タグ： 星空の鍵

``` 大冒険の勲章だとばかりに左腕の肘から先の機械義手を誇示する男、それ以外の生き方であれば野垂れ死にしていたと言われるほど探検家の中の探検家と名高い豪気な人物。酒と煙草をこの上なく愛し、未知と未見をそれ以上に愛する。 ウィリアム・ファイアスタインは石炭産業を主とするイギリスの資産家の父の元で生まれ、家族から相続した遺産を利用して探検に乗り出した。生前の父は相当な文化人であり、彼の大胆な決断が少なくとも今まで彼の命を天秤に捧げ続けられるのは十分な知識の裏打ちがあってのものだ。イギリスの風土が生み出した怪異譚や精霊伝説といったオカルトに対する興味は未海域の霧の奥に息づく実体のない「なにか」への直感となって幾度となく彼を救ってきた。 一度酒が入り、上機嫌に武勇伝を語ってまわる様は伽話から出てきた高名な探検家の様子そのものでさえある。その話が事実であれば、だが。 左腕を失った身の上話から始まる冒険譚は細部が毎度異なり、彼が拠点とする酒場の常連は酒の肴に困ることは無いだろう。それだけならば「ホラ吹き」と渾名が付いてもおかしくないところであるが、確かに彼の名は数々の著名な探検隊にその名を連ねている。オオカミ、トラ、クマ、ヘビ、ワニ、サメ、クジラ、盗賊、数々の危機に幾度となく遭遇してはくぐり抜けてきた記録が公式な探検日誌にも確かにある。左腕を失った南米の密林遺跡探索においては唯一の「まともな」生還者だ。胡散臭い冒険譚の語りは彼自身の経験やノウハウを学ばせないための戦略だと考えている者さえいるのだ。 立派な機械義手は、合衆国の最新鋭の軍事技術の塊だ。左腕を失った探検の後、唯一彼が見たものの情報を手早く求めたのは軍の人間だった。損耗を厭う軍部はウィリアムの生存術もまた貪欲に必要としていた。アーサー・フェイブル大佐とはそれからの知り合いである。大佐と知己のドクター、アレックス・ライズによって手がけられた義手は探検隊随行の軍医としての経験が存分に織り込まれており、高い耐久性や耐湿性、耐腐食性に加えて最新のオートマチックピストルをはじめとしたいくつかの機構が備わっている。 大佐と知り合って意気投合した後は殆どの酒の席の代金を彼に付けている。大佐が行方不明という事は即ち飲み代のアテが行方不明という事であり、遠くないうちに相当量の支払いの取り立てが行われるということになるだろう。探検家の宿命だ、死んでいるなら死んでいるでも構わない。しかしこの酒代を払わなければならないのかどうかが重要なのだ。 ``` 冒涜都市Z

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