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有名なホテルに併設されているバーで働くバーテンダー。 その腕は本物であり、客の気分やニーズによって絶妙な調合をするカクテルは絶品でファンも多い。本人はそれをひけらかすことはないものの、同業者のやっかみの種になっていることは知っている。 バーにいるかは不定期であり、普段はどこで何をしているのか他スタッフはあまり彼の個人情報に詳しくないらしい。 彼の家はある日唐突になくなった。 世間を賑わせていた連続放火魔の最後の魔の手にかかって、家族諸共焼けてしまった。彼が学校から帰ったら、そこは消防隊と救急隊に封鎖され、炭のように黒く焼け爛れた家族が運ばれてくる地獄だった。 何もかもなくなった。自分だけ生き延びてしまった。サバイバーズ・ギルトと呼ばれる精神疾患を患ってしまった。家族が眠る墓の前で、いつも泣いていた。置いていかれてしまった喪失感と、自分だけ生き残ってしまった罪悪感に押し潰されながら。 早く死んでしまいたい。そう思って始めた劇物の調合はもう趣味の領域だ。虚しさと悲しさが胸を押さえつけて、今日もバーで酒を作る。それが唯一、逃避出来る時間だから。

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