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スイサイダルアクト//HO4 元々は映画監督を志しており、美術大学の映像科に進学したが、同級生である友人──日比谷 甚（ひびや じん）に頼まれて出演した自主制作映画がとあるコンペで入賞。その後も彼の作る映画はさまざまな場所で評価され、役者として携わっていたぶん自分の映像作家としての才のなさを突きつけられることとなる。しかしその反面、演技の才はあったようで、日比谷の映画以外にも役者の仕事が舞い込むようになり、俳優としてのキャリアをスタートした。 顔立ちはそれなりに整ってはいるものの芸能界では埋もれてしまうレベルではあるが、大学卒業後は中堅の事務所に所属しどうにか食べていける程度には細々と活動していた。しかし26歳の頃、独特の存在感とその演技力が評価され、深夜帯に放送される連続ドラマのオファーがきた。不可解な連続殺人事件を追うサスペンスもので、敵か味方かわからない情報屋の役。結果、そのドラマはSNSの口コミ経由で大ヒットし、中でもミステリアスな情報屋は一部の熱狂的な支持を得て、一躍人気俳優となった。 それから待っていたのは華々しい役者人生だった。ゴールデン帯の連続ドラマや豪華俳優陣の出演する映画、CMの出演依頼まで。気づけば事務所の看板俳優となっていたが、給与に不満を持ち、事務所と揉めた末マネージャーとともに独立することになる。個人事務所を構えさあこれからだ、というところで、警察がやってきた。 日比谷夫妻の息子が行方不明となったため、事情聴取にきたのだと。自分は、容疑者のひとりなのだと伝えられた。 日比谷の妻は、小鹿野 茉里奈（おがの まりな／現在は日比谷姓）という元女優だ。茉里奈は日比谷が初めて撮った映画のヒロインだった。当時は小劇場の舞台に細々と出演している売れない女優だったが、その儚げな雰囲気に日比谷が一目惚れしオファーしたのがはじまりだ。役者としても、女としても彼女に惚れ込んでいた。しかし、その陰で彼女と自分は愛し合っていたのだ。「女優としての夢を諦められないから日比谷と別れることはできないけれど、本当は貴方を愛している」という言葉を信じ、彼女と日比谷が結婚した後もずっと関係は続けていた。少女めいた雰囲気が売りだった彼女は年を重ねるにつれどんどんと仕事は減っていき、商業映画を撮ることが多くなった日比谷の作品で起用されることもなくなった。それに反して自分が俳優として成功するにつれ、彼女の気持ちがどんどんと離れていっていることに気づいてはいたが、それでも愛していた。 彼女が女優を引退しようと思うと打ち明けてきたとき、ようやっと一緒になれるのかと浮き足立った。しかし続いた言葉は、「妊娠しちゃったから」というものだった。おかしい。日比谷は若手女優に手を出してばかりで、茉里奈とはセックスレスだったはずだ。もしかして、と口に出そうとしたところで、涙ながらに謝罪された。ごめんなさい、この子はあの人の子どもとして産ませてください、と。 その日、学生時代から続いていた彼女との関係に終止符が打たれた。 それ以来、茉里奈とは連絡をとっていなかったし、日比谷とも距離を置いていた。風の噂で無事産まれたらしいと聞いたくらいで、顔も見たことがない。確かに喉に刺さった小骨のような存在ではあったが、それでもかつての友と愛した女の家族なのだから、幸福すら願っていた。運の悪いことに、犯行が行われたとされる期間は自室で缶詰になって次に出演するドラマの脚本を覚えていたため、アリバイがなかった。取り調べはしばらく続いたが、後日、家の近所にある溜池から彼の水死体が見つかった。以前から子どもの遊び場となっており、危険だからと問題視はされていたが、いくらでも忍び込めるようになっていたらしい。結局ただの事故だったということで、事件は幕を閉じた。 証拠不十分ということで逮捕されることはなかったが、芸能界を追われるには十分なスキャンダルだった。茉里奈との関係も赤裸々に報じられた。映画監督として成功していた日比谷、半ば喧嘩別れしてしまった事務所が結託し、あっという間に居場所も仕事も失ってしまった。十分すぎた収入も、先行投資だと独立資金につぎ込んだばかりだった。 ほとぼりが冷めた頃、知人の伝手で時折小さな役はもらえるようになったが、とてもじゃないが食っていけるほどの収入は得られなかったため、学生時代に培った技術を生かしカメラマンの仕事をはじめることでどうにか食いつないでいたが、あの華やかな日々が忘れられずにいた。そんな折、再演の話を耳にする。オレは被害者だ。少しくらい、強引な手段を使ったって罰は当たらないだろう。今回のチャンスは絶対にモノにしてやる。 2006年(19歳)：茉里奈と出会う 2009年(22歳)：大学卒業 2011年(24歳)：連続ドラマがアタり、一躍人気俳優になる 2014年(27歳)：茉里奈から別れを告げられる 2016年(29歳)：殺人疑惑と不倫関係が報じられる 2021年(34歳)：現在 一人称：オレ 二人称：キミ

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