ち替え、刃を滑らせてキバナの腹を裂いていく。膜に包まれた臓器がボルンと重力に従って落ちてきた。男は丁寧な手付きで肉体から膜を剥がしていき、白っぽい内臓を引き摺り出す。 『胆嚢は破けると苦くて不味い緑色の汁が出るので先に取ります。そもそも内臓はどれも破けると大変なので気をつけて剥がします』 男はキバナの腹の中に腕を伸ばし、袋に包んで小さい臓器を外す。その後、再度腕を突っ込み、何やらまた内臓を引き摺り出した。実家が牧場である以上、自身もポケモンを解体したことがある。冷え切った思考が、人間も意外と血が出ないんだなと思い、そして最初に血抜きされたことを思い出した。 『今のこの膜は腹膜で、次は後腹膜です。腎臓や膵臓も忘れずに出します。出した後、横隔膜を引っ張って心臓と肺を抜き出します』 流石、キバナさんは体格が良い分やりがいがありますね、と歓喜の声が聞こえる。 男は新たに用意したバケツの中に取り出した内臓をぐちぐちと仕分け、洗浄している。小腸はこの様に指で握り込んで腸間膜を、と聞こえたところで嘔気に耐え切れずトイレに駆け込んだ。 「う、ぐ、オオ゛エッ」 キバナが行方不明になってから食事の時間も惜しくゼリー飲料のみで済ませていたため、びちゃびちゃと流動状のものが便器の中に落ちていく。髪の毛に吐瀉物がついた。つーんと鼻につく胃酸のすっぱい臭いが立ち込める。ハー、ハー、と荒い息が響く。 ダメだ。落ち着け。ワイルドエリアでもっと酷い死体も見たことがあるだろう。落ち着け。気持ち悪い。ダメだ。キバナがころされた。一週間以上前にキバナはしんでいた。落ち着け。ダメだ。あんな、あんな男の手によって。ダメだ。キバナはオレのものなのに。 胃の内容物を全て吐き出し、覚束無い足取りでパソコンの前に戻る。点きっぱなしだった映像は内臓の処理を終えたところまで進んでいた。脚立から降ろされ、簡易的な組み立て式の台の上に首の無いキバナが横たえられている。 『次は皮を剥いでいきます。人間の皮膚はウールーやケンタロスに比べて薄いので慎重に、筋肉と皮を繋いでいる脂肪の層に刃を入れます。あと毛根が肉側に残らない様に注意します。キバナさん、肌綺麗ですね』 みるみる内に褐色の肌が剥がされ、キバナの身体が筋肉を薄く脂肪が覆っただけのものに変わっていった。 『肉の色はみんな同じなので皮を剥いだらもう誰かわかりませんね』 キバナはオレの唯一で、ライバルで、好きな人で、やっと手に入れた、恋人、だったのに。 『肩と脚を外します。関節の部分で刃が拗れない様に気をつけます』 キバナ。キミの骨の色は一生を添い遂げた後に見たかった。 『胸側の肋骨を切って出来た隙間に手を差し込んで、左右に割り開きます。で、恥骨を割ります』 キバナ。キミの胸に耳を当てて生きている音を聞きたかった。 『右半身と左半身と背骨の三枚におろします。塊の方が熟成が均等に進むのでこのまま……あー、でもダンデさんってヒトを食べるのは初めてですよね。食べやすい加工をする方は先に切り分けちゃいます』 キバナ。 『前に一週間で出来る即席ベーコンとハムの作り方が載っているサイトを見つけたんですよ。前にやった時に割と美味しく出来たので、同じ様に』 動画の中でキバナがどんどんクーラーボックス内で見た姿と同じものになっていく。 楽しみにしていた甘味がポケモンに食べられその空袋を見つけた時の様な、ラッピングの解けたプレゼントを冬の朝に見つけた時の様な、何をするにも遅過ぎる動画だった。 放心している内に動画は終わっていた。ディスクもそのままにふらふらと立ち上がる。クーラーボックスの中の肉は何度見ても変わらない。吐いてそのままの喉が痛みを訴えた。キバナのロトムがこちらを見上げている。 肉のパックを一つ持ち上げた。ぷに、という生肉の感触と冷気が手に訪れる。全てを優しく守る陽だまりの様な笑顔も、荒く煌々とした金春色が突き刺してくる笑顔も、そこには無い。 オレは彼の全てがほしかった。拘束も枷も、それらは彼の自由を奪うものだと。彼の気儘な姿ごと愛していた。何年もかけて信頼を勝ち取り、その丹念な下拵えを経て、ようやく食べるところだったのに。 ……たべる? たべる。 たべ、る? 食べる。 かちり、とパズルの最後のピースが嵌った様な気がした。目の前には下処理のされた肉となったキバナ達。 そうだ。食べてしまえ。全部。全て喰らい尽くしてしまえ。そうすれば彼は永遠にオレと共に生きる。彼の命だけはこの様な形で奪われてしまったが、それ以外の、心も体も全てオレの下にある。キバナはオレと一緒になってオレの命を使って生きる。生きている。オレが生きていれば、キバナも生きている。 ゆら、と三つのクーラーボックスの中を見た。中をしっかり保冷しているドライアイスがちりちりと音を立てる。自身の口の端が歪むのがわかる。 「ロトム、犯人の居場所を覚えているか」 「ロト!」 涙を振り払ったロトムが任せろと言わんばかりに返事をした。良い子だ。 「ロトム、ヤードの場所はわかるか? 一刻も早く犯人を捕まえたい。ロトムが署に向かっている間にオレが通報してヤードに全て説明をする。キミは彼等を案内をするだけで良い。キミは喋ることも出来るポケモンだが、状況説明や事情聴取はこの映像で済むだろう。辛い記憶は話さなくていい」 よく戻ってきてくれた、とロトムが入った電子機器を撫でた。ロトムは最後に一粒涙を流し、機械から一度抜け出してコンセントの中に飛び込んで行った。ロトムのボールがあればパソコンの転送システムを使って一瞬で送ることも可能だったが致し方ない。暫し待ち、ロトムが遠く移動し消えたことを確認してからスマートフォンを手に取り番号を押す。ヤードはワンコールもしない内に出る点だけは優秀だ。チャンピオン時代に培った演技力を呼び起こす。 「こちらガラル警察署です。事件ですか、事故ですか」 すっ、と息を吸ってから言葉を紡いだ。 「ダンデだ。キバナのロトムが単独で戻ってきた」 電話の先がざわりと揺れる。不審にならない程度に間を置いて再度口を開く。 「ロトムの様子から見て事件性が高い。キバナを誘拐した犯人のところから居場所を伝えるために何とか逃げてきた様だ。今そちらに向かわせている。捜索隊の方へも連絡を、すぐに」 努めて平静な、それでいて焦りを滲ませた声色と、一見順序立っている様に見えて動揺による狂いのある説明を矢継ぎ早に告げる。