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クトゥルフ PC作成ツール
氷渡 ハルトル
ID:4805981
MD:e7e10432d59bbbbacb91487f8d3db077
氷渡 ハルトル
タグ:
ひわたり
はるとる
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生まれ・能力値
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その他増加分
一時的増減
現在値
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APP
SIZ
INT
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初期
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アイ
デア
幸運
知識
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SAN
現在SAN値
/
(不定領域:
)
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簡易表示
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技能
職業P
/
(うち追加分:
)
興味P
/
(うち追加分:
)
表示
初期値の技能を隠す
複数回成長モード
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通常表示
<戦闘技能>
成長
戦闘技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
回避
キック
組み付き
こぶし(パンチ)
頭突き
投擲
マーシャルアーツ
拳銃
サブマシンガン
ショットガン
マシンガン
ライフル
非表示
簡易表示
通常表示
<探索技能>
成長
探索技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
応急手当
鍵開け
隠す
隠れる
聞き耳
忍び歩き
写真術
精神分析
追跡
登攀
図書館
目星
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通常表示
<行動技能>
成長
行動技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
運転(
)
機械修理
重機械操作
乗馬
水泳
製作(
)
操縦(
)
跳躍
電気修理
ナビゲート
変装
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通常表示
<交渉技能>
成長
交渉技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
言いくるめ
信用
説得
値切り
母国語(
)
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通常表示
<知識技能>
成長
知識技能
初期値
職業P
興味P
成長分
その他
合計
医学
オカルト
化学
クトゥルフ神話
芸術(
)
経理
考古学
コンピューター
心理学
人類学
生物学
地質学
電子工学
天文学
博物学
物理学
法律
薬学
歴史
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戦闘・武器・防具
ダメージボーナス:
名前
成功率
ダメージ
射程
攻撃回数
装弾数
耐久力
その他
%
%
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所持品・所持金
