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「山川千夏。あー……指導とか、そういうの得意じゃないし、風太郎に聞いてよ」 ダウナークール系だけど砲丸投げをする時は熱くてかっこいい！と、後輩から噂。 昔は風花ちゃんと本っ当に仲が悪くて「からっぽのっぽ」と「屁理屈チビ」なんて呼びあっていた。今は愛想の悪い千夏でも「風太郎？親友、かな」と言えるくらいなかよし。部活で風花ちゃんが部長、千夏が副部長してた。 めちゃくちゃ美形じゃないけどクールで大人っぽい千夏と明るくて可愛い風太郎と並んだ時に身長の差でバグってしまう部員がいるとかいないとか。小さいことがちょっとコンプレックス 舐められないように合気道も習った。 夢は医学療法士なので医学をちょっと齧ってる。鼻がよく効くため部室で放置されたタオルとか嗅いで「○○、お前のタオルだろこれ」誰か判断できるぞ！ 【山川千夏の思い出】 ・中学校のころの夏休み友達に家に泊まりに行くと書置きし誰にも内緒で自転車県内一周の旅をした。暑い日差しを受けながら自転車をこいでこいでふらりと旅に出たことがある。自分の力を試したかったんだと思う。ふと登れそうな山を見つけ頂上まで登ってみた。木の影が体を冷やしてくれる感覚があって、頂上から見た景色がとても綺麗だったのを覚えている。なんとなくそれから「家に帰ろう」と帰った。木陰の涼しさも最高だったがやっぱりクーラーには勝てないなと思った。 ・部活をしているときは勉強面に本気を出さなかった千夏。赤点を取らない微妙なラインを維持していたが風太郎に「そんなんじゃおんなじ大学にはいれないよ～！もっと頑張って。教えるからさ」と結構ガチな勉強会をしたことがある。自頭のいい山川はちょっと教えてもらったことにより学年トップ10に入ることができた。風太郎にどや顔したら少しどつかれた。痛かったけどおもしろかった。教えてもらったお礼にイチゴ牛乳をおごったら喜んでいた。 ・実は一か月だけ彼氏がいたことがある。二個上の先輩で在学中には特に何もなかった二人だったが、山川が高2の時にたまたまばったり会って付き合った。大学生の先輩は大人っぽくなっててすごく素敵だったが部屋に二人きりになったとき行為を迫られて断ったことでわかれている。この件に関しては男を見る目がなかったなと反省している。あんまりにもクソみたいな出来事だったため誰にも話していない。 【風太郎との思い出】 ・グラウンドの利用面積を争って「からっぽのっぽ」「屁理屈チビ」と言い合う中学時代の風太郎と山川。どうしても決まらないときはじゃんけんで決めた。 ・山川は風太郎の陸上に対する姿勢に懐疑的で、風太郎は山川の場の雰囲気を悪くするところが嫌いだった。そんなとき、風太郎が他校のライバルに僅差で負ける。皆の前では「負けちゃった～。次がんばります！」と笑っていた風太郎だったが、会場裏に隠れて嗚咽を漏らして泣いていた。そこを山川に見つかる。こいつ泣けるんだ、と山川は驚く。が、「泣くくらいだったら本気でやれや」と声をかけ、風太郎は激昂して「本気でやってる！！　皆本気でやってんだよ！！」と山川に掴みかかる。「なんだよ！！　いっつもヘラヘラしてる癖に！」「そっちこそいつも不機嫌まき散らしてる癖に！」「不機嫌じゃねえ！　真面目にやったら他は皆敵だろうが！　仲良しごっこして競技が上手くなんのかよ！」「ごっこってなんだよ！　仲間と仲良くして何が悪いんだ！」とキャットファイトになる。これはふたりのいつもの喧嘩ではなく、初めての本気の喧嘩だった。本音をぶつけ合ったふたりは、風太郎は山川のストイックなところに、山川は風太郎の社交的なところに、それぞれ憧れを持っていたと理解する。そして、この事件をきっかけに仲良くなった。 ・山川が馴れ合いを嫌っていることを気にしている風太郎。もっと山川のいいところをいっぱい皆に知ってほしいと思った風太郎は「陸部のみんなともっとコミュニケーションとりなよ～」と山川と肩を組もうとする。しかし、たまたま虫の居所が悪かった山川は風太郎の手を払い、「お前のそういういい子ちゃんぶってるところ、嫌い」と言い放つ。そこから大喧嘩に発展するふたり。激しく罵り合い、口を利かなくなる。ふたりとも、なんでこんな喧嘩しちゃったんだろうとだんだん後悔するも互いにきっかけがなくずるずると日々が過ぎる。そんな一週間がたった放課後、ふたりでよく行くドーナツ屋さんで鉢合わせ。そして、山川の前に並んでいた風太郎が山川の好きなドーナツを全部買い占めて逃げる。「はあ！？　ふざけんな風太郎！！　おい待て！！」と風太郎を追いかける山川。二人の距離が近づき、追いついたところで、肩をつかまれた風太郎が勢いよく買い占めたドーナツを山川に差し出す。「ごめん、ごめんやまかわぁぁぁ」とぼろぼろ泣く風太郎。仲直りした。 ・高校最後の県大会でうちは準優勝した。これが、本気の本気だった。コンディションもいいし気持ちでだって負けていなかった。でも負けたのだ。自分にはこれ以上の力をこの世界で出すことができないとうすうす気づいてはいた。それから目をそらすように人とのなれ合いを避けてどこまでもストイックに練習を続けてきたんだ。結局それは風太郎に壊されてしまったのだが。でも一人でやった時より何千倍もいい練習が出来ていた。 ーー負けた。悔しかった、陸上で日本代表に世界に行ってみたかった。風太郎みたく県大会で優勝して県代表に選ばれたかった。大会で記録を残し続けられる選手になりたかった。でももう無理みたいだ。悲しくて悲しくてもうスポーツにかかわるのはやめようかと思ったその時だった。 「やまかわ～！！自己ベスト更新と準優勝おめでとう～～！！」 風太郎の明るい声がした。飛び跳ねて喜んだ。山川に抱きついて、泣いて、おめでとうっていっぱい言ってくれた。 準優勝じゃん、しかもなんで泣くんだよといつもみたいに皮肉めいた感じで言おうと思ったが、自分のことのように喜んでくれた風太郎の顔を見るとなんだが胸の奥のドロッとした感情がなくなっていた。 「ありが・・・・・は！？風太郎！？」 不意に、ぐらっと倒れる風太郎。どうやら大会中水をほぼ飲んでいなかったらしい。熱中症になった風太郎はベンチに寝そべって介抱されることに。 「ばか太郎」 風太郎のおかげで陸上で頑張ることはあきらめた。けれどこれは悪いものじゃなくて次に進むための選択だった。やっぱり、スポーツはいいものだ。うちも風太郎みたいに頑張ってきた選手を支えられるような人になれたらなぁと医学療法士を目指すことにした。 まずは勉強頑張ろうっと。 ～胴棲～ きっと明日もいい日だって。だってここには何でもそろっている。いや、何でもは言い過ぎかも。それでも大好きな友達がいればなんだっていいのだ。

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