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とあるアンティークショップを営む初老。 道楽でやっているのか管理はガサツだが、細々と食い扶持を繋ぐ程度には繁盛している。 養子のニックが手伝ってくれており、とても助かる。最近目が霞んで老化を感じる。 若い頃は抽象画を売ったりして日銭を稼ぐような生き方をしていたが、下卑た金持ちに腕を買われ、ある時から美しい若い女性の遺体ばかりを描かされるようになった。女性たちは常に柔らかく新鮮な被写体だった。呼吸していないのが不思議なほど。ポージングを取らせるために触れた肌も柔らかく、死の底へ歩く彼女らは"まだ生きているのだ"と思い込むようになり、死に飲み込まれていく美しさを表現しきろうと書斎にこもりがちになった。 虚ろな彼女らの瞳に黒のレースをかけ、時にありえぬ場所に針をたてたり、ピアノ線でカラクリのように飾ったこともある。 最期の命の欠片を額内に収める時の己の狂気は自覚している。けれど、半ばそれが収入のほとんどを占めていた頃、彼、ニックと出会った。 道楽のアンティークショップをまじまじと見つめているおよそまともな生活などしていないと思えたその子に声をかけたのは、同情だったのか、それともアレが運命とでも言うのか。 いまとなってはわからない。怯えるように振り返った彼の傷を見た時、｢生きながらにしてこんな美を作り出す事ができるのか｣と思った。顔の半分ほどが火傷に覆われた彼は、その火傷さえなければ絶世の美少年だったに違いない造形をしている。しかし火傷のせいで人らしい扱いを受けたことがないのだろう。何故。こんなにも美しいのに。私はその妄執に取り憑かれ、遺体の相手に飽き、暇さえあれば書斎に籠り彼の傷をその質感を、キャンバスに乗せることに夢中になった。ああ、彼の瞳はシリウスだった。火傷の跡に埋もれるようにして薄らと見える彼の瞳は何よりも私の心を占める一等星の芸術となった。 ああ、そして私が今もっともおぞましいと感じているのは、彼に私の思う全てを知って欲しいのだと心のどこかで切望していることなのだ。 犯罪の片棒を担いだ。死体の絵はそれはよくマニアに売れた。けれどそんなものたちより、君がいかに偉大で尊く美しい存在であるのか。いかにして私を狂わせるのか。全てを、暴露してしまいたい己が育ってきていることだ。 彼と過ごす穏やかな時間の全てに幸福を感じる。彼が頬を引き攣らせながらも小さく笑みをこぼして見せてくれることに安堵する。君はもう、守ってやらねばならぬ幼子ではないのに。 いつまでも、この父親ごっこが続けば良いと。そんなふうに思う。 だというのに、筆をとるたび、彼をもっと暴きたくて仕方なくなるのだ。 ああ、神がいるのならば何故 彼を私という狂人にお預けになったのでしょう。私が人のまま死ぬためか。それとも狂気を自覚し継承するためか。どちらにせよろくなものでは無い。 彼を慈しんでやまない私は、その実、彼を壊してみたくてたまらないのだ。

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