タグ： エバの福音

僕になにかが起こるのはいつも冬だ。 冬に生まれ、 冬に白血病が判明し、 冬に死んで、 そして、冬に貴方と出会った。 僕がまだこの世界に居られるのはきっと君の為なんだろう。 都合のいい頭でそう考えている。 長期入院のせいで留年してしまったのも、貴方に出会えた今となっては、良かったことのように思えてしまう。 僕は、生きていた頃から臆病で気弱だった。 どちらがいいと聞かれても選ぶことなんて出来ない、相手に合わせないと何も出来ないような性格。 誰にでも平等で優しいなんて言ってみれば綺麗に聞こえるけど、関わってみれば優柔不断で面倒なだけだろう。 でも、それを咎める人間なんていなかった。僕にはそんな友達すらいなかったのだ。 白血病が判明した後もそれは変わらず、寧ろ酷くなっていたように思う。 病気のことを心配する両親の顔を見て、心配させないようにと笑った。 病院で得られたものと言えば、この愛想笑いと、あとは持て余した時間で読んだ本達の知識くらいか。 僕の目に映る世界は、小説のようだった。 僕以外の人間達が住む世界を見ていた。 それを眺める僕は、傍観者に過ぎない。 読者がどんなにその世界を愛したって、読者は永遠にその世界に住むことは出来ないのだ。 あまりにも皮肉なことに、どうやら僕は死んでから初めて、読んでいた小説の世界に住むことが許されたのだった。 僕のこの世界に対する愛が届いたとか、そんなことを考えるようなロマンチストではない。 僕のこの彼女への想いが、どうか彼女に届きませんように。 1度死んだ僕が望みを叶えたその後など、小説をたくさん読んだ僕には嫌という程分かっている。 未練を晴らしたその後、死人は成仏していくのだ。 勿論、想いが届いたその瞬間、僕はなんとも言えない幸福な感情を得られるだろう。 しかし、僕の想いが届いて、彼女が得られるものとは？ 何も無い。 そう、何も無いのだ。 1度死んだ僕が今こうしていられるのは彼女のおかげだっていうのに、僕が彼女に何かを与えることは、僕が隣にいる限り、決して叶うことはない。 だから、決めたのだ。 僕はせめて、彼女が望むことをしてあげる、もしくは、彼女の幸福だけを願いその手助けをする、そんな存在であろうと。 僕はこの先永遠に、貴方へ恋をしているだろう。 きっと普通の恋ではないんだろう。 世間では、恋は叶えるものらしいからね。 でも、僕は普通ではない。 なんと言っても、１度死んでいるのだから。 だからこそこの恋は、普通でない僕にぴったりだ。 きっとこの世界の誰よりも美しく、魅力的である貴方は、僕以外の誰かと一生を共にするだろうけど、僕がこの恋心を大切に守っていることくらいは、許してくれないかな。

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