それから数度、電話の先の騒めきとやり取りをしてから通話を切った。通話の最後にはロトムがあちらに到着していた様だから、あの男は今日中にも逮捕されるだろう。ロトムがキバナの末路に関して何か喋ったとしても、ショッキングなものを見てパニックに陥ったポケモンの言葉としてしか取り扱ってもらえない。 クーラーボックスをキッチンに移動する。彼一人、とてもすぐには食べ切れない。二週間の内に空っぽに成り果てた冷蔵庫に、二十一グラム減った彼はぴたりと収まった。 「おかえり、キバナ」 生肉のパックが少し室温に晒されて付いた結露が、一筋落ちた。 * 冷蔵庫から解凍しておいたキバナの肋骨の部分の塊肉を取り出し、常温に戻す。ムワッと生肉特有の臭気が鼻の中に篭った。 読み通り通報したあの日の内に男は捕まった。現場からは身を焼かれ表皮を削られ皿に加工されたジュラルドンとギガイアス、塩に揉まれてぬめりの取れたヌメルゴン、砂抜きされたサダイジャ、甲羅を割られたコータスとバクガメス、羽根をもがれ皮を剥がされたフライゴン、そしてキバナの一部と衣服が見つかった。男はトップジムリーダーの手持ち達も一体ずつ丁寧に殺し、解体していた。特に大変だったのはバクガメスだったと男は笑っていた。 キバナに対して批判的な一部のマスメディアは一般人に殺される様な弱いポケモンに育てたキバナが悪いと言っていたが、リーグ公式のルールに守られた状況でなければ伝説級でもない限り命を奪うことは容易い。どの様な武器や劇物を用いても良いのだから。野生を離れ、拠り所であり司令塔であるトレーナーを失ったポケモンがどれほど弱くなるかを彼等は知らない。特にキバナのポケモンは一体での攻めの戦術よりも二体での守りが堅い、所謂耐えてから巻き返す戦法だ。精密な天候操作と疾風怒涛の逆転劇はトレーナーの判断と指示が必要である。キバナのポケモンは良く鍛えられていた分だけなまじ体力が多い。男とオーベムに殺された時に長く苦しんだことは確かだった。 キバナの一部、というのは毛髪や爪等の非可食部だ。通常、それだけが見つかり体の大部分が発見されなければ生きている可能性の方が高いと判断されるだろう。しかし、男が所持していた解体映像の原本のディスクがキバナの死の証明だった。原本にもオレに肉を届ける旨が当然入っている。ヤードはオレの下に何か届いていないかと尋ねてきた。それに対して、キバナのロトムが来た以外は、何も、と答える。それだけでオレへの聴取は終わった。ヤードは指輪のことも映像で見たのだろう。最愛のライバルを喪った被害者は疑われる事は無い。キバナの肉体は男のロトム達がどこか見当違いな場所に運んでしまったのだ、という見解になった。墓にはポケモン達とキバナの一部が埋葬された。たった一人生き残ったロトムはポケモンセンターで療養している。ヤードは現在もキバナの肉体の捜索を続けている。 サイコキネシス、電磁波、まもる、テレポートを覚えた犯罪特化のオーベムは法によって殺処分された。通常であれば犯罪に加担させられたポケモンは理解あるブリーダーの下へ送られるが、発達した大きな脳に殺人は悪いことではないと長年刷り込まれ失われた倫理観、訓練によってガラルでも難無く行われるテレポートの技術、尚且つ相手の記憶を操作出来る能力を兼ね備えるオーベムというポケモンは調教し直すにはあまりにも危険な存在だった。 常温に戻す過程で肉の表面に浮いた水気をペーパータオルで拭き取る。骨と骨の間に包丁で切り込みを入れ、塩、胡椒、ハーブを擦り込みオリーブオイルをかけてマリネする。 マリネ用に一時間のタイマーをセットする。オレはその間キバナをじいと見続けた。変化など、タイムラプスで見なければ分からない程に緩やかだ。ビデオ判定の機械はここには無い。 「キバナ、キミのどこを最初に食べるか、すごくすごく迷ったんだ」 クーラーボックスの奥底から見つけた淀んだ浅瀬の海にするか、バトルの時にボールを投げそして最後には握手をする右手にするか、はたまたオレが贈った指輪が一等似合っていた左手にするか、それともキミを生かすために生まれた時から動き続けていた臓腑にするか。他にも、沢山。キミはオレの飢餓感に応じてくれる魅力的な人だから。 「前に、母さんが祝い事の時にクラウンローストを作っていたのを思い出したんだ。心臓に一番近い肋骨の肉を王冠の形にするんだぜ」 キミはこの王冠を嫌がるだろうな。人に勝手に王冠を乗せられるより、奪い取りに来る人だから。 「でも文句は言うなよ。キミと共に新しく生まれ直す記念日なんだ。誕生日はご馳走にしても良いだろう」 キバナからの返事はない。オレの誕生日もキバナの誕生日も今日ではない。けれども火をつけて、それを吹き消したって良いだろう。何でもない日をオレ達の誕生日に生まれ変えさせる。 「心臓はまた今度、次に食べる」 蝋燭に火をつける様に、オーブンに火を入れて温めた。 マリネの時間が過ぎた。切り目を外側にして円を作り、糸で縛る。王冠状に形を整え、それが崩れない様に中心にアルミ箔を丸めた玉を入れて固定した。彼を天板に乗せて一七〇度に余熱したオーブンの中に入れる。この家に引越した直後はこんなに大きなオーブンは要らないと思っていたが役に立った。それでもキバナの大きい肋骨には少し窮屈そうだった。タイマーを四十分にセットする。 今日は休日だ。キバナの死がヤードとナックルジムから公式発表された日からオレの仕事は秘書と部下達に取り上げられた。今まで真摯に働いていた功績がオレの背中を押す。おかげでキバナとの時間を大切に過ごせる。 食に時間をかけることはあまり無いが、長い調理時間も彼を彩るためだと思えば苦ではなかった。 オーブンに設置された小さい窓からキバナを覗き込む。加熱によって肉にメイラード反応が起き、香ばしい風味と褐色の焼き色が出る。温もりの中でキバナの肉が縮んでいくのが見えた。 時間をけたたましく告げるタイマーを止め、キバナをオーブンから出す。肉の中心の様子を見て再びオーブンに入れて焼け具合を調節し、最後に二〇〇度で十分焼いて仕上げる。ぱち、と肉汁が爆ぜた。焼き終えて二十分程休ませている間にセラーから肉に良く合うワインを取り出す。キバナが購入し、オレの家に置いていったものだ。ダブルアクションのソムリエナイフも手に取り、食卓にそれらを置く。 休ませた塊肉からアルミ箔と糸を取り除き、肋骨の隙間に包丁を入れて切り分け皿に盛る。