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清月 わかば 27歳 勉強というものは、訓練、慣らしが必要なのだなあとスタジオのカウンターに肘をついてふと思った。 かつて辛うじて通わせてもらった義務教育の場でも、自宅では勉強などさせてもらえなかったものだから授業だってさっぱりだし、予習復習なんかもしたことがないので結局身につかない。 親に隠れて宿題をやろうとしたこともあったが、バレた時に手酷く打たれてから二度とやらなくなった。 ならば教室で宿題をすればいいと早く学校に行こうとすれば意欲的に見えたのかそれもまた詰められた。 仕方がないのでやらなくなった。そういうものだと思うことにした。 どれだけ教師に怒られようとも、親のようにぶってくることはないから、随分とマシだった。 義務教育を終えて、家を出て、しかし住む場所に困って夜な夜なクラブを出入りしていたら男に拾われた。 今思えばナンパ目的だったのだろう。けれど接しているうちに哀れに思ったのかほんの少しだけ世話を焼いてくれた。 ツテを辿って、とあるピアススタジオに放り込まれたのだ。 そこで色々な人の手を借りて、衣食住を約束され自分なりに精一杯働いてきた。 やってこなかったものを急にやるのは難しい。 ましてや、他人はずっと昔からやってきた“当たり前“のことである。 目の前に広げた手書きの単語集を爪先で突きながら、人差し指の爪に施されたラメが剥げていることに気がつく。 年下の同僚に練習台にされたものだったが、結構気に入っていた。 明日会った時に言ってみたら手直ししてくれるかな。 ぼんやりと入り口を眺めるわかばの頭には、一つの英単語も入ってやいなかった。

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