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2015年芸術家ベース（職業P：EDU*10+POW*10） 大切なもの：絵の具が塗られたガラスの破片 ---------以下、秘匿------------------ （HO） 君は先日病院で余命宣告を受けた。どこに潜んでいたのか、君の体は病に蝕まれていたのだ。 生きれるとしてあと1ヶ月。君は入院を選ばなかった。 今は昔祖父が持っていたという海のよく見える空き家で暮らしている。 それから君は思い入れのある大切なものを持っている。 君の目的は「後悔のないように生きる」ことだ ------------------------------------- 母の顔はほとんど覚えていない。 ただ、優しい人であったこと。よく野菜のスープを作ってくれたこと。リンゴをうさぎの形に剥くのは下手だったこと。 それから、自分と父を心から愛してくれていたことだけを覚えている。 幼い頃から絵を描くのが好きだった。ただしこれも、父に言わせれば母の影響らしい。 学生の頃は美術部だったという母の描いた絵はほとんど家に残っていなかったが、 母と自分が共に描いた落書きのような絵や、拙い作品だけはいくつか倉庫に居場所を置いていた。 そのグラスは、母と自分がはじめて一緒に作ったもの。らしい。 らしいというのは、当の息子には記憶がないこと。それから、作ったといっても既存のグラスに絵付けしただけのものだったからだ。 それでも、そのグラスを母は大層大事にしていたようで、自分でも薄っすら「大事なものらしい」という認識はあった。 だから小学四年生の頃、倉庫を掃除していたとき、うっかり箒の柄を引っかけて落としたグラスが地面で無残に割れてしまって その瞬間まではほとんど忘れていたにも関わらず、ひどく大切なものを失ってしまったような気持ちになった。 罪悪感と喪失感に苛まれながら父に相談し、一番大きな破片の端をやすってシーグラスのようにして貰った。 それから海月は、おおきな理由があるでもないが、その破片が何よりも大切になった。 母は病弱な人だったらしい。だからというわけかは知らないが、余命僅かと告げられても、なんだかすとんと納得してしまった。 或いは、そんなことにすら死んだ母とのつながりが感じられたのかもしれない。 ささいなきっかけで、一瞬のうちに割れてしまうグラスがあるのだから、一か月の猶予がある自分はむしろ幸福なのではないだろうか。 そんなことを考えながら、待鳥海月は満たされた日々を生きている。

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