名称
単価
個
価格
効果・備考など
価格総計
現在の所持金:
、 預金・借金:
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通常表示
パーソナルデータ
キャラクター名
タグ
職業
年齢
性別
身長
体重
出身
髪の色
瞳の色
肌の色
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その他メモ
アイスランド人の母親と日本人の父親を持つハーフ。 母親の血が濃く出た外見をしているが日本で生まれ育ったので母親の母国語は話せない。 手先がそこまで器用ではなく、学生時代に病院勤めは厳しいだろうと自ら判断し、医療関係から学校の保健医に進路をシフトした。 日本人離れした色素の薄い容姿と高い体躯のせいで毎年新入生に英語の先生と間違われてしまう。一人一人に訂正するのが面倒なので新年度の先生紹介で紹介してくれないかなぁと思っている。 学校には愛車のKawasaki W800に乗って通勤しているが、大型二輪を乗りこなす北欧人ハーフの絵面が海外ドラマのワンシーンみたいで格好良すぎると男子生徒にこっそり憧れられている。 赴任したばかりの頃バイク通勤する氷渡に憧れた不良男子生徒達がバイクに乗ろうとする事件が続出し、そのせいで上層部からは教育に悪いと目をつけられており目立つ風貌も相俟って嫌味を言ってくる人もいる。しかし人を見かけで判断している時点で教育者として信用ならないと、そういった意見は一蹴していたりするので結構マイペースな性格をしている。 容姿のせいで冷たい印象を持たせてしまうことに加え、赴任当初校長や教頭と揉めた際は拳一つでねじ伏せて黙らせた(実際は「生徒の行動と俺の通勤スタイルに何の因果関係があるんですか?」と論破しただけ)等のない事ばかりの噂が立ってしまい大抵の生徒はケガをしない限り保健室にあまり寄り付かず、不良たちもビビッて溜まり場にしていない。 実際は話すと気さくな性格をしているので、懐いた生徒たちは度々保健室に遊びに来ては氷渡と話をしたり勉強を教えてもらったりとのんびり過ごしている。 遊びに来た生徒用にこっそり戸棚に御茶の詰め合わせやインスタントココアなどの備蓄を隠している。生徒から預かったお菓子等を冷蔵庫に隠してくれているなどルールに対して少しおおらか過ぎるきらいがあるが、保健室に相談しにくる生徒の心身の状況を考えて、ちょっとくらい息抜きで出来るひと時が必要だろうと多めに見てあげているだけ。 食品は許してくれるけど玩具やゲーム、漫画などの娯楽品は揉め事の原因になるからと学校への持ち込みを許していないが、保健室に通う生徒は素直に聞いてくれているらしい。 偶に上の人が視察に来たときは顔には出さないが食べ物が見つからないかハラハラしながら対応しているが、いざ見つかると「自分用ですよ」と真顔ですっとぼけてやり過ごしている。そのせいで周囲からは甘党と勘違いされているが、甘いものはそんなに得意ではない。 ―――――――――― 現在は色々あり教師を辞めて日本各地をバイクで旅行中。 愛する人と一緒に幸せハッピーライフを送っているらしい。 ■秘匿HO 父親が母親の母国に海外出張した際に出会い、母に一目惚れした父の猛アタックにより母親と結婚したらしい。 母親は日本に来てから氷渡を産んだが、父親が出張の多い人だった為に母親は日本の狭いコミュニティでほぼ一人で氷渡を育てることになってしまった。 英語は話せても日本語は達者では無かった母は上手く周囲に溶け込めず、次第に育児ノイローゼになってしまう。そして氷渡が4歳の時、我慢の限界が来てしまった母親はついに先生に手を上げてしまった。 ただ母親に遊んでほしくて声を掛けただけだったのだが、それでも母親の琴線に触れてしまったのだろう。