残りは冷蔵庫の中に仕舞った。パンもスライスして小型のバスケットに乗せて運ぶ。カトラリーを用意し食卓に並べた。キバナがワインを開けていた動作を思い出しつつ、記憶を頼りにコルクを抜く。ワインをグラスに注いで席に着いた。 ナイフとフォークを手に取る。つぷ、とフォークの先を肉に刺し、ナイフを動かして一口の大きさに切る。そっと口を開け、キバナの肉を頬張った。噛み締める度に彼の筋肉がほどけていく。素朴な味付けにしたため、キバナ本来の味がよく分かる。肉はしっとりと柔らかく、コクがある。それを舌の上で転がし、ゆっくり何度も味わってから嚥下する。喉を、食道を通って胃に温かいものが落ちていく。草食のウールーとは違い、雑食故の独特の風味が鼻に抜けた。ワインを一口飲み、パンを一口サイズに千切って口に運ぶ。久々の二人の食事は静かだった。 一口、また一口、キバナがオレと一緒になる。骨の近くまでナイフで食べ進めた後に、手に持ってかぶりついた。骨に張り付いた筋を歯で刮げとり、軟骨を舐る。ちゅ、と骨を口から離す。 不意にテーブルの上に放置していたスマートフォンから着信の音が響いた。秘書達に取り上げられた仕事もリーグ委員長の意向がなければ通せないものがあるため、緊急時は連絡が来る様になっている。指に付いた脂を舐めて拭った後、画面をタップした。液晶に秘書の顔が映る。 「お食事中に申し訳ありません」 「どうした。何があった」 「オーナー、今テレビを点けていますか」 「点けていないが……」 テレビのリモコンを探し、秘書に伝えられた放送局を映す。画面に映ったのは先日行われたキバナの追悼番組のダイジェストと、キバナの体の捜索が生放送で行われているバラエティだった。素人のコメディアンがカメラを先導している。当番組はナックルジムの許可を得て撮影及び放送をしておりますという言葉の通り、ワイプで映ったスタジオでは彼を慕っていたジムトレーナー達が暗い表情で隅に立っていた。しつこい依頼を断りきれず、そしてキバナが見つかる可能性を餌にされたのだろう。可哀想だな、と他人事の様に思った。捜索隊は全く見当違いなワイルドエリアの土を穿り返している。二年前のチャレンジバンドを着けた子供の骨が見つかったところでコマーシャルに入った。 「放送を止めさせますか」 「いや……、リョウタくん達に悪い。彼等も相当疲弊している。ここでオレが止めに入ったら彼等は更に気を病むだろう」 「そうですね……。それに、こんなものでもキバナ選手が見つかる可能性は捨てきれませんから、皆さん縋るしか無いのでしょう」 早く、少しでも見つかると良いですね。オーナーもおつらいでしょう、と秘書は心底悲痛な様子で続けた。 おかしなことを言うなあ。みんな、おかしい。キバナは生きているのに。 ぽん、と胸に手を当てる。キバナはオレの肉となり、血となり、骨となる。オレはキバナで、キバナはオレだ。どく、どく、と心臓が脈打つ。今日は記念すべき誕生日だ。死者の誕生日を祝う生誕祭ではない。生きている。これからもずっと、キバナはオレとバトルをして、食べて、眠って、起きて、オレとキバナは共に生きる。 「大丈夫だ。キバナはここにいるぜ」 腹からぐるりと返事が聞こえた。 カニバあとがき ヘイ! あとがきにネタバレがあろうとなかろうととにかく先に読む方の幸です! 脱稿ハイです。同人活動はハイにならなきゃやってられないと思います。ハイ。このあとがきには作中に登場した料理について触れるので、ネタバレがダメな人は本文読後に読んでください。 さてこのカニバはですね、すごい初期から私をフォローしている人は「あれ? 伏せ犬で見覚えがあるな」となるかもしれません。原案はそれです。伏せ犬には「解体された人間が宅配で届く」とシチュエーションのネタ出しだけしたものが載っています。それを元にゴリッゴリに肉付けしたものがこちらです。あと伏せ犬ではダンデさんの片思いでしたがこちらでは両思いです。ハッピー! (ハッピーなのか?) カニバを書くにあたって、作中に登場したクラウンローストのレシピを調べて数種類メモ帳に書き出して調理法の違いを吟味したり、実際にラム肉を買ってきて調理したり、食べ終えた骨を洗浄したりしました。ラム肉美味しかったです。私のツイッターの八月十八日投稿の肉料理がクラウンローストです。クラウンローストがレシピによってオーブンの余熱温度や加熱時間がまちまちで、それらを纏めている時が一番訳がわからなかったです。作中の調理法は参考にしない方が良いです。人間とラムでは当たり前ですが肋骨の曲がり具合も大きさも違います。そこはファンタジーで許してください。骨の洗浄に関してはまた別に書こうと思っていたカニバ話で使う予定でした。気分が乗ったら書くと思います。食べ終わった後の骨、このダンデさんは高温で焼いて粉にして食べそうですね。プリオン病については目を瞑ってください。 肉と一緒に送り返されてきたキバナさんの指輪はダンデさんが自宅の金庫に保管しています。鎖に通して首にかけることも考えたのですが、解体映像にてキバナさんが身につけており、どうやら肉になったキバナさんと共に運ばれ行方不明になった筈のものがダンデさんの手元にあると判明したらそこから嘘がバレるので。もう二度と手放さない様に閉じ込めています。毎晩帰宅後に開けて中身を確認しています。 この場を借りて感謝の言葉を述べます。 まず茶さん。このカニバ話は茶さんのご厚意で本になりました。合同誌作りた〜い! という願い(我儘)を叶えてもらいました。今回も文字組みをお願いしました。本当に茶さんには足を向けて寝られないです。ありがとうございます。 次につかねさん。イラストの全てが美しく、表紙も裏表紙も表紙の裏も何もかも素晴らしいです。皆さん舐める様に見てください。表紙の裏に印刷出来るのならこうしたい! という要望を茶さん伝に叶えてもらいました。本当にありがとうございます。 そして肉の加熱時間で悩んでいたら助言してくださったFF外の肉処理肉調理の有識者さん。肉については専門外なので本当に助かりました。私もカニバについて知識を深め、より一層精進してまいります。本当にありがとうございました。 私はカニバリズムや食人の描写が好きです。その中でも、きちんと肉の下処理をして料理をして美味しく食べているものが特に好きです。