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メサイアの咆哮 ＊HO2:秘匿内容 貴方はHO1の●●だ。 三年前にHO1によって高所から突き落され、殺害された記憶がある。 目が覚めた時、自らの身体は車椅子に乗せられていた。 目の前にはHO1が居た。 HO1は貴方が死んだことを、彼自身が貴方を殺したのだということを覚えていないようだ。 貴方は自身が覚えていることを隠し、高所から転落するという『事故』にあって脚が動かなくなったことだけを覚えていることにしている。 彼は貴方を監禁している。 貴方は彼が知らないことを知らないままにしている。 貴方は死んだことを、殺されたことを覚えていないことにしている。 貴方は彼が貴方を殺した理由を知らないままにしている。 貴方は自分の脚が動かない理由を知っている。 貴方は自分の心臓が動いていない理由を知っている。 貴方は死んでいるからだ。 貴方は死にたくなかった。 貴方はHO1に殺されてしまった。 それでいい。 それでもいい。 ただ、彼と共に過ごす時間が必要だ。 彼と共に過ごさなければならないんだ。 貴方は死んでいるし、生きている。 そうして三年が経った。 貴方はHO1を愛してる？憎んでる？ 貴方はHO1を愛しているし、憎んでいる。 ・天繭について 絹衣 文都と中学生から親友。 現在、介護士の彼に介護されながら同居している。 「絹衣、そろそろ桜が咲いた頃だろ。花をみたいから外へ連れてってくれ。無理ならせめて花屋で花を買ってきてくれ。」 「今は気分じゃないからやらないよ。どうしてもというなら絹衣が勝手にしてくれ。」 マイペースで自分のタイミングでしか動かない。周りに対して興味は示すが、動機のほとんどが「物語としてなにか昇華できる要素がないか」である。常に一歩引いた目線で物事を見ており、本人が何を考えているかは読み取りづらい。 花を好み、よく花見をしたがる。花だけではなく、風や日の暮れかたなど、季節によって移ろいでいくものが好き。ぼやっと窓を眺めてることも多い。意外とアウトドア派で、フラッと外出しては、どこかで風景を楽しんで帰ってくるタイプ。 人間の心情を繊細に描写した、人情ものの小説を書くことが得意。 少し良いとこ育ち。お家では華道や茶道に精通した身内が多く、それに影響されてか、芸術的なものに知見がある。多分華道習ってた。 中学校で、クラスメイトとして絹衣と出会っており、意気投合した。中学・高校と文藝部に所属。その後、大学で文系の学部に入学・卒業した後、出版社に勤めつつ、 小説を書き始め たかったのだけど。 大学３年生の時に、絹衣に殺された。 なんでだっけか。絹衣と何かを見に行ったのかも知れない。情景を目に焼き付けていた時、突如背中を押されたのだ。あの、親友の、絹衣に。 なんでだ。 どうして。 自分はまだいきていたかった。 ああ、でも、 こんな美しい風景の中、 空を舞い、 君に殺されるなら 悪くない。 でも、折角なら その胸中を知ってみたい。 何を思って、僕を殺した？ その物語はいったい、どんな結末を迎える？ 君は僕の死を受けて、何を考える？ その物語を僕は知りたい。知るまで死ねない。死にたくない。 生きていたい。 絹衣のことは好きだ。親友として。でも、許されるのなら、その先までも行きたい。その先？なんだろう。まだ名前をつけるには早い気がして、放っておいたままだ。絹衣と美しい風景を見たい。僕が耳を澄ませば、ふと君の吐息や衣擦れが聞こえるような日常を過ごしたい。絹衣がいてくれることが当たり前の、そんな日々を。生きていたかったのに。 絹衣のことは嫌いだ。僕を殺したから。そのくせその事を忘れていやがる。罪を背負うどころか忘れるだなんて、酷い。僕の人生を奪っておいて。僕はもっと美しいものに出会いたかった。世界は広く、到底自分のような小さな存在では探しきれぬほど、美しいものに溢れている筈だ。僕はそれをひとすくいでも多く、自分の中に収めたかった。それなのに。美しいものを取り込むための体を、時間を、命を奪われた。よりにもよって、君に。許せる訳ないだろう。僕のこと、よく知ってた筈なのに。 絹衣のことを愛している。僕を殺したくせにその事を忘れるだなんて、小説じみた現状を作った犯人。その胸中を、この物語の行末を、君の全てを、僕は知りたい。きっとその物語は今まで読んだ物よりも、この先読めたはずであろう物よりも、なによりも、素晴らしいに違いないのだ。全てを知った先に、いったい何があるのだろう？ 天繭が目指しているのは、自分と絹衣の物語の完結。そしてその結末を知ること。絹衣が何を想って自分を殺したのか、この物語の真相は何かを暴くこと。 できることなら、これを遺作として世に放ちたい気持ちもある。単純に、絹衣に対する嫌がらせだけど。 法で裁かれてほしい訳じゃない。 僕を殺した罰を受けてほしいから。本を出せば、今まで過ごした2人の時間も、殺した秘密も、僕の気持ちも、真実も。全部君だけのものではなくなるから。残念だったね、ザマァみろ。僕は君だけの僕じゃなくなる。 楽しみだ。君に、僕が殺されたこと、しかも殺したのは君だということ、全てを伝えたら、一体どんな展開になるのだろう。君は涙を流し、僕に赦しを請うだろうか？それとも死体である僕を捨てるだろうか。 ただ、今はまだその時じゃない。 だって、まだ、 まだ時間がほしい。 仮初でもいいから、自分の命が、時間がほしい。 まだその時じゃない。 君は舞台装置だ。この物語の主人公。親友をその手で殺しながら、そのことを覚えておらず、親友の死体と暮らす、哀れな男。 僕はこの物語を完結させたい。 そのためなら、命を捨て、足を捨て、死体として暮らしたっていい。 なんで僕のことを殺した？ きっと、全てを暴いた後に見る君の顔は、 世界で一番美しい。 最後は桜の木の下に埋めてほしい。 きっと君のために、一等美しい花を咲かせる約束をしよう。 だからね、毎年、 僕を殺したことを、思い出してね。

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