初めて打たれて何が起きたのか理解出来なかった氷渡が段々と頬に走る痛みに大声を上げて泣き出すと、母親も自分の過ちに直ぐに気付き瘦せこけた頬に大粒の涙を流しながら「ごめんね、ごめんね」と先生に謝りながら抱き締めた。 母親は父親が帰ってきた夜、もう日本では暮らせない、一人で育児は出来ない、息子に手を上げてしまって母親失格だと嗚咽交じりに零す。それを聞いた父親はずっと母親に謝っていた。 守ってやれなくてごめんと、君一人に任せてしまった自分の責任だと、限界まで追い込まれてしまった妻に気付けなかった自分の不甲斐なさに涙しながら抱き締めていた。 父親が泣いていたのは後にも先にもあの時だけだった。 幼い氷渡は扉の隙間から二人の様子を窺うことしか出来なかったが、漠然と母親が何処か遠くに行ってしまうのだと子供心ながらに悟ってしまう。 そして母親は息子と夫を置いて国へと帰り、残された父親は男手一つで先生を育てることになった。 出張続きの父親について各地を転々とする生活になったが、忙しい合間を縫いつつ氷渡が寂しくならないように色んなことを教えてくれた。 休みの日になると、本当は危ないからやっちゃだめだけどなと言いつつ氷渡を後ろに乗せてバイクを走らせてくれた。 昔母さんを乗せて走ったものだと、バイクに乗る度に昔を懐かしむように語る父親の背中に捕まりながら、氷渡はその話を聞くのが好きだった。自分もいつか父さんみたいに好きな人を乗せて走る日が来るのかなと期待に胸を膨らませた。 しかし氷渡が中学の時、過労で弱った体に流行り病を拾ってしまった父親はあっという間に死んでしまう。 葬式の時に初めて父親の親族に会ったが、皆一様に先生を遠巻きに見ながら声を潜めて両親のことを貶めるような話をしていた。 その話が耳に入ると、ああ、俺はこの人達の中に受け入れられることはないのだと瞬時に理解したし予想通り親戚は氷渡を誰が引き取るかをずっと揉めていた。 そして父親の姉だという人の家に住むことになったが腫物のように扱われ、暫くしてその家の子供と喧嘩をしてしまい、別の親戚に引き取られることになった。 父親のバイクに乗って事故を起こされたのだ。その家の子供は無事だったがいつか自分が引き継ぐのだと決めていた遺品を壊され、頭に血が上った氷渡は子供が泣いて謝ってもその言葉を無視し、周りの親族が止めるまで殴り続けた。 そのせいで、代わる代わる親族達の家に引き取られる度に怯えられ、互いに干渉しないように距離をとって生活をするようになった。 早く自立したかった氷渡は高校生からバイトと学業に明け暮れる日を過ごし、深く人と関わることをせずに成長をした。 そのせいで大学進学後も上辺だけの付き合いをするようになり、腹を割って話せるような人物が現れることはなかった。 医療関係の大学を選んだのは病気で死んだ父に対し、何もしてやれなかった幼かった自分が許せなかった為だ。 父の「大好きな人が出来たら大切にしてあげるんだよ」という言葉を胸に、いつか大切な人が病気で苦しむことがあった時、何も出来ない自分がいないように医療の心得を学んだ。 しかし大学卒業後、養護教諭になり環境が変わっても父の言う大切な人に出会える気配は微塵にも感じられなかった。 このまま自分は誰とも心を通わせることなく生きていくのだろうか。 そう漠然と思いながら日々を消費するように生きていたが当時一年生だった一人の少女、美影杏に出会い世界が変わる。 始めは居場所が無くて保健室に訪れる一生徒の一人としか認識していなかった。他の生徒と同じように話を聞き、少しでも穏やかな生活が送れるように背中を押してあげればいいだろうと、そこまで気にも留めるような生徒ではなかった。 しかし、師走が近づいた11月の夜、公園で一人過ごす美影を救ったことで二人の関係は進展する。 自分を愛してくれる存在に出会えた二人だが、教師と生徒という関係が世間では許されないことは理解していた。その為誰にも気付かれないように密かに愛を育んだ。 柔らかい赤みを帯びた日差しが差す放課後の保健室で、東の空に薄明るい光が広がり始める街の中をこっそり家を抜け出しては二人でバイクに乗り逢瀬を重ねた。 