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xiu(シウ) if ・物心ついた時には父親のいない生活を送っていた。 ・母親と祖母と3人で暮らしている。 ・決して裕福な暮らしは出来ずとも、親子仲のいい家庭で育つ。いつでも背中を押してくれる母と、柔らかく包み込んでくれる祖母に育てられ、精神的に豊かな暮らしを送る。 ・高校を卒業し、進学のため奨学金を借りて家を出る。祖母が高齢なこともあり、母に任せっきりになってしまうことに引け目を感じていたが、母自身の応援もあり、自分の進学に前向きになった。 ・進学後、順調に単位を取得、卒業し、就活に手こずるもなんとか就職。 ・しかし入社した会社がブラック。望めない定時退社、薄給な上に手当や残業代などの福利厚生の仕組みが破綻しており、実家からの支援もないために一人暮らしは困窮を窮めた。 ・そんな時、祖母に病気が見つかったとの連絡が入る。 ・高額な医療費を支払わなければならなくなり、自分からも支援をしようとするも、自分の暮らしに精一杯でそんなゆとりもない。母の「心配しないで」という言葉に甘えることにした。 ・入社からそろそろ1年が経とうとしていた。ぽろぽろと人が辞め始め、末端の自分であろうとこのままでは止められかねないと、退職を視野に入れ始める。 ・仲のいい同僚に相談したところ、同僚は既に退職の意志を固めていたらしく、来月にでも会社を去るという。 ・今同僚がやめてしまえば、自分にしわ寄せが来ると思い、慌てて会社に退職の意志を示した。 ・幸い、特に大きな実績もない平社員だったため、執拗に止められることも無く辞められた。 ・思いついたように突然仕事を辞めたため、次の宛もなく就活に奔走する日々が続いた。 ・給与形態が月末締め月末支給という特殊な形態だったために1ヶ月は生活を営めていたが、職がない状態ではそれも厳しくなる。 ・実家に戻ることを視野に入れ、母親とコンタクトとったところ、快く受け入れてくれた。 ・すぐに引越しをして、向こうで就活を再開する。 ・万年人手不足の田舎では引く手数多だったため、すぐに仕事が決まった。 ・そうして地元で仕事をしながらも祖母の医療費の支払いを手伝う。 ・母は‪パートの仕事を増やし朝から晩まで働いていた。祖母の病が発覚した当時かかった医療費の支払いが終わっていなかったのだ。 ・早朝起き、朝昼のご飯を作り家事をし、仕事に向かい夜まで働き帰って夕飯を作る。そんな生活を続けていた母はすっかりやつれてしまっていた。病気の祖母は、薬の影響で呆けが始まっていた。 ・自分の収入も混ぜ、なんとか食いつなぎ生活していたそんな折り、仕事中にかかりつけの病院から1本の電話が入る。母が、交通事故で亡くなったとの事だった。 ・過労、寝不足の状態で働きに出た母は、赤信号の横断歩道に足を踏み入れ車に撥ねられたそうだ。 ・やるせない気持ちを抑え、運転手に頭を下げた。「母の不注意でした。この度は本当に申し訳ございませんでした。」幸い、運転手もこちらの事情を汲んでくれ、励ましの言葉を掛けてくれた。それがどれだけ、惨めだったことか。 ・残った自分が、これからは祖母の面倒を見ていかなくてはいけない。自分の仕事も家のことも、全部一人でやらなければいけない。責任が重くのしかかり、上手く息が出来なかった。 ・母の保険金は、祖母の医療費や諸々の税金に使うことにした。簡単にでも葬儀を執り行いたかったがそんなゆとりなどなかった。ひっそりと家族だけで弔った。火葬だけしてもらって御骨は家で保管した。 ・朝早く起きて家事をし仕事に行く。帰って家事をし眠る。呆けが来た祖母の相手は楽ではなかった。生前の母のような生活を続けていくうちに、どんどん祖母への不満が心を蝕んでいった。 ・それはいつしか憎しみへと変わり、「あんたが生きてるから、お母さんは死んだ。お母さんが死んだのはあんたのせいだ」、そんなふうに考えるようになった。 ・とある日の夜、いつもと同じように帰宅し家事をして祖母の隣で眠りにつく。隣で寝息を立てる祖母の喉元へ、静かに手をかけた。限界だと思った。この手に力を込めれば、全て終わらせられる。なにも考えなくてよくなる。祖母は死に、自分は祖母を殺した犯罪者として断罪される。それでいい。こんな生活を、祖母の死を今か今かと待ち続けるよりマシだと思った。 ・眠る祖母の顔は、あまりに安らかだった。まだ健やかだった時の、優しかった祖母を思い出して涙が出た。こんなことを考える自分に嫌気が差した。人を、家族を殺そうだなんて、自分はどうかしている。 その夜は、眠りによって意識を手放すまで、涙が止まらなかった。 ・翌朝、いつものように早くに目を覚まし朝食と昼食を作り置きする。 いつも、自分が家を出る時間には起きてくる祖母が、今日は起床が遅かった。やけに心がざわめいた。心臓が早鐘を打つ。 寝室の祖母の様子を見に行くと、祖母は息を引き取っていた。 ・死因は心不全だった。自分が目を覚ます前、日が明ける頃に亡くなったようだった。 ・すっかり心に穴があいたような、そんな気がした。 ・昨夜の衝動のせいで、自分を肯定することが出来なくなっていた。 ・諸々の手続きを済ませ、祖母と母の葬式を執り行うことにした。祖母の僅かな保険金と、自分の初めての、僅かばかりの賞与を使って、自分だけの葬式をした。 ・仏壇を飾り、2人の遺影の前にただ座っていた。 ・祖母が死ねば、早くこんな生活から抜け出したいという思いも、祖母への憎しみも、死んでしまいたいという思いもすべて消えるかと思っていた。 ・こんなことなら祖母を自分の手で殺して贖罪のために生きる方がマシだと思えるほど、空っぽになってしまった。 ・死んでしまいたい。自分を悩ませる何かがいなくなったとて、何も楽にならなかった。1人で死んで行った祖母が、羨ましいとさえ思った。 ・その夜、遺影の前で首を吊り死ぬことを選んだ。 卯波 糸雨(うなみ しう) 享年 25歳

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