タグ： 嗤う人間師

父さんは刑事だ、いや、刑事だった。 僕は昔から父さんのことが嫌いで、いつもことあるごとに刃向かっては喧嘩になっていた。 父さんは融通がきかなくて、頑固で、僕のやることに口挟んできて、だから、父さんが死んだ日も、最後にした会話は喧嘩で、僕はやるせない気持ちで過ごしていた。 それから5年経ち、夢もやりたいこともなく、ただ無為に高校生として日々を過ごしていた。 ある日僕は決心して、海に飛び込んだ。大西洋を横断しようと思ったんだ。この大西洋を泳ぎ切ることができたなら、自分は成長できる。新しい世界を見ることができるのではないか。 僕はそう思って海に飛び込んだ。 普通の人間ならそんなのは無理だ、ばかばかしいと思うだろう。でも僕はそれを成し遂げられたら、新しい世界に行ける、それを成しえないのなら死んでもいいと思った。大西洋を泳ぎ切れず死ぬのだったらそれでいいと思えた。 どれくらい泳いだのかわからない。何日経ったかわからない。遠くまで来たと思ったが実際はそんなに泳いでもなかったのかもしれない。喉が渇いた。お腹がすいた。体力がない。動くこともできず海の上をただ流されていた。 瞼が重い。目が開けられない。もうここで終わりなのか。そう思ったとき、僕の前に現れたんだ、父さんが。呆気に取られている僕にかまわず父さんは険しい顔をして何かを言った後、僕の頭を優しくなでた。そこで僕の意識は途切れた。 次に意識が戻ったのは船の上だ。どうやら偶然通りがかった船に救助されたらしい。その後病院に運ばれ、周りからはこっぴどく怒られた。 僕があのとき出会った父さんが何を言っていたのわからない。何を言っていたのだろう。 僕は父さんに助けられたんだ。救ってくれた。 ここからは新しい人生を歩もう。僕はあのときの父さんの姿が忘れられない。僕は父さんみたいな刑事になることに決めた。 僕の第二の人生のスタートだ。それが10年前。26歳になった今僕は刑事として事件を捜査している。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 若い僕は決心したんだ。 大西洋を横断すると。 つまり泳げるんだ。泳げるようになったんだ。 人生は回避の連続だ。 泳いでいるとシャチに遭遇した。回避した。 瞬く間にシロナガスクジラに遭遇した。回避した。 するとすぐにジンベエザメに遭遇した。回避した。 こうして僕は回避力を高めたんだ。 否、生きるためには高めなければいけなかったんだ。 運転は紳士となればできなければならない。 そして海でも大地でも僕は自由に舞うんだ。 あまり運転しないが。 そして刑事となればやはり精神分析が不可欠だろう。 なぜかって？かっこいいからだ。 まあ実際、精神分析は興味がある。 罪を犯してしまうような憎き悪党、あいつらの事を倒すにはあいつらのことを分析して善き人間に叩き直してやる。 独学から始めたが、警察の人間のツテで詳しい人間に学んだからかなり自信はある。

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