今はまだ狭い世界の中でしか生きて行けない自分達だが、少しでも長く一緒に居たいと、ただそれだけを願いながら時間を共有した。 美影が健やかに成長していく姿を見るのが何よりも嬉しかった。 彼女が笑顔を見せてくれるだけで幸せだった。 だからずっと彼女の傍に居ると誓ったのだ。 もっと杏に、いろんな世界を見せてあげたかった。 ―――――――――― 氷渡が帰路に就けたのは午後10時もすっかり過ぎた頃だった。二学期の期末テストが終わり、その採点作業やら成績処理に追われていたのだ。 養護教諭なので担当科目は持っていないが、せっせと机に向かい答案と睨み合っている同僚達を横目に一足先に帰ることが憚られてしまい結局最後まで手伝ってしまった。 同僚達に頭を下げられながら学校を出て、愛車のW800を走らせるが早く帰りたい時に限って信号は赤になるものだ。今更ながら疲労感に襲われて、はあと漏れた溜息はバイクのエンジン音に掻き消された。 信号待ちの間、何気なく視線を交差点の先にある公園に向けた。昼間なら子供達の遊ぶ声や笑い声で溢れているだろう場所だが、夜になると一転して不気味な雰囲気に包まれる。街灯の少ない道だから尚更だ。 そこにポツンとベンチに座る1人の人影を見つけた。 こんな時間にあんな場所で何をしているのか。不審な気持ちで目を凝らすと、それが年端も行かぬ少女だと分かった。線の細い、まだ成長途中であろう薄い肩を丸めるようにして俯いている。 氷渡はその姿に見覚えがあった。度々保健室に訪れてはベッドに座り、背中を丸めながらまだ床に届かない足を揺らしぽつぽつと他愛もない話をする一年生の少女にそっくりだった。 「……美影」 氷渡が小さく呟くと同時に信号が変わったようでバイクのエンジンが掛かり、排気音が響く。 それに気付いた彼女が顔を上げてこちらを見た。ヘルメットに覆われた状態で見つめていたせいで怯えた表情を浮かべているように見えた。氷渡は慌ててバイクを公園の入り口に停めて降りるとヘルメットを脱いで駆け寄った。 杏は街灯に照らされた男が自分の通う学校の、そして自分の話を真摯に聞いてくれる保健医だとわかると「……先生」と呟きホッと息をついた。 しかし、安堵の表情は次第に曇り眉を顰めて再び俯いてしまう。よくよく杏の姿を見てみると冬の足音が聞こえてくる11月には相応しくない、上着も着ずに家を飛び出してきたような薄手の服装をしていた。微かに体を震わせ、頬や鼻先は寒さのせいで赤くなっていた。 どうしてこんな時間に一人でいるのかと、疑問を投げかけそうになったが保健室で彼女から聞いていた身の上話が頭を過ぎり咄嗟に口を噤んでしまう。 そして暫しの巡考の後、氷渡は羽織っていたジャケットをその小さな肩にそっと掛けると近くの自動販売機に向かって歩いていった。 杏は突然掛けられた温もりに驚き、ぱちりと瞬かせた瞳をそちらに向ける。自販機からガコン、ガコンと金属がぶつかる音が鳴り、戻ってきた氷渡は「ほら」と膝に置かれていた手に温かい缶を握らせた。 ラベルを見ると『お汁粉』と書かれており、思わず「……こういう時はココアとかじゃないんですか?」と不満気な声を漏らし杏が見上げると氷渡は僅かに口角を上げて「冗談だって、ほらこっちの方が好きだろ?」と自分が持っていた缶と取り換えた。もう一度手元に目線をやるとそれは正真正銘のココアの缶で、保健室に行くと「……皆には内緒」と氷渡がこっそり淹れてくれる杏の好きな銘柄だった。 ドカリと人間一人分のスペースを空けて杏の隣に座ると徐にお汁粉のプルタブを開けて一口飲んだ。「……あっま」と不満を漏らしながらも喉に流し込んでいく。 そして半分ほど飲んで杏の方に目線を向けると「……で、家には帰らなくていいのか?」と漸く疑問を投げかけた。その言葉に杏は手元の缶を指先が白くなる程握りこむと、「……帰りたくない」と声を震わせて絞り出すように言った。それから少しの間沈黙が続いた。 