タグ： □の寿命は明日を告げない

高校までは陸上に明け暮れていた。長距離走者。たまに大会で賞を取るか取らないかくらいの実力。 顔もいいしスポーツもできて勉強もまぁまぁだったのでそれなりにもてた。クラスメイトともそれなりに仲良い。けれど特別仲の良い友人はいなかった。人数が足りないと真っ先に声をかけられる、そんな距離感。 部活では自分のタイムをあげることに拘って誰かと仲良くすることもなく、部活のない日もクラスの友人と寄り道することもない。1人でふらっとゲーセンに寄ってはお菓子の大箱を取って、それから家の近くのコンビニでバイト。それが日常。 日常に不満はない、けれど少しだけ感じていたのは寂しさだった。クラスメイトともバイト先の人とも部員とも、挨拶はする。相手の話す世間話に相槌を打つこともある。だが、俺の話も、たまにはしたいなって。それでネット配信を始めた。 空いた時間に、画面に向かって自分のことを話す。それだけ。たまにきてくれるリスナーがコメントをくれたりして、挨拶して、歌ってみたりして。 そんな中、リクエストにお応えしてやってみた声劇が、人生を変えたように思う。自分以外の誰かになりきる感覚が、俺じゃない誰かの人生を覗く感覚が、楽しかった。面白かった。これだと、思った。 大学で演劇サークルに入って、そこでできた友人に劇団に誘われて。狂ったように演じて、考えて、模索して。団員と他団の公演を見に行ったりして。そのまま朝まで酒を飲みながら演劇談義なんてしたりして。楽しかった。とても楽しかった。だから大学を辞めた。 演劇で食べていきたかった。現実的に難しいことなんてわかっているけれど、それでも他のことをやりたいとも思えなかった。 夜に働いて、昼まで寝て、夜まで劇団で過ごす。空いた時間にふらっと配信をつけてみたりして、ただつらつらと日常を語る。 目をつぶれば直ぐに訪れる明日も、明後日も、明明後日も。このままの日常が続くことを、願ってやまない。 「ん、ん～～！ただいま～。あ、これから仕事？いってらっしゃーい。」 「俺は酒飲んで寝るわ～」 「今日のご飯どーするよー。俺ピザ食いてーわ！クーポン来てたと思うんだよねぇ～」 「今日帰り道に猫がいたのさ！かっわいかったな～、猫飼いて～！」

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