いえ生きてる人間にそのままかぶりつく系も好きですが(結局のところ全部好き)。このカニバは自分の萌えに物凄く忠実に書いたので大満足です! ヤッタ〜! わざと文章を固めに書いたので、読者に普段より文章が固いなと思ってもらえたら大成功です。 最後に。茶さんと私のニッチ合同誌第二弾! 楽しんでいただけたなら幸いです! では! ヘイ! あとがきにネタバレがあろうとなかろうととにかく先に読む方の幸です! 脱稿ハイです。同人活動はハイにならなきゃやってられないと思います。ハイ。このあとがきには作中に登場した料理について触れるので、ネタバレがダメな人は本文読後に読んでください。 さてこのカニバはですね、すごい初期から私をフォローしている人は「あれ? 伏せ犬で見覚えがあるな」となるかもしれません。原案はそれです。伏せ犬には「解体された人間が宅配で届く」とシチュエーションのネタ出しだけしたものが載っています。それを元にゴリッゴリに肉付けしたものがこちらです。あと伏せ犬ではダンデさんの片思いでしたがこちらでは両思いです。ハッピー! (ハッピーなのか?) カニバを書くにあたって、作中に登場したクラウンローストのレシピを調べて数種類メモ帳に書き出して調理法の違いを吟味したり、実際にラム肉を買ってきて調理したり、食べ終えた骨を洗浄したりしました。ラム肉美味しかったです。私のツイッターの八月十八日投稿の肉料理がクラウンローストです。クラウンローストがレシピによってオーブンの余熱温度や加熱時間がまちまちで、それらを纏めている時が一番訳がわからなかったです。作中の調理法は参考にしない方が良いです。人間とラムでは当たり前ですが肋骨の曲がり具合も大きさも違います。そこはファンタジーで許してください。骨の洗浄に関してはまた別に書こうと思っていたカニバ話で使う予定でした。気分が乗ったら書くと思います。食べ終わった後の骨、このダンデさんは高温で焼いて粉にして食べそうですね。プリオン病については目を瞑ってください。 肉と一緒に送り返されてきたキバナさんの指輪はダンデさんが自宅の金庫に保管しています。鎖に通して首にかけることも考えたのですが、解体映像にてキバナさんが身につけており、どうやら肉になったキバナさんと共に運ばれ行方不明になった筈のものがダンデさんの手元にあると判明したらそこから嘘がバレるので。もう二度と手放さない様に閉じ込めています。毎晩帰宅後に開けて中身を確認しています。 この場を借りて感謝の言葉を述べます。 まず、茶さん。このカニバ話は茶さんのご厚意で本になりました。合同誌作りた〜い! という願い(我儘)を叶えてもらいました。今回も文字組みをお願いしました。本当に茶さんには足を向けて寝られないです。ありがとうございます。 次に、つかねさん。イラストの全てが美しく、表紙も裏表紙も表紙の裏も何もかも素晴らしいです。皆さん舐める様に見てください。表紙の裏に印刷出来るのならこうしたい! という要望を茶さん伝に叶えてもらいました。本当にありがとうございます。 そして肉の加熱時間で悩んでいたら助言してくださったFF外の肉処理肉調理の有識者さん。肉については専門外なので本当に助かりました。私もカニバについて知識を深め、より一層精進してまいります。本当にありがとうございました。 私はカニバリズムや食人の描写が好きです。その中でも、きちんと肉の下処理をして料理をして美味しく食べているものが特に好きです。いえ生きてる人間にそのままかぶりつく系も好きですが(結局のところ全部好き)。このカニバは自分の性癖に物凄く忠実に書いたので大満足です! ヤッタ〜! わざと文章を固めに書いたので、読者に普段より文章が固いなと思ってもらえたら大成功です。 最後に。茶さんと私のニッチ合同誌第二弾! 楽しんでいただけたなら幸いです! では! ダンキバ 話せば楽になるというのならば今後一切何も話せなくなって良い、と思った。オレは、楽になどなりたくなかった。考えて考えて悩みぬいて、捏ね過ぎた思考を落っことして汚して真っ黒になって、拾い上げる時に力を込め過ぎて歪な形になって、それを一人で抱えている。一生、この感情を手放したくなかった。忘れたくなかった。だから、オレにだけは言葉は要らない、と思った。 トーナメントではどうしてもシングルバトルになってしまい、キバナの戦い方は後手に回って本来の力が出せていない。あの決勝リーグにダブルバトルの部門があったらキバナはそれのチャンピオンになっているだろう」 「シングルバトルが主流なんだよ。ダイマックス出来るのだって一体だから、大きくなっていない方は映えない。オレはシングルで勝てなきゃいけないんだ」 ダンキバ トラブルシューティング 人から悩み事を相談されることが多い。明日の献立はどうしようかねぇという他愛無いものから、消えてしまいたいという希死念慮まで幅広く。幸いにもオレは聞き上手で、うんうんと頷いて、それならばこうしようという手段を一所懸命に考えて提示すると相手が満足する。 オレさまだって今まで生きてきた中でモヤッとしたことはあるし、多少の人間関係のすったもんだにもそれなりに巻き込まれている。しかし、その起きた問題で共に被害に遭った人の相談を受けていると、自分の身に降りかかったことなど些細なことに思えて言葉を飲み込んでしまう。色んな話を聞いていると、オレは両親の仲は険悪ではなくて、仕事があって、友人が居て、ポケモンが居て、大きな病気は無くて、相談してくる人と比べると中々どうして、その人達から見たら普通な人生なのだ。ダンデに負け続けているという点があるが、それはガラルの住人なら誰だってそうだ。客観的に見て、オレは世間一般でよく表現される不幸からは程遠いと言えるだろう。 そして、そう言った"不幸"だと呼ばれる人達と自分を比べて、相手を下に見てしまったと気付いて気分が悪くなった。 そうしていると生まれるのがミスである。キバナさま珍しいですね、と部下に言われて書類の誤字に気付いた。階段を踏み外した。朝は妙な動悸と共に目が覚める。横たわり続けても起き上がって支度をしてもドキドキドキドキと心臓が早鐘を打っている。動悸に伴った少しの息苦しさしか体調不良は無かったので出勤し、その間にそれらは少し治まり、休憩時間や仕事が停滞した時にも不意に顔を覗かせる。夜は夜で頭痛がしてくる。