遠くを走る車やバイクの音、木枯らしが吹きすさぶ音だけが二人の耳に届く。すっかり夜も更けた。このまま外にいたら杏は補導対象として連れていかれてしまうだろう。大人として、そして子供を正しい道へ導く教師として、ここでの正しい選択肢は“杏を家へ送り届ける”を選ばなければいけない。 しかし、その提案を口にしようとすると過去の自分が待ったをかけるのだ。 杏の姿が、過去の自分と重なる。誰にも縋ることが出来ず孤独に苛まれ、このまま夜の闇に溶けてしまえたらどんなにいいかと、自暴自棄になって家を飛び出しては自分の変わらない環境に何度も涙をこぼし絶望していた幼い自分を見ているようだった。 先程の杏の言葉が『たすけて』と音を変えて耳に流れ込んできた気がして、泣いていない杏の頬に涙が伝っているように錯覚した。 氷渡は缶の中身を一息に飲み切ると自販機の傍のくず入れに向かって放り投げる。空き缶は放物線を描きながら吸い込まれるように中に入る。積み上がっていた空き缶にぶつかり軽い音を立てたことに笑みを浮かべると、杏の右手を取って立ち上がった。 急に引っ張られたことでふらついた杏はそのまま氷渡の胸の中に飛び込んでしまう。 自分をしっかりと受け止めてくれる厚い胸板、包む様に抱き寄せてくれた腕が意外に太くしっかりとしていることなんて、白衣を着た普段の姿からは想像したことのない杏は、初めて氷渡が大人の男性なのだと思い知らされてどきりと胸が跳ねた。 とくとくと耳に当たる氷渡の鼓動に耳を傾けるとじわじわと頬に熱が集まっていく。そして氷渡の刻むリズムより早く高鳴っていく自分の鼓動を悟られたくなくて慌てて腕の中から飛び出すと、「せっ、せんせい!?」と声をひっくり返し氷渡の顔を見上げた。 氷渡はそんな杏の様子に小さく笑みを零すと「行くぞ」と言って杏の手を引いて歩き出した。手を引かれるがまま杏は氷渡の大きな背中について行く。 氷渡のバイクの傍まで来ると「これ被って」と、ヘルメットを渡される。恐る恐る被ったフルフェイスヘルメットは少女の杏には大き過ぎて重心が安定せず頭がぐらついた。氷渡は苦笑いを浮かべながら顎のベルトを調整してやり出来るだけ密着するように調節する。 首に氷渡の指先が触れるとまた胸がどきんと大きく脈打ち、杏は落ち着かない様子で握ったままだったココア缶をぎゅっと握り込んだ。 上手く装着出来たようで氷渡はぽんぽんとヘルメット越しに杏の頭を撫でる。そしてバイクに跨ると「よし、それじゃあどこに行こうか」と杏に問いかけた。 「えっ?」 思いがけない言葉に思わず杏は目を丸くさせた。てっきり自分を家に送り返すものだと思っていたからだ。 「私を家に送るんじゃないですか?」 「家に帰るのが嫌って美影が言ったんじゃないか。だったらどこか別の場所に行こう、明日は土曜日だし丁度いいだろう」 「……教師としてそんな提案して大丈夫なんですか?」 「まあ、教師失格だろうな」と柳眉を下げながら笑う先生に杏は呆れた表情を向けた。 「でも、俺個人としては苦しそうにしている美影を家には返したくない」 氷渡はそう言うとパッセンジャーシートを叩き、「ほら、早く乗って」と杏に促す。杏は暫く迷うように視線を彷徨わせていたが、やがて覚悟を決めたのか手に持っていた缶を氷渡から借りた上着のポケットに入れると勢いよく跨り腰を下ろした。 氷渡の腰に両手を回しギュッとしがみつく。氷渡は緊張で強張る杏の様子が微笑ましくて「バイク乗るの初めてか?」とケラケラ笑いながら聞くと、「……悪いですか?」と少し拗ねたような声が返ってきた。 「いや、悪くないよ」と答えるとクラッチを切ってギアを切り替える。 「俺も後ろに人乗せるの初めてだからさ」 振り返って杏に微笑みながら告げると、そのままレバーをゆっくりと離していきバイクを発進させた。夜の冷たい風が頬を撫ぜ、二人の髪を靡かせる。 スロットルをひねる度にエンジンの振動が伝わってきて全身で浴びる風と共に杏の心に巣食っていた不安を攫ってくれるような気がした。 