タグ： やしま るいと

17際の頃に父親が殺人事件を起こした。新聞の一面を飾った上にニュースでも取り扱われたため翌日には学校に広まっていた。陰口を叩かれる内はまだよかった。自分の存在が彼らの内にあったのだから。しかし事件が忘れ去られていくのと同様にやがて自分の存在も彼らの内から消えていった。存在しないものとしてクラスメイトや教師から扱われながらも毎日登校した。来なくなれば本当に消えてしまうと思ったからだ。そうして高校生活を過ごしきったが、ついに父親が有罪判決を下され刑務所に入った。それが終わりを告げたような気がして、学校へ行こうとする足が動かなかった。どうしても、心がついていかなかった。 そうして自分が引きこもりになっていったのを見た母親は精神を病み病院へ。もう何も残っていなかった。 そんな時に訪ねてきたのが伊吹だった。無視をし続けてもインターホンは鳴り続ける。先に根を上げたのは自分の方だ。久しぶりに部屋を出て玄関まで。震える手で扉を開けた。 「初めまして、君のお父さんの伝言を伝えに来ました」 伊吹は父が起こした事件を担当した検事だった。どうやら事件が終わっても尚刑務所にいる父に会いに行ってくれているらしい。ちなみに自分は一度も行ったことはない。何を言っていいのか、言ってしまうのか分からないからだ。 伊吹は父からの伝言、といっても「身体は大丈夫か？元気にしてるか？」などの内容のないものだったが、それを伝え終わると少しの雑談の後に帰って行った。もう誰とも関わりたくないと思っていたからちょうどよかった。安堵したのも一瞬。次の日、また次の日と伊吹は家に来た。そして一時間もしないうちに帰っていく。 1ヶ月もすればそれが日常になる。日常になってしまえば疑問も抱かなくなる。伊吹はある日、外に出ようと提案してきた。目的地は徒歩5分のコンビニ。理由はお昼を買いに行くという何ともないもの。断られるなんて1ミリも思ってない顔をするからつい頷いてしまった。上手く誘導されていると頭で分かっていながら拒まなかったのは結局それを望んでいたからだ。三年ぶりに出た外は笑えるくらい心地よかった。 現在は18歳。最寄りから三駅離れたスーパーでバイトをしている。仕事が出来れば辞めさせられることはないのでレジ打ちを極めた。パートのおばさまからは頼りにされてるけど仲良くなれると父親のことがバレる可能性があるので喋らない。将来役に立ちそうな資格を色々勉強してる。

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