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父、母、二卵性双生児の兄が一人の四人家族。兄の名前は叶(のぞむ)。家ではセキセイインコを飼っている。 兄との仲は良くも悪くもない。顔も性格も何一つ似ておらず本人たちにもあまり双子の自覚がない。 兄弟が義務教育を卒業した頃から母は職場復帰し、両親共働きに。穂は習い事も何一つした事がなく、中高を通して帰宅部。人とコミュニケーションは取れるが周囲の輪に溶け込もうという意思が薄く、物心ついた頃から一人行動を好んだ。 自分のテリトリーを何よりも大切にしておりそこに家族含む他者が侵入するのを何よりも嫌っている。服やオモチャ、自らの所有物全てに記名しては間違えて兄の部屋へと送られることがないように気を使っていた。 崎高一家は全員がローテンション。穂も両親の血を濃く受け継いで溌剌とした人柄とは程遠く育つ。 高校生活が始まり進路を意識し始めた頃、兄がいじめに遭い不登校に。放任主義の両親は無理に登校を勧めはしなかったが叶との接し方に困り果てる。穂も何度か兄の部屋を訪ねようとしたが扉が開くことはなく都度追い返された。 穂には将来の夢や目標が特になく、これまで熱くなれた何かも存在せず、取り敢えずは就職先の幅を広げようと大学進学を考えていたが事態は一変する。 ある日、風呂から上がると母に呼び出されリビングへと向かう。そこには叶を含む一家全員が集っていた。何事かと思い席について話を聞けば内容は「叶は自らの性別に長年違和感を抱いており、自身の心が女性であると自覚した。悩みを抱えたまま生きるのが辛い。性転換手術をしに外国へ行きたい。」とのこと。家族全員LGBTへの理解が深いわけでもないが否定的な思考もなく、彼の話を冷静に聞いていたは良いが問題となったのはその費用だ。叶は両親に頭を下げ、どうにか手術費用を工面してくれと頼むべく部屋から出てきたのだ。 共働きであり、兄弟はどちらも習い事も部活動もせずに金銭面にはいくらか余裕があった為不可能ではない。しかしそれを受け入れては穂の将来に使う分がなくなってしまう。 穂は流れる沈黙の理由が自身の進路の件に関連深いと勘づき、「就職希望で提出しているから」と嘘をつく。 それからというもの穂は様々な場所へ職場体験へ行き、社会人のなんたるかを学び、就職組となった。そこで彼は「死ぬほどつまらない」と人生で最大の絶望をする。スーツや作業服、制服に身を纏いPCに向き合うやら毎日同じ作業をひたすらこなして定年退職までを生きると考えると瞬間世界は灰色になった。 崎高穂はこれまで何にも強い関心は抱けなかったが、ここまで強く拒絶反応を示した事もまたなかった。 しかし両親の前で就職宣言をした手前相談出来るわけもなく、教師に伝えては親に情報が漏れかねない。 途方に暮れる中なんとなしに「変わった職業」「色んなことが出来る職業」などと検索する中、声優や俳優といった選択肢と巡り会う。 演技経験のない素人どころか、崎高家では食事時にテレビをつける習慣はなく、穂の自室にもテレビがないため何もかもがわからなかったが物は試しだと足を運んだのはU18限定のオーディションだった。そこでは歌手、俳優、声優、モデルのジャンルを募集しており消去法で俳優を選択し本番に臨む。 渡された台本を読み、聞かれた質問に受け答え、後日結果を待つと物の見事に合格していた。 それどころかグランプリを授与し、即事務所の所属が決まり育成費も全額免除される。 彼には誰も知らなかった演技の才能がある。それが崎高穂自身の自我や信念の薄さこそが何色にも染まりやすいことが功を奏したのかもしれない。 そこからはトントン拍子で出演作品が決まり、注目を浴び、今や20歳にして今を輝く演技派俳優となる。

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