杏は今まで生きてきた中でこんなにも速く流れる景色を見たことがなかった。いつも見慣れた街並みも、月明かりに照らされてまるで知らない街に来たかのような錯覚を覚えてしまう。 氷渡が運転するこの大きな乗り物に乗っていると、今だけは自分が世界の中心になったような、自分が主人公になれたような気持ちになった。 思わず「あははっ!」と大口を開けて声を上げてしまう。久しぶりに心の底から笑えた気がして、杏はそれが楽しくて仕方がなかった。 「先生!もっと飛ばしてください!!」 「おっ、元気が出てきたな。でもまだ行き先決めてないから飛ばせないぞ?」 「じゃあ、星が見えるところ!高台行きたい!!」 「よし分かった」と氷渡は頷くと、再びエンジンを吹かしアクセルグリップを強く捻り加速した。ぐんぐんとバイクが走る中、杏はヘルメット越しにコツリと先生の背中に額を当てる。 ああ、本当は行き先なんて何処でもよかった。氷渡が連れて行ってくれる場所なら、杏は何だって楽しめる自信があった。 ずっと闇に埋もれているようで息苦しい毎日だった。ずっとひとりぼっちで寂しくて堪らなかった。そんな自分を見つけてくれた氷渡に恋に落ちるのは、杏にとって必然だったのかもしれない。 そして、氷渡もまた自分の腰に回された温もりに胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。今まで人との触れ合いでこんなにも満たされたことがあっただろうか。この子を守りたい。この笑顔を曇らせたくない。そして願わくば、自分の隣で笑っていて欲しいと強く思った。 互いに芽吹き始めた恋心を胸に秘め、二人を乗せたバイクは夜の街を駆け抜けていった。 先生と生徒という関係は、二人の気持ちを育むにはあまりに障害が多かった。 教師である以上、自分はその立場を捨てることなど出来ない。けれど、だからといって諦められるほど大人でもなかった。それに、保健室で過ごす杏から送られる視線に、自分と同じ感情が込められていることにも気付いていた。 漸く見つけた、自分を愛してくれる存在がこんなにも手の届きそうな距離にいるのに、その手を伸ばすことを躊躇ってしまう。杏の未来を思えばそこ、自分と付き合うことなどあってはならないことだと分かっている。結ばれることはないのだと自分を戒め、膨れ上がって抑えられそうにない感情は心の奥底に仕舞ってしまおう。そう決意し、保健室に訪れる杏に自分の気持ちがばれてしまわない様に隠しながら、普段通りに接するよう努めた。 二人の小さな逃避行から月日は流れ大寒も過ぎた1月の保健室。窓の外は雪がちらつく寒さだというのに、その日も杏は保健室に訪れていた。未だに現役の大型石油ストーブの熱で制服から覗くむき出しの足を温めながら、机に向かい日誌を纏める氷渡に最近の出来事を声を弾ませながら話していた。氷渡は相槌を打ちながら、時折ペンを走らせる手を休めて杏の話に耳を傾けてくれた。 皆の先生を独り占め出来ている、杏は鼻筋の通った横顔を見つめながら自分の中の独占欲が満たされていくと共に胸の奥がきゅうと切なく締め付けられる感覚になる。 回転式の丸椅子に座る杏が座面を回すように動くとパイプからキシリと音がする。杏は雲の隙間から差す西日に照らされた白衣を眺めながら「……先生」と、静かな声で呼び掛けた。 「どうした?」 振り返って杏の様子を伺うと、スカートのプリーツに皺が寄る程にぎゅっと握り締めて俯きながら眉根を寄せていた。そして顔を上げた杏の瞳に自分と同じ熱が揺らめいており、視線が交わると火花が散ったかのような感覚が走り、胸の奥で鍵をかけた感情がどくりと音を立てた。 「先生、好きです」 芯のある、透き通った声だった。氷渡は一瞬目を見開くと、やがてゆっくりと瞼を閉じて小さく溜息をついた。 「それは、どういう意味で?」 「勿論、異性としてです」 「……そうか」 氷渡は被りを振ると、困ったように微笑み杏の頭を優しく撫でた。