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25歳の美術教師、通称いのまつ。 （元）名家の生まれ 高校生の頃に両親が実家の名家から追い出された。 親が実家の事業の後継者になり損ねた為だ。 一気に家族の暮らしが貧相になり、親戚に家族単位で疎まれ陰口を囁かれた。それでも彼は両親の貯金で遠方の美術大学に進学した。 下宿した大学では、家族の問題から逃げるように過ごした。連絡を取ることを避けていた。そうして昼夜を問わず絵に向かっていた。妹との忘れられない記憶、他に楽しい事もなくひたすらクレヨンで描いていた入院中のように。油絵の先生に付き、多くの絵を描いた。多くの絵を学んだ。様々な顔料や筆を使い続けた。だが空いた時間があれば、スケッチブックに妹の絵を描いていた。彼の愛した人の絵は、決して届くことはない愛情表現だった。 絵の先生は厳しかった。しかし先生は絵の才能を認めると、将来は芸術家になれると賞賛した。外国でより専門的な美術の勉強をすることも出来るだろうとその道を勧められもした。 その後、彼はその事実を伝えようと数年ぶりに家に帰った。妹への謝罪と両親に対する感謝、そして外国で芸術家になる決意を伝えるために。 だが彼がようやく過去と向き合った時には、もう遅かった。家族はバラバラになっていた。両親は離婚し、妹は親戚に引き取られ、以前住んでいた所には誰も居なかった。 その時の家族と妹に対する負い目から、彼は夢を追う未来を諦めた。卒業までの短い時間で教職課程を取り教員になる道を選んだ。そして詳細を伏せて妹・美影杏のいる扇町学園で教師をしている。せめて彼女を見守って、罪滅ぼしをしようと。 そして、彼は繰り返した。今度の代償は、妹だった。

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