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仕事の下見に訪れた海はあいにくの雨で大荒れだった。履いてきた靴のヒールは砂に埋まるし雨で人気もない砂浜は不気味だと思っていた折り、高波にさらわれ溺れてたところを、偶然通り掛かった真路に助けられたことがきっかけで、真路に一目惚れをした。 人魚のようにしなやかな泳ぎ、何より人を助けることに躊躇のない強かさが七海の胸の奥を掴み取った。 嗚呼まるで人魚姫、この人と一緒に過ごせたらどれほどいいか。 そんな思いからか、その後七海は休暇を使っては海へ訪れ、真路へ猛アピール。 はじめはお礼をしたい、そんな理由から、次に会う約束を取り付けては会いに行った。 出会った日に雨が降っていたこともあってか、その日以降嫌いだった雨が好きになった。 だから、あの日も降ってくれたら良かった、もし降っていたならきっと違った道があったはずだった。 砂浜からまっすぐ海を見守る、真路の真剣な眼差しの美しさが好きだった。 真路と少しでも近づくため、泳ぎを覚えるためスイミングスクールにも通い、海の生物についても勉強した。 「泳ぐ練習をしてるのよ」そう告げた時の驚いて笑った顔が好きだった。 友人という立場を何とか掴んでからは、何度か共に出掛けてウィンドウショッピングに誘い興じた日もあった。 そんな日々が続き、ある日七海からダメもとで告白をした。 「いつか、私のデザインしたウェディングドレスを着て欲しいの……だから、どうか私と付き合ってください」 そんな一言だった。 七海の勢いに押されてか、それとも快く思ってくれたのか、ひとまずお試しで付き合うことになった、そんなダメ元から始まった恋人として遊ぶ初デートの日。 お揃いのワンピースで出かけたあの日。 イヴ=スティルの召喚に巻き込まれた。 大きな正義感から動いた訳じゃない、雨が降ったあの日に救われたようにただ、真路を今度は自分が守りたかった。だから、繋いだ手が離れる刹那、愛する真路が生きてくれることを、ただ願った。 あの日命を救ってくれた愛しい人が、人魚姫のように泡になりませんように。 そう願った。 「真路ちゃんの小麦色の肌にはこっちの色の方が似合うと思うわ！お揃いのワンピ、これ着て次は遊びに行きましょうよ」 「今度、一緒にスキューバダイビングしましょうね！」 どの願いも、叶うことはなかった。

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