痛みは寝不足の時の偏頭痛に近く、早く寝てしまおうとシーツに体を滑り込ませても寝付けない。日が昇る前に動悸で目が覚める。以下繰り返し。 ジムトレーナー達には手持ち達の様子をよく見てストレスを抱えさせないように、と指導している。育ち始めた観察眼に自身の不調を見抜かれた。悩み事があったら何でも相談してくださいとリョウタが親身になってくれた。 けれど、これは具体的に言葉に出来るものではなく、澱のようにぐるぐると底に溜まり纏めようとひっくり返せば霧散してしまい取り止めがない。ということは、話す程のことではないのだろう。だって言葉にならないのだから。 大丈夫、という言葉はリョウタに届いた筈だ。 慣れというのは恐ろしいもので、動悸も頭痛もオレさまのルーティンに仲間入りし日常と化した。部屋をあまり片付けられなくなったが、それはハウスキーパーを雇って頼めば済む。 それから暫く経って、決勝トーナメントでダンデが負けた。敗者は晴れやかな顔をしていて、良かったと思った。まったくもって何も良くはないのだが、咄嗟に思ったのは「良かった」という感情だった。次に、ダンデも人間なんだと思った。 オレが最初にダンデに食らいついた理由は、そして戦い続けた理由は何だったか。兎にも角にもダンデは今も昔も変わりなく人間だったということだ。ムゲンダイナの一撃を浴びた三日後に全力の試合をするのは人間業ではないが。あの時はジムの地下プラントや屋上の後処理に追われている内に日が経ってしまってダンデの見舞いには行けなかった。否、動悸と頭痛が無ければオレはもっと早くあれらの書類を捌けたし、きっと見舞いに行けた。行けなかったのはオレのせいだ。 オレさまはこんなにもストレスに弱かっただろうか。メンタルが参りやすかっただろうか。 小さな出来事が積み重なっているからだ、と結論は出ている。オレもみんなみたいに今まで積み重なった悩みを人に話して、小分けに出して身軽になっていれば良いものを。 いま身に降りかかっている体調不良においてオレが人を見下してしまったと気付いたことは、きっかけに過ぎない。並々と注がれ表面張力の働くコップの水面に落ちた一滴だ。遅かれ早かれ降り積もった悩みがコップから溢れてこのようになっていただろうから結果は変わらない。よりにもよってこのキバナさまが下を見て安心するなんて。寧ろ若いうちに気付けて良かっただろ、とポジティブに捉えてその一滴を無かったことにしようとしても目眩がしてくる。動悸と頭痛のラインナップに立ちくらみが加わっていた。ハロー立ちくらみ、今後ともよろしく。 隈が出来にくい体質で良かった。少し出てきたがまだ肌の色でごまかせる。ルリナプロデュースのコンシーラーをカートから決済する日も近いな、と鏡の前で思った。ダンデは気合いを入れる時に頬をよく叩く。オレもやろうとして手を見て、指先のささくれが目立った。 オレの手ってこんなんだっけ? 指先、手の甲、手の平をまじまじと見て自分のものではないような気がして、手から肘、肘から肩と目線を上げて最後は肩から首をぺたぺたと触って繋がっていることを確認した。オレのだ。再び手の平を見る。手相と指紋がぐにゃ、と混ざった。目眩だと気付いて強く目を瞑った。やめろ。動悸とその兄弟の息苦しさは今は来るな。立っていられなくて洗面所で蹲み込んだ。 流石にまずいだろう、と気付いている。悩み事を、人に話すべきだ。話して楽になろうとして、本当に話せば楽になるのか? と疑問に思った。悩み事を人に話したことがないからわからない。幼少期、ジムチャレンジ時代、大学、ジム就職、ジムリーダー就任、トーナメント、SNS、思い返せば人に話さず後生大事に抱えるほどの大層なものではない悩み事の死骸が転がっている。ミイラの悩みは時効だ。こういう嫌な事がありました、という記録だけが虚しく残っていて手の施しようがない。 オレに相談してきた人達は、話すことで楽になっていた、と思う。世辞もあるかもしれないがほとんどの人は礼を述べて去っていた。ならば楽になるのだろうと考えて、オレは楽になって良いのか? と思った。 オレは、楽になるべきではない。話せば楽になるというのならば今後一切何も話せなくなって良い。だって、そうだろう。ダンデのライバルのキバナさまだ。困難に立ち向かうヒーローに子供は憧れを抱く。人間広告塔だ。何より、ダンデに対して抱えている激情も手放したくない。悩みも何もかもをひっくるめたそれは捏ね過ぎて落っことして汚して真っ黒になって、拾い上げる時に力を込め過ぎて歪な形になって、それを一人で抱えている。一生、この感情を手放したくなかった。 楽になりたくない。 まあ、それはそれとして「最近寝付けなくて」と試しに話してみようと思った。以前オレさまにその悩みを持ってこられた時は原因の究明とリラックス効果のあるアロマを提示した。オレはポケモンたちの体調もあるからアロマは焚いてない。リョウタならオレの手持ちも把握しているし、何より前に何でも相談してくださいと言われているし、と目星をつけた。 さあいざ相談するぞと思い立つが、今まで様々な人から相談を受けた時に、キバナさんはどんな悩み事でも馬鹿にせず聞いてくれるのでありがたいです、と言われていたのを思い出した。つまり、世の中には人が真剣に悩んでいることを馬鹿にする人が居るのだ。他にもニコニコとした顔で応対していたのに居なくなった途端に「あの人苦手なんです」と苦笑いする人を見た。いやそれは苦手な人の前でも態度に出さないのは偉い、偉いよな? わからない。 リョウタは馬鹿にしたり陰口を言ったりするような奴じゃないとわかっているのに一瞬でも悪い想像をしてしまった自身に吐気がする。嫌われたくないと思ったが、ではそもそもキバナは好かれているのかを考えて、烏滸がましいなと思った。 そうこうしているうちにリョウタに呼び止められた。あまり眠れていないようですが本当に大丈夫ですか、と。オレは大丈夫なのだろうか。実は、と口を開いてから言葉が出てこなかった。「最近寝付けなくて」と短い言葉を続けるだけで済むのに、ぱくぱくと口が空回りした。そもそも、上司が解決出来ない悩みを深刻な様子で持ちかけられたらリョウタは心配してしまうし、もし解決策にあまり効果が得られないところを見せてしまったら気に病むだろう。それともそれは自意識過剰か。 開いた口で、キャンプ道具を新しくしようと思っているんだけどどれも魅力的で寝不足なんだ、と続けてしまった。