そしてこんな時が来てしまった時の為にと、あらかじめ用意していた言葉を告げた。 「ごめんな、先生は美影の気持ちに応えてやれない」 「……」 「でも、ありがとう、気持ちは嬉しかった。……ほら、もう下校時刻だ早く帰りな」 氷渡は杏の頭から手を離すと再び机に向かい日誌の続きに取り掛かる。 上手く取り繕えていただろうか。背中で隠したペンを持つ手は震え、心臓が心拍数を上げて痛かった。 壁に掛けられた時計の秒針の音が厭に響く。沈黙が二人の空間を支配する。 すると突然、杏が勢いよく立ち上がり氷渡の腕を掴んだ。 「先生、私じゃ本当に駄目ですか!?」 「…………」 「私が中学生で、貴方が先生だから好きになっちゃ駄目なの?……そんな理由で私の気持ちを否定しないで!!」 今まで聞いたことない声量で杏が叫ぶ。普段から物静かな生徒でこの部屋で会話している時に笑い声を上げても、ここまで腹の底から押し出したような声を出しているのを見たことがなかった。 先生は驚きながらも、必死に想いをぶつけてくる杏の様子に罪悪感を覚えて目を伏せた。 「先生、私は本気です!……っ本気なんだよ」 杏は氷渡の肩口にすがりつき、額をあてるとそのままずるりと膝を折るように床に座り込んだ。氷渡は慌てて椅子から立ち上がり、杏の前にしゃがみ込むとそっと背中に手を添えて抱き締めた。嗚咽を漏らしながら泣き崩れる杏に掛ける言葉が見つからず、氷渡はただ黙って背中をさするしかなかった。 「……好きじゃないなら、やさしくしないでっ……」 その声は今にも消え入りそうな程に弱々しく、苦しげに吐き出されたものだった。 その一言に、氷渡はぐちゃぐちゃになった感情のままに杏を掻き抱いた。そして、自分の腕の中で涙を流す少女に心からの愛しさを感じながら、同時に己の愚かさを呪った。 この子を泣かせたい訳ではないのに、真逆の事を仕出かした自分に怒りすら覚えた。けれど、それ以上に杏への気持ちを抑えることが出来なかった。氷渡は覚悟を決めると、ゆっくりと口を開いた。 「俺は教師だから、美影に我慢させてばかりになるかもしれないぞ」 「……先生?」 杏は涙で濡れた頬をそのままに、きょとんとした表情で氷渡の顔を見つめる。氷渡はその様子を見つめ返しながら苦笑し、「あー……、つまりだな」と言い淀むように言葉を詰まらせるが、やがて決心がついたのか杏の左手を掬うように取ると指を絡めながら涙できらきらと瞬く瞳を覗き込んだ。 「俺も美影と同じ気持ちなんだ。だけど、俺たちは教師と生徒で、世間は俺たちの関係を許してくれない。……同世代の子とするような自由な恋愛はさせてあげられない。それでも、俺と一緒にいてくれるか?」 氷渡の言葉に杏は目を見開いた。そして、握られた手にきゅっと力を込めて「……はい」と涙混じりに微笑んだ。その笑顔につられる様に氷渡もまた微笑み返すとそっと抱き寄せて赤く色付く頬に口付けた。杏は嬉しさを隠しきれずにくすくすと笑うと肩に頬を寄せて甘えるように擦り寄った。 「……早く大人になって、先生の隣に並べるようになりたいなぁ」 「焦らなくてもいい。少しずつ色んなことを知っていったらいいから」 「それって、先生が教えてくれる?」 杏が期待を込めた瞳で見上げながらコテンと首を傾げて尋ねると、氷渡はほんのりと頬を染めながら咳払いを一つして無防備な唇に触れるだけのキスをした。 「……子供の内はキスまでだからな」 「うん。分かった」 杏はふわりと花が綻ぶような柔らかい笑みを浮かべて、もう一度と強請るように瞼を閉じる。氷渡はそんな杏の髪を優しく撫でてから、今度は啄ばむように何度も優しい口付けを繰り返した。
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歌詞を引用、及び記載することは禁止となりました
(Youtubeや歌詞サイトのURLだけ書くことをお勧めします)。
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