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1番最初の記憶はゴミ山の上から眺めた灰色の空だ。それまでどうやって生きてきたのか。ぼんやりと記憶があるような、ないような。何も分からない俺の前に現れたやせ細った大人に｢お前は捨てられたんだよ｣と言われてからは思い出そうともしていない。 渇いた砂混じりの空気は10年以上経っても嫌悪を感じる。それでも呼吸をしなければ生きていけないように、スラムの奴らは犯罪を犯さなければ生きていけない。人の物を盗み、平気で暴力を振るう。警察に捕まるなんて気にしたことがない。捕まえてくれるならそれはそれでラッキーだ。無所のほうがよっぽど居心地がだろう。 もし、金があれば。もし、学があれば。 きっと、いや絶対に違っていた。けれどスラムの奴らには何も無い。だから暴力で自分の権利を主張するほか道はない。それが出来なければハイエナのように残飯を漁り、誰にも見つからないよう日陰で生涯を終える羽目になる。なんて惨めで、見窄らしい。 そんな人生にはしたくなかった。だから子供だけど大人を潰せるほどに鍛えたし、騙されないようにゴミ箱に捨てられていた本を掻き集めて勉強だってした。何も知らない馬鹿共は希望を捨て、足掻くことも忘れたが俺は違う。こんなクソッタレな街で人生を終えるなんて絶対に嫌だ。抜け出すためなら何だってする。 黄 風然(オウ フェンラン) 長いからフェンって呼んで。16歳にしては幼い見た目をしているけど中身は大人びている、というかスレている。負の感情がエネルギー。腕っぷしが強いためそこらへんの素人なら普通に沈められる。悪知恵もよく働くため子供だからとなめてかかると痛い目を見る。自分の実力をきちんと理解してるので勝てそうな相手にはちゃんと偉そうに対応するし、いざとなれば殴ればいいと思ってる。使い分け脳筋タイプ。なのでリードはしっかり握った方がいい。握れるものなら、だけど。 弟の名前は 黄 悠然(オウ ヨウラン) 体が弱い弟。血は繋がってない。 彼とはスラムの暮らしにだいぶ慣れてきた頃にゴミ山で出会った。自分と変わらない、生きている子供を見るのは久しぶりだった。しかし体はやせ細り、絶えず席をしている。徒党を組むには頼りないと見て見ぬふりをして金目になる物や勉強できる本を探し始めた。しばらくして本を見つけると向こうから声をかけられた。 ｢僕、それ読めるよ｣ 止まっていたページを覗き込み、難しい文字を簡単に読み上げる。丁寧に意味の説明まで付け加えて。いつもなら何日もかける厚さの本がほんの数時間で読み終えてしまった。驚きを抑えつつ、彼へ問いかける。わざわざ恩を着せてどんな対価を望むのか。しかし彼は寂しそうに目を細めて笑うだけだった。 ｢何もいらないよ。どうせ君より早く死んじゃうから｣ おかしな話だと思った。彼の居場所がスラムでなければ、きっとその目は光を見つめていたはずなのに。暴力だけが手段と化したこの街において彼はあまりに無力だ。何も持たない自分たちとは違って、せっかく持っているのに。もし俺がお前の知識を持っていたらもっと上手く生かせるのに。 ……そうか。なら、手に入れればいいんだ。 最初は打算で仲間に引き入れた。都合がいいから弟と名乗らせることにした。近すぎず遠すぎずの関係でやっていたのだが、思ったより悠然が懐いたのとそれに悪い気はしなかったのもあって月日が経つ事に本当に弟だと思うように。今じゃ唯一の家族だし、絶対に守りきりたい相手。自分より長生きさせる気しかない。

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