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一人称・私（公の場）、俺（素） 二人称・貴殿（公の場）、貴方（公の場）、貴様（素）、お前（素） 家は貧乏だった。食うにも困る、服も、寝床ですら穴だらけの小屋だった。きょうだいばかり多く、空腹でみんないつも苛ついていた。それでも、アロイスは幸せだった。貧乏で飢えていても、みんなで歌を歌って踊って、笑顔が溢れるたのしい日々だった。 ある時、末のきょうだいの不始末で家が焼けた。アロイスは火傷を負いながらも逃走し、命は助かった。他のきょうだいや親はどうなったかわからない。幼いアロイスは自分のことだけでいっぱいいっぱいだったから。ただ耳に焼き付くのは家族の悲鳴と苦しむ声だけ。忘れてしまおう、と思った。覚えていれば、家族への思いと苦しむ声で己が辛くなるから。元から一人だった、そう思い込むことにした。 火事で顔にも火傷を負ってしまい、髪の毛で隠してはいるが見えるときもあり、醜いと罵られ前以上にまともに食事は摂れない。飢えと疲労と助けてくれない他人への憎しみを抱えながら路地裏で転がっていたところ、アロイスは天使に会った。 オデット。アロイスの天使。アロイスの恩人。すきなひと。 オデットと家族のおかげで飢えから抜け出し、人間としての生活が出来るようになった。幸せだった。暖かな恩人家族と暮らす日々は、アロイスの憎しみで埋まった心を溶かした。 オデットのおかげで生きる喜びと、人を助ける喜びを知った。オデットをほんの少し手助けするだけで、オデットは大げさに喜んで褒めてくれたから。 幸せだった。でも、いつだって幸せが壊れるのは一瞬だ。 家に来た騎士たちによってすべて破壊された。 逃走したがオデットは捕まり、己は選択を迫られ生きることを選んだ。生きたかった。オデットに救われた命を、捨てられなかった。生きていればきっと、またオデットに会えるだろうから。 恩人を処刑した夜、嘔吐した。恩人を、オデットの愛する父を殺してしまったこと。オデットにはもう会えない、と思った。合わせる顔がない。あのやさしい天使に、どうして罪深い己が会えようか。 オデット。アロイスの天使。合わせる顔はない。でも、己の天使が生きているのならば、助けて解放しなければならない。幸せになってほしい。笑顔で生きてほしい。‥…己の罪を、知らないでほしい。 アロイスは人間が嫌いだ。ひとは醜い。顔の美醜や生い立ちで差別する。醜い。嫌いだ。吐き気がする。 でも、いつかくる天使を助け出す日のために、人のいい態度を取るのだ。他人から良い人間だと思われていれば、人は油断して後ろから刺させてくれるから。猫を被る。己の醜い心と罪を覆い隠して。 アロイスは騎士が嫌いだ。幸せを奪ったから。憎い。恨めしい。殺してやりたい。嫌いだ。嫌いだ。死んでしまえばいいと思う。いつか、いつか。時がくれば。ぜんぶ、全員。地獄に堕としてやる。

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