タグ： ろーて式 しんあいなる奪還劇

オシャレ、急所を見抜く ◆ 思い返す必要がないほどに、私の人生は奪われてばかりだった。 16歳で子供ができた。 愛する人と学生時代は奪われた。 17歳で子供を産んだ。 子供は施設に奪われた。 18歳で閉鎖病棟に入院した。 私の自由は奪われた。 それから何年経ったのかもわからない。 何度も、何もかも、全てを奪われて、気づけば私は大人になって、両親はいなくて、一人暮らしのアパートで、何もない部屋を眺めているだけの生活を続けて、続けて、続けて、 ふと、隣の部屋の幸せそうな笑い声に気が触れて、 奪われた分だけ奪い返すのは悪いことじゃないって、そう思った。 ◆ 杦沢愛果。36歳。女。 自称主婦。寡黙で無表情だがとても美しい容姿を持っている。 コミュニケーションが全く取れないわけではなく、会話の必要があれば柔らかな言葉選びで話すことができるし、多少の冗談や社交辞令も言える。何も知らない他人からすれば、静かな奥さんといったところだろうか。 しかし場合によっては、無表情で虚ろな目の彼女を恐ろしく感じる人もいるかもしれない。 彼女の過去についての詳しい言及はここでは避ける。 ただ、幸せも周りの人も全て奪われた彼女は、心に空いた穴を埋めるためか、はたまた復讐のためか、「奪われた分だけ奪い返す」ことに執着するようになった。 主に空き巣、たまに強盗、外出時はスリなど、無作為に窃盗を繰り返す。そこからエスカレートし、誘拐、殺人などにも幾度か手を染めた。 それで不幸になる人がいるのなら、相手から幸せを奪えるのなら、彼女はほんの少しの間だけ満たされた。それがなんの意味もなさないことだとしても。 だから、繰り返し、奪って、奪って、奪って、 そうやって36歳まで独り生きてしまった愚かな人物。 なお、彼女は自分の人生について「奪われた」と言うが、正確には「捨てられた」と言った方が正しいだろう。可哀想に…………

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