嘘ではない。気持ちの切り替えのために今持っているキャンプ道具は捨ててしまおうと考えているし、それの代わりを探しているのも事実。ただ、本当の事と言うには言葉が少ない。スマホの検索履歴を見せてリョウタを安心させる。良かった。大丈夫なキバナさま、にオレは成れている。出来るオレさまを演じろ。そうすれば出来るオレになっている。 手持ちに悪影響の無いリラックス効果のあるものと言えば紅茶だろうか。 胃が気持ち悪い。良い匂いだと思っていたカレーに胸焼けがしてくる。味がよくわからない。口の中に纏わり付く薄味の粘土。人間の体は必要な栄養素を補えば割と上手くやりくりしてくれる。吐いたらやり直しなので喉までせり上がるものを飲み込む。ビタミン剤とカロリーバーは叡智の結晶だ。合間に食物繊維とタンパク質を押し込む。亜鉛も摂った。努力虚しく腹痛がメンバー入りする。もうすぐ体調不良の手持ちが埋まってしまう。前にオレが料理をしてオレのための食事を用意したのはいつだっけ。ポケモン達のきのみ用の冷蔵庫しか最近開け閉めしていない。ハウスキーパーの給料が増えていく。 数日後の就業中、腹が途轍もなく痛くなった。思わず痛みに呻いてしまい、ジムトレーナー達が駆け寄ってくる。ちょっと食当たりしたと誤魔化してトイレに向かうが全く痛みが収まる気配が無い。胃薬を飲んで戻ってもズキズキとした痛みが常にある。まさかストレスで胃に穴でも開いたか。昼休憩はずっと横になって過ごした。コータスが心配して温かい頭をずっと体に当ててくれた。食欲が無いのはいつも通りだが、吐気がプラスされている。休憩時間を終えてふらつきながらも執務室に戻ると、リョウタ達が早退の手配をしてくれていた。腹の痛みが尋常ではない痛みになっていたので助かった。流石にこれは病院に行かなくてはならないとわかる。救急を呼ぶかと聞かれたが、歩いて行けると断った。 息を上げながらも支度を整え、廊下を歩く。何故だか痛みが右下の辺りに移動していた。胃はこんな下に無いだろ。立っている体力が尽きて膝をついた。少し、少し休むだけ、と四つん這いのまま息を整える。整わない。体が熱い。頭はこんなにも重いものか。手の平で触った床は冷たくて、このままここで横になったら楽だろうな、と思った。少し休んだらまた立って歩けると横になった。目を瞑って息を整える。整わない。頬の熱が床に移る。腹が痛い。物凄く。 苦しい。腰のホルダーのボールが揺れる。薄目を開けて、大丈夫だ、休んだらまた歩けるからと声をかけた。オレは歩ける。まだ歩きたい。でもオレって歩かなくちゃいけないんだっけ。オレさまは歩かなくちゃいけない。ボール越しに相棒を撫でようとしたが右下腹部を押さえる手を離せない。手を急に離すと余計に痛くなる。痛みが更に激しくなり、意識が後ろに引っ張られるように遠のいていった。 目が覚めると日付が変わっており、麗かな日差しがカーテンを照らしていた。病院の天井が柔らかく光を反射している。体が鉛のように重く動かせない。意識が戻ったことを看護師が気付き、暫くして鼻やら口やらに挿さっていたチューブを抜かれた。その後ベッドに横たわったまま医者の話を聞く。久しぶりに人の声を真面に聞いた心地だった。 「急性虫垂炎です。所謂、盲腸ですね」 盲腸。 「緊急を要するものでしたので手術の許可はお母様にいただきました」 盲腸なら、ストレスじゃない。オレの体は大丈夫だ。 「少し栄養失調気味なのでこのまま入院して点滴も打ちましょう。どちらにせよドレーンが抜けるまでは入院です」 ベッドの横に置かれたキャスター付きのフックにごぽごぽと水音を立てる機械があり、自身の下腹部からそこに管が繋がっている。虫垂が破れていたり膿瘍があったりすると生理食塩水で中を洗い、その水をドレーンという管の先を腹の中に入れて抜くのだそうだ。早く抜けないだろうか。オレさまは出来るだけ早く仕事に戻らないと。これって吸い出さないのか? とグニグニと管を弄った。 「リハビリをすれば早く水が抜けて管も抜けます。最初は立つ練習から始めてください」 早速体重測定のために支えられて立つ。手を離しますよ、と言われて足に力を込めた。点滴と腹の中の水のせいで前に測った時より増えたのか減ったのかわかりにくい。家の体重計に最後に乗ったのはいつだ? 測定後にリハビリとして部屋の出口まで、廊下の少し先までのろのろと歩いてそれから戻った。ポケモン達はジムで預かっているらしい。 毎日、朝昼晩と三度に分けて代わる代わる人が訪れる。ジムトレーナー達や、オレが手術したことを聞きつけたジムリーダーと元ジムリーダー達、新チャンプとホップ、ソニアまでもが見舞いに来た。目まぐるしい。みんな口々に「最近どうだ」と聞いてくるので、特に変わりないしオレさまは大丈夫だと返した。なのに、みんな少し困った顔をしていた。何でだ。何も心配することはないのに。 オレが困らせたのか? ドッ、と動悸が顔を覗かせてきた。 動悸の症状を一度看護師に見られてしまいそちらの受診も勧められたが、仕事をこんなに長く休むのは初めてで不安になって動悸がしたと断った。また言葉の足りない本当を言った。ジムリーダーの署名が必要な書類はジムトレーナー達に持ってきてもらっている。そうこうしている内に日が経って無事にドレーンが抜けて、切開した傷の抜糸がされた。管を挿していた方の小さい穴はまだ糸が残っているが、退院しても良いと許しが出た。退院した後、四日後に来院して抜糸だ。手続きを済ませ、いよいよ明日退院する運びとなった。病院に搬送された時に母が部屋を個室に選んだため、いま病室には一人だ。リョウタ達が最後の夜に見舞いに来ると言っていたが、容体は安定してるしオレさまはもう大丈夫だからと断った。 夜が静かに忍び寄り、空を濃紺が追いかけてきた頃、控えめなノックの音がした。看護師だろうか。どうぞと声をかけて入室を促した。 「すまない。遅くなった。これは見舞いのクッキーだ」 は、と息が詰まった。ダンデだ。ダンデがオレの見舞いに来るのは初めてだ。よりにもよって最後に来なくてもいいのに。来ないなら来ないで全く構わないのに。オーナー服ということはタワーから抜け出して来たのだろうか。ガサ、と袋の中から出された缶のクッキーを受け取る。 「これ、下の売店で売ってるクッキーだろ」 「……よくわかったな。時間が無くて急いで買ってきた」 「入院一日目の時に父さんがレシートと一緒に渡してきたから」 まあ、その後散歩した時に売店で見かけたというのもある。両親は入院最初の一日目だけに顔を出し、代わる代わる見舞いの人が訪れるのを見て「こんなにお友達が来るのなら安心ね」とそれだけ言って帰ってから一度も来ていない。 「消化器官切った人に食べ物持ってくるか?」 「病院で売っているものだから何とかなるかと。食べられないのなら別の物もある」 「フ、食事制限は取れてるから食べるよ。でも他にもあんの?」 次にダンデが出してきたのは本だった。これも売店で売っている物だ。 「キバナが興味を持っているジャンルの本だろう」 「合ってる。けどもう持ってる。ダンデはそれ読んだことある?」 無い、と首を横に振ったのでそのままダンデが読めば良いと返した。 「これで見舞いは終わり?」 「終わりじゃない」 少し話をしないか、と持ちかけられたので部屋の端に寄せていた椅子を指差す。ダンデはそれを了承と受け取り、椅子をベッドに近付けて座った。 大丈夫だ。栄養の点滴も抜けているし、いま体に付いているのはドレーンの穴の糸だけ。入院前の体調不良達はここのところ大人しいのでダンデにはバレない。でもこれってバラしたくないものなんだっけ。バラしたくない理由は。話したくない理由は。そうだ、楽になりたくないからだ。 「実は話というのはな、相談なんだ」 ダンデが態々オレのところまで来てする相談なんて相当真剣なものだろう。ごくりと唾を飲んだ。ダンデの両手の指が交差し、ゆるく祈るような形になっている。 「頼れる人になりたいんだ。どうすれば良いだろうか」 頼れる人。頼れる人の条件とは何だ。その人の常識と、今までの交流で勝ち取った信頼だろう。ネームバリューもある。元チャンピオン、現ガラルリーグ委員長の天下のダンデさまだ。そのダンデさまを頼りにしない人間など居るだろうか。しかし、こうやって相談してきたということはもっと頼りにされたいのだろう。バトルタワーの運営でスタッフにあまり頼ってもらえないのだろうか。もう少し、条件を絞りたい。 「オレさまはダンデは十分頼れる人だと思うぜ。例えば誰に頼りにされたいんだ」 ダンデは何度か口を開き、言葉を選んでから音に乗せた。 「そうだな……ホップと……」 うん、と一つ頷く。 「キバナ、オマエだ」 え、という言葉を飲んだことで頷きを返しそびれる。 「でもさっきキバナはオレが十分頼れる人だと言ったよな。それなら、キバナはオレに悩み事を打ち明けてくれるよな」 ダンデはにっこりと笑っている。やられた、と思った。誘導尋問だったのか? いやオレがちょろい。一瞬、前委員長が被って見えた。こういった手腕もタワーと共に引き継がれたのだろうか。 「ライバルは、ライバルに弱みを見せないだろう」 「キバナはオレが極端な迷子という弱みを既に知っているな?」 「だとしても、オレさまに悩みは無いよ。普通の人生だからな」 ダンデは祈るように握った両手を見てから、笑みを消して視線を上げて真っ直ぐにオレを捉えた。 「いいか、キバナ。普通の人間なんて居ないんだぜ。普通の人生なんて平和なものは無い」 そうだろう、と問い質された。ベッドの脇に置いていた時計の秒針の音が聞こえる。静かだ。凪とも停滞とも呼べる空気が流れている。 「嫌なことがあってそれに対してどう思ったかまで言わなくても良い。ただ、起きたことを話してくれれば良い」 話せ、と言われても何を話すんだ。寝不足だったこと? それなら今は病院の消灯時間に寝ているから改善されている。盲腸の痛み? もう手術も終えて日が経っているから深刻なものではない。体調不良の最初のきっかけや悩み事の死骸のこと? それはもう自身の中で解決し割り切っている。やっぱり、今のオレに悩みは無い。ただ、溢れてしまった水が落ち着くまで不安定だっただけだ。今のオレさまはもう大丈夫だ。悩み事のミイラを慰めてダンスだって踊れる。踊る必要は無いんだけれど。 「オレさまが話すことは無いよ。リョウタに頼まれてここに来たのか?」 「いいや? リョウタくんからは明日がキバナの退院日ということしか聞いていない」 ここに来たのは見舞いの最後のチャンスだったからか。それにしては。 「ライバルに悩みを話しにくいというのも一理ある。しかし今まで尋ねてきた同僚や部下、友人にも話していないだろう」 だって、あったとしても話せないだろう。 ジムトレーナー達はオレが入院している間、その分の仕事に追われていた。ヤローは今は収穫の時期だし、ルリナは新規の雑誌の撮影に苦戦しているし、カブさんは原点を見つめ直すと一度ホウエンに行って戻ってきたばかりだった。オニオンはまだ幼くリーダー業の合間をぬって見舞いに来ていた。ポプラさんはビートのピンク化に忙しいしそのビートも言わずもがな。ネズは音楽活動が本格化してきた頃だし、妹のマリィもスパイクタウンのために奔走している。ソニアは新たに論文を執筆していて、ホップはその助手としての活動に専念している。各々手一杯だ。オレが話したら負担になるだけだ。 「友人に話し辛いのであれば親でも」 「親、はダメだ。あの家は幸せな家だから、悪いことは持ち込んじゃいけないんだ」 両親は辛いことを見聞きするのを強く嫌っている。そして、うちには何も悪いことも嫌なこともありません、という圧がある。家は聖域であり、腫れ物は見ないし、臭い物には蓋をする。歯並びは良いのに何で片方だけ鋭いのかしら、出来るだけ手で口を隠して笑うと良い、そうすれば上品だ。わかっている。そういう家だ。だから話せない。はたから見れば嘸かし幸福な家庭だろう。 俯いてシーツを眺めながら発した返事にダンデは納得したのか、そこに触れずにダンデは口を一度閉じた。動悸が近付いてくる。ダメだ。少しでも落ち着かせるためにダンデに断ってからベッドの上に横になった。掛布も首まで手繰り寄せたので、速い脈動も隠される。 「悪い。オレやっぱり疲れてるみたいだから、早く帰ってくんない?」 弱った姿を見せてしまった。ああ、まずいなあ。これ以上、ダンデに観察されたくないよ。ダンデは帰る支度もせず、こちらを見つめている。 「これまでの話がしたくないのならこれからの話をしようか」 目を瞑って暫く経った頃だった。呼吸が落ち着いて動悸も収まってきていた。時計を見ると面会終了の時間が差し迫っており、窓の外も暗くなっていた。 「まだ帰ってなかったの?」 「見舞いが終わってないからな」 ダンデはクッキーを入れていたビニール袋ではなく、抱えていたビジネスバッグの方から書類を出してきた。 「ここにバトルタワーへの引き抜きの書類と、キバナをジョウト地方のリーグに招待する書類がある」 「……は?」 「このままナックルのドラゴンジムリーダーを続けるか、バトルタワーへ来るか、招待状を受け取ってジョウトに渡るか。どれが良い」 最後の最後にとんでもない土産を渡して来やがった。 「ジョウト地方への誘いはな、フスベに新しい風を入れたいそうだ。ガラルは新しい取り組みが盛んだから、是非有識者の意見を聞いて取り入れたいらしい」 キバナとしてはドラゴン使いの聖地で力をつけるまたとない機会だろう、とベッドの近くの机の上に一つ書類が置かれた。 「キバナがガラルの地に拘ってチャンピオンの名声を手に入れたいのなら、このままジムリーダーを続ければ良い。オレの見込みだとあと二、三年の内に勝てるだろう」 ホップが新しい夢を見つけたのを見て、あの子も思うところがあるようだ、とダンデは肩を竦めた。 「オレとしては、キバナがバトルタワーに勤めてくれると助かるんだ。バトルタワーでダブルバトルに挑む人も多い。ダブルはかなり人気のあるジャンルだ。オレはどちらかというと専門外だから、そっちの昇格試験をキバナに任せたいんだ。シングルもダブルもバトルの昇格試験は楽しいが少し骨が折れる」 バトルタワーへの移籍の書類がジョウトの招待状に並べて置かれた。いやはや、何とも、これはどうしたものか。オレは、オレさまはどうしたら良い。 「それってオレの職業どうなんの」 「……試験監督?」 「オレのメリットは?」 「模擬戦でオレと戦い放題」 「は?」 「キバナはオレに勝ちたいのか、チャンピオンになりたいのか、どっちだ?」 どっちだ? 最初に目指したのはチャンピオンの座だったと思う。けれどその座はダンデを倒さないと手に入らない。ダンデの言葉によってガラルの民はみるみる内に逞しくなっていきトレーナーの質も高くなった。他の地方でチマチマと経験値を稼ぐより、活気溢れるガラルで切磋琢磨した方が身につく。だって倒すべきダンデはこの土地ならではのダイマックスを使用したガラル流のバトルだ。ここの歴史も好きだし。オレがガラルに居る理由はそれ。 ライバルに勝ちたいのは当然だろう。共に戦い、競い合い、高め合うものだ。ダンデが居なかったらオレはここまで強くなっていないし、ここまで真摯にバトルに取り組むことも無かったと思う。そうか、今まで必死こいて勝ち抜いていた公式戦のトーナメントを終えても、チャンピオンのダンデは居ないのか。 「キバナの悩み事は一先ず置いて、オレの土産のことだけを考えてくれないか。そして、今迷っているのなら試しにオレに話してくれないか」 どっちも、はダメなのか。ダメになったのか。オレは楽になりたくないから、どっちかを離すのは嫌だ。今まで全部抱えていたものは確かに重荷だけど、離したい訳でもそこから目を逸らしたい訳でもない。だから一先ず置くのも、今までの自身を蔑ろにしているようで、嫌だ。どんなに苦しかったってそれはオレの人生なんだ。けど、話さなきゃ伝わらないのか。 「オレは」 「うん」 「どっちもが、良い」 「それは、チャンピオンになってタワーに挑んでオレに勝つということで良いか?」 「うん」 ダンデが言葉にしてくれて助かった。言葉になってみれば、至極単純なものだった。オレにはそれがすごく大切なものだから、ダンデがそれを拾い上げてくれたことが嬉しかった。今なら少し言葉に出来る気がした。 「今のオレはフラれてしまったな……。ジョウトはどうする?」 「行く」 「えっ」 「それ、出張ってことに出来ないか? ガラルのドラゴンジムのジムリーダーの出張に」 「掛け合ってみよう」 良かったなあ。良かったよ。とろとろと瞼が重くなってきた。安心したからか。何に安心したんだろうか。 「今日は久しぶりにキバナと話が出来て良かった」 ダンデが机の上に広げた書類を纏めながら言った。ああ、良かったなあと思ったのは、安心したのは、会話が出来たからか。相手と自身が認識し合って居場所があったからか。 オレは見舞いに来たみんなの状況だけを見て、どういう心情で来ているかまで見ていなかったなあ。居場所を用意してくれていたのにそこを見ず行かなかったんだ。 「オレも、良かったって思った」 「それなら何よりだ」 真っ黒で歪だったものを悪くないと思った。話しても抱えていたものはあり続けて、無くなる訳ではなくて重さが変わるだけだと気付いた。今までのオレの人生と、これから上手くやっていけそうだ、と思った。 退院後、すぐにジョウトに行くのは様々な人に止められ、オレも良くないと思ったので調子を取り戻すまで一ヶ月の療養と二ヶ月のバトル三昧を終えてから行くと決めた。一ヶ月もごめんな、とジムトレーナー達に謝ると、キバナさまは休みをどれだけ溜めているかご存知ですか? と返された。もっと長く休んでも平気らしい。とりあえず一ヶ月休んでそれから復帰するかもう少し休むか様子見しても良いそうだ。リーグ移籍ではなく出張の手配に変更をしてくれたダンデには頭が上がらないと同時に、委員長としての権力をまざまざと見てしまいヒェ……と声が出た。半年後か一年後になるそうだ。 病院でダンデが言っていたように新チャンプはホップが夢を追う姿に影響されて、自身のゴールをチャンピオンで終えないために色々と勉強していた。その相談を受けて効率の良い勉強の仕方をアドバイスした。 休んで休んで、ようやくキッキンで自身が自身のための料理を作れるようになった頃。そういえば入院中にダンデがライバルや友人や家族に相談は出来ないのかと聞いていたが、恋人だけは試していないなと思った。 恋人が居ないのもあるが、これをダンデに話したら試させてくれるだろうか。 一人称が沢山あるキさんと深追いしないダさんの話。 久々の支部新作です……。今まで書いた文章でキさんにあんまり「オレさま」と言わせていないなと思って書きました。素の状態は「オレ」でポーズを付けている時や役職で自身を見た時は「オレさま」「kbnさま」のイメージです。
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